44鱗目:帰り道!龍娘!
「天霧さんお疲れ様」
「天霧さんまた明日ねー」
「うんお疲れ様ーまた明日ー」
転校して約1週間、夏休みまでは残す所後2日となった今日、ショートホームルームも終わり僕は帰る用意をしつつクラスメイトに手を振って挨拶をして居た。
「鈴ももうすっかりクラスの一員ね」
「せやねぇ。でーもー、ウチはもう一波乱あると睨んどる」
一波乱あるって僕は疫病神かなにかか……
「とらちゃんサラッと酷いこと言うね……さて、皆帰ろー。隆継達もほら」
とらちゃんに頭を撫でられつつ僕は少しさーちゃん達と話をしてから、男子達とつるんでいた隆継とむーさんにも手を振って帰ろうと呼び掛ける。
「おーう」「分かった、今行く」
2人の返事を聞いて僕は席を立ち上がり、皆と楽しく話をしながらいつも通り一緒に校門付近までやってくる。
「それじゃあすずやんまた明日なー」
「鈴また明日ねー」
「天霧さんまたね」
「んじゃここで、またな」
「うん、またねー」
いつもはここで別れるので、4人は僕に手を振って校門から出ていく。そしてその4人に僕は手を振ってからいつもトラックがある場所へと向かおうとする。
んー…………なにか忘れてるようなー…あっ!
「待った待った待った待ったストーップ!」
「うおおっ?!すずやん頭の上飛びこさんといてや!びっくりするやん!」
「ご、ごめん!」
忘れていた事を思い出した僕は雑談しながら歩いている4人の上をジャンプで飛び越し、空中で一回転して4人の前に着地する。
驚いて1歩後ろに下がった皆を代表してとらちゃんが僕にお叱りをして来たので、僕はまずペコッと頭を下げて謝る。
「それで鈴はアタシ達に用があるんでしょ?何の用?」
「あっ、そうだったそうだった。えっとねー」
僕は改めて言うのが少し気恥ずかしくて、ちょっと手をもじもじとしてから4人に向かって一言。
「今日は僕も一緒に帰っていい?」
ーーーーーーーーーーー
「まさか今日は鈴香のお迎え無しとはなぁ」
「いつまでも送り迎えされてる訳には行かないしね。それに…………」
「みてみて!」「うわっ、本物だ!」「すげぇ!」「写真撮らせて貰えるかな?」「尻尾動いてる!」「思ってたより可愛い!」
「早い所この街の人に僕が居ることが普通になってもらわないと」
とらちゃんの提案でせっかくだから少し寄り道して帰ろうという事になった僕達は今、おしゃれなお店が立ち並ぶレンガ通りを歩いていた。
学生をターゲットに作られたらしいこの街の一角にある様々なお店の立ち並ぶレンガ通りとその中央にある広場だが、勿論放課後のこの時間は沢山人が居るわけで……
僕は落ち着いてショーウィンドウを見て楽しむことすらできてなかった。
せっかく初めて皆で色々楽しめると思ったのになぁ…………ん?
「ねぇねぇ皆、あれなに?」
「「「「あれ?」」」」
人混みの中僕が横にいた隆継の袖を引っ張りながら指を指した先には人の並んでる1軒の露店があり、その露店ののぼり旗には「タピオカミルク」と書いてあった。
「何かと思えばタピオカの露店か」
「流行っとったよなぁあれ。まだあったんやな」
タピオカって言うやつなのか……流行ってたってとらちゃん言ってるけど、どんなのなんだろう?
「サナ、鈴香の目がめっちゃキラキラしてるんだが……」
「興味津々って感じね。鈴、鈴」
「……はっ!なっ、なにさーちゃん?」
「アタシも一緒に並んであげるから一緒に買いましょう?」
「いいの?!」
さーちゃんの方へくるっと首を向け、僕はさっきまでより目をキラキラさせてさーちゃんへ期待の目を向ける。
「いいわよ、ほら行きましょ」
「うん!」
笑顔で大きく頷くと共に僕はひゅんと尻尾を一振りし、さーちゃんと一緒に列へと並び、待つこと数分。
「へい、チョコ2つに抹茶2つ、それといちごお待ち!」
おぉー!この下にある黒いのがタピオカか!思ってたより大きい!
「お嬢ちゃん2人だけで持てるかい?」
「はい大丈夫です。鈴、お願いね」
「うん!任せて!」
さーちゃんに言われ僕は返事をすると屋台の雰囲気に似合わない強面のおじさんから両手でチョコ味の奴を受け取り、いちご味の奴を尻尾の先を巻き付けて持ち上げる。
「えーっと千……五百円っと……」
「あー……お代だが黒髪のお嬢ちゃん。そっちのお嬢ちゃん、龍娘さんがいいのなら屋台の前で写真撮らせて貰えねぇかな?お代はそれでいいからさ」
屋台の少しごついおじさんが緊張した面持ちで「お嬢ちゃんいいかい?」とさーちゃんだけでなく、写真を撮られる本人の僕にも聞いてくる。
僕がさーちゃんの方を向くと「どうする?鈴」と僕に任せるような感じでさーちゃんは見てくる。
その視線を受けて僕は少し悩んでから、思っていた事を正直に言う。
「悪用とかしないのなら別にいいけど……」
「ありがてぇ!絶対悪用しないって約束するからよ!」
「ちなみに何かに使う気なんですか?」
「一応今話題の龍娘が来た店って感じで宣伝させてもらおうと。それと……」
「「それと?」」
僕に変わって間髪入れずにさーちゃんがおじさんに使用用途を聞くと、おじさんは正直に答えた後照れながら少し黙って。
「有名人と会えたから記念に1枚一緒に映りたくて……」
このおじさん…………純粋だ……!そしてなんか可愛い……!
そんな照れ照れしてるおじさんを見て大丈夫そうと判断した僕は、さーちゃんにおじさんとのツーショットを撮ってもらった。
頭を何度も下げてお礼を言ってくるおじさんにこちらこそとお礼を言い、僕達はとらちゃん達が取っててくれたベンチへと向かう。
「……尻尾で持ってるのか。器用だな」
「そうかな?とりあえず皆お待たせさまー。はい、とらちゃんと隆継はチョコ味ー」
「すずやんありがとなー」
「サンキュー鈴香」
「はい、アタシと玄さんの分の抹茶」
「助かるよ」
3人にそれぞれ注文していた味のカップを僕とさーちゃんは渡して、みんなと一緒のベンチへ座る。
その時ふとお店の横にあったテーブル席辺りに居た、僕やさーちゃんと同じ制服の女子が何かしているのが目に入る。
何してるんだろう?
「みてみてー、乗っかったよー!」
「めっちゃ胸張って無理やりやってんじゃん!チコちゃんマジウケる!私は簡単に乗るもーん♪」
「うっさいなぁ!巨乳のチヨはやっぱり敵だ!」
じっと僕がその女子達を見ていると片方の女子が、友達と思われるもう1人の女子に胸の上にタピオカを乗っけてるのを見せてた。
おぉ、なんちゅー素敵……いやハレンチな…………僕も出来たり……いやうん、僕のこの大平原では無理か。
あ、そうだ。
「本当にあんな事してる子が居るのね……」
「いやー、まさかリアルでチャレンジを見ることができるとは……眼福眼福」
「隆継?」
「な、なんでもねぇよサナ!なぁ鈴香!鈴香?」
鼻の下を伸ばしていた隆継はさーちゃんに含みのある笑みを向けられ助けを求めて同意を求めるように僕の名前を呼ぶ。
しかし全く反応を返さない僕に隆継は首をかしげながら僕の方へと目を向けてくる。
そして隆継が見てきた時、僕は制服の中に尻尾の先を入れて「出来たー」とさっきの女子達の真似をしており、隆継に見られた事に気がついて顔を真っ赤にする。
「なっ、なに隆継!?」
「大丈夫だぜ鈴香。お前まだこれからなんだから」
「なっ?!ちがっ、そんなんじゃ!あっ……うぅぅぅ………………」
僕は恥ずかしさでさらに真っ赤になって反論しようとした。
しかしとらちゃんや隆継、更にはさーちゃんとむーくんまでニヤニヤしているのを見て、僕はこれ以上騒いだらからかわれると察して俯くのだった。
ーーーーーーーーーー
さ、さて、気を取り直して!これ見た感じはやっぱりただ少し大きめの黒いつぶつぶだけど……どんな味なんだろ。
でもまぁとりあえず、何事も挑戦!
しばらくとらちゃんやさーちゃんに頭を撫でられてたが何とか復活した僕は、両手で持っているカップの中を見て期待半分不安半分であむっとストローを咥える。
そしてちうちうといちごミルクと一緒にタピオカを吸い上げ、吸い上げたタピオカをんぐんぐと味わうように顎を動かしていると…………
「んんー!」
僕はパタパタと足と翼を動かしながら目を輝かせて、もう一口と飲み始める。
なにこれおもしろーい!むにむにしてるー!いやぐにぐに?でもこれ不思議な食感で面白い!
味もほんのり気持ち甘い程度だからいちごミルクには介入してこないし……これはいい!
そんな風に夢中になってタピオカを楽しんだ僕はあっという間に飲み終わり、ぷはっとストローから口を離す。
「夢中になって飲んでたわね」
「えへへ……思ったより美味しくて」
「小さい口で一生懸命吸ってて可愛かったでー。よかったらウチのも飲む?」
「いいの?!あっ、いや、思ったよりお腹いっぱいだしやっぱりいい……かな!」
危うくとらちゃんからタピオカを貰いかけ、僕は慌てて顔をブンブンと振って要らないと伝える。僕が断ってとらちゃんは少し悲しそうな顔になったが……
間接キスになっちゃうからね!流石に断んないと!うん!だからさーちゃん「間接キスになるって気がついて断ったわね」みたいな目で見てこないでお願い。
とらちゃんと間接キスになることに気がついた僕は、平常心平常心とそう考えながら自分に言い聞かせ、とらちゃんの少し悲しそうな顔に耐えたのだった。
その後皆がタピオカを飲み終わる頃にはなんだか人が増えてきて、僕達は身動きが取れるうちにその場で解散した。
今日は初めて寄り道したなぁ〜♪
それにあと少しで夏休み!んー!楽しみ!
尻尾を大きく揺らしながら、僕はあと2日で来る夏休みに心を躍らせつつ、夕暮れの道を家へと向かって歩いていくのだった。
・天霧鈴香その4
鈴香の龍娘としての能力と性能
今の所鈴香の龍娘としての力は水晶の生成と馬鹿力のみ。
水晶の生成は大きさや長さ等であれば、そこまで集中しなくても想像した通りの大きさで作る事が可能。消すこともできる。
ただし、少しでも形を指定するとなると物凄く集中してきちんと完成図をイメージする必要がある。
そして大きくすればする程、精密にすればする程疲れる。
馬鹿力の方だが大型トラックを指一本で軽々と動かしたり持ち上げたりすることが出来る。
お箸を折ることなく持てるようになるくらいまでだいたい1ヶ月半くらいかかったが、これのおかげで力加減をマスターした。
寝ている間も馬鹿力は発動しない。
体の各所に驚異的な耐久性と防御性のある鱗があるが、鱗のない普通の肌はなんら一般人と変わらないので普通に銃弾が貫通したりする。
実は気を失っている間に三浦先生によって1つ刷り込みがされている




