試験
さて今俺は何処に来ているかというと、そう!王都に来ています。アルカディア。700年の歴史を誇る王国だ。俺は、先日の魔王の話からずっと考えていた。勇者に知被けるほどの地位を一年間で獲得する方法を。
たどり着いた答えはこれ。
「騎士団の試験会場はここですか?」
そう、騎士団に入ってしまえばいい。この国の勢力は二つ。騎士団と冒険者・・・前者は、自由が少ない代わりに様々な支援や国のお偉いさんと会う機会も多い。副騎士団長クラスになれば王族と会うことも少なくない。後者は、自由が多い代わりにそんな権限はほとんどない。できなくはないが、時間がかかりすぎる。だから騎士団が最適だと判断したわけだ。しかしこれにも問題があった。それは、俺の魔法を見せすぎると、騎士団長に正体がばれかねないということだ。俺は、昔騎士団長と戦っている。あまり氷結属性の魔法を軽々しくは使えない。・・・まあ、騎士団長クラスでないのなら無問題なはずだ。
「ああ、ここが騎士団の入団試験場だ・・・君は、入団希望者か?」
鎧を着た大男が話しかけてくる。
「ああ、そうですよ」
「では、入りたまえ。奥の方で試験官が待っている・・死なないようにな」
「?」
「いや、なんでもない」
そう言って、男は再び門の方に戻って行った。
奥のほうに進むと、剣戟の音と悲鳴が聞こえてきた。
「ウアアァアアアアアア」
「ま、参った・・・ぐは」
「痛えええ」
照りつける太陽の下、男もしくは少女たちは女騎士に一方的に切り倒されている。・・・来る場所間違えたかな。
「む、あなた入団希望者?ではリングに入りなさい・・・」
美しい金髪とサファイアの様に碧い目。その姿だけを見れば、貴族の潔白なお嬢様だ・・・だが、血だらけの剣と、返り血を浴びた鎧。その二つが余りにミスマッチだ・・・さも当たり前のように足元のけが人が転がっている光景を見て俺は思った。
来る場所を間違えたと・・・。
「私は、今回の試験官。ソフィア・アンデルセン。簡単にルールを説明すると・・・いたってシンプル、ルールは簡単。戦って私が見込みありだと判断したら合格。なしだと判断したら不合格。いいかしら?」
他の騎士団員に負傷者たちが運ばれていく。
「あいつらも、同じルールで?」
「ええ、話にならなかったけど」
ソフィアは溜息を吐きながら答える。
「何ならほかの挑戦者が来るまで待つ?一人じゃ怖いならだけど」
バカにしたように言い放つソフィアに少し腹が立ってきた。
「・・・さっき、あんたのお眼鏡にかなったら合格だといったよね。仮にあんたを倒したら?」
余りの高飛車っぷりに言葉が乱雑になり、敬語が抜けてしまった。
「自分と舐めてくれるのね?いいわ、私を倒したら、私の席・・・副騎士団長を譲ってあげる。まあ、絶対にありえないだろうけど」
・・・やるしかなくなった。
思わず口角が上がるのを感じる、来たな・・・いきなり任務達成の最短距離が見えた。
「後悔するなよ・・・強化」
通常の人間よりもはるかに高度な身体強化魔法によって底上げされた俺の一歩は、爆発的な加速を以ってソフィアとの距離を詰める。
「なぁ!!!」
驚愕の表情を見せるソフィアだが、流石は副騎士団長。瞬時に、回避の体制を取る。
俺の上段からの攻撃を最小限で躱し、カウンターの水平切りを放ってくる。俺はそれをバク中で回避して、さらに勢いを殺さず、バックステップで後ろに飛ぶ。
「なるほどやるな・・・」
俺は瞬時に再度距離を詰める。上段からの斬撃、下段からの切り上げ。回転してからの切り付け。
剣と剣が弾く、当たる、削る。軽やかな剣戟の音が闘技場に演奏される。
「やるわね・・・」
「ああ、この程度ですか?副騎士団長の名が泣いてますよ」
「言ってくれるじゃない・・・では、後悔し手成しても知らないわよ!!!」
バチ―――――――――。油断なんてなかったはずだ・・・耳元に、強い衝撃。
脳が揺さぶられて身体が浮き上がる。ぶれる視界で伸ばされた腕を見る。
おそらくは、ソフィアの右腕が直撃したのだろう。そう考えが至った時には、既に俺の身体は吹き飛んで地面の上に転がっていた。
完全に不意を突かれた一撃だった。油断をしていたつもりはなかった。相手に次の手を考えさせる暇すら与えず、一気に仕留める予定だった。
俺の思考の間、僅かな途切れ目を狙った、鋭い一撃。
だが・・・少し視線を上げるとそこには雷を纏ったソフィアが立っている。
「『雷神の衣』・・・上級魔法だな?」
頭を振って痛みを紛らわせながら質問する。追撃を仕掛ければ有利に進められるだろうに、ソフィアは会話に乗ってきた。これに乗らない手は無い。
「ええ、まさか使わされるとは思わなかったわ」
そう言って、ソフィアは不敵に笑うが、その顔を見れば消耗しているのは分かり切っている。
しかし、今のでダメージを受けたのはこちらも同じ。・・・いくら正体を隠すためとはいえ、魔力の半分を抑える魔具などつけてくるんじゃなかった。
「ハッ、上級魔法でこれか。案外簡単に勝てそうだな」
これは強がりじゃない・・・不意打ちを食らったが、もう回復が始まっている。この程度なら本気を出すまでもない。
「『水の球弾』」
そう俺がつぶやくと、俺の背後に100を超える水の球が出現する・・・その光景にソフィアは息をのむ。
「なッ・・・・・・・・」
数えるのも億劫になる数の『水の球弾』が、次々にソフィアへと迫る。
「――っ」
雷神の衣によって底上げされた機動力のみで、弾丸の雨を回避していく。
「・・・やるな」
残像すら見える速度で華麗に回避していくソフィアに称賛を送る。
ソフィアは、弾丸の雨を躱し、俺の背後に立った。しかし、後ろから一発、前から一発攻撃を食らう。
歯を喰いしばり、足を地につけ、吹き飛ばされることなくその場で堪え切るソフィア。振りかぶっていた剣を袈裟に振り下ろした。
が。
「無駄ですよ、消耗したあなたの攻撃なんて」
剣を素手で掴み取る。
ソフィアの表情が露骨に歪んだ。
引き抜こうとするがそうはさせない。そのままこちらへと引き寄せる。
「かかったわね、『放出』!」
「なめんな!」
身体強化魔法に割いていた魔力全てを、剣をを握る右手へと収束させた。
直後に、剣から雷が放出される。
俺は魔力放出で雷を抑え込む。
「終わりだ」
完全に隙ができたソフィアに蹴りを叩きこんだ。
「イッツ・・・」
壁際まで蹴り飛ばされたソフィアを見ながらかすかに痛む腕を見ると雷によって焼かれた傷跡が見える。
「流石に無理があったか・・・」
何にしても俺はソフィアとの戦いに勝利、副団長に慣れると思っていた・・・わけもなく、恐らくこんな口約束冷静に考えればありえないなと考えため息をこぼした。




