39鱗目:不穏な朝、龍娘
雀の鳴き声すら聞こえないある日の朝、むくりと布団から僕は起き上がりいつも通りカーテンを開けようと手を伸ばし、開けようとしたギリギリで手を止める。
ととっ、危ない危ない。今は開けちゃダメだった。
なんとかギリギリで留めた手をカーテンから離し、危ない危ないと首を振ってから僕は翼の拘束具を外し始める。
拘束具を外した翼をぐぐいっと広げ、伸びをしてから僕は部屋を出てリビングへ向かう。
するとリビングには疲れ顔の千紗お姉ちゃんと陣内さんがいた。
「もしかしてまだ?」
「おはよう鈴香、案の定まだ居るぞ。ほれ、みてみろ」
僕がそう聞くと陣内さんは苦笑いを浮かべながらリモコンでピッとテレビをつける。
するとテレビには僕の家が写っており、「まだ現れません」などと言ってるニュースキャスターの周りにも沢山のテレビ局や野次馬が映り込んでいた。
「鈴ちゃんおはよう。よく寝れては………………なさそうね。ほらこっちおいで」
「うん……」
「よしよし、怖くない怖くない」
テレビコーナーに敷かれたカーペットに座っているちー姉ちゃんがぽんぽんと膝を叩き、僕はそこに顔を埋めてむぎゅっと千紗お姉ちゃんの腰に抱きつく。
「まぁ、いつかなると分かっちゃいたことだが……ここまで早くて大人数とはなぁ」
そんな陣内さんの呟きを聞きつつ、僕は顔を覆う柔らかい感触を感じながら昨日のことを思い出す。
とらちゃんにアダ名などを付けていた日、僕達が家に帰りつくとそこには沢山の人が待ち構えていた。
その人達はトラックから僕がでてきた瞬間茂みから現れ、僕にマイクなどを突きつけて来ながらガシャガシャとシャッターを遠慮なく切ってきた。
僕達はトラックを盾になんとか強引に家に入ったものの、その後は一晩中外からカーテン越しのシャッターの光や拡声器で大きくされた声などに僕らは襲われていた。
朝の早い時間だから今は静かだけど…………すぐに昨日の夜みたいになるのかな………………
きゅっと少し強く千紗お姉ちゃんに抱きついて、僕はこのままじゃダメだと顔をあげる。
「これ、警察沙汰とかにできないんですかね?」
ぷはっと千紗お姉ちゃんの膝から顔を上げた僕は陣内さんにそう聞いてみるが、陣内さんは多分無理だと答えるのみだった。
その答えを聴きながら陣内さんから受け取ったアイスココアを飲んだ僕は、少しだけ考える余裕が出来た。
そして気を取り直して着替えや朝食などを僕達が終わらせた頃、ピンポーンというインターホンの音を皮切りに昨夜と同じ事が再び始まった。
ピンポーン……ピンポーン……
カシャカシャカシャカシャ────
『少女を解放しろー────』
そんな聞きたくもない音が聞こえてくる中、昨日以来初めて考える余裕が出来ていた僕はふと現状を打破出来そうな案を思いつく。
「千紗お姉ちゃんに陣内さん、ひとつ試してみてもいい?」
「…………鈴ちゃん?いいけど…………なにするの?」
不安そうな顔の千紗お姉ちゃんに僕はニヤッとしてみせ、一言。
「現状打破」
と言った。
ーーーーーーーーーーー
「────ということです」
『わかった、実際注意書きはあったんだ、気が付かなかったは言い訳にはならん。徹底的に容赦なくやってやれ。俺らもすぐに行く』
「了解しました。三浦先生本当にありがとうございます」
『任せろ、それじゃあまた後で』
「はい、また後で」
がちゃん。
三浦先生へと連絡を取った僕は、今から何をやるかを伝えて了承を貰うと礼を言い、受話器を置いて千紗お姉ちゃん達へと振り返る。
「それじゃあ、さっき話した通りに。陣内さんは見張りをお願いします。千紗お姉ちゃんは部屋の用意お願い」
「任せてくれ」
「わかった」
僕は2人にそう指示を出し、最後にもう一度互いに顔を見合わせて僕達は頷きあい、互いの役割、そして覚悟を確認する。
それを見た僕は翼を大きく広げ、これまた大きく1度動かすとニィッとイタズラが成功した三浦先生のような悪い笑みを浮かべるのだった。
人を食い物にしようとしてるんだ、獲物に噛みつかれてひどい目にあっても文句はないよね?
そんな事を考えながら。
そしてその数時間後、仕掛けも終わり、僕も動きやすい格好へと着替えて玄関の前に立っていた。
そして僕は一つ深呼吸をし────
カチャン!ガラガラガラガラピシャッ!
最早壊れるくらい勢い良く玄関の戸を音高く開ける。
すると玄関の前に立っていた人達はいきなり戸が開いたからか、驚いてギョッとした顔で固まっていた。
僕はその固まっていた自分より背の高い人ばかりを前にニコリと笑顔を浮かべると、力任せに押しのけて人混みを突っ切ろうとする。
すると僕が歩き始めたのを合図にしたかのように前、横、後ろ、全てから容赦なく質問とシャッターの光と質問が飛んでくる。
「その翼や尻尾は本物なのですか?!」「保護者の方や親類の方はどのように!?」「貴女は人間なのですか?!」「異星人、新しい知的生命体との噂は!!」「日医会に造られた人造人間というのは本当なのですか!?」「日医会に囚われ実験材料にされていたという噂は!」
聞くに耐えない自分達で作り上げたであろう根も葉もない噂の真偽を僕は問われながら、作った笑顔を何とか崩すこと無く保ち、人混みから力づくで抜け出す。
そしてぞろぞろと人を引き連れながら、僕は家の前の坂道を下り終えその場で立ち止まり、追いかけてきた人たちの方へ振り向いて昨日作った看板を見せる。
そしてその看板には大きくこう書いてあった。
この先私有地につき部外者の立ち入り、撮影を禁ずる。
と。
それはまさにこの人達が「住居侵入罪」を犯した証明になるには持ってこいのもので、しれっと僕の横を通り過ぎて行こうとした記者の肩を僕は掴む。
「昨日からあんなに迷惑かけてるのにいざ立場が弱くなると逃げようなんていい度胸してるじゃないですかー」
僕は笑顔でそう言うと、強引に突っ切ろうとしたり坂道の柵を飛び越えたり、はたまた引き返して山の中へ逃げ込もうと散り散りに逃げ始めたマスコミや記者を次々ととっ捕まえ始めたのだった。
ーーーーーーーーーーー
「クソッ!こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
「不法侵入と無断撮影、それにゴミのポイ捨てしてた奴には言われたくないなぁ。とりあえず大人しくここで待っていてくださいねっ!と……ふぅ。これで全員ですよね?」
最後まで悪態を着いていた男を大型トラックの荷台に放り込み、水晶で出入口を塞ぎ手をはたいてから陣内さんへ聞いてみる。
「だな、ちゃんと全員入ったのを確認した。身分証とか名刺の提示もさせたし、それを拒否した奴は不法侵入者ってことでもう一台のトラックに放り込んだ」
「流石陣内兄貴、仕事完璧にこなしてる」
「そういうな、照れるだろ。それに鈴香こそ逃げようとしたやつほぼ全員とっ捕まえてるからな、そっちが凄いぞ」
「この体の運動能力は化け物ですから。でも取り逃したのは確かですし、取り逃した奴らは警備隊の人が捕まえてくれて助かりました。ありがとうございます」
三浦先生に仕掛けとして動かしてもらった日医会の警備隊の人に僕がお礼を言っていると、一台の車が家の前に止まる。
うわっ、高そうな車だぁ……もしかして三浦先生のかな?
そんな僕の予想は的中していて、若干引き気味な僕の目の前で、その車から三浦先生が笑顔で書類の束を抱えて出てくる。
「久しぶりだな鈴香、少し背が伸びたか?」
「本当ですか!?って今はそうじゃなくて、あのトラックの荷台です。全員とっ捕まえました」
「お疲れ様……いや、本当にお疲れ様だったな。これからは俺らに任せろ。鈴香はそうだな家でゆっくりしてろ」
さっき男の人を放り込んだトラックを僕が指さすと、三浦先生は任せろと言って僕の頭を撫でてくれる。
その瞬間僕の中で張り詰めていた緊張感がプツリと切れ。
「わかりましたっ!?」
「うおおっ?!大丈夫か!?」
「えへへ……安心したからか足がかくんってなっちゃいました、あれ?なんか涙が……あはは。なんか、ひぐっ。止まんないです……えぐっ、ははは……」
玄関で座り込んで泣き出してしまった。
その後僕は陣内さん達に連れられて千紗お姉ちゃんのいる部屋へと行き、いつの間にか僕は千紗お姉ちゃんの膝で寝ていたのだった。
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