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50鱗目:同居人女子の悩み

「ふぅ……」


 澄んだ風鈴の音とセミの鳴き声が聞こえる山の涼しい風が吹き込む座敷で、アタシは読み終わった本を閉じて1つ大きく伸びをする。


 やっぱりこのシリーズは安定して面白わね。

 さて、このまま次の本を読むのもいいけど……せっかくだし、気分転換にでも別の部屋で読もうかしら。


 アタシはそう考えると本を読むなら何処がいいかと本を抱え上げながら座敷を出て、丁度引っ越してきてから1週間が経つ新しい家を歩く。

 最初は唐突に引っ越すことになった挙句、幼馴染とはいえ異性と1つ屋根の下で暮らすことになって不安もあった。

 しかし、ちょっとアホ可愛いこの家の持ち主のおかげでアタシは叔父さんの家にいた頃よりも、のんびりのびのびと過ごせていた。


 まぁあの子はあの子で落ち着かない原因のひとつでもあるんだけどね。それでも隆継よりかは何倍も面倒の見甲斐が有ってホントにいいわ。


 ちょっとした事で二パーッと可愛い笑みを浮かべる家主を思い出し、クスッと笑うと部屋の前で足を止めてここにしようとテラスへ行くドアを開ける。


「あ、さーちゃん。読書ー?」


 カチャカチャと知恵の輪に挑んでいるこの家の家主であり元男という、大きな翼と長い尻尾を持つ少女、天霧鈴香が居た。


 ーーーーーーーーーー


「それで鈴はまたパズル?」


「うん、今やってるのは知恵の輪だけどね。力加減の練習にもなるしいっせきにちょーう」


 尻尾を揺らしながらぶいっとしてくる鈴を見てアタシは可愛いなぁと思うが、鈴は可愛いと言われると微妙な笑いを浮かべるので頭を一撫でするだけにしておく。


 鈴って頭撫でられたりとかは好きな割に、可愛いとか言われて女の子みたいに扱われると微妙な顔するのよねー。


「さて、それじゃあアタシは読書を始めるわね」


「〜♪じゃあ僕も知恵の輪再開しよーっと」


 そうしてアタシ達はそれぞれ自分のやりたい事をやり始める。

 本のめくれる音と金属の軽くぶつかる音、そして時々鈴の悩んでる声が聞こえる中本を読み進めようとしていたアタシは……


 ダメ…………やっぱり気になる……!


 アタシの右側の椅子に座ってる鈴のふりふりと動く尻尾が気になり、読書に全く集中出来ていなかった。


 鈴の尻尾…………前々から1度触って見たかったのよね。翼はしょっちゅう触らせてくれるけど………


「む……こっちかな……」


 左右に揺れているかと思えば、閃いたとばかりにピンッと立ち、暫くすると上手く行かなかったのかへにょんと垂れ下がったりと鈴の感情に合わせて動く鈴の尻尾を見て、アタシは我慢できずに手を伸ばしてしまう。


 今ならパズルに集中してるし少しくらい…………


「おっと、さーちゃんダメだよー?」


「ご、ごめん鈴……」


 そんなアタシの手が尻尾へと触れようとした瞬間、いきなり尻尾の軌道が変えられ、バランスを崩したアタシは鈴の翼膜に突っ込んでしまう。


「そんなに尻尾触りたいー?」


「うん、触りたい」


 椅子に座り直したアタシは鈴の質問に即答してしまい、それを聞いた鈴はあははと微妙な笑みを浮かべる。


「そんなに尻尾って触られるの嫌?」


「うーん、あんまり触られたくはないかなぁ」


「どうして?」


 アタシがそう聞くと鈴は何か考え始め、暫くすると「そうだなぁ」と言ってから話し始めた。


「例え話なんだけど、僕にとって翼は腕というより手みたいな感じなんだよね」


「手?」


「そう、手。だから他の人に触られたりしても握手したりしてるみたいな感じなの」


 つまり翼を触られるのは手を触られてるのと同じくらいって事なのかしら?


「だから翼はコミュニケーションの一環みたいな感じで触られてもそこまで気にしないんだけど、尻尾はそうじゃなくってね……なんというか」


「なんというか?」


「その…太ももの内側とか、お腹とかそんな感じの場所でね……あんまり触られたくないの」


「あっ」


 少し恥ずかしそうにモゾモゾしている鈴にそう言われ、なんで触られたくないかようやく理解したアタシは、合点がいったとばかりに短く声を上げる。


 そうよね。普通どれだけ仲良くなってもお腹とか太ももとかはあんまり触られたくはないわよね…………


「ごめんね鈴?」


「いいよいいよ、次から気をつけてくれればさ。それはともかく……よいしょっと」


 そう言って立ち上がった鈴はアタシの方に背を向けて座り直すと、何してるんだろうと思っているアタシに鈴はさっきの言葉の続きを言う。


「触りたいんでしょ?ちょっと恥ずかしいけど……さーちゃんなら触ってもいいよ?」


 耳を赤くしながらそういう鈴にアタシは可愛いと思いながらも、ゆらゆらと揺れる尻尾を触らせてもらったのだった。

 そしてその触り心地はこの世のものとは思えないほどのすべすべぷにぷにで最高だった。

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