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人が武器を捨てる時/THE TRANSCEND-MEN  作者: タツマゲドン
Category 9 : Reconstruction
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7 : Twilight

 ハワイ島西海岸はビーチは勿論、かつて金持ちの別荘地やゴルフ場が並ぶ程の美しい景観を持っていた。


 現在でも熱帯林や夕日の見えるハプナ・ビーチは絶景であるが、戦前から続く農業政策等の人口増加に伴い、南北三十キロメートルも連なる人口密集地帯が出現した。


 その中間部分に当たるプアコ沿岸、西南五キロメートル。


 側面にゴム製のスカートを膨らませ、海面に高圧空気を噴出する反動で完全に浮遊し、水の抵抗を無視して機体上部の推進ファンで海風の向き関係無く走れる、エアクッション艇が三隻。


 その一隻に分厚い鋼板で構成されたコンテナ型人員輸送モジュールの上に寝転ぶ、黒のジャケットとコンバットパンツの青年、リカルド・アルメイダは橙に染まった、所々積乱雲漂う空をぼんやりと眺めるが、度々顔を濡らす飛沫に気を取られるのだった。


「このタービンの音相変わらず苦手だぜ」

「立てこもりを強要されている仲間達も居るんだ、辛抱しろ。レックス達も無事でいてくれたら良いのだが……」


 エンジンとファンの轟音にめげず青年が語りかけたのは、隣で仁王立ち腕組みし、水平線を見据える銀髪の女性。ピッチリした黒いボディスーツが脚をスラリと魅せ、長身を引き立たせる。


 一般的な成人女性に比べても一層豊満な胸や尻はボディスーツでも隠し切れず、漆黒のラインが細いウエストを強調する。腰にはウエストポーチと鍔付きの細い剣を差し、背中にはアサルトライフル。


「どうした? 戦いが終わったら告白でもするつもりか?」

「そうじゃなくってな……まあ西岸部の拠点が手薄だと分かっているのもレックスの偵察のお陰ではあるが」

「ともかく、挟み撃ちは予定通り上手く行きそうだな」


 湿って不機嫌そうに顔をしかめたリカルドは仕方なくジャケット部に隠した短期間銃を手にし、四キロメートル先の船着き場を発見した。腕時計型端末に目をやると、午後七時前。


「リカルド、今更考えるのも何だが、ヒッカム航空基地制圧とオアフ島の電波妨害が一日で済ませられると思うか?」

「だよなあ。フレッドやイザベル、キタカタ兄弟も居るし……そしたら何でイームスさんもハワイ島側に退かせるように指示したんだろう」

「さあな……オアフ島の奪還部隊もダイアモンドヘッドは制圧出来たと聞いて以来進捗が無いし……」


 前方、こちらをつけ狙う殺意に気付いた北欧女性は銃を掲げ、黒人青年は眠そうな目を覚ます。


 ボンッ――進行方向十数メートル先、波音と風音に紛れて放物線を描くように飛来してきた缶状の物体が灰色に破裂した。


 しかし音速の数倍にも達する破片はトランセンド・マン達どころかホバークラフトさえ傷付けられない。後を追うように小銃弾が時折船体を虚しく引っ掻く。触発されたように操縦席上部の銃座から二、三人程が発砲し始めた。


「歓迎するには物足りねえな。雨粒みてえなもんだぜ」

「情報通り管理組織側が島全域の制圧を優先したかったんだろう。カイワイエもまだ味方の遊兵が残っているからそっちに集中してるのか……とにかく防御には回し切れていないのは間違いない」

「こんな威力ならこの船が沈む事は無さそうだ。どっちが先に着くか競争しようぜ」

「男の子はいくつになっても変わらないな。散らかして女の子に片付けさせるんじゃないぞ」


 刹那の笑顔、二つの人影はホバークラフトを飛び出し、足から穏やかな波の上に“降り立った”。


 バジリスクの如く水面を蹴る。地上走行程ではないが、水の抵抗を全体に受けて泳ぐより遥かに速い。


 リカルドの靴底に触れた海水は水分子間の摩擦を増幅され、足を伸ばす一瞬だけ超強粘度の液体が彼自身を押し返す。


 一方、クラウディアが蹴る海面は水分子間の結合力をほんの一時的に増大、凝固した氷の大地を踏み、機銃を浴びせる奴らの正体がハッキリと見えてきた。


 一見、機銃と擲弾筒を備えた車両と多脚戦戦車が数台ずつ。人数はざっと百五十人程か――先頭に一際目立つスキンヘッドの黒人男性が走るこちらを睨んだ。


「トランセンド・マンはあの男一人だけか」

「らしいな。あれなら他は私達抜きでも大丈夫だろう。カイワイエ都市部のゲリラが止めてくれてるのか」

「よっしゃあ、デュエットダンスは好きか?」

「社交ものなら一応」


 獲物を銃から近接武器に変更、一段大きく飛翔する両者。弾幕を繰り出す堤防を軽々越え、女性が腰から引き抜いた細剣の先端が斜め下に銀色の直線を描く。応じて相方の男性はナイフを一本投げ加勢。


 対面したスキンヘッドは短い刃を手刀であしらい、刺突に対し大きく後方へジャンプ。上陸した二人は休まず追跡する。


 港町では自動車どころか通行人一人見当たらず、街灯も殆どが消え、島屈指の人口集中街は廃墟も同然に見えた。横に一歩、長い刃を躱すが、突如現れた足元の痛みに前のめりに倒れる。


 スライディングキックで不意打ちを成功させたリカルドは片足で素早くジャンプし、前に一回転──踵落とし。


 路面を転がって回避するが、起きると同時に、クラウディアの横蹴りが彼の鳩尾を押し出す。


 バランスを崩した奴目掛けて五メートル離れたリカルドが腕を横に薙ぐ──鋭い輝きが視神経を刺した。


 上体を後ろに倒し、その場に倒れる。三本のナイフが鼻先の空気を斬り、エネリオンで増大した腕の筋力でバッタの如く地を跳ね、距離を取る。


 半ば焦げて半壊した都市部に土俵は変わった。交差するように斜めから挟み込む二人。


 煌びやかな女性の連続突きに一歩ずつ退き、横薙ぎを根元の腕から掴み止め、押し返す。休む間もなく黒人がナイフ一本で八方から細い金属光沢のラインを作る。


 一歩一歩下がって避け、振り下ろしを両手で捉える。攻勢を後ろに流すように黒人男性を引き飛ばした。


 手を路面に着かず勢いだけで側転するリカルド。今度は屈み、脛を狙ってコマの如く連続足払い。


 膝を抱えるようにローキックを確実に避けるが、突如、回転方向が変わり、脇腹に迫る靴先を両手で打ち落とす。


 反動で立ち直った青年は前方に跳びつつ両足をバタつかせるように連続蹴り。両手で交互に跳ね返す相手は、背後に忍び寄る気配を見逃さず、掌を後方に差し出した。


 不可視の輝き――エネリオンが迸る剣が一直線、平手に向かう。反対側のリカルドも滞空したまま胴体を捻って後ろ蹴り。


 次の瞬間、挟まれていた人物の全身が瞬いた。驚きを顔に浮かべた二人はそれぞれ後ろに吹き飛び、背を道路に着けた。


 見ると、掌に数センチメートル程の塞がった切り傷だけ、それ以上の外傷は無い。


「接触物に単一の運動量を与える能力か?」

「当たりだ。その力、接触物の分子結合に作用するものだろう。相手が悪かったな」

「じゃあ俺と踊るか?」


 遮る様に一番最初に仕掛けたのは黒人青年だった。歩幅を大きく左右にステップを踏み、スケート選手よろしく回転蹴りとフェイントを混ぜて詰め寄る。


 上段をしゃがみ、下段に対し前脚を引き、中段にはステップバック――反撃をしないと見るや否や、リカルドは両足をバネに前方へ一回転。


 アッパーの迎撃が見える――脳から足先へ向かう無意識――靴裏に感じる重みのある感触を蹴る。


 靴・空気間の摩擦増大によって油のような粘り気が生まれた大気を押し、反動で青年の身体が浮く。拳は空を切り、後頭部を鋭い衝撃が刺した。


 遅れて振り返るが、既に横から迫る後ろ回し蹴りを避けられず、しかめ面をしながら反撃をしようとするも、片手を軸にした両足蹴りに腹を蹴られ、未発。


 留まらず斜め前に跳び、空を蹴りながら斜め後ろへの蹴り――慣れないドーム型の包囲網に相手はとうとう憤った。


「ちょこまかと後ろを取ろうとしやがってホモ野郎め」

「おいおい、俺は妻子持ちだぜ」


 正面に両膝蹴りを決めながらジョークを吐き返した次の瞬間、青年は進行方向から押し返される急激な重力加速度に不意を突かれた。


 ドレッドヘアをたなびかせる影は幾つかのコンクリート片と共に内陸方面の道沿いに大きく転がり、傍観していた女性が心配する。


「無事か?!」

「俺に構わず先やっててくれ!」

「だそうだ。女は殴りたくはない主義だが……」


 足裏に不可視の光を発し、アスファルトに触れた途端、姿が引き延ばされる――クラウディアは気を引き締めた。


(動きは速い)


 走行を加算したただ真っ直ぐな裏拳。音速の二倍近くの速度はあれど、


(軌道は“判る”!)


 速いだけでは技ではない。罠に追い込むように駆け引きを制し、止められない状況を作る事――半歩前に、腰を落として一直線に突いたクラウディアの肘先が腹直筋に触れ、轟音。


 相手の姿は商店のシャッターを突き破って店内に消え、想定以上を越える強さにクラウディアも反対側のカフェテリアの木製デッキに吸い込まれ、砕けてクッションになる。


「いつもより荒っぽいな。リョウからのストレスでも溜まっていたのか?」

「誰かさん達に染まってしまったらしい。私は良いから気を付けろ」


 いつしか戻ってきた仲間のからかいと木片を払い除け、伸びを一つ、顔を見合わせて同時に背中の小銃を構え、引き金を引いた。


 エネリオンの弾丸が商店に無数の銃痕を空け、暫くすると台風に耐える筈の三階建てのコンクリート屋根が、噴火の如く一点で破裂し、何かが上空へ。


 波長の短い青色が大気に跳ね返り、赤だけが残った夕焼けの空の中央、身体もろとも膝を下す敵の姿が急激に大きく見えてくる。


 瞬時に側転するリカルド――手でアスファルトを押し、念ずる――向こうがドレッドヘアーの残像を踏んだ。


(柔らかい?!)


 途端、地面が消えた――下に驚愕の顔を向けると、脚は道路を砕くどころか膝まで砂利にめり込んでいる。


 直後、黒人男性が地面に水平に跳び、踵が弧を描く。こめかみの痛みに宙を一回転し、不時着した男は目眩を我慢しながら起きると、挟む二人組を見据えた。


(土分子間の摩擦を軽減して液状化したのか……これ以上有利なフィールドを作られたら困る……)


 青年が両腕を薙ぎ、切れ長の閃光が複数と、それに続く女性と長い刃。体表に意識を注ぎ、ナイフの群れが服に触れた途端、四散。


 最後尾のクラウディアが両手に握る細剣が左胸へ一閃。左掌で遮り、前方向への運動エネルギーを与えようと……


 無意識は足元がすくい取った違和感に移った。踏ん張っていた筈の靴裏が、氷でも踏んだかのように後ろに滑る。


 バランスを保とうとしても、土分子間の摩擦を減らされ液状化した地面の上では困難だ。


 体幹で上半身を回し、曲げた腕を伸ばす。掌を手応え無く貫き、男の瞳孔が開くのが見えた。


 直後、斜め前に引っ張られる感覚――氷の如く足が滑って身体が浮き、剣も抜ける。


 上下感覚が著しく入れ替わり、背中に何かが当たって止まる。相手の黒人もその場に


 掌だけでなく、左肩にも細剣の先端分の刺し傷から、黒ずんだ赤い液体が戦闘ジャケットに染み出ている。


 傷が無い方の半身を前に構え、既に駆け寄って蹴りの溜めを作っている黒人と対峙――右拳の底が脛を弾き返す。


 軸足の回転で痛みを受け流し、後ろ回し蹴りを放つリカルド。右小手でどうにか防ぐが、重量に負けて押される。


 のけ反った先、クラウディアの刃先が目に焼き付く。反射的に左手で刀身を掴んだが、ふくらはぎに襲い掛かった痛覚にこかされた。


 屈んでローキックを決めたリカルドは片手で体を持ち上げ、遠心力と重力加速で膝を下す。隣には剣を下ろす銀髪女性。脱出を試みるが、ザラザラした筈の路地の上で手足が滑る。


「てめっ!」


 掛け声と発光――接触した瞬間、青年は間の抜けた声を上げながら宙に放り飛ばされた。北欧女性も手に握る物体がポップコーンさながら無造作に弾け飛ぶ様子に驚き、ボディへの蹴りを受けて怯む。


 今の内に立ち上がる。前方二メートル先にクラウディアが左半身前で細い手を差し向けているが、構わず地面を一蹴り――秒速三百四十メートルから放たれるナックルに、細身の右手で内から外へ払う。


 左手で流した腕を更に後方へ引っ張り、体勢を崩した奴の顎に、透き通るような白い右掌底が炸裂した。


 脳の揺れによる視界の眩みに逆らって再び手を伸ばすのを確認する。重みの無い腕をクラウディア自身の左腕で絡めるように一回転、跳ね上げ無防備な敵の横っ腹に体当たり。


 街灯に衝突し、細長い柱が大きく曲がった。すると「受け取れ!」とハスキーな掛け声と揺れるドレッドヘアがクラウディアの横を通り過ぎ、目の前に放り出された短いナイフに気付く。


 受け取った女性は斬り掛かる同僚に加勢し、味方の振り下ろしを左にスライドして避けたターゲットへと薙ぎ払い。


 坊主頭の男はスウェー、刃先が鼻先を掠め、続けてリカルドが放つハイキックをバックステップして回避。僅かな時間で背中に手をやる。


 手首をスナップして一閃――本能的に危険を察知した二人が前方百二十度に散る。


 手には大ぶりのナイフ。怖じけずラテン黒人はジャブ同様にナイフを鋭く突く。刃が刃を弾き、もう片方から来る女性のナイフに対し、前蹴りで肩を止める。


 反対側の足元を刈ろうと獲物を振るが、側転で回り込みながら側頭部へ蹴りを入れるリカルド。斜め後ろを取り、ふらついた片足を持ち上げてタックル。


 スキンヘッドの黒人は自分を押し倒そうとする人物に意識を注ぎ、吹き飛ばすイメージを浮かべる――体表から感覚・中枢・運動神経を通って電子より遙かに小さい素粒子は接触物へ一方向のベクトルを付与。


 途中で脳によるエネリオン処理の過程が阻害されない限りは、トランセンド・マンのエネルギー変換は絶対に成功する。目標の人物は一瞬動きを止めた。


 “それだけだった”。


 靴底と地面の摩擦を増幅したドレッドヘアの黒人はようやく相手を押し倒す。クラウディアがナイフの振り下ろしで畳み掛けた。


 残った足で蹴って拘束を振り解き、すぐさまボディスーツに包まれたしなやかな脚を押し蹴り、止める。脱出しようと次は地を蹴るが、それを見たリカルドは同様、アスファルトに手を置いた。


 急速に摩擦を失った地面を踏ん張れず、仕方なく自身へ直接運動エネルギーを与える事で一時離脱。


 何処からか細剣を拾ったクラウディアが猛攻――縦の斬撃を身体ごと横にステップ、横薙ぎをしゃがみや後退でやり過ごし、突きを右手のナイフで押されながらも逸らす。


 ちらと後ろに目をやり、コンクリート製のアパートの壁が近付いてくるのを確認する坊主の黒人。体を捻って紙一重で躱すが、服は段々破れていくのが分かる。


 背中に壁が着いた――正面からの刺突にその手首を掴み、外側へ逸らす。コンクリートに剣が半分以上刺さり、無防備な女性へ……


 直後、ボディスーツに包まれた丸みを帯びた肢体は留まる事無く、分子間結合を弱められたコンクリート壁を焼き菓子を割るように突き破り、中に消えた。


 咄嗟に後続のドレッドヘアと、彼が従える無数の投げナイフを捉え、自身の獲物で弾いていく。一番最後の跳び蹴りを右肘でブロック。


 初発を軽く受けさせ、胴の回転でもう片足の後ろ蹴り。見切った敵の黒人は胸を張り、受ける――エネリオンで包まれたボディに触れた靴底は一瞬で進行方向を逆転させた。


 予期せぬ挙動に身が捻れるリカルドだが、背中が地に落ちる前に放った捨て身の両足蹴りが腹部を押した。


 誤算の腹痛に飛ばされ、背中に痛み――壁表面十数センチメートルは土で出来ているかのように脆かったが、それ以上には何故かめり込まず、止まっていた。


 疑問に思ったその瞬間、男は背中から胸を貫く鋭い痛みに気付いた。下に目をやると、見覚えのある細剣の先端が左胸から生えていた。


「見事……」


 だらけた串刺しの亡骸からくすんだ赤の刃先が消える。巨大な壁の穴から出現したクラウディアは殺意から一変、簡易自動清掃機能付きの鞘に収め、澄ました顔で呟き始めた。


「……私達全ては、眠り続けるのではない。終わりのラッパの響きと共に、瞬く間に、一瞬にして変えられる……」


 聖書の一節を耳に、隣に現れたリカルドは胸の前で十字架を切り、仰向けに崩れ、今まで一切表情を変える事無く静かに息を引き取った敵の目を閉じてやると、朗読が終わるまで待った。


「プロテスタントも聖書朗読するんだな」

「宗教でも武術でも、大事なのは選んだ道が何であれ、それを疑わない事だ」

「でも先住民やイスラム教は弾圧したんだろ?」

「個人と集団を一緒にするものじゃない。どれだけ先祖に文句を言うつもりだ」

「黄金と博物館の展示品返せ。あ、スウェーデンは違うか……まあどうでもいいや」


 夕日が笑った白い歯を一層強調させる。リカルドが肩をすくめた所で耳にはめたイヤホン型通信機が話し掛けた。


『キャプテン、港は制圧完了しましたが、生き残りが確認出来るだけで六十一人、市街地に逃げました』

「分かった。予定通り合流最優先だ。潜伏ゲリラを潰そうと管理軍も兵力を分散している。味方拠点の隠しシェルターの位置は分かっているし、レックス達も三時間程でこちらに来るだろう。地の利で優位に立つぞ……どうかしたのか?」

「いやあ、スラムに居たガキの頃思い出して。黄昏に生きる、宵に友無しって奴?……やっぱ夜は苦手だ」


 トラウマか冷えた海風のせいか、リカルドは大袈裟に身震いをした。


「私は嫌いではない。目は見えないが、それ以外の知覚に集中出来る。雑念を払え」

「禅って奴か。ハンやトレバーも好きだったな、“水のように”って。てかそれ仏教じゃねえか」

「そういう事だ。日本や中国だってクリスマスやハロウィンはやるらしいぞ」

「そうじゃなくってな……まあ柔らかく生きようって事だろ?」


 不意の突っ込み役をやらせれ拍子抜けしたドレッドヘアの黒人からは不安がすっかり抜けていた。それを悟り「良かった」と愛想笑いで返すクラウディア。


「それに、友は居る。私達がはぐれた者達を導くんだ」

「お前の責任感は習いたいぜ。俺も一応親だってのに」

「頑固なだけさ。むしろ私のような者は子育てには向かないだろう」

「いいや、俺に似てロドリゴの奴やんちゃでアマンダの言う事聞かなくてな」

「それはただの遺伝じゃないのか?」


 束の間の笑い声が漏れた傍ら、くぐもった銃声が薄暗く人気の無い街の奥から微かに聞こえてくる。沈みかけの陽を背に、影のかかった通りを一望し、各々の武器を手に先へ進む。超越人達の黒い姿は瞬く間に宵に溶けていった。


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