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40鱗目:平和な朝、龍娘!

「んむぅ…………んん……」


 日の出の時間、カーテンの隙間から差し込んでくる陽の光が眩しくて、僕は抱きついているそれにきゅっと少しだけ強く抱きつく。


 …………眩しい……もうちょっと…………柔らかいのを……もちもちむにむにで……………もちむに?尻尾じゃない?


 抱きついている物の触り心地を堪能しようとした僕は、それがいつも抱きついている尻尾とは違う触り心地である事に気がつく。

 そして正体を確かめようと眠い目を開け、そのもちむにの正体を確かめると、それは千紗お姉ちゃんの腕だった。


 なぁーんだ千紗お姉ちゃんの腕だったのかぁ…………良かったぁぁぁぁぁ。あー本当に良かった。

 何かの拍子に力込めて腕折ったりしてないみたいでほんっっとうに良かったぁぁ……


 サーッと血の気の引くような思いをした僕は飛び起きた拍子に残っていた眠気も吹っ飛び、へなへなと女の子座りで座り込み胸を撫で下ろす。


 いくら寝てる時は馬鹿力になってない、というか力が人並みくらいだって分かってるとはいえ、本当にヒヤッとしたなぁ…………あー心臓に悪い。


 そんな事を思いつつ立ち上がった僕は、翼の拘束具を外して角カバーのぽんぽんを揺らしながら廊下を歩く。

 その廊下は昨日までの聞くに耐えないような音、そして光などが全くない元の静かな朝日の気持ちいい廊下だった。


 あの後、1度目の覚めた僕は三浦先生が記者や各報道機関に手を打ってくれた事を陣内さんから教えて貰った。

 何をしたかを簡単に言ってしまうと、デカデカと「私は不法侵入及び、住人を盗撮しました」と書かれた正式な書類に、僕がとっ捕まえた人達全員へサインさせたらしい。

 そしてそれを使ってその人達の所属する会社なんかにどうしてくれるのかといちゃもん、もとい正当な理由で裁判沙汰にまで持っていこうとしていると聞いた。

 ちなみにそこまでやらなくてもと僕が言った所、陣内さんが言うには三浦先生曰く「大々的に公式な謝罪が行われるレベルまで追い詰めないとダメ」と返されたそうだ。


 まごまごたまご~♪朝はやっぱり目玉焼き~♪


 リビングについた僕は朝ご飯を作り終えると、いつも通り千紗お姉ちゃんを起こす為に部屋へ行こうとする。

 しかし僕はぐっすりと眠っていた千紗お姉ちゃんの顔を思い出し、昨日のこともあって疲れてるだろうと思い、まだ寝かせておいて先に朝ごはんを食べる事にした。

 ぷつりと半熟の黄身に穴を開けて上から醤油をかけ、僕は1口食べた後麦茶を飲みながらテレビを付ける。

 しかしどの局を見ても三浦先生の手回しが早かったからか、謝罪会見を開くやら開いたやらなんやらかんやらと言っているものばかりで、面白いものはなかった。


 せっかくテレビ貰ったのに……あーあ。なにか面白いものでもあってないかなー。


 つまらなさそうにジトーっとした目をテレビに向けつつ、僕はさらにピッと番組を変える。


『───夜空に煌めく紅き星!レッドスター!!』


『夜空に瞬く蒼き星!ブルースター!!』


『『2人合わせて正義の戦士!スターライト!』』


 おー!これが隆継の言ってたアニメって奴か!……ふむ…………おぉ…………


 僕は朝ご飯を食べながら、ドドーンという派手な爆発と共に登場したその女の子2人がヒラヒラの可愛い服に変身し、悪者と肉弾戦で戦うアニメをじっと魅入っていた。


 ーーーーーーーーーー


 ガゴリボゴリガリゴリガリゴリゴクン。


 うーむ、今日のは甘さ控えめの少し酸っぱい感じだったか。僕の好みとしては微妙だけど夏にはちょうどいいかもしれない。


 朝食後こくこくと両手で持ったコップから水を飲んで水晶を食べた後の口の中をすっきりさせつつ、僕はそんな事を考える。

 そしてコップの水を飲み干し、コトッとコップを置いた僕は椅子から立ち上がると、少しウロウロとしてキョロキョロと辺りを見回して…………


「夜空に瞬く蒼き星!ブルースター!!」


 …………………………うむ、決まった!


 ビシッ!と先程のアニメに出ていたブルースターというキャラの変身シーンを真似した僕は、決まったという顔をする。


 いやいやいやいや、決まったじゃないよ。何やってんだ僕は。とりあえず、うん、とりあえずさっさとお皿でも洗っちゃおう、うん。


 はははと目を閉じて首を振りながらリビングにあるキッチンに行こうと僕が後ろを振り向くと、そこにはニヤニヤとした顔の千紗お姉ちゃん立っていた。のであった。


 ーーーーーーーーーーー


「鈴ちゃんーもう弄らないからー」


 千紗お姉ちゃんにそう言われている僕は今、頬をリンゴのように膨らませ、掛け布団を頭から被って部屋の隅で丸まっていた。


 千紗お姉ちゃんなんてしらないっ!あんなに弄ったりしてこなくてもいいじゃんかぁ!


 あの後、僕は千紗お姉ちゃんに散々可愛い可愛い言われながら「もっかいやって」なんて言われ、拗ねてるような今の状態へとなっていた。


「鈴ちゃんお願いー!なんでも買ってあげるからー!」


 ん?今何でもって?それなら…………


「ぷりん……」


「プリン?」


「ぎゅうにゅうかんてんえくれあみるふぃーゆちょこれーとばうむくーへんあいすくりーむきんつばたるとけーきさぶれ────」


「ストップストップ!わかった!わかったから!途中で欲しいお菓子あったらなんでも買ってあげるから!」


「ほんと?」


「ほんとほんと、だからお姉ちゃんと一緒にお出かけいこ?」


「やった!…………ってお出かけ?え?お出かけ?」


 お出かけって外でお買い物するあれ?え、僕がやっていいの?


「そうだよー。そろそろ食材も無くなるからね」


 千紗お姉ちゃんに笑顔でそう言われ、僕は急展開に思わずぽかーんとなってしまったのだった。


 「という事で……鈴ちゃんのおめかしターイム!さぁお姉ちゃんが全身くまなく下着までコーデしてあげるからねぇー♪」


 下着まで?!


 「それが嫌なら出てきなさーい」


 ぐぬぬぬぬ……!背に腹はかえられない……!


 そんな風に千紗お姉ちゃん脅され、僕は拗ねてる場合じゃないと布団から飛び起きると千紗お姉ちゃんを追い出し、いそいそと着替え始める。


 えっと……こんな感じで大丈夫かな?大丈夫だよね?

 夏にお店のお手伝いで見たお姉さん方もこんな感じだったし、多分これで大丈夫なはず………………だよね?


 部屋にある姿見の前で僕はスカートをひらりひらりとさせながら、服装が変じゃないかどうか僕は確認する。

 そんな僕の今の格好はスカートに薄いベージュのロングスカート、上は胸元に猫のワンポイントがある白の袖無しTシャツという格好だった。


 うん、大丈夫だと思うけど…………一応千紗お姉ちゃんにも確認してもらおうかな?


 それがいいと僕が考えて部屋を出るべくドアの方へ振り向くと、丁度振り向いたタイミングで外行きに着替えた千紗お姉ちゃんがドアを開けてきた。


「Good timing!」


「んおっ?なんか鈴ちゃんが可愛いことやって来た」


「こほんっ、それはともかくどう千紗お姉ちゃん?変じゃないとは思うけど……」


「んー………………確かあったかな?」


 テンション高めの顔でビシッと体を前のめりにしながら千紗姉ちゃんを両手で指さした僕は、千紗お姉ちゃんにそう言われ一つ咳をしてひらりと軽く一回転してみる。

 すると千紗お姉ちゃんは少し顎に手を当てて考えた後、僕のクローゼットから少し向こうが透けて見える程薄手の薄灰色の服を取り出し、それを僕に羽織らせてくる。


「一応、腕の鱗とかも隠しといた方がいいかもだしね」


 なるほどそういう事だったのか、確かに気味悪がられたりとかはしなさそうだ。


 学校に登校した初日に一部女子生徒に嫌そうな顔をされていたのを思い出して、僕は千紗お姉ちゃんの言い分にうんうんと頷く。


「それじゃあ、行こっか?」


「うん!」


 そう言って手を差し伸べる千紗お姉ちゃんに僕は元気よく返事を返し、手を繋いで一緒に部屋を後にした。


 ーーーーーーーーーーー


「千紗お姉ちゃん千紗お姉ちゃん」


「なぁに鈴ちゃん」


「なんか今いけないことしてる気分」


「あらあら」


 この姿になって初めて自分の足でどこかに行くという事か、それとも女の子の格好でいるからか、僕はやっちゃいけないことをしてるような気分だった。


 別に歩いてもいいし、女の子の格好をしてても何もおかしくないんだけどね?

 もう三浦先生からの許可も出てるらしいし、なんの問題もないんだけど…………やっぱこう……初めてだからね?


 ふふふと笑う千紗お姉ちゃんを横にカチコチと少し硬い動きで僕達が歩いていると、道の横にある畑で作業しているおじさんとおばさんが居た。


「こんにちはー」


「はいこんにちは。っておぉぉ?!」


「あんた何騒いでんの……あら?あらあらあらー!もしかして最近テレビでよく見るお嬢ちゃんかしら!?」


 ぺこりと僕がすれ違いざまに挨拶をすると、おじさん達は畑仕事に集中してたのか気がついてなかったらしく、僕を見たおじさんは尻餅をつくくらい驚いていた。

 そんなおじさんの横にいたおばさんは軍手を外しながら、そう言って僕へと近づいて来る。


「本当に翼と尻尾が生えてるのねぇ。テレビが沢山きて騒がしいと思ったら、お嬢ちゃんここに住んでたのねぇ。大変だったでしょ?あんなに人が押しかけてきてねぇ」


 こ、このおばさんなんか押しが強い…………でも悪い人じゃなさそう。むしろ優しい?


「あはは、すいません迷惑かけて。今は何をしてるんですか?」


「なぁに、迷惑なんてかかってもないよ!今かい?今はきゅうりとか野菜の収穫をしようとしてた所だよ。ほらあんた、いつまでも可愛い子に腰抜かしてないで立ちな!」


「お、おう」


 僕がおばさんにそう言われ立ち上がろうとしたおじさんに手を差し伸べると、おじさんは少し驚いた様子だったが僕の手を取ってくれる。


「ありがとな嬢ちゃん。だが外行きの服だろうに、手を汚させて悪かったな」


「あっ、そういやそんな服だった」


 いかんうっかりしてた。

 手汚れちゃったけど……どうしよう……


「はっはっはっ!ほら嬢ちゃん慌てるな。ほれ手ぬぐいだ。それとそこに居るお姉さんには悪いが少し待っててくれ」


 どうしようとワタワタしていた僕におじさんは軽く笑って手ぬぐいを渡すと、そう言って畑の奥に行ってしまった。

 それから暫くおばさんとお話したり翼を触られたりしていると、おじさんが袋を持って戻ってくる。


「ほれ、嬢ちゃんにプレゼントだ!龍だから肉食なのかもしれんがその前に人間だからな、ちゃんと野菜も食わんとべっぴんさんになれないぞ?」


「これはー……ってうわっ!いいんですか?!こんなに貰って!」


「おう!嬢ちゃんがいい子だからな、特別だ!」


 そう言って渡された袋にはトマトやきゅうり、ナスなんかの野菜が沢山入っていた。


「ありがとうございます!野菜大好きなので美味しく食べさせてもらいます!」


「良かったね鈴ちゃん!」


「うん!」


「喜んでもらえるとこっちも嬉しいねぇ!あぁそうだ、嬢ちゃん達の家は最近建ったあの家かい?」


「はい、そうですよ」


「おじちゃん達の家は嬢ちゃん達の家の坂を降りて山の方にまーっすぐ行ったところにあるから、何か困った事があればいつでもおいで」


「はいっ!」


 おじさんはニカッと笑いながらそう言って軍手を外した手で僕の頭を撫でてくれる。

 そんなおじさんのゴツゴツとした大きな手の感触を頭に感じつつ、僕は心地好さそうに目を閉じて返事をする。


「おっと、せっかくの外行きなのに長々と引き止めて悪かったね。楽しんでらっしゃい」


「はい!おじさんおばさんまたね!」


「またおいでー」


「楽しみにまってるわねー」


 僕達は手を振るおじさんとおばさんに手を振り返し、またスーパーへと歩き始めたのだった。

 そして歩く事約1時間、段々と地面が田舎の土の道から舗装されたアスファルトに変わり、住宅街に差し掛かってくると……



 「えっ!あれって龍娘じゃない?!」「まじか!写真写真!「すっげぇまじで尻尾動いてるじゃん」「ていうかなんか可愛くね?「体ちっちゃーい、歳幾つなんだろ?」「翼でけぇ」「この街に住んでたんだ!」「横の人はお姉ちゃんかな?」


 わかってた、うん、わかってたよ…………


 「うぉぉ!!翼動いた!」「尻尾すっげぇなげぇ」「隣にいる人家族かな?」「頭のあれって角だよな?」「どこか行くのかな?」「ここら辺に住んでるのか?」「尻尾めっちゃしなってる」


 注目とか写真撮られるのはわかってたけどさ!そんな道行く人全員が僕見てこなくていいじゃん!

 しかもさっきから横を通る人全員が翼とか尻尾触ろうとしてくるんだけど?!


「勘弁して……」


「鈴ちゃん大丈夫?」


「もう、個人の尊厳とかないんだなぁって……」


「あぁ、写真とかね」


「うん……本当に勘弁してほしい」


 そんな僕の言葉にしてしまった通りの心境を表すかのように、尻尾は元気なく垂れ、翼はほんの少しだがきちんと畳まれずに広がっていた。


「これは本当に何らかの形で手を打つべきね」


「千紗お姉ちゃんぶつぶつ言ってないで早くスーパー行こ」


「そうだね、早い所買い物済ませて帰っちゃお」


 僕達はそう話すと手を繋いで早歩きでスーパーへと向かうのだった。


 ーーーーーーーーーーー


「おかしが…………おかしがたくさん…………!!」


 そしてスーパーにたどり着き買い物をしていた最中、僕は目をキラッキラさせながらスーパーのお菓子コーナーを前にて足を動かせずにいた。


 おかしだ!おかしだー!

 ふわぁぁぁ……全部美味しそう……!でも買い物の途中だし、でもおかし……買い物……おかし…………


 そんな葛藤から僕はその場で足踏みしながらぱたぱたと翼を動かしつつ、千紗お姉ちゃんの方とお菓子コーナーを交互に見だす。

 そしてそんな僕を見ていた千紗お姉ちゃんは一言。


「いいよ鈴ちゃん、お菓子選んでおいでー」


「ほんと?!やったぁ!!」


 あぁもう可愛いなぁ!


 満場一致で千紗お姉ちゃんを含めたその場に居た全員がそう思ってた事など知らず、千紗お姉ちゃんの一言で満面の笑みで僕はお菓子を取りに行く。

 そして数分迷った後一つだけお菓子を持ってくる。


「それでいいの?」


「うん。あっ、でも……」


 あっちのバウムクーヘンの方がいいかも、でもこっちのチョコレートも……


 両手で持ってるチョコレートを買い物カゴに入れようとしながら、僕は未だ手にあるチョコレートと棚にあるバウムクーヘンを交互に見ていた。

 すると千紗お姉ちゃんは僕の頭を軽く一撫でし、近くのカゴ置き場からカゴをひとつ持ってきて、キョトンと首を傾げてる僕に向かって笑顔で一言。


「このカゴいっぱいにお菓子取っておいで」


 その魅力的な言葉に僕はさっきの満面の笑みよりもいい笑顔で尻尾を大きく揺らしながら、沢山のお菓子をカゴへ入れて買ってもらったのだった。

 後日それが三浦先生にバレて僕と千紗お姉ちゃんがこってり怒られたのはまた別のお話。

 そしてこの僕の様子がネット上にアップされ話題になっていたと僕が知るのはまだ先の事なのだった。

読者の皆様、今回も「ドラゴンガール」を読んで頂きありがとうございます!

本日は投稿開始1ヶ月突破ということで特別に3話投稿します!

よかったら感想、評価よろしくお願いします!

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[一言] マスゴミは自分たちが正しいかのように事実をねじ曲げて報道しますからね。徹底的にやった上でSNSを使い一部始終を広めないと。 アニメの真似する鈴ちゃん見たい!アニメ化しませんかね?
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