52鱗目:女子のお買い物!龍娘!
「それじゃあ3時頃に迎えに来るで」
「うん、ありがと父ちゃん」
「雅紀さんありがとうございました」
「おう、何かあったらすぐ連絡するんやで」
僕達をショッピングモールに下ろした雅紀さんはそう言うと、ビッと指をしてクールに車を走らせて去っていく。
なんやかんやで雅紀さんいい人だったなぁ。
見た目は完全に極め道の人だけど。
「さて、じゃあ父ちゃんも行った事だし女子だけのお買い物、スタートやー!」
ばっとグーにした手を突き上げてとらちゃんが楽しそうにそう言ったのを合図に、僕達のショッピングが幕を開けた。
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うおぉぉぉぉ……!おしゃれな…………おしゃれなお店がいっぱいある……!
とらちゃんに引き連れられ大型ショッピングモールへと入った僕は、全体的に白と淡いピンク色のなんだかキラキラしてる店内に圧倒されていた。
でもなんかちょっと違和感が…………あっ、もしかして……
「ここにいるお客さんって殆ど女の人?」
「おっ!流石すずやん、よー気づいたな!そうなんよ!ここは老若問わず女性をターゲットにしてる女性向けのショッピングモールなんよ!」
なるほど、だから女の人が多かったのか。
というかそんなスタンス?っていうか経営方針?を取るなんて、このショッピングモール思い切ってるなぁ……
納得したような、そんでもって呆れたような微妙な表情をしつつ、改めてモール内を見てみると化粧品や洋服など確かに女性ウケしそうなお店ばっかりだった。
「噂には聞いてたけど……うん、これなら確かに私達だけでも大丈夫そうね」
大丈夫そう?
「せやろー?ここならまず男の人は少ないし、居るとしても彼女さんの付き添いやろうから安心や!」
安心?どういうことなんだろう?
「鈴、鈴」
安心したようにそう言うさーちゃんにとらちゃんが説明するのを見て僕が首を傾げていると、それを見たさーちゃんが小声で僕に話かけてくる。
なるほど、女の子だけだとナンパとか誘拐とか襲われたりとかそういった心配もあるのか。
またひとつためになった。
とらちゃんがこちらに背を向けている隙にヒソヒソと耳元でさーちゃんに教えてもらい、僕はなるほどと腕を組んで頷くのだった。
ちなみに普段ならそこまで気にする事でも無いそうだが、今回は僕が居る為いつも以上に気にしているそうだ。
僕と居ると人に絡まれるようになるもんねぇ……
でもまぁ、僕は力なら並の人よりもあるし、何かあったら僕が2人を守らなきゃだね!
それに女の子を守るのは男の義務みたいなものだし。
こちらを振り向いて早く行こうと楽しそうに笑顔で急かしてくるとらちゃんを見て、僕はそう思うのだった。
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「それで先ずは何処から行く?」
立ち並ぶお店の中、いつも通り沢山の人に見られながらも僕は歩きつつ2人にそう聞く。
「せやなぁ、ここはやっぱり定番通り服から見に行くのがええと思うんやけど…………さなっちはどう?」
「アタシもそれでいいと思うわ、鈴もそれでいい?」
「えっ!あっぼ、僕?!」
いっ、いきなり振ってこられても!
えーっとえーっと!
とっ、とりあえずここは合わせて……
「う、うん!僕もそれでいいと思う……け、ど………」
「ん?すずやん?」
「鈴?」
とらちゃん達の後をついて行ってた僕は突然足を止め、あるお店の中をじーっと見つめる。
そして僕が足を止めたのに気がついた2人はどうしたのかとこちらへ戻ってきて、僕の見ている方を2人も見る。
「すずやんなんか気になるのがあったん?どれどれ〜って……宝石店?すずやんって意外と……」
「……おいしそう…………」
「………え?……すずやん今、なんて?」
ニヤニヤっとした顔でからかってこようとしたとらちゃんなど目もくれず、僕はお店の中にある宝石を見てボソリとそう呟く。
「あの真ん中のやつがっ?!いっ、いたいっ!さーちゃん!?」
「ほら、先ずは洋服見に行くんでしょ。さっさと行くわよー」
「分かった!分かったから引っ張らないでー!」
ゴチンッ!という音がしそうな程の威力でさーちゃんにゲンコツを貰い、僕はそのままさーちゃんに手を引っ張られ宝石店の前を通り過ぎる。
「あっ、ちょっ!二人共まってーな!」
そしてさーちゃんに洋服店へと連行されていかれる僕の後ろを、とらちゃんがトタトタと追いかけるのだった。
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いやぁー、ほんと翼があって良かった。うん。
ここまで翼があって良かったと思ったのは初めてだったよ。
お昼時、フードコートの端にあるテーブル席を確保しといた僕は、尻尾が床につかないよう横の椅子に乗せながら料理を持って戻ってくる2人に手を振る。
「2人ともおかえりー。なに頼んだ?」
「ウチはざる蕎麦〜」
「アタシはオムライス、それと席取ってくれててありがとね鈴」
「こんなのお安い御用だよー」
ざる蕎麦にオムライスかぁ……なんか2人らしい料理だなぁ。
「いやいや、ほんま助かるわぁ。でもなぁ……」
「うん?」
2人が僕の前の椅子に料理を置いて座ると、とらちゃんはそう言ってじっと僕を見てから大きくため息をつく。
「すずやんが着れる服が無かったのはホンマに残念やったわー……」
「あははははっ!それは仕方ないよー。背中が全部空いてる服なんて普通ないからねー」
そう、翼があるせいで普通の服が着れない僕はその翼のおかげで今回、とらちゃんに着せ替え人形にされずに済んだのだった。
ほんと翼があって良かったよ、うん。
女物の服を着て人前に出るのもやっと慣れてきたくらいなのに、着せ替え人形とか冗談抜きで勘弁願いたいからね。
いやー本当に助かった。
「でも今更ながら上に羽織る物くらいは見繕えたかも」
「あ、確かに!すずやん!」
「行かないからね。どうせ上に着るものも手を加え無いと着れないし」
2人とそんな話をしながら二人に一緒に料理を持ってきて貰った僕は、パクパクと料理を食べ初める。
「なぁさなっち、夏休み前からすずやんのお弁当とか見る度にもしかしてとは思ってたんやけど………」
「思ってたんだけど?」
「すずやんって結構大食い?」
二人がそう話す間もどんどんと大盛りのラーメンとチャーハンを食べる僕を見て、とらちゃんはさーちゃんに思わずそう聞く。
ちなみにラーメンもチャーハンもどっちも1人前の特盛りサイズである。
「えぇそうよ、家でも毎日沢山食べてるわ。この大食いっぷりはアタシも慣れるまで時間かかったわ」
「ウチらより小さいあの体のどこにそんな……いやそれよりもあんだけ食べてるのにあの体型…………やっぱ翼とか尻尾にエネルギー使っとるんやろうか…」
「かしらねぇ……でもまぁ」
「ん〜♪美味しい!」
「「可愛いなぁ」」
ほっぺたをリスみたいにして夢中になって食べる僕に2人は笑顔でそういうのだった。
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ふー、食べた食べた。
やっぱりラーメンみたいなガッツリとした料理はいいねぇ。お腹に溜まる〜大満足〜♪
「すずやん大満足みたいやなぁ。それで次はどこに行こうか」
ご飯を食べ終えフードコートを出た僕達は、次はどこに行こうかと話しながらショッピングモールの中をウロウロとしていた。
「そうねぇ、鈴も楽しめるような場所……小物店とかどう?」
お腹に手を当てながら満足そうにニコーっとして2人の後について行ってた僕に、さーちゃんがそう聞いてくる。
「小物店?」
「手帳とかストラップ、ブレスレットみたいな小さい物を扱ってるお店やね。可愛いものも多いし、すずやんも楽しめると思うで!」
かっ、可愛いものかぁ…………うーん………………
「髪留めとか結構実用的なのもあるし、鈴も何か気に入るの見つかると思うけど。どう?」
髪留めかぁ、僕は千紗お姉ちゃんがくれたこのヘアピンだけで充分なんだけど………まぁ、せっかくだし。
「うん、そこに行ってみようか」
「よっし!そうと決まればレッツゴーや!」
こうして僕がとらちゃんに手を引かれ小物店へと連れていかれると――
うおぉぉぉ…………すっっごい商品の種類………商店街のあの雑貨屋さんよりも種類あるんじゃないの?
そこにあった所狭しと棚に並べられた色とりどりで多種多様な商品の山に僕は圧倒され、お昼時で少し人が少なくなったモール内にある小物店の前で固まっていた。
「すずやんすずやん!はよおいでーや!」
「あっ!うん!分かった!」
いけないいけない、圧倒されてた。
とらちゃんに呼ばれ我に戻った僕はふるふると顔を振ると商品をなぎ払ったりしないよう、敢えて尻尾を地面へ這わせて店内へと入る。
えーっとあれはボールペンであっちはコースターかな?あ、なんか可愛いストラップもある。
んであっちは人形コーナーかな?
小物って言うけどなんでもありというか……なんでもあるなぁ…………
「鈴、ちょっとおいで」
棚同士の間が狭い所には入らないよう気をつけながら僕が店内をキョロキョロと見ていると、さーちゃんにちょいちょいと手招きをされる。
「さーちゃんどうかしたー?」
「ちょっとだけでいいから目を瞑ってくれない?」
「……?分かったー」
なにかするのかな?
さーちゃんに言われた通り僕は鏡の前で目を瞑り、暫くそのまま待っていると目を開けていいと言われ、僕はゆっくり目を開ける。
「おぉ……」
「どう?」
これは…………なかなか……うん、悪くない!
鏡に映っていた僕の髪は水色のリボンのような髪留めで横に1つ結びしてあり、自分で悪くないという程なかなかにいい感じになっていた。
さーちゃんに髪型を弄って貰った僕は、鏡を見ながら顔を右に左にと振って新しい髪型をじっくり見てひとつ頷く。
「さーちゃん、これ気に入った!」
「ふふっ、それは良かったわ」
これなら髪の毛下ろしてるよりも女の人っぽくない気がするし、それになんかいい感じだし!
気に入った理由が少しズレてる気もするが、それは気にしてはいけない。
「あっ!すずやんがなんか可愛くなっとる!」
「どう?さーちゃんがやってくれたんだけど」
「さなっちにサイドテールにしてもらったんか!ええでええで!すっごい似合っとるで!髪の毛下ろしてる時とは違って可愛いで!」
隣の棚からひょこっと出てきたとらちゃんに僕がそう言って結んで貰った所を見せると、とらちゃんは僕にグッと親指を立ててそう言ってくる。
そして僕はいつもなら可愛いと言われても微妙な気持ちになるだけだったが、この時は不思議と素直に嬉しいと感じた。
しかしそれもつかの間。
「なら次はウチの番やね!」
「へ?」
とっ、とらちゃん?いつの間に横に?!というかその手に持ってるのは何!?
「ポニーテールはすずやんが自分でようやっとるしここはツインテールとか……うん、すずやん覚悟っ!」
「ひゃあぁぁぁぁ?!」
いつの間にか横に移動していたとらちゃんに僕は髪の毛を弄られまくられたのだった。
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全く、とらちゃんが暴走するせいで落ち着いて商品を見ることも出来なかったよ……今度1回くらいお仕置きでもした方がいいかもしれない。
はぁとため息を着きながら結局元の髪型に戻した僕は、翼や尻尾が当たらないように気をつけながらお店の中を見て回る。
ちなみにとらちゃんはさーちゃんにいい加減しなさいと怒られている所だ。
それにしてもやっぱり色々あるなぁ…………あ、これなんかとらちゃん好きそう。こっちはさーちゃんが好きそうだ。
隆継が好きそうなのはー……無いな、うん。ターゲットは女の人なんだし、そら男の隆継が好きそうなのは無いか。
そんな事を考えながらお店の中を眺めながら歩いてた僕は、いつの間にか最初にちょこっと見かけたぬいぐるみコーナーへと来ていた。
「ぬいぐるみってこんなにあるんだなぁ…………あれってもしかしてヒトデ?どんなものでもあるなぁ……ん?」
普通に可愛いぬいぐるみの中に絶対に売れなそうなデザインのぬいぐるみが集まったコーナーを眺めていた僕はふと端にある1つのぬいぐるみに目が釘漬けになる。
そのぬいぐるみはデフォルメされた猫の顔のあるお饅頭の様な丸くて真っ白い胴体に、猫の耳と魚の鰭やあんこうみたいな提灯があるなんとも言えないデザインで……
「すずやーん、なんか気に入るもん……」
「んんぅ……ふへへ♪ふかふか……あっ……」
さーちゃんのお説教が終わったのか様子を見に来たであろうとらちゃんに、僕は幸せそうな顔でそのぬいぐるみに抱き着いて頬ずりしている所を見られてしまう。
「やっぱりすずやんそういうのが好きなんやなぁ」
「あっ、いやっ!ちがっ!これはっ!」
ニヤニヤァっとした顔になりながらとらちゃんがそう言ってきて、僕は見られた恥ずかしさで瞬く間にボッと顔を赤くしてしまう。
そして僕はなんとか反論しようとするが恥ずかしいのと混乱してたのが合わさり、ワタワタしてしまうだけで言葉が出なかった。
「恥ずかしがらなくて大丈夫やですずやん。見た目相応で可愛ええよ!それじゃあウチとさなっちは店の外で待っとくで!」
「あっ!まっ……ってもう行っちゃた……」
そう言うとらちゃんへ僕は手を伸ばすものの、とらちゃんは一足先に棚の向こうへ行ってしまった。
僕は1つため息を着きながら肩を落とし、その持っていたぬいぐるみを置いて自分も店を出ようとする。
「はぁ……全く。ぬいぐるみを可愛いなんて……女の子じゃあるまいし────────」
ピッ
「ありがとうございましたー」
………………買ってしまった。
なんならさーちゃんに髪型弄られた時の髪留めも一緒に買ってしまった……………………………うぅぅぅ!
笑わば笑え!
僕の男としてのプライドは欲望に負けたのだ!
せめてもの抵抗で袋に入れてもらった「にゃんこう」とタグに書かれていた僕が抱きしめてたぬいぐるみを持ち、僕は店の外へ出たのだった。
そしてその後も少しの間僕達は裁縫店や調理道具のお店、本屋さんなんかを回って過ごし、もう3時になるということで雅紀さんが迎えに来るという場所に来ていた。
「それじゃあ鈴ちゃん荷物よろしくね」
「ん、任された」
「ちゃんと守るんよすずやん!大事な大事なぬい─────」
「ふしゃー!」
「きゃー!すずやんが怒った〜!」
全くもう……とらちゃんは本当に1度お仕置きした方がいいかもしれない。
今日は暑かったもんねぇ、そりゃああれだけ飲み物飲んでたらトイレにも行きたくなるか。
トイレへと向かった2人の後ろ姿が道の向こうへと消えるのを見送り、僕は人通りの少ない路地で改めて2人が置いていった荷物の方へと目をやる。
僕が4、さーちゃんが2、とらちゃんが4って所かな?
少し買いすぎたってのもあるけど……にゃんこうが大きかったか。
僕の荷物の半分を占拠してるであろうにゃんこうの入った袋を見て苦笑いを浮かべ、ペットボトルから1口飲み物を飲むと今日の出来事を思い出してクスリと笑う。
「楽しかったなぁ……次はさーちゃん達とどこに行こうかなぁ……海とか行った事ないし、行ってみたいなぁ」
僕がそう呟き道路脇にある石に腰掛けてパタパタと足を動かしながら鼻歌を歌っていると、前から走ってきた黒塗りの車が僕の横に止まる。
真っ黒だなぁ……絶対これ暑くなるでしょ……ととっ、ここにいたら邪魔になっちゃう。
僕がそう思い車の横から荷物を持って退こうと背を向けると、いきなりその車のドアが開けられ僕はその車から伸びてきた手に体のあちこちを掴まれる。
「なっなにっ?!」
「うおっ!?重ェ!」
「何キロあるんだよ!」
「失礼な!」
思ったより遥かに僕が重たかったのか、後ろから驚いた様子の男の声が聞こえてきて、それに僕は反射的にツッコんでしまう。
しかしそれがきっかけで突然の出来事に固まっていた僕は、自分が今どんな状態かをようやく理解する。
「離してっ!」
「このっ!逃げんなっ!」
「痛っ!」
僕は翼を広げて大きく動かす事で強引に男の手を振りほどき、すぐさま車から距離を取ろうとするが、今度は他の男に髪を掴まれてしまう。
「痛い!離せっ!」
「いっづ?!」
髪の毛を掴んでいる手を振り払おうと、僕は尻尾や翼を更に大きく激しく動かし、それが功を奏したのか男は手を離す。
そして流石にこの騒ぎを聞きつけたのか、人が何人かこちらへ駆けつけて来るのが視界の端に見えた。
「クソッ!人が来た!逃げんぞ!」
「あぁ!」
「あっこらっ!逃げんな!」
男も人が来ているのを見たのか逃げようと車へ戻り出す。
そしてスタコラサッサと車を発進させて逃げようとする男達を見て、気が立っていた僕は……
ーーーーーーーーーー
「なんだか騒がしいわね」
「なんかあったんかな?」
トイレから出てきた2人は入る前と違ってなんだかガヤガヤとなんだか騒がしくなっている事に、そして……
「……というかあの場所って鈴待たせてた場所じゃない?」
その騒がしさの中心が鈴香を待たせている場所だと気がつく。
「…………行こう!」
「ええ!」
その事に気がついた2人は走ってその場所へと向かい、騒がしい人の山をかき分けて鈴香を待たせていた場所へと顔を出すとそこには─────
「ぜっっったい逃がさないからなぁぁぁぁあ!!」
藻掻くように高速でタイヤを空回りさせている黒塗りの車の後ろを両手で掴み、そう叫びながら尻尾を木に巻き付けて足を踏ん張っている鈴香がいたのだった。
ニャンコウ(・ω・^=Э )3




