エピソード01ー不幸を呼ぶ者
キーンコーンカーンコーン・・・
クラスメイトの鈴木に代わり、廊下の水道で花瓶の水換えをしているとチャイムが鳴り響いた。
慌てて水をとめ教室に戻った。
俺が何故言いなりになっているかって?
下手に楯突いて問題を起こしたくないからだ。
小学校も中学校も、誰にも関わらず問題も起こさず悪目立ちもしないように上手くやってきた。
小学校を卒業するくらいから、自然と黒いモヤは見えなくなってきていて、今じゃハッキリも見えないし、丸一日見えないこともある。
多分大人になればこの力も無くなるだろう。
だから俺は、高校を卒業したらこの町を出るつもりだ。
それまでは平和に過ごしたい・・・
それが今の俺の唯一の望みだ。
席に着くと、クラスメイト達がやけにざわついていた。
「このクラスに転校生来るみたいだよー!」
「えー聞いてないけど!」
「何か急に決まったみたいで、職員室で話してるの誰かが見たみたい!凄く美人だってー!」
・・・転校生か。
美人であろうがなかろうが俺には関係ない話しだ。
ガラガラッ
「おーい席につけー!!」
頼りない担任のブタ山が勢いよく教室のドアを開けた。
本当は北山だが、成人男性の2倍はある体重とブタ鼻のせいで、みんなにそう呼ばれている。
37歳独身友達もいる気配なし。というところがやけに胸に刺さる・・・
「急だが、このクラスに転校生が来たぞ!!」
かなりブタ山は興奮している。
どうやら転校生が美人というのは本当らしい。
「おーい清水入ってこーい!」
ガラガラ・・・
怪訝そうな顔をした彼女が入ってきた途端、教室の空気が一変した。
風になびく綺麗な銀髪、吸い込まれそうなブルーの瞳。
まるで次元が違った。
野次馬精神でざわついていたクラスメイトたちも、彼女のあまりの幻想感に圧倒されたのか、一気に静まり返った。
「清水!早速みんなに挨拶してくれ!」
「清水 美生です。親の転勤で引っ越して来ました。こちらのことは不慣れですがよろしくお願いします。」
彼女が話し終えた途端、本当に人間だったのかとやっと理解したのか、クラスメイトたちはまた騒ぎ出した。
「清水、席は・・・えーっと、大狼の隣でいいかな?1番後ろだけど、目は悪くないかな?」
「はい。大丈夫です。」
転校生は先生に会釈してスタスタ俺に近付いて来た。
そして俺の横を通って席に着いた瞬間・・・
「・・・ミウちゃん・・・?」
何故か声が漏れた。
そうだ!この転校生は、小学生の頃に転校していったミウちゃんじゃないか!
いや・・・でもミウちゃんは確か黒髪だったし瞳もブルーじゃなかった。
苗字も清水じゃなかったはずだ・・・
じゃあなんで俺はミウちゃんだと思って・・・
「・・・え?」
転校生は席に着くや否や驚いた表情で俺を見てきた。
「どなたですか?」
「ご・・・ごめん!人違いだった!気にしないでくれ!!」
普段人と会話しないからか、余計ドギマギした返答になってしまった。
やっぱりあの時のミウちゃんではないらしい。
俺も記憶が曖昧だし、何よりミウちゃんなら他の奴らも気付くはずだ。
ここは同郷の奴が多いからな・・・。
まあ気にしないでおくか。。
ホームルームが終わり、転校生はさぞかし人気者になって囲まれるであろう・・・
と思ったが、どうやら美人過ぎると近寄り難いらしい。誰も近寄らず、遠くからヒソヒソ話しているだけだった。
「あの・・・」
「・・・っ!な、なんでしょうか?!」
急に転校生が話しかけてきて、またしても変な返答をしてしまった。
「急に転校が決まって、まだ教科書が揃っていなくて・・・見せて貰えますか?」
「・・・俺基本授業中ゲームばっかりやってるから、使っていいよ。」
ドサッ
俺は今日1日分の教科書全てを転校生に貸した。
「えっと・・・いいんですか?」
「別にい・・・」
「おーい!フコウタ!何楽しそうに話してるんだよ!」
苛立った顔をした鈴木が俺の前に来て会話を遮った。
ガタッ
「あっ・・・」
面倒なんことになる予感がして、俺はすぐ席を立った。
転校生が何か言いたそうだったが、自己防衛のが優先なのでそのまま教室を出た。
振り返ると、鈴木に便乗してクラスメイトたちが転校生に群がり出していた。
でも転校生はニコリともしていなかった。
1限目が始まる頃に教室に戻った。
2限目3限目4限目・・・と、休憩時間になる度に俺は席を立ってトイレに隠れた。
面倒ごとはゴメンだ。
昼休憩になり、いつもと同じように保健室へ向かった。
昼は先生も保健室を空けて、立ち入り禁止の屋上に食事しにいくのでベッドのカーテンを引いて、体調不良の生徒を装い、ゲームをしながらパンを食べるのが俺の日課だった。
保健室空けるってかなり適当な先生だよな。
まあお互い様ってことで内緒にしてるんだが。
先生達のことももちろん信用していないが、この保健医の伊鶴 千夜先生だけは何故か信用出来る気がするんだよな・・・
深入りしてこないし、高1の時いつものことながらクラスに馴染めなかった俺は授業をサボって屋上にいた。
その時たまたま伊鶴先生に見つかって、クラスに戻れと言われると思ったのに、何も言わずに一緒にいてくれた。
昼休憩に屋上に行けば二人きりになれるが、近寄って欲しくない悲しい雰囲気・・・かな。それが何となく俺に似ていて。
それ以来、正直心惹かれている。
保健室に行くのも伊鶴先生目的だったりするが、会えた試しはまずない。
過去の相談もした訳では無いし、話すのは正直怖い。また拒絶されたらと思うと・・・
それでも、この人になら。と思える存在がいることは俺にとってみたら心の支えだった。
サーッ
「・・・?!」
伊鶴先生との思い出に浸っていると、突然カーテンが開いて驚いて振り返ると転校生が立っていた。
「なっ!えっ・・・?!」
また俺は言葉に詰まった。
死にたい・・・泣
「ここ、いつも来てるの?」
「え、ま、まあ・・・。」
「これから私も来てもいい?」
「は?なんで?クラスの奴らといろよ!」
「・・・正直、疲れちゃうんだよね。私の親、転勤族だから長く学校にいた試しがないの。」
転校生は話しながら俺の横に座ってきた。
「だからね、友達作っても離れ離れになっちゃうし、まずほら、私銀髪でしょ?珍しがられてみんな寄ってきてくれるけど、それは好奇の目であって、私自身に興味を持ってはくれてないんだよね・・・」
一瞬綺麗なブルーの瞳が涙で濁って見えた。
「だから、もう友達いらない!って開き直ってて。今も逃げてきちゃった。」
「いや、でも。俺といたらお前も変人扱いされるぞ!休み時間ので分かったと思うけど、俺クラスメイトから煙たがられてるし・・・」
「うん、だからかな。何か似てると思ったの。」
「え?」
「ううん!なんでもない!ところで、面白そうなゲームしてるよね!授業中から気になってたの。なんて言うゲーム?」
「ライフオブデッドっていう、開始早々ヘルモードなバトルゲーム。主人公がいきなり魔界に武器も装備も無しで転送されて、レベル1から10倍差のデスナイトと戦わされるっていうクソゲーなんだけど、何か俺の人生みたいなゲームで・・・って、こんな話しても興味ないよな。」
しまった。
つい熱く語ってしまった・・・
教室の片隅でひたすらゲームをする俺を、汚物を見るような目で見る女子達を思い出した。
「ううん、そんなことない!その話しもっと聞かせて?」
「あ・・・うん。。」
転校生は昼休憩の間、俺の今までやってきたゲームの話しをずっとニコニコして聞いてくれた。
教室にいた時はニコリともしなかったから、少しドキッとした。
久しぶりにゲームの話しが出来て、昼休憩中ずっと話し込んでしまった。
チャイムが鳴り、ゲーム話しは中断された。
「面白かった!私、少しならゲームやったことがあって興味があったから、またおすすめのゲームとか教えて欲しいなあ!」
「ああ、良いけど、君女子なのに変わってるね。」
「君って・・・。美生で良いよ!」
「いや・・・それはさすがに・・・」
「私も幸太くんって呼ぶね。」
こいつ・・・聞いてねえ。
そんなやり取りをして保健室を出ようとした時。
ガシャーーーーーンッッ
強い揺れと同時に窓ガラスが一気に飛び散った。
咄嗟に俺は転校生を庇て覆いかぶさった。
突然の事でそこらじゅうから悲鳴と、恐怖で逃げ惑う音が聞こえた。
転校生から離れ立ち上がると、
「・・・っ???!」
今まで見たことないような大きな黒いモヤが目の前に浮いていた。
原因はこれか?!
いや・・・でも俺にはもうその力は無くなって来ているはず・・・
どうしてこんなものが見えるんだ??!
「キャー!!!!!!」
突然転校生が叫んだ。
慌てて振り返ると、転校生も黒いモヤを指さして見ていた。
「え・・・?お前にも見えるのか?!」
「うん・・・幸太くんも?・・・何あれ??!」
「いや、俺にも分からないんだけど、実は小さい時から見えていて、でもこんな大きいの初めてだ・・・!!」
そんなことを話していると、
ガシャーーーーーンッッ
黒いモヤは再び窓ガラスを割りながら浮遊しこちらに近付いてきた。
俺と転校生は必死で逃げ出した。
「ねえ!ちょっと!あの黒い変なの追いかけて来るんだけど!!」
「そんなの分かってるよ!とりあえず上に上がろう!!」
「・・・きゃっ」
階段を先に上がっていた転校生が蹴つまづいて俺に落ちてきた。
ドシーーーンッ
「・・・っ!!!!」
階段から落ちた拍子に俺と転校生の唇は重なっていた。
それに気付いて慌てて転校生から離れた。
パァー・・・
「きゃあ!何これ!!!」
いきなり転校生の髪が光出した。
銀色の髪がどんどんブルーに染まっていく。
あまりの綺麗さに、こんな非常事態にも関わらず俺はその姿に見とれてしまった。
「ちょ、ちょっと何これ!!!」
「いや、俺にも分からない・・・」
驚いている2人の頭上に、あのどデカい黒いモヤがやって来た。
『やっと会えた・・・私の女神・・・』
黒いモヤは人型のモヤに変わり、転校生に手を伸ばし話しかけてきた。
女神・・・??
「ちょ、ちょっとあなたが何言ってるか分からないんだけど・・・」
『は・・・早く・・・私を愛する者の元に・・・』
そう言い、黒い伸びた手は転校生に今にも掴みかかろうとしていた。
「やめろ!!!!」
俺はまた咄嗟に黒い手を薙ぎ払った。
『あぁーーーーっ!そんな・・・私はまだ・・・生きた・・・』
言葉を言いかけて黒いモヤは消えていった。
何故だ。
俺が触れた所がいきなり灰になって全体に広がり、全てが灰になって消えてしまった。。
転校生と俺は突然の出来事に言葉が出ずその場に立ち尽くしていた・・・。
コツコツ・・・
後ろから誰かが来た。
「・・・とうとう目覚めてしまったのね。不幸を呼ぶ者よ・・・。」
振り返ると、俺の想い人、伊鶴先生が意味深な笑みを浮かべて立っていた。
不幸を呼ぶ者・・・??!