お転婆姫と老師
「コタロー!早く登ってこーい!」
少女が木の枝に座り大声で呼んでいる。僕と姫は大きな木の上から、海を眺めるのが好きなんだ。透き通った青空の時は海の向こうに陸が見える。とても大きな大陸っぽい感じで島育ちの僕達らは、憧れの場所だ。
姫とは、言わずと知れたこの島の頭首の娘。頭首って言ってもたかが知れてる。人口1000人にも満たない小さな島だ。だからこそ、大陸に憧れちゃうんだけど。
こんな小さな村でも主従関係があって姫に従うのは、僕の他に3人。要はお転婆娘の子守だ。このお転婆娘はタチが悪く、剣の天才だ。もしかしたら、村で一番強いかもしれない。明るくて活発で性格もいいのだけど、難点は頭が弱い事。いつも僕に無理難題を押し付けるんだ。
考える事より、自分の気持ちが優先されちゃうんだね。
「コタロー。あれさ。船じゃないのかな?」
ほんとだ。船が見える。
「すぐ、みんなに伝えなくちゃ。姫は領主様に伝えて。僕は老師に伝えてくるよ」
老師は、無手の専門家で素手で敵を倒す格闘家だ。僕には柔術を中心に格闘の技を教えてくれている。いままで、僕は老師に投げ技や打撃系の技を教えてもらったけど、先日、その奥義を伝授されたばかりだ。
「よいか、コタロー。オマエはほとんどの技を理解しておる。あとは、実践と経験がオマエを育てるだろう。」
「はい。」
「最後にワシが教えるのは『虎砲』と言う奥義だ」
「お、奥義ですか?」
「これが出来れば、免許皆伝だ。ワシに教えられる事は何もない」
「はい。よろしくお願いします」
『虎砲』は手の甲に意識を集中させて身体中の気を集める。そしてそれを一気に放つ。「怒り」「憎しみ」と言った負の感情が破壊力となる。
「僕って怒りとか苦手なんだけど。」
「オマエの場合は仕方ないのぉ。なんでも想いの丈をぶつけてみろ」
老師が『虎砲』と言いながら気を放つと樹木が簡単に倒れた。なんて威力だ。この技は相当量の気力を使うので、1日に何度も使えないらしい。
僕もやってみた。とにかく気を放つんだ!
手の甲に気を集めて『虎砲』「えい!」
出た!っぽい。
でも、木は全く倒れる気配がない。そのかわりに若葉が生えた。
僕の『虎砲』は、破壊じゃなく、再生なの?それはそれで凄いけど。
「わはは。コタローらしい!でも、コツは掴んだらしい。合格だ。コタロー。良くやった」
そう、僕は数日前に老師から免許皆伝をもらって一人前になったばっかりなんだ。
それでも、老師が大好きだから老師の元に通ってる。
僕の尊敬する老師。それより、大事件だよ。この島に船が近づいているんだ!