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10 : Begin

「撃てえ!」


 ロバートの指示に七体のパワードスーツが左腕を前に──七つの擲弾が宙へ。


 それだけではなく、地上の歩兵達が至る所で上空に向けて、小銃下部の擲弾筒を発砲させた。


 グレネード達の向かう先には誰か一人を包む水の塊──中で水のバリアを操るケビンは大量の敵意を察した。


 液体ごと自身を飛翔させ、遅いが多数の攻撃を避ける。だが、時々水の障壁で爆発が起こり、防御が削られる。地上から水がケビンに向かって流れてはいるものの供給が追い付かない。


 大柄な男性はしかめ面を見せながら、地上の人間共に手を差し出し、人体すら引き裂くウォータージェットを一薙ぎ。


 地上の相手に当たる、と思った寸前、兵士の頭上数メートルで水流が止まり、人を傷つける事すら出来ぬ無数の水しぶきが大地に染み込む。


(何処だ?)


 広範囲にわたるエネリオンの感知――半壊した建物の屋上で、兵士に向かって手を伸ばす灰髪の少女を発見した。


 そこに容赦なく下される水の刃。しかし見えない壁が阻んだ。


 口元を吊り上げ、水量を増やす。少女は真面目な灰目で見つめ返したまま動じず、防いでみせる。


 無意識のうちに、ケビンの口角が下がっていた。


(見事な防御だ。だが守りに徹しては……)


 水流を生み出す男の、背後から殺意。直感的に手薄だった防御を固め――今までとは圧力も量も速度も違う空気塊が、密度が比べ物に水を撃ち破った。


「もう一丁、やれえ!」


 地上から再びグレネードの嵐。余裕を削がれて更に水壁が爆散する。


 と、小型無人機が四機、ケビンの周囲を囲んでいる。それぞれからの圧縮空気が八方塞がりにした。


「それぞれトムキャット、ホーネット、ラプター、ライトニングだ」

「俺だったら全部フランカーって名付けているな」


 レックスから軽口と空気塊が襲う。すると、青年がウインクし、圧縮空気をジェット噴射、反動で勢い良く突進。


 発光――分厚い水の壁に青年の身体が飛び込んだ。高密度の流体の抵抗によってすぐに減速、する筈だった。


 だが、彼は何故か想定より減速せず、速度を維持したまま壁を通過して両足蹴りがケビンの顔面にクリーンヒット。


 背後の水の壁で衝撃を吸収したが、レックスはそれを追って腰にある二本の短剣を引き抜いた。


 すると、更に集まった水が二人を水中に引き込む。迷わずレックスが側頭部を狙った右薙ぎ。


 ある程度抵抗で威力は落とされているものの素早い攻撃だった。しゃがんで躱し、次なる左突き上げを身体を横に移動して回避。


 単調な連続攻撃だが、武器を持っていないケビンは避けに徹するしかない。その内、左脇腹に一筋の痛み。


 左右の剣で交互に、顔面、左側頭部、右脇腹、頭頂部――後ろに退いた相手をレックスが更に喉、右肩、左腰、右腿、そしてついに左腿に剣が突き刺さった。


 追撃に右脛の腱をもう一本の剣で斬りつけ、背中に回りながら引き抜いた右の剣で背中を刺した。


 続いて左斬り上げ。右方を引き抜きながら左横蹴り──背中に傷を付けられた向こうが飛ばされながら腕を前に、レックスが水圧に水槽を飛び出た。


 ダメージは入ったが、傷口からは全く出血が無い。血液という液体を操作し、体外への流出を防いだのか。


 ふと、ケビンは横から投げられた多数のナイフに気づいた。水の壁は威力を弱める、筈だったが、速度を維持したままナイフ達が直進。


 自身を包んだ液体ごと移動することで躱したが、肩の上に一本切り傷が出来上がった――ナイフの飛翔元では、黒人男性が手を差し向けている。


「抵抗低減か」

「良く分かったな。あんた超能力者か?」


 からかいを吐いた黒人、リカルドは地面を蹴り、ケビンの眼前二メートルでキックの体勢。


 胸にクリーンヒットし、大柄な男性の姿は水と共に吹き飛んだ。


 その後、男性を包んだ水の塊は宙を舞い、何処かへ飛び去る。再び大量のグレネードが襲うが、逃げに徹したケビンにダメージは入らなかった。


「フォンボルク、撤退だ。今そちらへ行く。ディック、お前もだぞ」


 耳にはめた通信ユニットに向かって言うと、彼は施設でひときわ大きな存在感を放つ掘削塔へ向かった。


「俺だけで十分だ。他を頼むぜ」

「頼んだ」

「はい!」


 それぞれ返事すると、建物の屋上に居たアンジュリーナが飛び降り、リカルドと合流。レックスは飛んでいる水の一塊を追跡し始める。


「どうする? もう敵も退いたし、後始末だけかな」


 ラテン黒人の提案に、東欧系少女が頷こうとした。が、彼女は何かを思い出し、急に青ざめる。その様子を知ったリカルドは何事かと視線を返す。


「し、しまったあ、アダム君忘れてた!」


 頭を抱え込み、アンジュリーナが走り出した。釣られてリカルドが脱力して手を上げ、一つ思いついたことを尋ねる。


「てかアダムどこ?」

「あっ、ああっ! あああ……」





















 掘削塔の根本の半壊した工場らしき場所、オレンジのサングラスを掛けた男性だけがそこに居る。他の人員の姿は見当たらず、既に避難しているようだ。


 ところで、この男性は“一見”して誰も居ない景色の中、右半身を前に出し、右手を胸の位置に、左手で腹を隠す、オーソドックスな左利きの空手の構えをしていた。


 何も“見えない”筈、だというのに彼は次の瞬間、何かを躱すように体を右にスライド。同時に右腕でフック。


 空を殴る拳、の筈だが、彼は右の拳骨に何かが当たる感触を確かに感じた――発光。振りかぶり、“何か”を打ち飛ばす。


 前進、そして拳の連続撃が何度も空振りする。気づけば男性は建物の壁まで迫っていた。と、今度はいきなり跳び後ろ蹴り。


 足先には何も無い。それでも彼は、見えない筈の“光”を感じ取っていた。


 蹴りが一回転、着地すると、ポトッと何かが落ちる音。足元に黒い石らしき物体が転がっていた。


「さて、ボスがうるさいので俺はこれで失礼……」


 石を取ろうとしたその時、上方から何かが飛んでくるのを察知した。すかさず、ジャンプ。


 上昇しながら蹴り上げ――つま先が細長い物体を真っ二つに折った。


(矢?)


 細長い一方の尖った先端を確認する。不意に、矢から白い煙が周囲に発散した。


 だが煙は視界を覆うだけでなく、耳鳴りまで引き起こした。肌も何かとチクチクし、果ては彼を包む不可視の素粒子が、ノイズのように乱れていた。


(エネリオン?)


 脳内の疑問に返ってきたのは、胸を叩く打撃。空中から落とされ、背中が床を叩いた。


 はっとして取ろうとした石へ目をやる。既に消えていた。そして視界前方、一人のサングラスを掛けた金髪男性が煙の中から舞い降りる。


「良いねえ、グラサン同盟結ばねえ?」

「家族の方が大事だ」


 黒いサングラス、ジェイクが構えていた弓から、橙色のサングラスへ矢が一直線――横へ一歩、矢が顔の横三センチメートルを通過した。


 直後、後方で発光と爆音。衝撃波が身体を揺さぶった。


「テレサ、早く行け」

『うん』


 ジェイクが喋ると、返答がイヤホン型通信機に。


 ガシャン!——建物の外壁に大穴が開いた。そこから飛び込んできたのは、大量の水流。


 建物内に突如現れた大河に、ジェイクが足を掬われる。しかし、相手の方にはまるで見えない壁があるかのように川が避けた。


 するとオレンジサングラスの人物は、宙に浮かぶ黒い石らしき物を発見し、駆け込んだ。


「悪霊退散!」


 エネリオンが左手の一点に集中した。左半身を丸ごと捻り、腕に全体重を注ぎ、突き出す。


 鈍い輝きが“視え”た。“それ”は人の形をしていた。間もなく、姿は素粒子の塵となって粉々に散らばった。


 消えた敵をあざ笑いながら、床に落ちた黒い石を拾い上げようとした。途端、一筋の突風。


 小さな石は軽いらしく、煽られて拾おうとした手をすり抜ける。やがて一つの空気塊が男性を吹き飛ばし、壁に激突させる。


 一方小石の方は上昇気流に乗り、宙に出現した青年、レックスの手の上に。


「しつこいぞカラスめ」

「魚はパンでも食っとけ」


 水の塊に姿を潜める男性、ケビンがウォータージェットを幾重も発射する。しかし、いくらか勢いが劣るようにも見えた。出血は防いでいるとはいえ、身体のダメージが大きくエネリオン変換が本領発揮出来ないからだろう。


 レックスの方は普段通り、戦闘機さながらの空中機動を見せる。体を捻りながら時々空気弾を送るが、やはり液体の装甲は撃ち抜けなかった。


 空気と水のぶつかり合いに、一本の矢が紛れ込んだ。矢は地上からケビンを狙って直線を描く。


 水中に入り一気に威力を失う、と思われたが、突如矢がエネリオンの輝きを見せた。それによって矢は更なる運動エネルギーを与えられ、水中を突き進む。


 機動力を失った大柄な男性の左腕が咄嗟にかざされた。致命傷は防いだものの、矢が突き立っては腕が使えない。


「退くぞ」


 傷だらけのまま、冷静な一言。宙を泳ぐ男性は上昇し、水の大砲で撃ち破って外に姿を消した。


 残った方が圧縮空気から立ち直り、肩を回してストレッチする。丁度水流から復帰したジェイクは、発射準備完了の矢の先端を向けた。


「って訳で気まぐれな上司がお世話になったらしいな。俺はジャン・フォンボルク。今度会ったら土産代わりのパンチをお見舞いしてやるぜ。クラシック同士仲良くしようや」


 ジャンと名乗った男は、サングラスを通して相対する弓矢を目線で指しながら言い、背を向けて建物の奥へ進んでいった。


 相手が見えなくなるまで弓を引き続けていたジェイクが矢を矢筒に戻した。上空からレックスが降り寄る。


「終わりっすか?」


 レックスが丁寧に尋ねた。「いいや」とジェイク。彼はレックスの掌の中にある黒い小石を見ながら言った。


「始まりだ」


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