126鱗目:開拓!龍娘!
「さってっと、そろそろ行こうかな」
春の暖かで過ごしやすい日和も過ぎ去り、初夏を感じられるほんのりと湿った空気のある日。僕はまだ満足に明るくない朝も早い時間に上は七分袖、下は中にタイツを着たホットパンツ姿で外に出ていた。
置き手紙もしたし、まぁ多分大丈夫でしょ。
「さて。それじゃあ初めては何があるか分かったもんじゃないし、善は急げ、早起きは三文の徳、さっさと目を付けてた場所に行く事にしますか」
様々な道具を括りつけた僕の背中よりも大きいリュックを背負い直し、僕は翼を羽ばたかせ空へと飛んでいくのだった。
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「みっ、みみっ!三浦さーん!」
「ど、どうした天霧?!何があった!?」
午前7時、俺がいつもの事務所で柊と先日の事件の後片付けをしていると、慌てた様子で先日から泊まり込みで仕事をしていた千紗が事務所へとやってくる。
「ここっ、これっ!これ見てくださいっ!」
「なんだなんだ、慌てた様子で入ってきたら次はスマホを見ろだなんて。えっと何何……「連絡しないでください、僕は疲れました。一人で少しゆっくりしてきたいと思います」……ってこれ鈴香からか?」
「そう!そうなんですっ!朝さなかちゃんがリビングにあったって送って来てくれて!」
おいおいおい……確かに最近というか直近であんな事あったし、嫌になる気持ちも分かるがこのタイミングで鈴香が家出するのは流石にまずいぞ!
「と、とにかく連れ戻し……いや!場所だけても分かればいいから突き止めるぞ!柊!鈴香の目撃例があるかもしれん、情報の方の確認は頼む!」
「お、おう!ってちょっと待ってくれ三浦、今日って何日だ?」
「今日か?今日は5月の24だが……」
「……あー…………それ、家出じゃないと思うぞ2人共」
「へ?」
「どういう事だ?」
「実は先週姫がたまたま俺の趣味と同じ趣味に関係する事を調べてるのを見かけてな、せっかくだしと目星付けてた場所を紹介したんだよ。だから多分今日は─────」
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「キャンプ、するぞー!」
裏山の小さな河原がある傍にて、リュックを下ろした僕はそう言って両手をばびっと上げ、翼を少し広げる。
そう、僕は今日キャンプに挑戦すべく朝早くからわざわざ置き手紙をして超朝早く柊さんに教えて貰ったポイントへとやってきていたのだった。
疲れたな〜、一人でゆっくり出来るような事やりたいなぁ〜……なんて思ってたら「静かでゆとりある大人の時間を」なんてキャンプのCM見ちゃったからね!
それが原因で色々調べてたら柊さんに知られて、気が付いたらオススメの道具とかスポット教えて貰ってて……
「気がついたらちー姉ちゃんに「何十万もするものじゃないなら何でも買っていいよー」って言われてた通販で柊さんに勧められてたの一式買ってしまったんだよねー」
それプラス面白そうなのとか、あったら良さそうなの込み込みで気がついたら……
「こんな事になってたんだよねー」
お値段、全部合わせてー……昔の僕なら絶対に手出ししないし、それを全部生活費に当ててまる一年の食事は安泰だってなる値段になります。
まぁ、買う時に鼻血出たし、まだまだそういった感性は抜けてないみたいだ。
ちー姉ちゃんは忘れてって言ってるけど、この感性には囚われ無くなったとしても忘れずにいたいものだ。
「さて、それじゃあとりあえずテントをっていうのが普通の流れなんだろうけど……」
『姫は翼と尻尾があるからな。グランピングでもない限り普通のテントじゃ収まり切らないから─────』
「オススメするぞって柊さんが言ってたハンモックをつける為にもいい感じの幅がある木を探さないとだ」
そう柊さんが言ってた事を思い出しつついい感じの木を探してると、5m程の幅で生えている太くてがっしりした二本の木を見つけ、僕は早速そこへハンモックを張っていく。
柊さん、ハンモックは大きく分けて2種類あるって言ってたなぁ。
確かひとつはハンモックと言ったらと皆が思い浮かべる吊り下げ式で、もうひとつはスタンドのついている自立式と言われるハンモックだったはず。
この2つはそれぞれメリットデメリットがあって前者は場所さえあれば何処でもよく荷物も少なく済み、自立に比べてちょっとお安い。
そこが僕的には高ポイントだったり。
そして後者はちょっとお高い代わりに平らなら何処でも設営出来る。その代わり重くて荷物がかさばる。
まぁ、僕の場合はそこにもうひとつ問題があって、単純に体重で自立型は壊れかねないんだよねー。
「っとロープを巻く前にロープが当たる場所にタオル巻いとくんだぞって柊さん言ってたな」
確か木を痛めない為とかだったっけ?
「さて、それじゃあタオルも巻いた事だし、次はロープを張ろっと」
えーっと確か、目線よりも少し高い場所にロープを左右水平になるように結んで取り付けて、それにカラビナをつけてからハンモックと接続するんだけど……
「どうやってロープにカラビナつけるんだろ、これ」
ぎゅっぎゅっとロープを結んだ後、僕は片手にカラビナを、もう片手にロープを持ってそう呟く。
しまったなぁ……体重が体重だしハンモックベルトよりも頑丈なロープがいいかなぁと思って買ったんだけど、まさかそんな落とし穴があろうとは。
帰ったら耐荷重が高いハンモックベルト探してみよう。
「さて、それじゃあどうやってカラビナつけるかだけど……やりたくないなぁ。使いたくないなぁ」
僕の水晶作る魔法、便利だしいつもならガンガン使ってるんだけど、今回に限っては頼りたくないんだよねぇ……
柊さんも「キャンプは不足を楽しむもの、不便なのも醍醐味」って言ってたし、そこらの物より頑丈なものが作れるあの魔法はキャンプする上では使いたくないのだ。
でもぉ……!こればっかりはどうしようもないしぃ……!
「仕方ない、カラビナとの接続部だけちょこっと魔法で……ここら辺かな?」
ピキピキとロープにカラビナを付けられるような場所を水晶で作り終えた僕はそこにカラビナを取り付け、更にハンモックを取り付ける。
「よし、できたー。どれ、座り心地はっ?!」
よっこらせと腰の高さくらいに来てたハンモックに僕が座ると、ハンモックを広げてなかったせいで僕は後ろ向きに背中から倒れる。
「あいったたた〜……つ、次は失敗しないからなー」
先ずはこけない様にきちんとハンモックを広げてからゆっくりお尻を乗せて、それからハンモックに足を乗せればー─────
「ぶべっ!」
翼のせいでハンモックのヘリが潰れ、横になった途端今度はぐるんと一回転して顔面から地面に落ちる。
くっ……!まさかこんな罠があろうとは…………舐めていたぞ、ハンモック……!
なら今度はうつ伏せに……おぉ、これなら少しは。尻尾の付け根も楽だし。でも……
「翼が地面に結構ベッタリ……ハンモックのつける高さを上げるか」
身長が足りずに高い所へ結び直すのに四苦八苦しながらも、僕の初めてのハンモック設営はなんとか無事に幕を終える。
「よし!もうこの時点で結構泥んこだけどよし!」
んまぁ顔くらいは洗うけど。さて、それじゃあ次は……
「てってれー、タープー!雨風木の葉を防ぐキャンパーの盾!これがあるだけでキャンプ感は何倍にでも膨れ上がるといっても過言じゃない!」
って柊さん言ってたけど、さてどれ程の物かお手並み背景させてもらおう。
「とは言ったものの……タープってどんな風に張るのが正解なんだろ?」
ちょっと調べてみるか。あんまりスマホ起動したく無いんだよなぁ……なんせ絶対ちー姉ちゃんから鬼電来てるだろうし。
「まぁ調べないとわかんないし、仕方ないかぁ……」
袋に入った状態のタープを抱っこしながら、諦め混じりにポケットから水晶の板──正確にはスマホが封じ込められた水晶の板を取り出し、水晶を消してスマホを起動する。
すると案の定そこには山のような不在通知があり、うんざりとしたような仕方ないなぁというような顔を僕は浮かべた後にハンモックのタープの張り方を調べる。
「なるほど……半分折った状態で後ろはペグ、前はポールでなんかこう上手い具合に…………とりあえず、やるか」
先ずはハンモックの上部分にロープを張って、タープを被せるんだけど……身長が足りない!仕方ない、飛びながらやるには狭すぎるし─────
「尻尾を地面に突き刺して、尻尾で体を押し上げる……!」
これ、前にも1回やったけど例えるなら腕が本体で体を付属品みたいな感じで尻尾を使って体を動かすから変な感じがするんだよねぇ。
「よし、なんとか両方結べた!ひー、尻尾の先っぽ痛いー。さて、そしたら次はー─────」
設営場所が高くなりすぎてペグダウン出来なかったり跳ね上げたり出来なかったが、近くの木に結びつける事でなんとかAフレームと呼ばれる張り方っぽい感じに出来る。
よーし!そしたら最後にー─────
「椅子とテーブル!ふっふっふっ、おとなーな時間を過ごす為にオシャレなの買ったのだ……!見よ!この天板部分が布で出来た折りたたみのキャンプっぽい机ぇぇえ!?」
あ、足が折れたぁ!途中からへにゃって!や、やばい……!ちょっと力込めすぎたか─────
「って、そうだった。これほぼ垂直になるくらい足が開くんだった。えーっと確か机が水平になるように足を開いて、足についてる金具で固定するんだったっけ」
む、微妙に右前の足の長さが足りない。
こういう時はいい感じの石を探すといいって柊さんが言ってたっけ……あ、これとか良さそう。
「ん、ばっちり!そしたら最後に椅子を広げてー……あっ、尻尾穴開け忘れてた」
ふふふ、こんなこともあろうかと……
「てってれー!ナイフっ!」
十徳でも何でもないただのナイフっ!だからこそかっこいい!
「この鈍く光る刃の部分がたまらんっ。まぁそんなこのナイフさんのデビューは尻尾穴なんだけど。うぅっ、数千円の椅子に穴を空けるなんてっ……!でも、やっちゃうっ!」
そして数分後、ギリギリ端っこの布が残る程度の布を残して僕の尻尾がぴったり通る立派な穴が出来上がったのだった。
「あぁ、数千円が……でも深く座る為にはこれ空けとかないと。尻尾の地味に不便な所だよなぁ。さて、それじゃあ座り心地を確認させて貰いまー─────」
べキッ
「ほへ?」
な、なんだか嫌な音と一緒に視線がちょっと下がって……あ、こいつも足が。
「ま、まぁ。こいつもこの机みたいに可動域が凄まじいだけかもしれないし─────」
ボキッ
壊れてるっ!こいつは本当に壊れてるっ!く、くそぅ……僕は悪くない……!耐荷重150kg程度のこの椅子が悪いんだ!と、いうわけで─────
「これだけは魔法使おう。足を本来の角度にまで持ってきてその状態で骨組み部分を水晶で固定すれば……いや、せっかくなんだし、椅子になる石でも探そう」
確か河原の端っこの方に結構いい感じのサイズの石があった気がする。
記憶を辿り河原の端っこでいい感じの石を僕は見つけ、それを机の前まで軽々と持ってきて置いてそれに座る。
「おぉ……!なんだこの石、めっちゃお尻と尻尾の付け根にフィットする……!」
この椅子がキャンプの最適解なのでは?
思わぬ拾い物があったもんだ……さて、それじゃあ設営も済んだことだし─────
くきゅるるるるる。
「お日様も真上だからご飯にしますかっ!」
お腹のなる音を引き金に、僕はそう言ってお昼ご飯を作り始めるのだった。
鈴ちゃんは耐荷重150kgの椅子を1発で壊すくらい重いですが、鈴ちゃん本体は40キロ程度しかないので重いのは鈴ちゃんじゃないです()




