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5 : Flow

「あのタンクは何だ?」


 リュックらしき物体を背負った青年、レックスが上空二百メートルから地上を見下ろして呟いた。


 掘削塔の傍、直径十五メートル程、高さも同じ位の円筒形の建造物が幾つも並んでいる。周囲には太い配管も張り巡らされ、形状から推測して何かを貯蔵するタンクだと思われる。


「やっぱ石油? テレサ、お前じゃ中身分からねえ?」

『形状は分かるけど材質までは分からない。でも中に入ってるのは液体というのは分かる』

「やっぱ石油かよ、時代遅れじゃあるめえし。今から掘削基地の丸焼きを作ってやる」


 彼は耳内の通信機からの音声を聞くと、タンクに向けて手を向ける。


 空間に無数に散らばる素粒子エネリオン、皮膚に吸い込まれる――感覚神経を通って脳を介し運動神経へ――そして掌から発射。


 更にレックスは銃も構えた。照星を合わせ、数連射。


 まずタンクの内一つの外壁が半球状に凹んだ。次にそこへエネリオンの弾丸が数発当たり、外壁に穴を空ける。


 しかし、銃弾はタンクを貫通しただけで他に何も起こらなかった。


 ならば上からではなく横から、とレックスは風に乗って地上に降り立った。再び圧縮空気弾とエネリオン弾を送り込む。


 先程よりも壁がめり込んだ。更にもう一息、右手を突き出し再び空気塊をぶつける。


 壁が直径五十センチメートル程潰れた。一拍遅れてタンク内から透明な液体が勢い良く噴き出す。


 その量や勢いで近くの敵兵が二、三人足を掬われた。レックスは液体が流れる地表に銃口を向け、トリガーを引く。


 不可視の銃弾が液体に当たる――液体は熱によって気化され、周囲に弾けた。


 しかし、それ以上は何も起きなかった。


「何だこりゃ、水?」

「その通り、ただの掘削用のな。悔しいか?」


 背後から唐突な呼び掛け。瞬時に振り向き、銃の照星と照門を合わせる。


『レックス、この人が一番強いと思われる人物だよ』


 ふと、味方からの通信が入る――身長は比較的大柄なレックスよりも一回り大きい。白髪の混じった茶髪が特徴的で、武器は何も持っていない。


「だったらここを湖にしてやるまでだ!」


 ジェット気流を噴かせ、青年の身体が上昇する。圧縮空気をタンクの穴に更に放ち、穴は更に大きくなる。


 タンクから噴出する水は勢いを増し、白髪の男性目掛けて怒濤の如く流れる。男は飛び退いて避けた。


「空に逃げるとは、チキン以上の臆病者という訳か」

「速けりゃ何でも良いのさ。じゃあお前はチキンに殺される可哀想な運命という訳だな」


 レックスが手を差し向け、相手は直感的に跳び退いた。複数の空気塊が大地を削る。


 更に今度は大量の銃弾。向こうは体を捻って躱し、地面に多数の穴。


「そっちこそどうした? まさかチキンに怖気づいたか?」

「いいや、いつ鳥を撃ち落とそうかと考えていた」


 そういう男は宙に浮かぶレックスに向かって手を上げていた。感づいたレックスは不審に思い、周囲を見渡す。


 突如、青年は脇腹を何か重い物体に叩かれ、横に飛ばされる。空中で体勢を立て直したとき、彼の服の脇腹はびしょ濡れだった。


 服に気を取られ、次は地上から吹き上げる多数のウォータージェット。慌てて身体を捻り戦闘機の如く回避。


(まさかテレサが俺に似てるとは言ってたが、これか? しかしこれがただの水なら採掘してるのは何処に……)


 思考しながらレックスの掌が男へ向けられ、空気塊を射出。応じて相手がこちらへ手をかざす。


 次の瞬間、地を流れる水が滝を遡るように宙へ飛び、男性の前に広がる。やがて分厚い水の膜は空気塊によって凹んだが、穴が穿つ事は無かった。


 次は水の膜が一点に集中し、斜め上の青年目掛け噴水。対するレックスは同様に手を襲い掛かる流水目掛けて差し出す。


 水が高圧の空気にぶつかり、横に三十度ずつ分かれる。僅かな水飛沫を浴びながらレックスはしかめっ面をしてみせた。


「どうした? 面白いジョークを吐いてみろよ」


 男性からの軽口。青年は顔に掛かった水滴を拭って返した。


「いいや、フィッシュ野郎って罵倒語あったかな? と考えていた」

「その調子だ」





















 地球管理組織の採掘施設より少し離れた森林地帯。


「ゴーゴーゴー! 日本人みてえに休むな!」

『二番目に嫌な死に方は御免だ!』


 金属の装甲に身を包んだロバートに答えるルーサーの声。右手を前に出し、振動――三銃身ガトリングが火を噴き、離れた敵兵達を蹴散らす。


「じゃあ一番目は?」

『ハラキリだ。だから奴らの腹どころか全身木っ端微塵にしてやる!』


 ロバートの左三メートルにあった金属製パワードスーツの左腕が前を向く。


 左腕の連装ガトリング砲が破裂音を立てる――突如前方で爆発、近くの兵が三人ばかり吹き飛ぶ。


『二百二十メートル先、中隊規模の人型戦闘ロボットがこちらに動き出している』

「ようし、前に出過ぎるな、傾斜の利を生かせ」


 インド系男性、ラケシュの報告に指示を出すリーダー。その前方に脚部のタイヤを回す軽装甲なスーツが一台。


 ジグザグ走行する姿のその肩から腕が二本伸びた。その先には一つずつ銃身――発砲と発光。


『ミハイル、てめえばっかに良いとこ取らせねえよ!』

『あたしも混ぜな!』


 金髪の青年、サムの機体が前に駆け出た。同時に両腕を前に、肩のロボットアームも展開――四カ所合計十二銃身から弾丸の嵐。


 更にロバートのすぐ隣から一体、黒髪ポニーテールの女性ジェシカの機体まで前に出て弾幕をお見舞いする。


『隊長、引き止めなくて大丈夫ですかこれ?』

「バカ共には先に行かせとけ。俺達が狙われなくなってラッキーだ」

『『『聞いてるぞ!』』』


 前方三人から同時の怒り。銃撃音は激しさを増す。ただし、相手の方も木々に身を隠して当たらない。


『任せろ!』


 スペイン系男性、シモンの自信ありげな叫び。途端、敵ロボット兵が盾代わりにしていた木に直径五センチメートルもの穴が空き、木屑が散る。更に後ろで金属製の身体が倒れた。


『結構くるなあこれ。野球肩ならぬスナイパー肩になりそうだ』

「バカヤロウ、そのためにスーツ着てるんだろうが」

『砲兵だって辛いんですよ。てかボブ、お前も手伝ってくれや』

『あいよ。ラジー賞作品みてえに仕上げてやる』


 部下スナイパーからの愚痴。そして赤毛のアイルランド男性、ボブが木から横に出る。


 左右のグレネード連装砲が発砲音を鳴らす。それに加え、両足の外側に箱状の物体が縦に連なっている箇所――後方からロケット噴射、反作用で小型ミサイルが飛び出した。


 視野百八十度、爆炎が包む。土砂が噴き上がり、草木が焦げ、敵兵が幾らか吹き飛んだのも見えた。


 前衛の三人は相変わらず前に出ては機銃や擲弾を食らわせている。奇声が通信機越しにまで聞こえた。


「ところでピーター、お前全然喋ってないけど大丈夫か?」

『な、何とか。初めてですし……』

「どうするルーサー?」

『俺に訊くな。こういう時こそ上司が率先してやるんだろ?』

「またやるのか? 仕方ねえな!」


 と言い残し、隣の若い白人を残して前に出る隊長機。


『おいおい、この前やったのに凝りねえか。分かったぜ!』


 更に後ろから笑いと共に黒人男性の機体まで出る。ピーターは呆然とそれを眺めていた。突如至近距離で金属音がするまでは。


『うおっ?!』


 スーツ外壁で衝撃と共に火花が散り、慌てて木に隠れる。そこへインド人が駆けつけた。


『ピーター、僕達はここで援護だ』


 仕方なく二人は暫くガトリングで敵を狙い撃ちにする事に決めた。通信では更に奇声が飛び交っている。


 車輪の付いたミハイル機が機動を生かし、前に出て敵一体に至近距離から秒間五十発の弾丸を命中させる。


 すぐ隣に居たロボットがアサルトライフルの銃口を向ける。するとミハイルは金属の右腕で身体を支え、二連蹴り。


 相手が倒れ、その奥で更に別のロボット――左腕を出し、直後、反動と共に敵が爆散した。


 今度はミハイルの後ろをジェシカ機が通過し、彼女は右腕から弾薬を吐き出しながら前進するが前方の敵兵が隠れる。


 構わず進み、木の裏へ――敵のパワードスーツを視認したロボットが引き金を引くが、既に向こうの銃身から発射炎が見えた。


 ジェシカは数発食らうが、金属のボディは通さない。一方相手の金属のボディは胴体に多数の穴が空いて行動不能に。


 更に隣のロボットを銃身で殴り倒すジェシカ。そこへ機銃弾がとどめを刺した。


 後ろから左腕の銃を向けていたサム。残る三つの銃身は弾丸を吐き続け敵に反撃の機会を与えない。


 視線とコンピューター制御による肩二つの銃が正面に向けて牽制射撃しつつ、森林を駆けゆく。


 右斜め前方から覗く銃口――兵士としての勘で右腕を出す。金属の肢体が倒れ、ボディに金属音が響いた。


『ボブ!』

『あいよ!』


 スピーカー越しの会話。すると後ろから発砲音と噴射音――直後、前方が爆風と煙に包まれた。


「突っ込め!」


 黒煙の舞う中を突入するロバート。すぐ先に敵ロボットの姿が見え、右手で腹に向かってブロー。


 機銃がロボットの体を割り、脆弱化した身体を大量の弾丸が粉々にした。そこへ九時の方向三メートル先から殺意。


 咄嗟に腕に付いた機体を投げ飛ばし、小銃を構えていた二体にぶつかり倒した。


 最後に左腕を向け、ずっしりした反動──グレネードの爆発で三体が木っ端微塵と化す。


 ふと、後方で金属音。振り向くと、胴体を上下真っ二つにされた人型の姿。


『刺身にしてやる!』


 ルーサーはそう言って右手に持つセラミックブレードを倒れたロボットの頭に突き刺し、引き抜くとダッシュした。


 正面の一体の左肩から斬り下ろし、その後ろの二体目を股から斬り上げ、更に後方の三体目の胸に突き刺し、それぞれ行動不能にさせた。


 それだけに留まらず、黒人男性は腰からもう一本ブレードを引き抜き、手首のスナップを利かせて前に投擲。


 丁度剣の軌道上で銃を構えていた一体の頭に刺さり、後ろ向きに倒れた。


『ガハハ、ハラキリされるってのはどんな気分だ? シャチク共め! カロウシ前にぶっ殺してやるぜ!』


 と叫んだ瞬間、前方で炸裂音。土が吹き上がり、ロボット数体がこける。


 そこをピーターとラケシュの銃撃が襲い、更にシモンからの砲撃がとどめを差した。


「サンキューレックス」


 森林上空、いつの間にか小さな全翼ジェット機が飛んでいた。


 しかし、返事は来ない。


「レックスの奴、どうやら相当てこずってるらしいな。お前ら、さっさと片付けるぞ!」


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