116鱗目:久々のお買い物!龍娘!
「うぅぅー……さむいー……さっむーい」
もう2月も終わるし一番寒い時期は終わった筈なのになぁ……このもこふわにゃんこうきぐるみパジャマが無ければ僕はきっと冬眠していたであろう……
「おはよー……あー、リビングあったかーい」
「ふふふっ、おはよー鈴ちゃん。もうそろそろ起きてくるだろうってエアコンつけてあっためておいたからね。はいココア」
「ちー姉ちゃんありがとー。ふみぃー」
まだ朝日が差し始めたくらい朝早い時間、真っ白なにゃんこうモデルのきぐるみパジャマ姿の僕は、くぴくぴとちー姉ちゃんから貰ったココアを飲みながらカレンダーに目を向ける。
そういや今日から来週までインフルエンザのせいで連休かぁ……学校からは出るなって言われてるけど、食材とか足りないし買いに行かないとなぁ。
「ねぇちー姉ちゃん」
「なぁに鈴ちゃん」
「食材とか足りないし、僕お昼過ぎくらいに買い物行ってくるねー」
「あー、そういや食材もうあんまり無かったねぇ……んー、でもやっぱり鈴ちゃんが外出するのはダメじゃないかなぁ」
「なんで?」
「だってほら、今新しい病気が流行ってるでしょ?万一それに鈴ちゃんが感染して、更に新しい病気に進化したりしたらもう手が付けられなくなるでしょ?」
うぐっ!た、確かにそれは危ないけど……
「で、でも!僕ってウイルスとか毒とかに対して物凄い免疫あるんだったよね!?ならインフルエンザも大丈夫じゃないかなーって」
そう!確か僕ってすっごい免疫力高いんだよね!だから出ても多分大丈夫!
「うーん……確かに鈴ちゃんインフルエンザより感染力高いウイルスとか投与しても大丈夫だったしなぁ……」
いやそんな事してたの?!怖っ!
「とりあえず三浦さんに聞いてみるか……外に出ていいかどうかはそれからでいいね?」
「うん!」
困り顔ながらもちー姉ちゃんにそう言われた僕は、翼を軽くバサリと動かして尻尾を緩やかに振りながら元気よく返事を返すのだった。
そして翌日……
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「んーしょっ……と、それじゃあいってくるねー」
「「「行ってらっしゃーい」」」
無事に外出許可の出た僕は超巨大なリュックを背負い、ちー姉ちゃん達三人に見送られた僕は大きく翼を羽ばたかせ、目的地へ向かうべく寒空へと舞い上がる。
お昼前とはいえ普通に気温低いし風は強いし、やっぱり空は寒いなぁ……
「でもこれだけ高く飛んでればインフルエンザも無いだろうし、多分大丈夫だよね!」
にしても何故あんなに簡単に許可が出たのかというと。
あの後ちー姉ちゃんが三浦先生に連絡を取った所、実は毎月2回日医会で行っている健康診断の時に病気への抗体も確認されてたらしく、あっさりと許可が出た。
とはいえもう一年も経った事でこの街の見慣れた存在に僕自身なり始めているとは言え、相変わらず不特定多数に絡まれたりするので人混みは避けろとの事だった。
という訳で今日は人の多いであろういつものデパートとかスーパーは避けておいて、前々から気になってたあそこに行ってみるつもりだけど……
「あーいう場所は久しぶりだからなぁ……というか純粋なお客さんとして行くのは初めてじゃないんだろうか……っと、見えてきた見えてきた」
いつも飛ぶ方とは真逆、まだ数回しか飛んで来た事のない方へと僕がそんな事を考えながら飛んでいると、眼下に目的地である長く続く道を覆う屋根が見えてくる。
そう、その上空からでも一目瞭然で分かる場所、それは僕にとっては浅からぬ関係のある場所、商店街である。
「おい見ろよ!あれって!」「隣町に居るっ奴じゃん!」「すげぇ!本物だ!」「尻尾動いてるよ……」「触らせて貰えるかな?」「そーっと行けばやれるんじゃね?」
おー、なんだか懐かしい反応だなぁ。僕が街に出たばっかりの頃もこんな感じだったっけ。
商店街の近くの公園に着地し、翼を畳みながら尻尾を揺らしてこの久しぶりの懐かしい反応に苦笑を浮かべていた僕は、バサリと翼を一羽ばたきさせて歩き出す。
「さて、今日はお買い物に来たんだから。ちー姉ちゃんに言われた通り変な人に絡まれる前にさっさとお買い物済ませちゃおっと……とはいえ」
ここはあの商店街に比べたら人は少ないけど、やっぱり雰囲気というか、根本にあるものは変わらない気がするなぁ。
皆の協力感みたいな?なんだか暖かい感じがするんだよねー。
「それじゃあ、目に付いた所から買っていきますか!」
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お、ここいいかも。
「おーじさん」
「へい!いらっしゃうぉおお?!あ、アンタテレビのっ!?」
風邪が流行っている事もありお客さんも少ないからか、暇そうに商品を整理していたお店の人は僕が声をかけると振り返って返事をすると同時に、僕の姿に驚いてしまう。
「あはははは、驚かせちゃってごめんなさい。ちょっとそこのお野菜見せてもらっていいですか?」
「あ、あぁ。もちろん」
「それじゃあこれを……おぉ。これ、凄くいいキャベツですね」
葉がしっかり巻いてるし、ずっしりしてる。
「……!だろう?ウチは鮮度が良くて色艶のいい野菜だけを並べてんだ!……まぁ、最近の流行病のせいで客は来ねぇがな」
「あはははは……」
でもどの野菜もしっかり重みがあって瑞々しいしっとりとした艶があるし、おじさんの言う通りどれもスーパーにあるのとは比較にならないくらいいい野菜ばっかりだ。
「それじゃあおじさん、このキャベツとそこのトマト、それとそこのネギを5つずつください!」
「本当かい!?まいどっ!それならこれもおまけで持ってっとくれ!」
「わわっ!これ貰っちゃっていいんですか!?」
「おう!その変わりこれからも是非贔屓にしてくれよな!」
「はい!では!」
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いやぁー、最初のお店でだいぶサービスして貰っちゃったなぁ〜♪
「さてと次のお店は〜っと」
「らっしゃいらっしゃい!安いよ安いよー!」
ふむ、さっきから聞こえてた元気な声はこのお店からだったのか。
野菜の入ったダンボールをリュックに入れ、翼で背負ったリュックを支えながら僕がその元気で大きい声の聞こえるお店へと視線を向けていると……
「お!そこのテレビでよく見るお嬢ちゃん!おまけしてあげるからよっといで!」
「え、あっ、ぼ、僕?」
「そうそう!ほらみとっとくれ!」
ちょいちょいっとお店の中にいるおばさんに可愛らしい笑顔で手招きされ、僕はそのお店に寄ることにしたのであった。
「おぉぉー。凄い、お肉がいっぱいだ」
やっぱりどの商店街にもお肉屋さんってあるもんなんだなぁ。残念ながら僕にはお肉の善し悪しはわかんないんだけどね。
「どれもいいお肉だよ!今はお客さんもそんなに来ないし、それにそんなに大きな羽があるんだ、沢山栄養が必要だろう?たーっぷりまけてあげるから買って行きな!」
「本当ですか!?」
「本当さ!このソーセージなんて絶品だよー?」
「うわぁぁぁ〜……!」
やばい、本当に質がいいからなのか僕がドラゴンだからか知らないけど、こう、スーパーの奴より凄く美味しそうに見える……!
「こっちはちょっと高いけど和牛のステーキ用のお肉でね、質もいいから仕入れるのが大変だったんだよ」
「はぁうぅぅ〜……!」
おっきくて分厚いお肉だぁ〜!お肉は皆好きだし、そんなにかさばる量でもない、一番問題なお金は正直余裕……というか使い切れない額銀行にあるし……
「よし、決めた!おばさん!」
「はいよっ!」
「そのソーセージとステーキ肉だけじゃなくて、ここに並べてあるお肉全部くださいっ!」
「えぇっ!?いいのかい!?」
「はい!」
この機会だ!せっかくだし一回やってみたかった事やっちゃえ!それにハンバーグにしちゃえば僕だけでも食べきれそうだし!
「毎度あり!ちょっと待っててご覧ね!おまけいっぱいしてあげるから!」
そう言うとおばさんは、この姿になってお肉が大好きになっていた夢の一つを叶えた僕を置いて、お店の裏へとドタバタと走って行ったのであった。
そして色々と貰った僕はその後も買い物を続け……
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「結局、なんやかんやで……」
「すげぇ」「なんだあの荷物」「全部ここで買ったのかな?」「俺、魚屋ででけぇ魚まるまる一匹買ってるのみたよ」「私はお味噌を一箱買ってたの見た」「まじかよ」
「被らなかった物は全部買っちゃったなぁ……」
いやまぁ食べようと思えば二週間あれば僕だけで全部食べ切れるけどさ。
遠くでヒソヒソと声が聞こえる中、そう言う僕の背中にははち切れそうな程パンパンに中身の入ったリュックになっていた。
「まぁ、兎にも角にも買い物は済んだんだからさっさと帰るとしますか」
そして僕がそう言って帰ろうと商店街の出口へと歩き始めた時、ふと一人の女性と僕は目が合う。
すると女性は口を小さく明け────
「蒼くん?」
そう、僕の「前の名前」を呆然とした顔で呟いたのであった。




