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31鱗目:目覚め、龍娘

 閉じた瞼の隙間から白い灯りが差し込んで来る。

 その灯りに僕は閉じていた目を顰め、ゆっくりと開く。


 いつ寝ちゃってたんだろ……確か僕は…………あれ……?何してたんだっけ………………


 何をしていたか思い出せないあやふやな記憶の中、何度か瞬きを繰り返すとそこには前に一度見た事のあるような天井が目に入る。


 ここ…………確か、最初に────


 心当たりのある天井に少し安心した僕が、眠い目を擦ろうと手を動かし────


 ガチャッ


 あれ? なんかひっかかった?


 ガチャガチャガチャッ


 なんか前にもなんかこんな事が……………


 ベキッ


 どこかこの状況にデジャブを感じつつも、僕はいつもより重い右腕を引っ張って拘束を引きちぎる。

 そして少し時間はかかったが各所に設けられた拘束を全て引きちぎり、拘束台から床に降り立とうとして……


 うおっ……!?なんか力が入んない……どうしてだろ?


 自分の体重を支えられず、カクンと膝から床に崩れ落ち、僕は女の子座りで座り込んでしまった。

 そのまま暫くどうしてだろうと首を傾げていると……


『全く。高濃度の睡眠薬打ち込まれといて1時間も経たずに起きるわ、筋弛緩剤打ち込んでるのに合金メッシュの拘束具破壊するわ……つくづく規格外だな鈴香は』


 三浦先生………?

 …………あ、ダメ………………


 どこかにあるスピーカーから三浦先生の声が聞こえてくる中、僕はその声を聴きながら座り込んでいるのもきつくなってパタンと仰向けに倒れる。


『やっぱりその筋弛緩剤は流石の馬鹿力でもキツかったか……すまんそんなのを打ち込んで。

 それじゃ本題だが……そうだな、まずは意識がはっきりしてるなら2度瞬きしてくれ』


 あっ、それってあの時の……


 三浦先生のその真剣な声色の中にある楽しげな雰囲気を感じ、僕も笑顔を少し浮かべながら床に寝そべったままパチパチと2度瞬きをする。


『…………よし、大丈夫みたいだな。それじゃこれから幾つか質問をする。はいなら1度、いいえなら2度瞬きをしてくれ』


 その後、僕は三浦先生に幾つかの質問をされた。

 途中とっても恥ずかしい質問なんかもされたが、それも恥を忍んでちゃんと正直に答えた。

 そして僕は動かせない体とまだ残っていた眠気に負けて、何かを説明しようとした三浦先生の声を聞きながら眠りへと落ちていった。


 ーーーーーーーーーー


「すーずーちゃん」


「んむぅ…………」


 ……ほっぺ…………やめて………………


「すーずちゃん」


「むにゅう…………」


 …………突っつか、ないで………………


「えいっ」


「ひゃあんっ?!なっ、なにっ!?」


 「あら可愛い悲鳴」


 翼の付け根を触られ、自分で出したとは思えない変な声を上げて跳ね起きた僕は、何事かと身構える。

 しかしそこはさっきまでいた拘束台のある部屋では無くいつもの僕の部屋で、クスクスと笑ってる千紗お姉ちゃんが居るだけだった。


「千紗お姉ちゃん!」


「ごめんごめん♪」


 まただよ!全くこの人は!

 付け根は触んないでって毎度毎度言ってるのにー!


 クスクスと笑う千紗お姉ちゃんを見て何をされたか分かった僕はぷくっと頬を膨らませ、軽い調子で謝る千紗お姉ちゃんを睨む。

 するとひとしきり笑って満足したのか、千紗お姉ちゃんは笑顔でこっちを見て一言。


「鈴ちゃん、おかえりなさい」


 そう、言って頭を撫でてくれたのだった。

 そして僕はその言葉を聞き、なんだか無性に嬉しくなり、むぎゅっと千紗お姉ちゃんに抱きつくのだった。


 「お、早速やってるな」


 「みっ、みみっ、三浦先生!?これはっ!ってあっ、お姉ちゃん!?」


 「ふふふっ、離さないよー?」


 「仲睦まじくて何よりだ。それじゃ、何があったか改めて説明するからな」


 しれっと部屋にいた三浦先生に千紗お姉ちゃんに抱きついてるのを見られた僕は、直ぐに離れようとしたが千紗お姉ちゃんに逆に抱きしめられ逃げられなかった。

 そしてそのまま何があったのか、改めて事の顛末を聞かされた僕はすーっと流れるように土下座のポーズを取り。


「本っっっ当に申し訳ございませんでした」


 全力で謝ったのだった。


 うぅぅ……本当に何やってんだ僕はぁ……!そんな暴れ回るなんて………あぅぅぅ……………………


「だから大丈夫だって。聞いた限りお前の自己防衛みたいな機能が暴走していたみたいだし、原因も逆鱗が触られたからって分かったし幸い死人も出てないんだ」


 「で、でもぉ……」


 「それに鈴香の新しい能力が分かったからな。顔を上げてくれ」


 そう、先日の事件によって僕は現代のどの技術にも当てはまらない「水晶を生み出す」という力を持っている事が判明したのだ。


「あー……それでだ鈴香、もうお前に関しては驚いたりする事はないだろうと思ってたんだが…………なんでお前の周りはキラキラしてるんだ?」


 渋々と顔を上げた僕に三浦先生がそう言ったものの、僕が何かキラキラ光ってる物を持ってるという事でもなく…………


「さぁ……なんなんでしょう、これ」


 本当にキラキラしていたのだった。

 よく見ないと気が付かない程ではあるが、うっすらと雪のような薄い水色の落ち着いた光を纏っており、当の本人たる僕も首を傾げていた。


「まぁそれもいつか解明したい所だが……今日お前の場所を尋ねたのは謝らせる為でも身柄を拘束する為でもない」


「え?そうなんですか?」


 正直結構やらかしたみたいだし、怒られるか幽閉されるかしか考えつかないけど……


「まずさっき説明したお前が暴れてた事の報告、そして次にこれからの事だ」


 これからの事…………?やっぱりこんな危険性があるならもう表社会には行かせられない的な……


「…………とりあえず説明したいからそんな捨てられた子犬みたいな顔をするな。ほらよしよし、いい子だから」


「あうううううぅぅぅ……」


 外に行けないと考えたからか、無意識にしゅーんとなっていた僕の頭を三浦先生はくしゃくしゃと少し乱暴に撫でて元気付けてくれる。


「具体的に何があったかは漏れてないが、今回の件で他の部署から説明を求められている。そして1番の問題が外部の者にお前の事がバレた事だ」


「はい……」


「だから準備もまだ万全とは言えないが…………鈴香、お前を表社会へ出す」


「……はい?」


 三浦先生の言葉を聞いた僕は驚いて俯けていた顔を上げると、どこか楽しそうな表情の三浦先生がいた。


「こういうのはゲリラ的にやるのが1番だからな、鈴香がすーすー可愛い寝息立ててる間に取り掛かり出した所だ」


「えっ、え?はいっ?!ちょっと待ってください!?」


 えっ……ええぇー!?何この急展開?!というか出ていいの!?

 それに三浦先生なんかすっごい楽しんでるように見えるんだけど!


「というわけで鈴香、お前にはこれをやろう」


「うわっ!わわわっ!えと、なんです……?これ」


 唐突な急展開に驚いて勢いよく三浦先生の肩を掴んだ僕に、三浦先生はそう言いつつ両端に金具の着いた物を投げてくる。

 なんとかキャッチしたそれは、薄水色の肉球マークがついた、少し太めの白く柔らかい布地で、これがなんなのか僕には分からなかった。


「それはチョーカーって言うやつだな」


 ちょーかー?チョークを拭いたりするのに使うの?


「チョーカーが何か全く分かってなさそうだな……こうやって首に着けるアクセサリーみたいなもんだ」


 首を傾げて「ナンダコレ」といった顔になってる僕の手からそう言ってチョーカーを取り、三浦先生はそれを僕の首にそっと優しくつけてくれる。

 それは丁度逆鱗を覆い隠すことが出来るサイズで…………


 もしかして逆鱗を触られないように……?


 僕は言い表せないじーんした想いを胸に感じつつ、サイズがぴったりのチョーカーを手で触り、三浦先生へニコッと笑顔を見せる。

 すると三浦先生はニヤリと悪そうな笑みを浮かべて一言。


「着けたな?」


「え?」


 まさかこのチョーカーになにか!?


「それじゃあ鈴香も了承したということで、明日の記者会見、一緒に頑張ろうな?」


 キシャカイケン?


 固まってる僕にニヤァとイタズラ成功とでも言うような顔のまま三浦先生はそう言うと、僕の肩をポンッと叩き、手を振って書斎を出ていった。


「はい?………………えっ、ちょっ待っ!記者会見ってどういう!あぁっ!三浦先生逃げたな!?」


 三浦先生の言葉が理解出来ず硬直していた僕がやっと動き出した時には、書斎の前の部屋には三浦先生は居らず、遠くから高笑いが聞こえてくるのみだった。

 その後、三浦先生と暫くの間全力で追いかけっこした事はまた別の話。


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