いざ!大陸へ
僕は姫の膝の上で目が覚めた。
「老師は?老師はどうしたの!」
姫はゆっくりと首を振った。僕は姫に抱きついて泣いた。声をあげて泣いた。姫はそんな僕を黙って為すがままにしてくれたんだ。
姫、このご恩は忘れません。ただ、今だけはもうちょっとご辛抱ください。
数日後、老師のお葬式が終わり日常が戻りつつあった。老師の遺品は極端に少なかったが、老師の大切にしていた籠手は僕が譲り受ける事になった。
「コタロー。あの虎砲とかいう技ってなんなんだ。すごい破壊力じゃ」
「生まれて初めて使ったし、多分二度と使えないかも」
「島のみんなが言っとるぞ!コタローだけは怒らせるなよって」
「大丈夫だよ。僕は滅多に怒らないから。姫だってよく知ってるでしょ」
「そうだな。よく知っとる。そこで頼みがあるのだが?」
(やばい。来たよ。無茶言うつもりだ。嫌な予感しかしない)
「あの船で大陸に渡ろうじゃないか?いいだろう?」
やっぱり、姫、無茶言い出した。頭が弱いのか?船の動かし方も知識もないのに何言い出してるのコヤツ!
「漁師も連れてくし、沢山の水や食料積んでいけばどうにかなるって」
(どうにもならないんだよ。敵さんだって半分以上の船が沈んでいる現実考えろよ。お馬鹿なのか?」
「言い出したら聞かないんだろう。でも、命がけだよ。死んじゃう可能性がかなり高いよ」
「大丈夫だよ。私って運が良いから!」
(全然安心できないぞ!説得力まるで無し)
老師。僕もお側に行くかもしれません。
姫の犠牲者は僕と従者3人それに漁師4人。さらに護衛5人をつけて貰った。
みんな、嫌々ながら着いて来た感じが隠しきれないぞ。戦場で敵と戦ってってなら、わかるけど、無謀な航海で海の藻屑となるのは嫌だろうな。激しく同意したいところだ。
「いざ出発!大陸へ向かうぞ!」
張り切っているのは姫ひとりだ。僕らは黙々と船を漕ぐ。天候が荒れない事を祈るしかない。姫!本当に運が良いんだろうな。思い込みでしたってオチなら泣くぞ!
沖に出て、一週間後。僕らは漂流していた。
「おかしいな?ちゃんと大陸の方向へ一直線に向かったんだけど?」
「姫。海にも川と同じで潮の流れってあるんだよ!」
「なんじゃそれは?流れていないじゃないか」
(やっぱり、この娘。頭が弱い!)
「潮が西から東に流れているみたいだから、目的の大陸は西に見える筈だ」
「本当だ。西になにか見える。コタロー。知ってるなら早くそれを言わぬか。馬鹿モノめ」
(姫に馬鹿って言われるとすごくショックなんだけどね)
潮の流れに逆らって西に向かうのは、今更難しいだろう。このまま北上するしかない。運が良ければ、陸地が見える筈だ。僕の他の従者はのんびりと釣りをしている。姫に付き合うにはおおらかな心が必要なんだ。僕にはないけど。
3日後。姫が大はしゃぎしている。
「見えたぞ!陸地が見えた」
僕らはもうげんなりしていた。喜ぶ気力がもう残っていないようだ。とにかく、陸に着きたいって一心で船を漕ぐ。
そこは、見渡す限りの広い広い砂浜だった。僕らは全員砂浜に仰向けに横たわり、地面の感触に喜びを感じていた。
「生きてる!」良かったよ〜〜。
「姫、ひとりで元気なんだから、水を探して来て。そしてついでに食料もお願い!」
ここどこだろう?薩摩って国じゃないのは確かだね。こんな広い砂浜があるんだから、大きい大地なんだろうな。砂浜の向こうには松がたくさん見える。僕達の島とは寄生する植物も違うんだね。本当に他国だ。
ん?他国?僕達って歓迎されるとは限らないんじゃないか。もしかして、敵と見なされる可能性高いよね。どうしよう。
姫が戻って来た。
げっ。後ろに武装した兵士連れてるじゃないか!
僕達、捕まっちゃうのか?