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27鱗目:好奇心の対価

「リーダー!どうしてですか!?どうして彼女への実験を許可してくれないのですか?!」


「またお前か、何度も説明しただろう」


 三浦はため息を付きながら、自分の落ち着いた雰囲気の執務室でバンッと机を叩いた職員の男にそう告げる。


「ですが!この実験をすれば今以上の成果を!」


「…………」


「確かに彼女は貴重なサンプルです。もうあのような存在は出てこないでしょうから大切になさるのは分かります。しかしもう出てこないからこそ──────」


「だからこそ彼女を、鈴香をバラバラに解剖するのか?

 体へ毒を打ち込むのか?

 嫌がる彼女を押さえつけて薬漬けにする事で思考を奪い、命が尽きるまで都合のいいモルモットにするのか?」


 鈴香を犠牲にする事をいかにも素晴らしい事のように饒舌に喋るその職員の言葉を遮り、三浦は男をギロリと睨みつけながらそう言い放つ。


「っ!それでも人類が進歩する為の大きな足がかりとなるなら──────」


「犠牲にするのも厭わないと?」


「…………その通りです……」


 三浦の普段の姿や態度からは想像もつかない気迫に男は少し怯みつつも、聞かれた事に正直に答える。


「ならひとつ聞こう。お前は知ることこそが正しく、素晴らしい事だと思うか?」


「……?それは勿論そう思いますが……」


 さっきまでの気迫が嘘のように消え去り、唐突にそんな質問を机の上で手を組み直した三浦はしてくる。

 そして男は首を傾げながらもその問いに答える。


「俺はそうは思わない。なぜなら知らない方が幸せな事が多いから、知ってしまうと世界が変わってしまうような事がこの世には山のようにあるからだ」


「たっ、たかが彼女1人だけでそんな大袈裟な事が……」


「本当にそう思うのか?

 少なくとも血には人間換算で数百年の延命効果があるぞ?

 鱗には現代の技術で再現出来ない耐久性があるぞ?

 抜け殻は万病を治すことが出来るぞ?

 これでもまだ大袈裟じゃないと言えるのか?それは否だ、断じて否だ」


「っ…………」


「それもこれもまだ鈴香の表面付近だけだ。表面だけで争いの元になるのがこれ程までにあると言うのにもし解剖なんてしてみろ。

 肉に内蔵、骨、体液、あぁそうだ女だから卵子なんかもあるな。

 表面だけであれなのに一体中身からはどんな研究結果が出るんだろうな?」


 三浦は手を大きく広げて天井を仰ぎながら、おちゃらけたように勢いよく喋る。

 そんな三浦に男は言い表せない恐怖を覚えながらも、震える手に力を込めなんとか抑え込む。


「…………素晴らしい結果が出ると思────」


「素晴らしい結果?お前本当にそう思うのか?少なくとも俺は鈴香が世界中に追われる結果が出ると思うぞ?」


「で、ですがそれこそ我々が彼女を保護していれば……」


「はいそうですと保護されると思うのか?1度自分の意思に反して解剖してきた奴らにか?そんなのどんな手をつかってでも逃げ出そうとするに決まってるだろ?」


「な、ならば抵抗できないように彼女を────」


「消すのか?洗脳するのか?薬漬けにするのか?

 それこそ全力で抵抗するだろうよ。

 壁や天井の30センチ特殊装甲板ですら軽く引きちぎり、1t近くある荷物を指一本で軽く持つ馬鹿力で 」


 三浦はそう言うと先程以上の気迫で男を睨み付けながら、まるでこうなるぞと言うように手元にあったクリップを縦にぐにゃりと曲げる。


「うっ…………」


「それに馬鹿力だけじゃないだろうな。そのうちブレスとか特殊能力でも使えるようになるんじゃないか?もしそんな事になったらもう手がつけられんな。はははははっ」


「……ご冗談を」


 乾いた笑い声を上げながらポイッと折り曲げたクリップを捨ててまた机の上で手を組んだ三浦を見て、男はそう言うしか無かった。


「まぁそういう事だ。鈴香とは絶対に敵対するような事はしない、あくまでもどこまでも友好的にだ。分かったな?」


「………………分かりました」


「ならばよし、持ち場へ戻れ」


 三浦がそう言って扉を指さすと男は扉へと向かい、ドアノブに手をかけた所で動きを止めて三浦へと向き直す。


「………………リーダー」


「なんだ」


「貴方は人類の進歩を停滞させている」


「ならばお前は人類を滅亡へ向かわせている」


「…………失礼しました」


 男は真っ直ぐと向けられた目から殺意などというものより恐ろしい何かを感じ、今度こそ部屋を出ていった。

 バタンと音を立てて扉が閉まったのを三浦は確認すると、机に埋め込まれているパネルに指を走らせる。


「目先の好奇心、か……これで9人目。あいつも鈴香が来る前とは大きく変わった1人だな……さて、記憶処理の準備をしなくては。

 無条件の協力など無いとは…………よく言ったものだ」


 三浦はそう言うと椅子から立ち上がり、どこかへと向かい始める。


「絶対に守り抜いてやるからな」


 満面の笑みで笑う鈴香の写真を見つめ目に強い光を残しつつも優しい笑顔を浮かべ、三浦はそう呟いたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何度も読み返したけど、読み返す度に思う。 ならばお前がロボトミー手術の献体になって、人類の発展に寄与してみろと。
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