125鱗目:事後処理
「ふぅ……やっと終わった」
「ふふっ♪お疲れ様三浦クン」
「金城先輩も手を回してくれてたようで、鈴香の為にありがとうございました」
「いいえー。私の可愛い弟子のためだもの、これくらいどうって事ないわ」
あの事件の翌日、事情の説明や事件と鈴香の繋がりを調べようとする輩の対応などがようやく終わり、一息つこうとしていた所で現れた金城へと三浦はそう礼を言う。
「それに、監視カメラの封鎖くらいしか私は仕事して無いし、本題のあの宗教狂い達は全部鈴香ちゃんが捕まえちゃったもの」
「元はもっと大人しい子のはずなんですけどね、誰かさんが鍛えすぎたんじゃないですか?」
「そんな事ないわよぉ。どちらかと言うとあの子は自分の力で自身を得てる節があったし、戦いの場所にいきなり放り込まれた挙句、自分が狙われてるって分かってネジが飛んじゃったんじゃない?」
「貴女みたいに、ですか?」
「あら、あんまり女性にそういう事は聞くべきじゃないんじゃない?」
「ははっ、そうですね。それで、先輩がここに来たのはあの子の力について、だよな?」
「分かってるじゃない。それじゃあ教えてもらおうかしら、あの子の、鈴香が銃弾を真正面から弾いたあの力はなんなの?」
いつまでもこんなやり取りを続けていても仕方が無いというふうに本題へと三浦が切り込むと、金城は真剣な声色になり、獲物を狙う様な鋭く冷たい瞳を向けてそう訪ねる。
「あれか、あれについては正直今の所何にもわからん」
「分からない?本当に言ってるのかしら?それは」
「勘弁してくださいよ先輩。まだ事件から一日しか経ってないんだから、調べる以前の状態なんだ。ただまぁ、本人曰く「キラキラが集まって守ってくれた」そうですよ」
「キラキラ?そういや、あの子の周りって確かになんかキラキラしてたわね。となるとあれが弾を防いだ原因なのかしら?」
「そう断定出来るなら簡単で良かったんだがな。あのキラキラについて知る為に以前鈴香周りの空気成分を調べたんだが……」
「知ってるわよ。何一つ収穫なかったんでしょう?」
「えぇ。先輩も知ってた通り、他の場所の空気と何にも変わらないただの空気だった。だが昨日になってそのキラキラは唐突に物質としての側面を見せた、そして俺はこの現象に一つ心当たりがある」
手がかりが無いと肩を落とした金城へ向かって、今度は三浦が真実を捉えたような怪しい光を目に浮かべて金城へと、心当たりがあるのかそう言って資料を漁り始める。
「よし、見つけた」
「これは……鈴香ちゃんの能力に関するレポート?それも水晶関連……あっ」
「気が付いたか?そう、鈴香が無から有を生み出すのはこれが初めてじゃない。今までも何も無い空間にあいつは水晶を産み出していた、そしてここから考えられる事は……」
「事は……?」
「前々から提唱していた、魔力の存在が現実味を帯びてきたって訳だ」
「なぁーんだ、前から三浦クンが言ってた奴のことかぁ」
「露骨に興味をなくさないでくださいよ先輩。もし魔力の存在が実証出来たならそれを使って救える人をもっと増やせるかもしれないでしょう!?」
「そ、そうね。それよりも私はアンタのその技術オタクっぷりが世の為人の為に向いてる事に心底感謝してるわ」
「どういう意味っすかそれ」
「なんでもないわぁ」
呆れたような、でも安心してるような、そんな顔で三浦へとそう言った金城はそのまとめられた資料を手に取ってざっと目を通す。
「でもそうねぇ、そうなのよねぇ……現状、三浦クンのこの研究があの子の力を唯一明らかに出来るものである事に間違いは無いものね。だから私を呼んだのでしょう?」
「まぁそういう事ですね先輩。今までは鈴香の能力が表沙汰になる事は無かった、だがどれだけ口止めしていても今回の一件で間違いなく鈴香の能力は表沙汰になる」
「それで、私にあの子の安全を守って欲しいという訳ね?」
「そういう事だ。表からの圧力には俺が、裏からの実力行使には先輩が、表と裏両方の圧力からあの子を守りたいんです」
「私は構わないわ。でも「私達」はこの日医会の私有警備員、業務外の労働に貴方はどれ程の報酬をくれるのかしら?」
「新型装備の提供、それと鈴香を研究して得られた成果物。代わりに物理的な鈴香への危害は絶対に防いでくれ」
金城からのその問いに三浦がそう返すと、二人の間には暫くの間無言の時間が流れたものの、両者ともお互い目を背けることなく見つめ合い……
「……いいわ。その依頼、受けてあげる。スペツナズだろうとGIGNだろうと、雪豹、コマンド、第一空挺であろうと、あらゆる武力からあの子を守りましょう」
「……感謝する。これで俺も心置き無く今後の鈴香に色々と手を回してやる事が出来る」
そう金城は宣言し、三浦は頭を下げて感謝を述べる。
「でも、アンタもあの子の為に全てを使って動きなさい。いいわね?」
「勿論だ。鈴香を守る、これが今俺のできる最も多くの人を救う方法なんだから」
「ならいいわ。それじゃ、私は隊員にこの事を伝えてくるから、三浦クンもあまり自分を追い詰めすぎない様にね」
そう言って金城が部屋から出ると、三浦はやり切ったと言わんばかりに息を吐く。
「今の俺を、昔の俺が見たらどう思うんだろうか……なぁ、 「鈴香」。さて、それじゃあもうひと頑張りするか」
ボソリとそう呟いた後、三浦はそう言って自分のデスクへと向き直るのであった。
さてさて、物語もそこそこ架橋……かも?




