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48鱗目:羽ばたき!龍娘!

 大丈夫、前は1発で行けたんだ。だから大丈夫、怖がる必要はない。


 飛ぶぞと言わんばかりにバサリバサリと土煙を上げて翼を羽ばたかせていた僕は、飛ぶぞという想いとは裏腹に、緊張と不安でとてもドキドキしていた。


 ちゃんと翼に集中して、出来るだけ早く、そして大きく動かして…………いけっ!


 少しぎこちないが前に飛んだ時のように大きく早く翼を僕は動かして、何となく行けそうな感じがした所で思いっきり地面を蹴る。

 すると空中に飛び上がるような感覚を感じ、そのまま地面から数メートル飛び上がった所で僕はピタッと一瞬空中で止まり、続いて地面へ向かって落ち始める。


 なっ、なんで?!どうして!?


「うぐっ……!!うおぉぉぁぁぁぁぁ…………」


「鈴ちゃん大丈夫?!」


 必死に翼を羽ばたかせたがそれも虚しく、重力に引かれて背中から地面に落ちた僕は、体を翼や尻尾と一緒に丸めて悶絶していたのだった。


 ーーーーーーーーーー


「落ち着いた?」


「うん…………」


 やっちゃったなぁ…………はぁ………


 僕はちびりちびりと両手で持ったコップから水を飲みながら、触診を受けてる尻尾や翼、耳までしゅんと元気なく垂らしてやらかしてしまったと落ち込んでいた。


 前は行けたのに…………どうして失敗したんだろ。いや、失敗した原因はあれだ…………少し……いや、思ってたよりも怖がってたからだ。


 そう、まだ二回目。

 それも初めての外での飛行ということで、僕は自分で思っていたよりも遥かに怖がっていた。


 外だったもん…………飛べるかどうかわからなかったもん……


 何かに言い訳をしながら、僕はコップに付けた口から水に息を吹き込みぷくぷくと泡を出していると、いきなりぽんと頭に手を置かれる。


「んむ…………千紗お姉ちゃん?」


「鈴ちゃん、こっち向いてご覧」


「……なぁに?んむっ」


 千紗お姉ちゃんにそう言われ、僕はズリズリと尻尾と翼を引きずりながら千紗お姉ちゃんの方を振り向く。

 するといきなり千紗お姉ちゃんはぎゅぅぅっと苦しいくらいの力で強く僕の頭を胸に抱き寄せてきた。


 ふぇ?あっ、えっ?ええっ?!なっ、なに!?


「お、お姉ちゃん?!」


 僕は千紗お姉ちゃんにいきなり抱きしめられ、突如顔を覆ってきた柔らかい感触に尻尾や翼をピンと立てて驚く。

 そんな僕を千紗お姉ちゃんは更に強く抱きしめ、頭を撫でながら一言。


「大丈夫」


「!」


「怖かったよね、まだ1回しかやったこと無かったのにいきなり外なんて。怖かったよね」


 大丈夫と言われビクッとした僕は続く千紗お姉ちゃんの言葉を聞き、思わずきゅっと白衣の裾を掴む。


「でもね、鈴ちゃんには私……ううん、私達皆がついてるから………何があっても絶対、絶対私達が守るから……」


「…………うん……ありがとう千紗お姉ちゃん…」


 僕の心にあった怖いという気持ちは千紗お姉ちゃんの守るという想いを受け、その想いに応えたいという気持ちへと変わっていった。


 ありがとう千紗お姉ちゃん、本当にありがとう。

 僕も……僕もその想いに……!


「………ねぇ千紗お姉ちゃん?」


「なに?」


「流石に抱きつくの長くない?!恥ずかしいよ!」


「えー?せっかくだしもうちょっとー。鈴ちゃんいつも抱きつかせてくれないじゃんかー」


「いーやーだー!恥ずかしい!」


 何とか元気になった僕がまだ抱きついたまま離れようとしない千紗お姉ちゃんに抵抗していると、そこに慌てた様子の三浦先生が戻ってきた。


「鈴香!精密検査の用意が出来たから早く……って何やってんだお前ら……」


「あっ三浦先生!助けて!千紗お姉ちゃんが離れてくれない!」


「あ〜ん、鈴ちゃんもうちょっとだけ〜」


 僕の心配をして慌てていた三浦先生はガクッと肩を落とすと、まだ離れない千紗お姉ちゃんへゲンコツを1発落としてその動きを止めた。


「ありがとうございます三浦先生」


「なんだか心配していたのが馬鹿みたいだな……まぁ元気になったようでなによりだ」


 三浦先生はそう言うと安心したような笑顔で僕の頭に手を置いてくる。


「はい、ご心配お掛けしました。それで三浦先生……」


「…………やるんだな?」


 僕の目を見た三浦先生は浮かべていた笑顔が嘘のように消え、真剣な面持ちで僕にそう問いかける。

 僕はその鋭い目を真正面から見つめ返して……


「はい、お願いします」


 そう返事を返した。


 ーーーーーーーーーー


『それじゃあ鈴香、スタートだ』


「はいっ!」


 通信機から三浦先生の開始の合図を聞いた僕は元気よく返事を返すとバサリと翼を限界まで拡げ、最初はゆっくりと、そして段々速く翼を羽ばたかせる。

 幸いにも翼に痛みは無く、羽ばたかせた翼は今まで以上に思った通りに動いてくれる。


 もっと大きく……もっと速く……!大丈夫…………今度こそ行ける……!僕は必ず千紗お姉ちゃんの想いに報いるんだ……!


 バサリバサリと大きく翼が動く度に土煙が巻き上がる中、僕は翼の動きに意識を集中しながら少しの不安を塗り消すように今度こそ行けると強くイメージする。

 そんな僕の想いに応えるかのように翼はより一層力強く羽ばたき、それで生まれた風が地面を叩いて土煙を吹き飛ばす。


 今なら……行ける!!


 フッと視界が切り替わるような感覚と共に、大きく羽ばたかせていた翼が上に上がった時ほんの一瞬だけ止まり──────


 ここっ!!!!


 僕が地面を蹴ったタイミングで翼が1度大きく羽ばたいた。

 そしてそのまま僕は前に飛んだ時と同じ打ち上がるような感覚と共に翼を大きく横へと広げ、もう一度大きく羽ばたかせ──────


「飛べ………………ました!」


 僕は空へと飛ぶことが出来たのだった。

 その空へと飛ぶ事ができた僕は、飛ぶ事が出来たという達成感と共に、今まで自分を縛り付けていた全てから解放されたような解放感を味わっていた。

 しかしその解放感は徐々に興奮へと変わって行き……


 すごい…………すごい!

 すごいすごいすごいすごいすごい!

 飛んでる!飛んでるよ僕!すっごい!

 いまならどこまででも………!


『鈴ちゃんストップ!!止まって!』


『鈴香、止まれ!Haltu!』


「!……うわっととと!おちるおちるおちる!」


 通信機から聞こえた三浦先生の言葉を聞き、高度をグングンと上げていた僕は本当に一瞬だけだが、ビタッと全ての動きを止める。

 一瞬だけとはいえ空中で止まってしまい危うく落ちそうになるものの、僕はなんとか体勢を立て直してふぅと息を吐く。


 危ない危ない…………というか一体僕は何をして……


 しかしどうやらその一瞬が効いたようで、僕は落ち着く事が出来た。

 たが……


『鈴香、落ち着いたか?』


「あ、三浦先生。大丈夫です、なんとか体勢立て直せました。というかなんかすっごい高い所まで来ちゃってます!うひゃあー!たっかーい!」


 おー!車がゴマ粒みたいに小さーい!


 落ち着いても違うことでテンションが上がり、その場でホバリングしながら僕は辺りをキョロキョロと見回していた。


『そうじゃないんだが……まぁいい。とりあえず高度を下げながら自由に無理せず飛び回ってみてくれ、範囲は山の裾までだ』


「わかりましたー!よーし、飛ぶぞー!」


 最初に怖がっていたのが嘘のように三浦先生の言葉へ元気に返事を返し、僕は山の上空を飛び回り始めたのだった。


 ーーーーーーーーーー


 ───でね鈴ちゃんったら───────鈴らしいです──────だいぶ────だな───ふふふっ─────ははは─────────


 なんか…………賑やか…………?


 ────翼が───尻尾───かわいい───お───ぞしだした────きるかな?──起きるで────────


「んむぅ…………ぅあ?」


「お、やっぱり起きた」


「鈴ちゃんおはよ、よく寝れた?」


 隆継に……千紗お姉ちゃん?


「はいお水、ぐっすり寝てたわね」


 さーちゃんも………えーっとたしか……………そうだ、パーティーの途中で僕寝ちゃったんだった。


 飛行実験が終わり、最初落っこちた為一応精密検査を受けた僕が家に帰ると、さーちゃんと隆継が僕の初飛行のお祝いパーティを準備してくれていた。

 そして一緒に来てた三浦先生や陣内さん達と共に座敷で皆とご馳走を食べている内に、僕は流石に一日中飛び回って疲れたのか寝てしまった。


「ぷはっ……三浦先生達は?」


「流石に時間も遅いからってさっき帰ったよ。さっ、鈴ちゃんお風呂入ってスッキリしておいで」


「ん……ふわぁぁぁ…………わかったぁ…………」


 目をくしくしと手で擦りながら起き上がった僕は、体温でいい感じに温まった尻尾を抱っこしたままお風呂へと向かう。

 脱衣場へとついた僕は尻尾を手放し、するするっと僕用に魔改造された服を手馴れた速さで脱ぎ、タオルを1枚持って風呂場へと入る。


 今日は疲れたけど楽しかったなぁ…………久しぶりに皆とも会えたし、それに今日は空まで飛んじゃったんだから。


 わしゃわしゃと髪の毛を洗いながら僕は今日あった事を思い返していた。

 外に出てから会えなくなった皆と会えた事、空を飛べた事、戻ってきたら記者が沢山いた事、記者の人達をすっごい驚かすことが出来た事。

 そんな事を一つ一つ思い起こしながら髪の毛を洗い終えた僕は、洗いやすいよういつものように自分の横に持ってきていた翼を一撫でする。


 ありがとう、これからもよろしくね。


 あの商店街に縛られていた僕を先へと進ませてくれただけでなく、様々な人と出会わせてくれた翼へと僕は優しく微笑みかけるのであった。

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