122鱗目:対面、龍娘!
「……ふぅー…………よし」
「大丈夫か?鈴香」
「はい、なんとか」
ガタンと時々揺れる大型トラックの荷台、時々来るその揺れに合わせて地面に寝かせた尻尾を動かしながら、制服姿の僕は緊張した面持ちで三浦先生にそう返事をする。
「そうか、なら良かった。だがこれからお前が行く場所は本来俺ら大人が行くべき場所で、お前が行くべき場所ではない。勿論そこで今からやることもだ」
「は、はい」
「だからもし困ったとしても分からないと答えるんだぞ。そして何を言われても信じるな。いいな?」
「はい!」
「にしても、前の鈴香ならこんな事になったって聞いただけで倒れてしまいそうなもんだったが。強くなったなぁ」
「えへへ……だって僕には三浦先生がついてますから!」
「ははっ、随分と俺は信頼されてるな。ならその期待に答えてやらないと、だな。さて、着いたぞ鈴香。今日の俺の、いや、俺達の戦場に」
そう言って止まったトラックの荷台から先に降りた三浦先生に手を引かれ、三浦先生の言う戦場、日本の中心と言っても過言では無い総理官邸へと制服姿で僕は降り立つ。
何故僕がこんな場所に来ているのか、それは数日前に遡る。
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「いらっしゃーい!三浦せーんせっ!」
「おぉっ、今日も元気だなぁ鈴香。とりあえず家に上げてもらってもいいか?」
「おっと、ごめんなさい三浦先生。さ、どーぞどーぞ」
学校が終わり、いつも通りゆったりと晩御飯の用意をしていた僕は久々に会う三浦先生にむぎゅうっと抱きついた後、そう言ってリビングへ通す。
「いやぁすまんな鈴香。急にお邪魔させてもらって、ちょっと用があってな」
「いえいえ、僕も久しぶりに三浦先生と会えて嬉しいですから!それで、用ってなんです?」
また僕の取材依頼とか?もしくは実験数を増やすとか?
「実はな、お前宛ての招待状が届いてるんだ。いや、これは招待状というよりも召喚状と言うべきか」
「しょーかんじょー?」
「……まぁ、お偉いさんが鈴香に来いと命令してる感じだな」
「お、お偉いさんってどれくらい偉い人……なんですか?」
会長さん……なら普通に尋ねて来そうなもんだし、校長先生とかはそんなすごく偉いってわけじゃないしなぁ。
「えっと、具体的に言うとだな…………総理大臣から……だ」
「そうり……だいじん……?」
そ、それってこの国で一番偉い人……だよね?
「えっと……三浦ー……先生?それっていつ行く事に……?」
「明日、朝から総理官邸に向かって出発だ。迎えは俺らが行くから、制服で待っててくれ」
「あ、明日ですか。明日ですね。分かりましたー……ってえぇぇぇえええええ!!!!!!」
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と、言う事があり、今に至るのであった。
うわっ、天井たっかい!どこ見てもガラスいっぱい!す、凄い……
「本日はお忙しい中来ていただき、誠にありがとうございます」
「こちらこそ、鈴香だけでなく私までお招き頂きありがとうございます」
うわっ、建物の中なのに竹生えてる!すごいなぁ……
静かで大きく広い、シンプルながら荘厳な雰囲気の漂う総理官邸内にて、御出迎えしてくれた秘書さんと話す三浦先生の横で、僕はきょろきょろと辺りを見回していた。
「さて、今日の予定なんですが、移動中無言というのもあれですし、改めて説明して貰ってもいいでしょうか?」
「かしこまりました。
まず天霧さんと三浦さんのお2人にはこの後総理と厚生労働大臣のお2人と挨拶をして頂きます。
そしてその後、表彰を行った後会談をして頂き最後にもう一度挨拶をして頂いたなら今日の予定は終了でございます」
「ありがとうございます。分かったか?鈴香」
「えっと、つまりこんにちはしてえらいねーって褒めて貰った後、お話してさよならするんだよね?」
「ははっ。そういう事だが、だいぶ可愛くなったな」
「ふふっ。私も思わず気が抜けてしまいました。さて、到着致しました。中で大臣の皆様がお待ちです」
そう言って秘書さんがドアを開けると幅が狭いが奥行のある部屋の奥に、2人のスーツを着たテレビでよく見る男の人と入口付近にカメラを持った男の人が一人待っていた。
「失礼致します。ほら、鈴香も」
「し、失礼致しますっ!」
「お二人共、本日はお忙しい中良くぞお越しくださいました。寛ぎは出来ないかもしれませんが、あまり緊張せず過ごして頂ければ幸いです」
「は、はいっ!こちらこそ今日はよろしくお願いしますっ!」
少しだけどもりながら、手を差し伸べてきた総理大臣と僕が握手しているとそこをぱしゃりとフラッシュ炊かれて一枚撮られ、反射的にビクッとしてしまう。
「一応今日は貴女の協力による様々な新技術の発展に対する表彰が主な目的ですから、ホームページに掲載する様に幾つか写真を撮らせて貰ってるんですよ」
「なるほど」
本来なら三浦先生が絶対断る筈だけど、流石に相手が相手だし、別に悪用される事はないから許してるんだろうな。
「さて、それではまず自己紹介から─────」
こうして、僕はこの日本の国のトップであるお方と1日過ごす事になったのだった。




