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57鱗目:男の同居人の非日常

 俺は漫画が好きだ。ゲームも好きだ。

 ライトノベルや同人誌なんかも大好きだ。


「はぁー……美味しかった〜♪」


「ふふっ♪たまには私も料理しなくちゃね」


「千紗さんの料理美味しかったです。あっ鈴、ほっぺにお弁当着いてるわよ」


 そんな俺と同じような2次元大好きな男の大半は「可愛い女の子達と一緒に暮らしたい」そう1度は夢見る事だろう。

 そして今俺は────


「ありゃ、んーと……どこついてる?」


「ここよここ。取ってあげるからちょっとじっとしてなさい…………はい、取れたわよ」


「ん、ありがとさーちゃん」


 その夢を、俺は今叶えている…………!!!!


 サナにほっぺに着いたご飯粒を取ってもらい、照れくさそうにえへへと笑う鈴香を見ながら俺は心の底からそう思っていた。


 ーーーーーーーーーー


 いやぁー、女の子の手作り料理を毎日食べられるなんて最高の生活だよなぁ。

 しかもすっげぇ美味いし。


 晩御飯を食べ終えて今日はサナや鈴香、お姉さんの後に風呂を貰った俺は、風呂から上がると少しニヤけた顔でそんな事を考えていた。


「今日はゲームやりたかったから順番最後に回してもらったが……身内じゃない女の人達が入った後の風呂に入るのってなんか背徳感あるな」


 でもまぁラノベとかでもよくあるしこういう同棲イベントのあるあると言うべきか、ラッキースケベが本当にあるとは思ってなかったなぁ……


 そんな事を考えながら、沢山の色々な種類の化粧品が置いてある鏡の前で髪の毛にドライヤーの熱風を当てつつ、わしゃわしゃと髪の毛を乾かしていたからか。

 引っ越してきたばかりの頃に脱衣場で見てしまった鈴香の真っ白い肌と、ほっそりとした女の子らしい体が頭に浮かび上がる。


 まぁでも、他2人と違って恥ずかしがったりせずに下着だけで時々うろついてたりする辺り、やっぱり元男っていうのは本当なんだろうなぁ……

 まぁついてなかったし、やっぱり完璧な女の子だがな。


 髪の毛を乾かし終えた俺はふるふると頭を振り、頭の中に細部まではっきり思い浮かびかかっていたすっぽこぽんな鈴香の姿をかき消す。

 流石に完璧に思い浮かべたとあっては同居人兼家主の彼女に申し訳ない。


 さ、それじゃあ部屋に戻ってまたゲームでもしようかな。


 「ってうおっ?!なんだ、鈴香か」


 「あ、隆継。今お風呂上がったの?」


 「まぁな。鈴香は?」


 「リビングでゆっくりしてたら千紗お姉ちゃんに「化粧水と保湿クリーム塗って来なさい」って言われちゃって」


 「なーるほど。千紗さんとサナ寝る前にいつもなんか塗ってるもんなぁ。というか、鈴香もそういうのやっぱ持ってるんだな」


 「持ってるっていうよりも、無理矢理持たされてるって感じなんだけどね」


 そう言って手が微妙に届かず横から背伸びして鈴香が手を伸ばしていた洗面台の鈴香の棚には、確かに他のあの2人の棚よりも置いてあるものが少なかった。


 「ほい。これで良かったか?」


 「あ、ありがとう隆継。助かったよー」


 「おう。だがまぁきちんと最低限必要そうな物が揃ってる辺り、やっぱ鈴香も女の子だな」


 「む、失礼な。これはお姉ちゃん達に無理矢理渡されて使わされてるだけで、別に僕は使うつもり無いんだもん」


 「いや失礼なって、そっちかよ。てっきり男扱いされたのを怒ってるのかと思ったわ」


 「そんなわけないじゃん。僕は男なんだから」


 「いや、お前は女だろう」


 「なんか言った?」


 「いえ何も」


 「よろしい。まぁでも、実際体は女の子だしなぁ……ね、ねぇ隆継。ここでの生活はどう?」


 「ん?まぁ毎日楽しいし、メシは美味いし、自由にさせてもらってるし、別に悪くはないが。なんだ唐突に」


 突然そんな事を聞かれ、別に俺は不満は無い訳でそう答えた後にどうしたのかと鈴香に聞き返す。

 すると鈴香はなんだか答えにくそうに手のひらで保湿クリームをこねくり回しながら、尻尾を不可思議にグネグネさせた後口を開く。


 「だってほら、僕は少なくとも心は男のつもりだけど、体は隆継が言う通り女の子だし、あの2人はちゃんとした女の人だし……」


 「あぁ。つまり鈴香はこの家で男が俺だけしか居ないのが辛くないかを心配してくれてるのか」


 「……うん」


 くっ……!尻尾だけじゃなくて翼までしょぼんとさせやがって……クソ可愛いじゃねぇか…………!

 ってそうじゃねぇそうじゃねぇ。

 今は不安がってるこいつを安心させてやんねぇと……とはいえ、こいつに嘘のおべっか使うのは嫌だしなぁ…………よし、ここは正直に答えよう。


 「まぁ、確かに俺だけ置いて置かれてたりする事もあるし、全く辛くないと言えば嘘になるが……それ以上に楽しいからな。それに、鈴香のお陰で男の理解者はいるからな」


 「……!ぼ、僕も!僕も隆継が居るから安心して暮らせてるよ!」


 「ははっ!俺より強い奴がなんで俺で安心してんだ。だがまぁ、そう言ってくれると嬉しいよ鈴香」


 「えへへへへ」


 ぱっと嬉しそうな顔でそう言ってくれる鈴香に俺はそう言って頭を撫でてやると、鈴香は嬉しそうに頬を緩ませて尻尾を振り始める。


 全国の同志オタク諸君、やはり人外物も至高だと思うのだよ私は……!

 ってん?なんか脱衣場のドアが少し空いてるような……


 「やばっ」


 今の声は!


 「「千紗さん!?」お姉ちゃん?!」


 「にっげろー!」


 「ちょっ?!まてお姉ちゃんっ!!その手のビデオを寄越せ!隆継!追いかけるよ!」


 「ったく、しゃーねぇーな。任せろ!」


 こうして、俺の今の日常は賑やかに過ぎていくのだった。


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