103鱗目:助ける為に、龍娘
山の天気程、不安定なものは無い。
さっきまで晴れていたにもかかわらず急に雨が降り出したり、雨が降りそうだと思っていたら急に日照りになったりもする。
「流石にこれ以上は生徒の体力が持ちません!引き返しましょう!」
「引き返してどうする!?さっきの休憩ポイントまで1時間近くかかるんだぞ!それならまだ近い次のポイントに────」
「だからってこれ以上登らせるんですか!?それこそ無理というものですよ!」
「ならどうする!?ここで止まるのか!?この、大吹雪の中で!」
突然吹き始めたヒュゴォォォォと音を立てて吹き荒れる吹雪の中、突然発生したアクシデントに生徒達は凍え、先生はどうするべきか言い争っていた。
「……言い争っとるなぁ。先生達」
やばい、翼の感覚が……
「そうね、もうどっちでもいいからとにかく指示を……」
「流石にこれ以上は俺らもだが、鈴香の方にも負担が……大丈夫か?鈴香」
「…………ごめん、ちょっと休ませて」
「勿論や。なんたってすずやん、かわりばんことはいえ皆の傘になっとったんやもん。ゆっくりおやすみー」
「ありがとう、ごめんね」
僕はそう言うと翼をひとつ大きく動かし、積もっていた雪を払うと、自分を包み込む様にして翼を丸め、その場に座り込む。
くきゅるるるるるる
「お腹減った……」
「ただでさえ鈴香は寒いの苦手なのに皆の分も肩代わりしてたからな、エネルギーを使うのも仕方ねぇよ。ほら食べな」
「ありがと隆継……ん、おいしい」
「あんたねぇ、こんな事態じゃなきゃ没収ものよ?」
「でも今はそれのお陰ですずやんの体力が持つんや、今回ばかりは感謝やな。…………先生達もはよ決めて欲しいわ」
「本当にね……」
そう言って僕達が先生の居る方へ目をやると、屋根のある場所がないやら、戻るのは時間がかかり過ぎるなど先生達の言い争う声がまだ聞こえた。
そんな一刻を争うであろう時に揉めている先生を見ながら、僕はポリポリと隆継から貰ったクッキーを食べつつ、どうすべきか考えていた。
1番いいのは交流の家に戻る事だけど、もうここは家から山頂まで半分を過ぎた辺り、流石に今の天気でこの距離を引き返すのは無理がある。
かと言って次の休憩場所には屋根がある休憩スペースはないらしいし、どちらに進んでもこの天気をどうにかしない事には状況は好転しない……
「すずやん大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと考えてただけだから」
「無理したらあかんよ?」
「うん」
「それにしても、ほんま凄い雪やな……かまくら作って暖まるのが1番手っ取り早いんちゃうか?」
「かまくらも作るのに結構時間かかると思うけど……」
でもそうだよなぁ……何かこう全面を覆うものが簡単に作る事さえ出来れば…………簡単に作る事ができる?……そうだ!この手があるじゃないか!
とらちゃんの言葉を聞き、そんな事を考えていた僕はふととある事を思いつき、これだと勢いよく立ち上がる。
「うおぉっ!?どうしたすずやん!?」
「いきなり立ち上がるなんて、何かあったのか?」
「うん!今この状況をなんとかできる────────」
いやまて、たしかにこの方法なら吹雪が止むまでなんとかすることが出来る。だけどこの方法を使うとまた大きな騒ぎに……
「すずやん?どうしたん?この状況をどうにかできるん?」
……騒ぎがどうか知ったことか。この方法なら皆を助けられるって言うのに、その手を今出し渋ってどうするんだ!
「すずやん?」
「……うん、できるよ」
「ほんまかいな!?」
「うん、だからもう少しだけ、僕を信じて頑張ってくれる?」
「勿論や!すずやんにウチらの命、託したで!」
「……ありがとうとらちゃん。でも少し重いかなぁー」
とらちゃんの顔を見て決意を固めた僕は、ザボザボと音を立てて先生達の元へと歩いていき、先生達に声をかけると、一言こう言った。
「僕に、案があります」
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更に吹雪の勢いが増す中、なんとか次の休憩地点に着いた僕達含む一年生の全生徒は、僕の立案した作戦の為に休憩地点の入口付近に集められていた。
そして隆継やさーちゃん、とらちゃんとむーさんのいつものメンバーは、生徒達を背に僕と作戦の最終確認をしていた。
「それじゃあ、四人ともお願いね」
「おう!」「任せて」「頼んだよ」「頑張ってーな!」
本当、僕は最高の友達を持ったよ。
「じゃあ……作戦開始!」
僕がそう言うと四人は勢い良く走り始め、僕は四人がある程度遠くに行くのを待ってから大きく羽ばたき、吹雪の中一気に上空へ舞い上がる。
「うわっととととと!」
風が強い……!雪もやばい……!バランスも取りずらい!でも……なんとか堪えろ!
「先ずは広さだ……」
一年生とガイドさん含め400人弱といった人数全員だと、流石にこの休憩地点もギリギリだ、だから──────
「もっと!もっとギリギリまで広がって!」
『了解!もっとだな!』
『はいよー!全速力や!』
『OK、急ぐよ!』
『分かったわ、直ぐに動くから』
僕が指示を出すと、4人は更に広がり、上から見てもわかる程とても広く広がる。
広さはこんなもので大丈夫かな……よし、それじゃあ次だ。
「広さOK!その場所に刺して直ぐに退避して!」
『『『『了解!』』』』
よし、皆も列の方に戻り始めたね。それじゃあここからが──────
「僕の本番だ」
強く、強くイメージをしろ……先ずは隆継達が立てた棒に意識を集中しろ。
どんどんと体力と体温が奪われていく中、僕は自分にそう言い聞かせながら、隆継達の刺した四角形を描く布の巻き付けられた棒へと意識を集中する。
「高さは3、太さは1、数は4で目印へ……せあっ!」
気合を入れ、僕が力を込めてそう言うと、隆継達が立てた目印の場所に、高さは3m、横幅が1mはあるであろう水晶の柱が出来上がる。
次!柱4箇所を頂点に、水晶壁を元として厚さ50cmの水晶板を生成!そしたら4点を頂点とした四角錐状に水晶を生成!名前はどうでもいい、とりあえず────
「発動、巨大水晶の箱!」
真っ白な雪に覆われていた休憩地点に1分もかからず出来たその巨大な水晶の箱を眼下に、僕は生徒達の前に降り立ち、これまた水晶で階段を作り今度は殴って入口を作る。
「出来ました、この中なら吹雪が止むまでなんとか……もつはず……で………す……」
「すずやん!?」
あ、ダメだ……力がもう…………
だんだんと閉じる瞼の中、僕はそう言い残し、バタリと雪の中に倒れた。