51鱗目:友達の家!龍娘!
今回から暫く買い物回となります。
「お、きたきた!さなっちー!こっちやこっちー!」
学校の近くの公園にて、待ち合わせ相手であるさーちゃんの姿を見つけたとらちゃんはそう言ってさーちゃんに向かい、元気よく手を振る。
そしてそんなとらちゃんにさーちゃんも手を振り返す。
「さなっち早かったなぁ、それで肝心のすずやんは?」
「鈴?ふふっ鈴はね。あっちよ、あっち」
さーちゃんが手を上にあげたのを見て僕は翼を窄め、ロングスカートの裾をバタバタ言わせながら急降下を開始する。
「あっちって……うぉぉ?!なんやなんやぁ!?」
とらちゃんが上を見上げた所で地上スレスレまで降りてきた僕は翼を激しく羽ばたかせ減速し、とらちゃんとさーちゃんから少し離れた場所に降り立って笑顔で手を振る。
「とらちゃんきたよー!」
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「こんなに髪の毛ボサボサにしちゃって……これでよしっと」
「えへへ、ありがとさーちゃん。それじゃあとらちゃん、改めて今日はよろしくね!」
「うむ!任しとき!」
僕は空を飛んでる時に風でボサボサになってしまった髪をさーちゃんに整えてもらい、改めてとらちゃんに案内されて歩き始める。
今日僕達が集まったのは、先日とらちゃんからさーちゃんへ「明日いつもの5人の女子だけで買い物行かへん?」という提案が来たからだ。
最初は行く気無かったんだけどね……これでも中身は男なんだし。でも「虎白ちゃんがっかりするでしょうねー」なんて言われたら断れないじゃないか。
そして今はとらちゃんのお父さんが今日の送迎を受け持ってくれるという事で、僕達はとらちゃんの家へと向かっているのだった。
「それにしてもえらい驚いたで!まさかほんまに空飛べるなんて思ってもおらへんかったからなぁ」
「まぁ実際に見るまでは信じられないわよね。アタシもこの目で見るまで信じてなかったし」
飛べると思われてなかったのか…………いやまぁ自分の目で見ないとやっぱり信じられないか。
「でもやっぱり飛んできた方が色々と楽だったわね」
「うん。すっごい楽だった」
さーちゃんにそう言われて僕もコクコクと心底そう思っている様に頷き、早速集まってきている人達を見てはぁとため息をつく。
そう、僕がわざわざ皆と別れて空を飛んで来た理由は至極簡単で、少しでも僕が外を歩き回ると直ぐに人が集まってくるからだ。
丁度今がそうであるように。
ほんと、いつでも僕が外に出る度に出来上がるもんなぁこの人の山…………暇人が多い事多い事。
集まってきている人が余り近づいて来ないよう、僕は定期的に翼を大きく広げて威嚇のような事をしつつ、とらちゃん達と楽しくお喋りしながら歩く。
そうして暫く歩いていると、畔に柳が生えている川の向こうに長い白壁がある道へと僕達は出る。
そういやとらちゃんの家ってお金持ちだったよね。この白壁のお家がとらちゃんの家だったりー……なんてね。
「ここいいわね。柳がいい感じの雰囲気出してるわ」
「そうだね。風流があるというかなんというか……とりあえずいい感じ」
「ウチも好きなんよここー。さっ、着いたでー!ここがウチの家や!」
僕がそんな事を話したり考えたりしながら歩いていると、とらちゃんが白い壁の方へと架かっている橋の前で足を止めてそう言う。
僕はもしかしてと思いながらとらちゃんの指さす橋の先を見ると、そこには先程の白壁に挟まれた立派な門があった。
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庭も凄かったけど……それ以上に家もでかい!凄い!
とらちゃんに連れられて門をくぐった先のとても綺麗な庭を通り過ぎた僕は、さーちゃんと一緒にこれまた大きな玄関の前でぽかーんと立ち尽くしていた。
「ただいまやでー!ほら2人もぼーっとしとらんではよ入り!」
「え、えぇ……わかったわ」
「おじゃましまーす……」
とらちゃんに手招きされて立ち尽くしていた僕達は恐る恐ると家に上がり、とらちゃんに連れられて客間のような場所へ通される。
「なんというか…………凄いね、とらちゃんの家……」
「そうね……お金持ちっていうのは知ってたけど…………まさかここまでとは」
そんなお上品な書院造りの部屋で僕達は座布団に座ってとらちゃんを待ちながらも、想像より遥かに豪華な家にソワソワしていた。
「鈴、絶対物とか触るんじゃないわよ。もし壊したりなんてしたらいくら払う事になるか……」
「壊さないよ?!それにまず触らないからね!!全くもう……」
隆継じゃないんだからそんな事しないよ……
「なんや賑やかにやっとんなぁ。はいお茶」
襖を開けて入ってきたとらちゃんがそう言って僕達の前にお盆からお茶を置いていく中、僕とさーちゃんはガッチガチに固まってしまう。
なぜなら……
「あ、ありが虎白ちゃん。それでー……後ろのその方は……?」
浴衣のような服を着て髪の毛をオールバックにし、黒サングラスをかけた細マッチョなTheヤクザ風の人がとらちゃんの後ろに居たのだ。
そしてその人が誰かととらちゃんへさーちゃんが聞くと、とらちゃんはあっはっはと笑って。
「こん人はなー、ウチの父ちゃんなんやでー」
「虎白の父の朱雀峯雅紀や。いつもウチの娘によーしてくれてありがとな」
そう言うとらちゃんと余りにも似てないこの人がとらちゃんのお父さんということに、僕達は思わず。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」」
そう叫ばずには居られなかった。
「すいません大声出しちゃって……」
「はっはっはっ!気にせんでええ、ええ!おべっかで似とる言うてくる奴よりよっぽど好感持てるわ!」
びっくりしたぁ……まさかこの人がとらちゃんのお父さんなんて…………でも良かった、思ったよりも怖い人じゃなさそうで。
見た目はともかく。
とらちゃんの横に座っている見た目完璧にヤクザなとらちゃんのお父さんは、頭を下げる僕達を前に心底楽しそうに腹を抱えて笑いながらそう言ってくる。
「それじゃあ改めて……俺は虎白の父の朱雀峯雅紀ちゅーモンや。いつも娘に優しくしてくれてありがとうな。虎白も昨日の夜もどれ着ようどれ着よういうくらい皆が────」
「わー!わー!わー!そや、父ちゃん!すずやんになんか用があるんやなかったっけ?!」
えっ。僕に用!?
僕なんかとらちゃんのお父さんにやらかしてた?!
「おっと、そうだった」
可愛いなぁだなんて油断してとらちゃんを見ていた僕はいきなりこちらに話があると言われ、なんだろうとビクビクしてしまう。
そして次の瞬間、僕は、いや僕だけでなくさーちゃんもまた固まってしまう。
なぜなら……
「この度は君、そして君の親族へ大変な迷惑をかけた事をHSK会長として心より謝罪する」
雅紀さんが突然両手を畳へ着けて僕へと深く頭を下げ、そう言ってきたからだ。
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本州総合放送協会、略してHSKは本州における放送局の総締めであり、本州にある放送局へ絶大な権力と影響力を持っていると言われている。
そんなHSKの会長という雅紀さんが何故僕へ頭を下げたのかというと、それは僕が日医会から出た頃の出来事が原因である。
今ではもう殆ど無くなったが、三浦先生によるとあの頃僕が散々迷惑をかけられた放送局の大半が、このHSKが上部にある放送局だったそうだ。
「なるほど、そういう事だったんですね」
「あぁ、君には本当に沢山迷惑をかけた。謝って許される事じゃないが……本当にすまなかった」
雅紀さんに頭を上げてもらい色々と聞かせてもらった僕は、三浦先生が雅紀さんの力を借りて僕をメディアから守ってくれていたことを知った。
「まさかあの三浦さんと虎白ちゃんのお父さんが裏でそんな事やってたなんてね…………てっきり虎白ちゃんのお父さんってやばい仕事してるのかと」
あ、さーちゃんそっちなのね。
確かに僕も名刺とか貰うまで信じられなかったけどさ。
「いやそっちなんかい!というかウチはさなっちとたかくんがすずやんの家に住んでる事の方がびっくりや!」
「まぁできるだけ秘密にーって事だったし、そもそも聞かれてなかったからねー」
ぺっちんぺっちんと机を叩きながらそう言ってくるとらちゃんを見て、僕はとらちゃんの頭をなでながらそう言う。
さっきの雅紀さんの話を聞いた後、ここまで関係があるならと言うことで僕とさーちゃんは少し話し合い、2人が僕の家に住んでいることとその理由を伝えた。
勿論、僕が元男という所は伏せたままだが。
「それじゃ父ちゃん、そろそろお願いできる?」
「あぁ、でもその前に最後にひとつ天霧さんにお願いが……」
お願い?なんだろ。
「1枚でいいから一緒に写真撮らせてくれんか?」
「へ?」
写真?写真ってあのパシャってやるやつだよね?お願いってそんな事?
「ウチの父ちゃんなぁ、有名人と一緒に写真撮るのが夢でな?その為だけに頑張って会長にまでなったんよー」
「ちょっ?!虎白!余計な事言わんでええ!」
「あっはっはっはっ、ゆるひてほおひゃん」
なんか雅紀さんって…………ちょっと意外だったけど、思ってたよりも可愛いというかお茶目というか……
逃げようとしたとらちゃんをとっ捕まえて顔をムニムニとする雅紀さんを見て、僕はほのぼのとそう思うのだった。
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あの後雅紀さんと写真を撮って案の定翼を触られたりしてから、僕達は今日とらちゃんの家に来た目的である買い物へ行く為車へと乗り込んでいた。
「本当に大丈夫なんか?翼ぐにょんってなっとるが……」
「大丈夫です大丈夫ですー。僕の翼って意外と可動域広いし柔らかいんですよー」
三浦先生も言ってたけど、確か翼の骨は軟骨がどうとかこうとか。
椅子を出せば最大6人は乗れるであろうワゴン車の1番奥で床に直座りしている僕は、翼爪を膝の上に持ってきて翼が天井に当たらないようにしていた。
「初めて見た時は驚くわよねぇ、あれ。あんなに翼動くなんて思わないもの」
「ウチも最初見た時は驚いたわ、というかすずやん、荷台の床に座らせて悪いなぁ」
「いいよいいよー、僕が椅子に座ったら天井に翼当たっちゃうし、そもそも椅子じゃスペース足りないし」
というか乗る時当てちゃったし。
「それじゃあ雅紀さん、今日はよろしくお願いしますね」
「あいよ、それじゃあ行こうか」
「しゅっぱーつ!」
クゥアーカッカッカッカッと言う、一昔前のエンジンのかかったた音が聞こえると、車はゆっくりと僕達をのせて動き出す。
さて、もうなんか色々あったけど今日の目的はお買い物!おしゃれに言うならショッピング!
楽しむぞー!
僕は心地よく揺れる車の中でそう張り切るのだった。
読者の皆様、今回も「ドラゴンガール」を読んでくださりありがとうございます!
この度「ドラゴンガール」のPVが30万を突破しました!
本当にありがとうございます!
これからも面白い話が書いて行けるよう頑張っていきます!
面白ければ是非とも感想、評価をよろしくお願いします!




