老師の置き土産
船が近づいて来る。
海岸には領主様の配下5名と老師が船を見つめて立っている。姫と僕は、邪魔にならない様に隠れて様子を見ていた。
「どうやら、大陸からの手勢だな。あの船の大きさからだと20人くらいか?なめられたものだ!」
「出発当時はもっといたのかもしれない。5隻で100人くらいの予定だったのではないか?」
「あり得るな。20人くらいなら、この6人で充分だろう」
そうなの?こっちも20人とかそれ以上の方がいいと思うけど?みんな腕に自信があるんだね。
船が着いた。なんか言ってるぞ!
「この島は、これより、薩摩の国のものとなる。ご承知されよ!」
何を勝手な事言い出したんだ。いきなり失礼過ぎるだろう。
「ここには領主がいないが、受け入れない場合は?」
「もちろん、領主の首を求めるのみ。今回は、不慮の事故のため、たった一隻だが、続々と援軍が来るだろう。諦めるのだ」
「寝言は寝て言え!参る」
戦いが始まった。6人対20人弱。領主の配下強いんだ。
薩摩の国の人、人数多くても劣勢だよ。
ん?何あれ?鉄の筒を向けているぞ!
『ドーン!』
大きな音だ。ま、ま、まさか!老師が倒れてるじゃないか!僕は一目散に老師に駆け寄った。
「老師!老師!」
「コタロー。逃げろ!」
「老師、しっかりして。お願いだから」
「聞いた事がある。鉄砲と言う新しい武器だ。人の命を簡単に奪ってしまう恐ろしい武器だ。コタロー。逃げろ!」
「老師。僕は逃げない。老師と一緒だ」
「コタロー。よく聞け。お主は貴重な人間だ。誰よりも強く誰よりも優しい。お主の正義を信じて貫くんだ。大切な人を護れ。ワシがお主に伝えた技で人の為に役立てるのだ。約束してくれ」
「老師。嫌だよ。死んじゃ嫌だ」
「コタロー。ありがとう。お主に会えた。ワシは何の後悔もないんだ。今のワシには感謝しかない。コタロー。感謝だ。ワシは楽しかった。幸せだった。ありがとう。」
そんな、老師が!信じられない。僕は涙を拭うことなく、その鉄砲とやらを持っている人を見た。何か詰めているみたいだったが、今度は鉄の棒筒を僕に向けた。
僕は一直線にその男へ向かって走った。
「ドーン!」
避けるのは簡単だ。何かするぞって気が伝わったから。
老師だって、不意打ちでなければ、簡単に避けられたものを!汚いぞ!ずるいぞ!よくも老師に不意打ちしたな!
僕は手に気を集めた。「恨み」「憎しみ」が存分に詰まった気だ。相手の目の前に立つ。顔を僕の手の平で覆った。相手は何が何だか分からずキョトンとしていた。
『虎砲!』「老師!見てください!」
僕は一気に最大出力で気を放出させた。
男の首から上がすっ飛び、粉々になった。
僕は一気に放った気が大き過ぎた為に、倒れてしまった。
戦場が止まった。人間の頭が粉々に吹っ飛んだのだ。敵兵士の中には吐く人もいた。敵兵は戦意喪失して逃げ出すが、島の人間は逃がさない。トドメを刺したり、捕まえたり。さっき大言を吐いた敵国の将は「殺さないでくれ」と土下座をしている。
老師は満足げな表情のまま、遂には息を引き取った。