土佐 出立
「なあ、姫!海を見に行くか?」
突然土佐領主が言い出した。
「おお!妾は海を眺めるのが大好きなのじゃ!」
領主と姫は海に向かい、僕もそれについて行く。
「なんじゃ!あの魚は大きいぞ!」
「あれはクジラだ。魚ではない。海の動物だ。」
「背中からシオを吹いたぞ!すごいぞ!すごいのだ」
確かに大きいぞ。大型の船よりも大きいんじゃないか?
こんな大きな生き物は初めて見たぞ。ほとんど怪物だ。
「領主よ。妾は感激したぞ!でかした!」
「ところで、姫様。この前の戦、感謝している。我が弟の不始末を兄である私に委ねてくれた。ありがとう」
「気にするでない。他国の戦争だ。当人同士で話すのが良かろう」
「姫は自分の領土を守るために海を渡って来たのであろう!」
「うむ。」
(嘘だぁ。ただの興味本位だよ。きっと)
「領土の安泰のために他国に攻め入る、交渉したいという気持ちはわかる。船を貸す。薩摩の国に行って来い」
「それはありがたい。助かるのだ!」
「コタロー。おまえにも礼を言うぞ!」
「はっ」
「この姫は、おまえが思うような馬鹿じゃない。一国の器じゃ収まらない程の大したお方だ。さらに剣の使い手としては神がかり的だ。良い主君に支えられたと感謝せよ」
「はっ」
「コタローは妾の事を馬鹿だと思っておるのか!」
「決してその様な。少しだけにございます」
「ぬぬぬ。コタローめ。もっともっと迷惑かけてやる。覚えておくがよい!」
「もう十分ゆえ、勘弁してください」
「わはは。貴様ら最高だ。いつでも我が国に訪れよ。大歓迎してやるぞ!」
「妾は、クジラが気に入った。今度は近くで見てみたい。次は用意しておいてくれ」
「姫、まさかあの動物の背に乗るつもりでは?今度こそ、海の藻屑になりまする。私達はご遠慮願いますよ」
「コタローは妾の気持ちがすべてわかるのだな。良き事だ。遠慮なく付き従うがよい」
「よし、渡海の準備だ!」
今度は大きな船と航海専門の人員が確保された。陸間の移動だけに海も穏やかで3日もあれば九國という島に着くらしい。ここより大きな島だそうだ。とても島とは思えないが。
以前、足の捻挫を虎砲で直した兵士さんがお別れの挨拶に来た。
「コタローさんの御呪いで足は次の日には全快しました。ありがとうございます。」
「あの技は虎砲と言って敵の将の首を粉々にした技だぞ!貴様の足が粉々にならなくて良かったな」
(姫!余計なこと言わないで。だから、頭が弱いんだよ!)
「え?確かあの時、コタローさん、試していい?って聞いてましたね。まさか粉々になる可能性もあったとか?」
「治癒に使うのは、初めてだったんです。決して粉々にしようと思った訳じゃないですよ」
「可能性は充分にあったのじゃ。運が良かったのぉ」
兵士は冷汗と共に去って行った。
「姫。意地悪な事言わないでください」
「ふん!妾を馬鹿だと思うコタローが悪いのだ!」
(どんだけ大きな器なんだ!)
そうして僕らは土佐の国を去った。楽しくて温かい人達だったなぁ。流れ着いたのが土佐で良かったよ!