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29鱗目:怯え、龍娘

 ガゴリボゴリゴガリゴクン


「うーむ……美味しい!」


「横から見てると本当に美味しそうに食べてるから凄いのよねぇ……音も凄いけど……」


 普段ならもっと女の子らしくと怒る千紗お姉ちゃんも石英、つまりは水晶を食べる僕を見ている時は複雑な顔になっていた。


 おっ!こっちのはちょっと甘さ控えめだけどスッキリした味わいで美味しい!産地で味も変わるのかなぁ?

 それにしても……

 んー♪こんな美味しいなんて今まで本当に人生損してたよー♪

 いや違うか、今の体だから美味しいのか。

 つまりは「龍の体で水晶が美味い」これだな、うん。


「さて、それじゃあ鈴香ちゃんもエネルギー補給終わったみたいだし行こうか」


「はーい…………もう一個だめ?」


「ダーメ♪直してらっしゃい」


「はーい……」


 もう一個食べたかったなぁ……


 僕は千紗お姉ちゃんに対する必殺技、上目遣いを使用したものの流石は研究者と言うべきか、こういう所はきちんとしてて笑顔でダメと言われてしまった。

 はっきりダメと言われ僕は物足りなくて指を咥えてしゅーんとなりつつも、ちゃんと千紗お姉ちゃんに言われた通り水晶が沢山入った袋を私物置き場に置いてくる。


「それじゃ改めて、鈴ちゃん行こ?」


「はーい!」


 僕は元気よく返事をしてちー姉ちゃんが差し出してきた手を取り、仲良く部屋を出たのだった。


 ーーーーーーーーーー


「それでね〜……あっ」


「どうしたの千紗お姉ちゃん」


 今日僕が実験、といっても簡単な物だがそれを受ける為実験室へと向かっていた所、千紗お姉ちゃんがいきなり声をあげた。

 僕はどうしたのだろうと首を傾げながら千紗お姉ちゃんの顔を見る。


「いやー、部屋に端末忘れてきちゃった……実験室まであと少しなのに」


「ありゃ、それは取ってこなきゃ」


「だね、ちょっと取りに戻って来るよ。鈴ちゃんは先に実験室向かってて?」


「〜♪はーい!」


 千紗お姉ちゃんは僕の頭を撫でながらそう言うと、僕に手と尻尾を振りながら早歩きで元来た道を戻って行った。


 全く、千紗お姉ちゃんはうっかり屋さんだなぁ…………まぁそれが千紗お姉ちゃんらしくていいんだけどね。


 その場に残された僕は暫く手を振り返した後、ポケットから端末を取り出し、三浦先生に千紗お姉ちゃんが遅れることを連絡しようとするものの……


「あっ、電池切れてる……」


 あははは………僕も千紗お姉ちゃんのこと言えないなぁ…………


 端末をポケットに戻しながら僕は苦笑いを浮かべ、とりあえず実験室に向かおうと歩き始めようとした瞬間───


「────っ!?」


 突如ゾワリと背中を這うような嫌な予感を僕は感じ取り、この先の廊下の曲がり角に僕は視線が釘付けになる。


 なんか……すっごく嫌な予感が…………早く……!ここから離れなきゃ……!でも……警戒で目が離せない……!


 龍の本能なのか、嫌な予感を感じたにも関わらず、僕はその正体を突き止め無ければと目が離せなくかった。

 そして僕が見ているその曲がり角から高そうな革靴が覗き、次にパツパツになったスーツに覆われた腹が、そして最後にニヤけた男の顔が現れた。


 外の人……?でもよかったただの人で…………なら、なんで……?

 どうしてあの人から……こんなにも嫌な感じが…………


 この時僕は招待を確認したのだからさっと少し下がり、物陰へ隠れるべきだったのだ。

 なぜなら、その男がたまたまこちらを向いた時、僕はその男と目が合ってしまい…………


 ゾワッ!


 なっ?!今のっ、何!?なんで……なんでこんなに怖いんだっ!?相手はただの人なのに!


「あっ……ぅぁ…………ぁぁ」


 尻尾をピンと立て、全身の毛、いや、鱗が逆立つような恐ろしさ、そしてそれ以上気持ち悪さに僕は襲われて一瞬、そう、たったの一瞬だけ固まってしまった。

 しかしその一瞬が命取りだった。

 その僕と目のあった男はニヤけた顔が嘘のようにギョッとしたような表情を浮かべた後、それまで以上にニヤけた表情を浮かべる。

 そしてその表情は女として男に耐性の無い僕が動けなくなるには充分だった。


「ほうほう………………ほうほうほう…………ほうほうほうほうほう!」


 にっ、逃げないと!あれ?!足が動かない?!どうして!?動けっ!動いてっ!!


「はっ!田上様危険です!離れてください!」


「これはこれは!!聞いていたとはいえまさか本当に日医会の下層がこんな特大の、そして特上の宝石を隠し持っていたとはっっっ!」


「ぴっ……!?」


 曲がり角から少し遅れて顔を覗かせた覆面軍団の先頭に居た秘書が男、田上を呼び止める声も聞かず、興奮した様子で田上は僕にずいっと近づいてくる。

 そして僕は田上の興奮した息と恐ろしく気持ち悪い目を間近で見てしまい、短い悲鳴をあげて尻もちをついてそのまま後ろへと後ずさる。

 しかし僕が立っていた所は丁度曲がり角から出た場所で、背後には直ぐ壁があった。


「ひひひ……こんな極上の至宝がこんな研究バカ共の中に隠されていようとは……!こっちにおいで……」


「いっ、いやっ……!こないで…………っ!」


「ほーぅら、怖がらなくていいんだよ…………一緒においで……」


 壁に追い詰められた僕は田上に抵抗を示すが、田上のその甘い言葉は欲望が丸出しの声色で、僕の田上に対する気持ち悪さは更に増していた。


「やだ………いや……僕は…………」


「さぁ……ワシと来るんだ。一緒に楽しい事をしようじゃないか……」


 田上は荒い息と共に力の入らない僕の手を左手で押さえ込み、首元を触ろうと伸ばして来た右手は僕の逆鱗がある所へと触れ────


「ぎッ!?」


 僕の意識はとてつもない激痛と共に、そこで真っ白になった。















 怒りを、携えて。

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