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8 : Interest

『リヴィングストン、近況報告しろ』

「問題無く“建設”は進んでいます。反乱軍にはまだ知られていません。偵察等も半径二百キロメートル以内には今のところ発見されておりません」

『常に警戒態勢だ。“あれ”の存在が知られれば我々の脅威にもなり得る』

「了解」

『この前の失敗したロサンゼルス強襲作戦にて、“首輪”を一個破壊された。破片が反乱軍に発見されている可能性もある。今回の計画も知られれば大事に至るだろう』

「了解」


 何故か、とは問わない。彼らには分かり切っている事だからだ。


 デスクトップに表示された【通信終了】の文字。卓上の画面の正面と対面していた、キャリアー付き回転椅子に深くもたれかかっていた人物は身を立たせる。


 先程リヴィングストンと呼ばれた人物は窮屈な椅子から立ち終えると、


「ファアー……」


 と大口開けてあくびしつつ、身長百九十センチメートルにも達する身体で、軽くストレッチ。先程の液晶画面を睨む無機質な雰囲気は何処へ行ったか。


「堅苦しいものだ全く、そんな事などとっくに知っている……」


 額に皺の寄った堅苦しい表情で愚痴をこぼした。百八十度方向転換すれば窓、その外に開拓されずに残った岩々や木々が並んでおり、目に橙色の光が差し込んできた。


「肝心の採掘システムは更に奥に隠しているから良いものの、余計な武装するから発見されるだろうが……」


 眩しさから目を逸らし、再び椅子に位置する。皺の寄った表情に相応しく、不満げな口調だった。


 年齢は三十代後半といったところか。顔つきはブリテン系の若みこそ残っているが、髪の毛は茶髪の所々に白髪。


「護衛というだけなら私一人でも十分だろうに。まあ例え足手まといになろうと“地の利”がある事には変わりない」


 若くも老けても見える男性は、眩い夕日に怖じず対面しながら腕を組み、退屈そうな呟き。





















 部屋から出たアダム達を出迎えたのは、茶髪の日系アメリカ人だった。


「よおアダム、さっきの壁抜きといい、壁破る奴といい、見てて楽しかったぜ」


 と少年に言い聞かせるも、肝心のアダムは怪訝な顔付きだった。とはいえ、普段から無情の彼の変化に気付くには難しいだろう。


「まあ俺には勝てんかったかな、ハハハ」


 後ろからラテン系の青年が自信過剰も良いところ、高らかな笑いを上げる。これにはアダム、ではなくリョウが不機嫌に顔を変える。


「ったく、どうやったらお前に勝てるんだ。俺でさえ勝ち越した事がないってのに」

「格の違いだリョウ。誰かさんみたいにただ暴れ回るだけじゃあ辿り着けない境地なのさ」

「それ俺に負けたお前が言う事か?」


 リョウをからかい牽制するレックスに、ブラジル系の青年から横槍が入った。


 高笑いが消え、苦虫を噛み潰した表情。リカルドが白い歯を見せる。黒髪の白人は先程の態度など捨て、食って掛かる。


「それ格闘だろうが。てかカポエイラとか卑怯だぞ。動き見切ったから次は勝ってやる」

「お前は動きがカタいんだよ。俺みたいに踊れば良いのさ」

「だったらリカルド、お前こそこの前俺に負けたじゃねえか」


 リョウの突っ込みに、小躍りして楽しむ黒人の快進撃が止まる。

「それを言うならお前のはごり押し過ぎるんだよ。普通あんなタイミングで突っ込んで来るか?」

「当たり前だろ。だったら……」

「いや、それこそ……」


 男三人、口論が続きデッドヒート。もはや意味を持たぬ罵り合いへと退化していた。


 取り残されるアダム。そして少年の隣で腕を組みながら呆れ顔で喧噪を見届ける銀髪の女性、クラウディア。


「アダム、あんな大人げない子供みたいな大人になるんじゃないぞ」

「……」


 言葉は無いが、「何故こんな風になるのだろうか」という心境に違いない、とクラウディアはほぼ確信していた。


「無理もない。私だって良く分からない……」


 対する少年は首を傾げて、はいなかったが、黙り込んで何かを考えているらしい。


「アダム、こういうのはガツンと言ってやるのが良いんだぞ……お前達、良い歳して何大人気ない事ばっかりするんだ!」


 腕を組んだ長身の北欧女性の鋭い目つきに、まず黒人男性がオーバーリアクション気味に飛び退いた。次にラテン人が頭を右手で抑え、叱られた子供みたいに肩を落とす。


 ただ、逆効果だったのが一名。


「まあ女には分からんさ。特に白い肌で身長も胸も尻もデカくて人をぶっ刺す女にはな」


 北欧美人が顔を怒りに歪ませ、目をギラつかせて挑発するリョウへ食らいつく。


「お前は何時になったらデリカシーという単語を覚えるんだ!」

「また同じ事ばっか言いやがって! リピート再生機能でも付いてるのか? そして音量までもデカいときた!」

「お前だって人の事言えないじゃないか! 第一お前が……」


 まるで子供の態度冗談を利かせながらクラウディアの怒りを燃やそうと油を注ぐリョウ。対するクラウディアは子供を叱る母親みたいな雰囲気を醸し出している。


 尚、中間から一歩離れた地点に居る少年は目の前の現象を飽きたようにも見える目で観察し続けている。


「皮肉だな、この中で最年少が一番大人な態度だとは……」

「言えてる……おーいアダム、夫婦喧嘩うるせえのに何か言ってやれ」


 レックスの悟るような呟き。アダムと出会ってまだ数時間程度のリカルドが、馴れ馴れしく話し掛けた。状況を更に盛り上げようと、口が笑っている。


「お前ノリの使い方をもう少しよお」

「見境なくジョーク使うお前には言われたかねえ」

「ハア、もう止めとけ!」


 今度は白人と黒人の論争が生まれそうになったので、ため息を吐きながらレックスが声を上げて制止に入った。


「そういやリョウ、お前アダムに何かをやるとか言っていなかったか?」


 先程の喧嘩から、いち早く冷静に切り替わったクラウディアは、喧嘩相手だったリョウへためらう事なく声を掛けた。リョウの方も、既に顔から血の気が飛んでいた。


「いけねえ、忘れる所だったぜ。アダム、お前に渡したい物があるんだ。ちょっと良いか?」


 四人の若い大人から殆ど空気になっていた少年へ、ようやく声が掛けられる。


 アダムの方は相変わらず表情こそ変化は無いが、黙って観察する目つきが怒っているようにも見える。それでもリョウはなりふり構わない。


「とりあえず外行こうぜ。お前らも来る?」


 指で何処からか取った鍵を回しながら、親指で出口を指す。残り三人の若者は頷き、ボサボサな茶髪の後に続いた。


 前方の青年は既に廊下を通過し、建物の出入口のドアを開けて、向こう側へ消えた。残された四人が追う。


 ブオオン!――ドアを開けたところで、連続する排気音。


「こいつをお前にどうかと思ってな」


 建物から出て左側にある駐輪場。リョウは先回りし、ポツンと立っていた二輪車のエンジンを掛けていた。


「お前、そんなん良い奴に埃被せる位なら俺にくれりゃあ良かったじゃん」

「うるせえ、お前もっと良い奴持ってるだろ」


 何の事だ、とアダムがリョウの跨がる物体を観察する。


 空気抵抗を減らす為の流線形の外郭。長さ約二メートル、高さ一メートル強、幅七十センチメートル程。黒を基調に緑のアクセントが印象的だ。


 比較的大柄なリョウには少々小さいサイズにも見える。


「リョウ、お前もバイク持ってたのか? てっきり車ばかりかと思ったぞ」


 と、クラウディアの意外感。


「レックスの奴に負けて以来の奴か?」

「バカヤロウ、車なら負けねえよ」


 リカルドが懐かしむように言った。バイクに乗りながら台詞を一蹴。


「カワサキのリスペクトたっぷりだ。ニンジャのイメージはお前には合うと思ってな、こいつをやるよお前に」


 二輪車を細かく観察するアダムへ声を掛ける。しかし少年は目を離さない。


(空気抵抗と乱流を防ぐ構造か。動力源は炭化水素による内燃機関か?)

「乗ってみるか?」


 何も言わないので行動を起こさせてみる。図った通り、少年が顔を上げた。


 リョウがバイクから降り、手で誘導する。アダムが跨がる。小柄なアダムには少し大きく思えた。


「ここにあるのが鍵で、この隣のがスターター。アクセルはハンドル右を捻ろ。ブレーキは……ギアは……」


 一方的に言い続ける青年。アダムは反応しないまま計器類を眺めている。そこへ黒髪の青年が混じる。


「四百ccだが、パワー結構あるし、コーナリングの操作性も良い筈だぜ」


 ブオオン!――クラッチレバーを握りながら高々とマフラーを鳴らした。


 後方で見守っているクラウディアは呆れを若干含ませながら、落ち着きなく心配そうに前の三人を眺めている。


「……リカルド、これって無免許運転じゃないのか?」

「さあ、免許なんて戦争で消えたんじゃね? まあ上手けりゃ良いのさ」


 隣の男性の返答に呆れて顔を押さえるクラウディア。黒人までため息をつきながら苦笑する。


「あっ、ヘルメットちゃんとしろよ。“俺達”なら事故っても平気だろうが、マナーみたいなもんだ」


 レックスが付け加え、バイクと同色のフルフェイスヘルメットを渡す。受け取ったアダムは有無を言わずヘルメットを抵抗無くスッポリ被った。


「走ってみるか?」

「バカ、お前まだ初めてだぞ」


 調子に乗ったリョウを、クラウディアが咎めた。「流石に駄目か」と笑いながら諦める。


「いや待て、アダム、そもそもお前バイク乗りたいのか?」


 今度は、リカルドが馴れ馴れしく、無言の少年へ問い。未だに何も言わないので疑ったのだ。


 対するアダムは、ヘルメットを被ったまま黙って何かを考えているようだった。ようやく彼の口から音が発される。


「ああ、興味がある……何故だろう……」


 バイザー奥からのくぐもった声に、リカルドとクラウディアが「本当か?」と目を見開いた。一方でリョウとレックスは「分かってるな」と少年の肩を叩く。


「やっぱり記憶が消えでも嗜好は変わらないものなのか……しかし意外な趣味だな」


 クラウディアが呆然と呟いた。


 気が付けばリカルドが前へ行き、男四人が談笑――尚、一人は全く喋りも笑いもしなかったが。


 女性が一人、子供のようにはしゃぐ男性陣を大人びた目で眺めながら口に笑みを浮かべた。


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