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始まり

痛い・・・痛い・・・寒い・・・怖い。それが、目を覚まして最初に抱いた感情。当たりは真っ暗で獣の声が聞こえる。


「ここは何処なんだ・・・いや・・・それ以前に俺は誰だ」


記憶がない。何でここにいるのかも、自分が何者なのかも、分からない。


だが、体を起こし暗い森の中を歩く。ふと、自分の体を見ると血に濡れている。あちらこちらに、切り傷やひっかき傷、捻挫などがありひどい状態なのが分かる。しかし、それほど痛みは感じなかった。そして、なぜか足は止まらない、何か重要なことを・・・やらなくてはいけないことを忘れているような感じがする。


しかし、限界が来たのか俺の意識は途切れた。


☆☆☆☆




目を覚ますと、石畳の部屋の中にいた。ベットに寝かされており、部屋の隅っこにはイスとテーブルが置いてあった。テーブルの上に、ろうそくが一本火のついた状態で放置されている。


「目を覚ましたか」


ふと前を見ると、椅子の上に座り本に目線を落とした状態で声を掛ける人影が見える。


「ああ、この暗闇では見えずらいか」


そう言って、人影は腕を振る。すると、辺りの壁についていた無数のろうそくに灯がともる・・・。


炎の明かりにともされて映ったのは、青い髪と眼そして長すぎるとんがった耳を持った美しい少女だった。


「あなたは?」


自分が何でここにいるのか?あなたが助けたのか?そんな質問よりも先にそんな言葉が飛び出した。


「私は、アイリス。君は?」


「・・・分からない」


「・・・そうか、記憶喪失か。しかし名前がなければ不自由だな・・・では私が名前を付けてやろう」


突然アイリスはそんなことを言い出した。そして指を口に当てて考える。


「いや、いきなりそんなことを言われても・・・」


そんな俺の静止は聞かず彼女は


「ルノア・・・ルノア・フリージア。それが君の名前だ。」


そう言ってうれしそうに笑った・・・その笑顔がやけに印象的だった。



☆☆☆☆



川のせせらぎが聞こえる。暖かくも寒くもない風が体を撫でていく。体を預けている気の感触を感じながら目を開ける。


「寝てたのか、随分懐かしい夢を見たな」


だが、悪い気分ではなかった・・・自分にとっては自分の人生の転換点ともいえる出会い・・・良くも悪くも。


「ルノア様!!!何処ですか」


自分の名を呼ぶ声が聞こえる。部下の声だ。焦り具合から言って恐らく魔王の呼び出しだろう・・・行くか。


「ここだよ、何の用だ」


「ああ、ルノア様。ここにおられました・・・魔王様より緊急招集です。今すぐ、城に来られたしとの事で、急ぎ準備を・・・」


「必要ない、要件は何となく分かる。転送準備は出来ているんだよな?」


「はい、何時でも」


「今すぐ飛ばせ」


「分かりました」


獣人族の部下は、その腕を俺にかざす。


「転移」


俺のっ視界が真っ白に染まっていく。次の瞬間には、森ではなく城の前にいた。

当たりは赤い霧に覆いつくされており、門番のスケルトンは直立不動のまま動くそぶりを見せない。

相変わらず、暗く陰気な城。ここは魔王城、俺が死ぬほど殺したい男の領域。


「おお、来たか。ルノア。ずいぶん遅かったじゃねえか」


後ろから声を掛けられ、後ろを振り返る。


そこには、黒い毛の獣人族がいる。より正確に言うなら、獣人族の狼種。おおよそ、狼の形を取りながら、所々狼にはない人に近い特徴がある。しかし、狼の特徴的なその鋭い眼光は、見るものを恐怖させ警戒させるにふさわしい威圧感を内包しており、大抵の奴は出会って数秒で恐怖してしまうだろう。


「飢狼・・・紅蓮のところの部隊長がこんなところに何の用だ?」


「あんたを待ってたんだよ、案内役をしろってさ」


黒い毛の狼人は、面倒くさげに言う。


「なるほどな、てことは、紅蓮もいるんだな」


「ああ、いるぜ。あの人は、先に魔王様と謁見してるけどな」


「・・・案内しろ」


「相変わらず、愛想のないこった。もっと笑えよ」


「お前、俺以外にもその口調なのか?殺されるぞ」


「ほかの四災害には、敬語さ。あんたは、ガキの頃から見てるからな、敬語つけるのがむずがゆくってよ」


肩をすくめて、悪びれず言い放つ。その仕草には遠慮の二文字は存在していない。


「お前ら、本能で強いやつには従いそうなのにな」


俺は呆れながら声を掛ける。なんとも、あの男の部下らしい。


「俺は変わり者でね」


「だろうな」


「だがあんたに言われるのは心外ってもんだ。人間の身でありながら魔王の側近である四災害の一人なんて言う肩書を持った一級の変わり者に言われるのは納得いかないぜ」


「ハァ~、いいから早く案内しろ」


「へいへい」



そう言って、飢狼は歩き始める。俺はその後をついていく。白の大門を抜ける。

視界の先に見えるのは、入り口のの大門ほどではないが、それなりに大きな門。

黒の城壁に赤い門。

見張りの上位スケルトンの1人がこちらへ優雅に一礼し、手のひらを門へと向けた。

腹に響くような重低音と共に、門が開き始める。もともと人が1人分通れる程度の隙間は空いていたのだから、そこから入らせてもらえればそれで良かったのだが、魔王軍の最高幹部相手にそんな行動はとれないらしい。


しばらく歩くと、ほかの部屋とは隔絶した大きさの扉が見える。飢狼はそこで足を止め、扉をノックした。


「飢狼です。魔王様、ルノア様をお連れしました」


「入れ」




☆☆☆☆




そこには黒いもやがかかった人型の何かがいた。圧倒的な存在感と、魔力。30年前の戦いで重傷を負いながらもなお感じさせる魔王の風格。弱っているとは思えないだろう姿に湧いて来る感情は恐怖ではなかった。何度見ても殺してやりたいほどの怒りが、憎悪が、怨恨が、湧き上がってくる。拳に力が入る。


「来たか」


「失礼します。今回は何の用ですか?」


前置きを置かずに単刀直入に聞く。


「一年後に、勇者が召喚される」


「・・・何処からの情報ですか?」


「ヤレイからの情報だ」


「未来視ですか・・・」


「・・・殺してこいと?」


「まさか・・・勇者風情何人召喚されようと関係がない。問題は、奴・・・『先代勇者』だ。あの男は、勇者の育成のためにまた表舞台に現れるヤレイの未来視でそう見えたらしい。これを機に殺しておきたい。だが、弱っているとはいえ、この俺をこんな状態にした男だ。四災害とはいえ、真正面からやり合えば勝ち目は薄いだろう。だから、この時期から王国に行け」


一瞬何を言われているのかの理解が遅れた。


「王国で、勇者に近づけるだけの地位を手に入れろ、そうすれば必ず、奴と出会う。信頼を得て確実に殺せるタイミングを作り出すんだ。その為に」


「人間である俺を抜擢したと」


「そうだ。相変わらず、呑み込みが早くて助かる・・・方法は任せる」


「了解しました」





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