58鱗目:夏祭り!龍娘!
よし、公園が見えてきたぞー。
「それじゃあ今から着地するから、二人共しっかり捕まっててね!」
「う、うん。分かったわ」
「おう!」
流石に急降下はやめとこうかな?
もしやったら楽しんでる隆継はともかく、さーちゃんに後で酷い目に合わされそうだ。
例えば尻尾触られるとか尻尾のお腹触られるとか尻尾の先っぽ触られるとか。
上空数百メートル地点にて目的地である公園を見つけた僕は、抱き抱えている二人から返事を聞くと翼を横に大きく広げ、目的地へと滑空しながら高度を落とす。
そしてその公園にある二つの人影の近くへと────
「とらちゃーん!むーさーん!お待たせー!遅れてごめんねー!」
隆継とさーちゃんを小脇に抱え、ズザザザザと着陸しする。
「うおぉ?!びっくりしたぁ!」
「おっ!やっぱり飛んできたんやね!」
「おまたせ!今日はいつも以上に人多いからねっと」
そんな僕に驚いたり予想通りといった興奮している2人、むーさんととらちゃんの前で何とか着陸の勢いを止めた僕は、小脇に抱え直してた2人を下ろす。
「ありがとな鈴香!すっげぇ楽しかった!」
「おぉ、それは良かった」
「アタシはちょっと怖かったわ。せっかく運んでくれたのに……ごめんね?」
「んーん、気にしないで。さーちゃんは高い所苦手だったみたいだし、仕方ないよ」
「いいなー!すずやんウチも空飛ばせてーな!」
「どーどーどー。とらちゃんはまた今度ね」
「ほら虎白、天霧さんを困らせない」
「ちぇー……そういや少し遅れてたけどなにかあったん?」
「あー、それはねー……」
どこまで話せば……いや、全部話しちゃっていいかな。
キラキラした目で僕の肩を掴んできたとらちゃんに僕がまた今度と言うと、とらちゃんは少し膨れながらも今度は何かあったのかと聞いてくる。
そんなとらちゃんに僕は少し苦笑いを浮かべつつ、なぜ遅れたかその理由を説明する。
「────という事でね」
「えーっとつまり、天霧さんのお姉さんが天霧さんに浴衣着せようとしたけど」
「そもそもすずやんが着れる浴衣が無くて、拗ねちゃってたからそれで遅れたって事?」
「そういう事ね。リビングで拗ねてる千紗さん見た時は少し驚いたわ」
「あはははは……お恥ずかしい限りです……」
災難だったなぁという目で見てくるとらちゃんとむーさんに僕は困ったように笑いつつ、千紗お姉ちゃんの評価の為にも話題を変える。
「そういや今日のとらちゃんいつもとちょっと違う感じだね、なんか大人っぽい!」
「確かに……鈴の言う通りいつもより大人っぽい感じね」
「ちょっ!すずやんにさなっち!いきなり話振らんといて!というかなんか恥ずかしいからやめてや!」
ドストレートに褒められたからか、顔を少し赤くしながら手を振ってそう言う今日のとらちゃんの格好は。
ベージュのロングスカートに黒のオフショルダー、ヒールのあるサンダルと少し大人っぽいコーデだ。
そしてそんなとらちゃんがチラチラとむーさんを見てるのを見て僕はもしやと思い、少しお節介を焼いてみる事にする。
「それじゃあそんな大人っぽいとらちゃんへ、とらちゃんの幼馴染としてむーさんから一言!」
「へっ?ちょっ!すずやん?!」
「おっ、俺か!?」
隆継、アシスト頼んだ!
とらちゃんの肩を掴み、ぐるんとむーさんの方へ向き直させた僕は、後一押しと僕の横にいる隆継へアイコンタクトを送る。
すると隆継は僕が何をしたいのか察してくれたようで、任せろとばかりに親指を立ててそのままその手をむーさんの肩に乗せる。
「龍清は朱雀峯さんどう思うよ?」
「どうって……そりゃぁ…………」
「ちなみに俺は今日の朱雀峯さんすっげぇいいと思うんだが、お前は?」
「そう、だな……あー………大人っぽくて、いつもと違って……あー、すっげぇ可愛くていいと思う……ぞ」
「そ、そうか……あ、ありがとりゅーくん……」
「お、おう……」
とらちゃんから目を逸らしてむーさんが照れくさそうに頭を掻きながらそう言うと、とらちゃんも恥ずかしそうに少し俯いて手をモジモジとさせながらお礼を言う。
そんな2人を見て僕がよしと頷くとさーちゃんが手をパンパンと叩き、改めて今日の目的へと仕切り直す。
「さっ、それじゃあ皆集まったしお祭り行きましょう」
「そっ、そうやね!お祭りたのしみやー!金魚とるでー!」
「そうだな!今年は1匹でも金魚取れるといいな!」
「うっさい!ったくもう…………あー、すずやん?」
とらちゃんはバシンと珍しく余計な事を言ったむーさんの背中を叩いて先を歩かせると、髪を耳にかけながら小声で僕に声をかけてくる。
「すずやんありがとな、そいじゃ今日はめいっぱい楽しむで!」
あぁ……とらちゃんってほんと可愛いなぁ。
「鈴、いい事したわね」
「えへへ……さっ!僕らもお祭り楽しもっ!」
「ふふっ、そうね。楽しみましょ」
トタタタタと前にいる隆継達の所に走っていくとらちゃんを見てそう思っていた僕は、一連の流れを見ていたさーちゃんに笑顔でそう言われ、皆の元へと歩いていった。
そして歩く事数十分、街の郊外、丁度僕達の家とは反対に位置する神社のある山へと到着する。
「お!噂の龍娘だ!」「居るのわかり易いなぁ」「天霧さんもお祭り来てる〜!」「いつ見ても翼でかいなぁ」「ウチの店来てくれねぇかなぁ」「私服の天霧さんかわえぇ」
そこはちゃんからちゃんからぴーひゃららと賑やかな鐘と笛の音の作り出す雰囲気と、夕暮れには似合わない賑やかさで満たされていた。
「流石に人多いしクラスメイトもちらほら居るな。んで案の定鈴香とその連れの俺らは見られてるわけだ」
「だな、でもまぁ」
「とらちゃんとらちゃん!お店いっぱいあるよ!何処から行く?何処から行く?!」
「やっぱりまずは食べ物系やな!たこ焼きにチョコバナナ、焼きそばにりんご飴!!くぅー!すずやん行くで!」
焼きそば!たこ焼き!お祭りって感じのだ!
「うん!いこっ!」
「こーら」
「「ぐえっ!」」
「「いこっ!」じゃないわよアホ娘共、早速はぐれる気かしら?」
「そんなの関係なく早速楽しんでるみたいだな」
早速屋台へ突撃しようとした僕ととらちゃんはさーちゃんに襟を捕まれ、そしてそんな僕達の様子を隆継達は一安心といった目で見ていた。
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おぉー!これがりんご飴!見た目は綺麗だけど味の方は……
「しゅっぱい!」
「ふふふっ♪鈴、顔がんーっ!てなってるわよ」
「だってすっぱくてー!」
飴の部分は甘かったのだが、リンゴの部分が思ったよりも酸っぱく、僕はさーちゃんがいうように目を瞑って口元を抑えていた。
「ほら鈴香、水」
「ありがと隆継ー!あー酸っぱかった!」
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「意外と難しいなぁ〜」
「だな、輪投げって結構難しい」
「次僕やるー!はいおじさん300円!」
「おっ、次は龍のお嬢ちゃんか!毎度あり!はい輪っかね」
よーし!絶対取るぞー!
最初にとらちゃんとむーさんが輪投げに挑戦したものの輪っかは意外と入らないもので、2人はなにも取れずに後ろに控えてた僕と交代する。
そして2人と交代した僕は……
距離と輪っかの飛び方はさっきとらちゃん達で見たからね!よーしっ……
「えいっ!」
「おっ!お嬢ちゃん上手いね!はいこれ景品」
「やったぁ!よーし次は……」
見事1発で狙っていた景品を取る事が出来て、その場で尻尾を大きく振って喜ぶ。
そして余った輪っかで、僕はとらちゃんとむーさんにお揃いのストラップを取って2人にプレゼントしたのだった。
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「はい、どうぞー」
「ありがとー!」
チョコバナナ!1回食べてみたかったんだよねー、これもアーモンドとかのってて美味しそう!それじゃあ早速────
「おっと、食べるのはちょっと待ってねー?」
「んう?」
チョコバナナを買った僕が早速食べようと口を開けると、店員のお姉さんが待ってと言って来て、僕は何かあるのかなと首を傾げる。
「お姉さんにジャンケンで勝てばもう一本プラスにトッピング追加してあげるよ、どうする?挑む?」
トッピングプラス!もう一本!
「やるやる!ジャンケンするー!」
余りにも僕にとって魅力的な言葉に、僕は目を輝かせて尻尾を振りながらそう元気よく返事をする。
「喜んでる所悪いけど、勿論勝たないと貰えないからねー?それじゃあ行くよー!」
勝ってもう1個……!勝ってもう1個!トッピングも!
「じゃーんけーんぽん!」
店員さんはグー、そして僕は……
「かったぁ!」
パーを出していた。
「おめでとう!はいもう一本とプラスのトッピング!また来てねー!」
「うん!また来るー!」
「良かったわね、鈴」
「うん!」
追加のトッピングの乗ったチョコバナナを両手に持ち、僕はさーちゃんに向かって大きく頷いてチョコバナナを食べる。
その初めて食べたチョコバナナはとても甘くて少し冷たいけどほんのり暖かくて、とても美味しかった。
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ここだ!
「あー!破れたー!」
「亀掬いは難しいからなぁ、せっかくだし俺もやるか。おじさん1回」
亀掬いに僕は挑んだが1匹も掬う事が出来ずにポイを破いてしまい、尻尾をしゅんとさせて次に亀掬いに挑戦する隆継と交代する。
「おっ次は兄ちゃんかい!はい500円毎度!」
「いいか鈴香、亀掬いはまともにやっても絶対取れねぇからな。こうやって待ち伏せしてポイの根元、一番プラスチックの面積がある上に腹が来たところで……いよっしっ!取れた!」
「おぉ!隆継凄い!」
紙は水でベチャベチャだけど!半分くらい破けてるけど!
「だろう?ほら鈴香、やるよ」
「ほんと?ありがとー!」
よし、今日からお前は亀のかーくんだ。
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「あ!タピオカ!」
絶対あるとは思ってたけどやっぱりあった!
「お、本当やね!ちょうど今列途切れたみたいだし、せっかくやし買いいこかすずやん!」
「うん!」
とらちゃんのその提案にまた飲んでみたいと思っていた僕は即座に頷くと、列が出来る前にそのタピオカ屋の前へ行き、すぐさま屋台のおじさんに注文する。
「おじさんタピオカ2つ!」
とらちゃんと僕以外は今他の飲み物持ってるしね。
「あいよっ!……ってお嬢ちゃん、龍娘さんじゃねぇか!元気にしてたか?」
えっ誰……ってあっ!もしかして!
「あの時のタピオカ屋さん?!うわーっ!お久しぶりですー!元気にしてましたよー!」
まさかの再会に僕はとらちゃんそっちのけでおじさんの手を持ってぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「それは良かった!こっちも龍娘さんのおかげで商売繁盛してるよ!さてタピオカ2つだったね、今回は繁盛してるお礼におじさんの奢りだ!ほら持ってきな!」
「わぁー!ありがとうおじさん!また屋台見つけたら寄るね!」
「おじさんありがとうな!」
「おう!嬢ちゃん達も祭り楽しめよー!」
そうしてなんやかんやでタダでタピオカを貰った僕達はおじさんへ手を振りながら、皆のいる場所へと戻った。
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「お祭りって楽しいね〜♪遊べる所も多くて楽しいし、食べ物もなんか特別な感じで美味しい!」
こき使われるだけじゃないお祭りなんて初めてだぁ〜♪
「祭り屋台の食べ物は雰囲気っていう特別な味付けがあるからなぁ、どんなにちゃちくても美味しく感じるんだよ」
おぉ、なんか隆継がロマンチック的な感じの事を。
「お、隆継もたまにはいいこと言うな」
「そうね、隆継らしくないけど」
「似合わない!」
「たかくんロマンチストやね!」
「うっせぇ!」
あの後も射的やスーパーボール、くじと色々な屋台を回った僕達はそれぞれ買った物を食べたり飲んだりしながら、会場を歩き回っていた。
「さて、あらかた回ったけどまだ花火まで時間あるし……」
「どうする?もう一周する?」
僕はそれでもいいけど。いや、そうしたい。
「んー……それもええんやけど、やっぱり祭りって言ったらアレには行かないとあかんよね!」
アレ?まだ何か行ってないとこって会ったっけ?
首を傾げる僕達の前に1歩でたとらちゃんはくるりとこちらへ振り向くと、次なる目的地の名前を僕達へと言う。
「お化け屋敷、いこか!」




