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H.L.C.E ーヘルスー  作者: 三墨スミス
第二章
7/11

2-3

ツイッターやってます。三墨スミス(@Smith_Misumi)です。

感想、誤字報告など、そちらでもお受けしてます。

ドシドシ絡んで下さると、作者は泣いて喜びます。ホントです。

 依然割れるような騒ぎ声の中、再びあの調子の軽い声が会場に轟くと、会場の照明は何事もなかったかのように元通り点灯した。

 唐突な明転に目が順応していく中、会場の声は「リリシャを出せ」というヤジに方向が統一されており、そこで向けられた視線の一つに、言うまでもなくミミカが含まれていた。

 彼女の横にいる俺と里宮には構わず、ミミカの方へ近づいてくる数人は、「どこにいるか知ってるんでしょ」「出ていくときに喋ってたの見てたのよ」「リリシャの場所を教えろ」と、口をそろえてミミカに言葉の槍を降らせていた。

 この言葉の端々からも、ミミカが敵視されていた事実が窺える。

 こうして状況を整理できず、他人に当たることしかできないプレイヤーも汚いが、最も汚いのは、この状況に甘んじ、嬉々としてヤジを楽しんでいるプレイヤーがいることだ。

 もちろん、ミミカは「私は知らないの」「聞いても教えてくれなかった」と、ありのままの事実を話すが、聞く耳は持たず。

 俺も「この子は何も聞いてないみたいだぞ」と割り込んでは見るものの、「モブは黙ってろ」「部外者には関係ないでしょ」とのこと。一応言っておくが、この組合のメンバーなんだぜ? というか、外見関係ないよな。

 そんな俺の不甲斐ない様子を見てかどうか、里宮はいつの間にか舞台上に上がり、マイク越しに絶対零度の言葉の散弾をぶっ放した。


「そんな小さい子を寄ってたかって言葉攻めにして、恥を知りなさい! いい年した大人まで一緒になって! 全く、この組合の程度が知れるわ。いい? これは何もできずに居たお前らも、この状況を楽しんでたお前らにも言ってるのよ! 会話が出来ないあたり、まるでどこぞの組合長と一緒の低能しかいないのかしら」


 完全にこの組合の人間全員を敵に回す発言だと心得ているのだろうか。

 いや、里宮のことだろうから、何かしら考えがあってのことだろう。

 マイクを投げ捨てこちらに戻ってくる里宮に、小声で「大丈夫なのか、それ」と聞くと、「知らないわよ、どうでもいいでしょ」とのご返事。

 まったく、泣かせてくれるね。

 里宮が頭に来て吐いた、単なる暴言が聞けることも珍しいことだが、一挙に視線を集めた黒髪美少女は、聴衆に蔑んだ視線をただただ浴びせ続けるのみで、的を得すぎた里宮の発言に聴衆もまた何も反論することができず、真っ先に口を開いたのはミミカだった。

「お姉ちゃん、今の……最後の発言、撤回して」

 ミミカの怒気の籠った言葉に、聴衆はただたじろぐのみで、俺もたじろぐのみで。

「どうして?」

 ミミカのために放った発言の撤回要求に、里宮はうろたえることなく、返答した。

「こんな奴らとリリシャを一緒にしないで」

 ミミカのリリシャへの意思を固くしたのも、それを侮辱したのも、また里宮。

 そんなジレンマに板挟みにされてもなお、里宮の答えは、

「それは出来ないわ」

 と変わることはない。

「どうしても出来ないっていうなら、ゲームに勝って言わせる。ヘルスゲームらしく」

「それがあなたの答え?」

「そう、お姉ちゃんが気付かせてくれた、私の答え」

「いいわ、受けてあげる」

 感度調整を未だやったことのないはずの里宮が、ゲームで勝つ確率は万に一つもないのは、里宮が一番理解しているはず。それでも受けているということはそういうこと。

 それを理解して勝負を挑んできたミミカも、里宮なら勝負に乗ってくるだろうと思っての挑発だろう。


 ――しかし、そんな加熱された空気は、鶴の一声で瞬く間に鎮静化された。

『ミミカ! やめるんだ!』


「この状況は、やはりアレが流されてしまったんだね」

 俺たちの対面側から聞こえてきた声は、間違いようのない、リリシャの声だった。

 リリシャは数多の視線を全身に受けながら、急ぎ足でこちら側に駆け寄ると、ミミカと対面し、「すまない、ありがとう」と言いながら今にも泣き出しそうなミミカの頭を撫でた。そしてすぐ舞台に駆け上がると、声を大にして会場中の人々に訴えた。

「私の話を聞いてほしい! 皆が見た映像に出ていた私は、昔の私で間違いない! 多くの人はこの映像を見て、私に嫌悪感を抱いてしまっただろう! 一度でも私を信じてくれたみんなの信頼を取り戻すのが容易でないことは重々承知の上で、皆に一つ、私の願いを聞いてほしい! あの映像を見て、私にそういった感情を抱いてしまった人の誤解を解くチャンスがほしい! 期日は明日まで! それまでに誤解を解けなければ、私はこのイルカ連合の組合長の座を潔く降りたいと思う! だから、どうか最後のチャンスを私に貰えないだろうか!」

 未だ里宮の発言が会場を支配する中、ダメ押しの誠意が会場を包む。

 これこそがリリシャを組合長たらしめている理由なのだろうか。

 会場内の人々は、今まで見ることのなかった、深々と頭を下げたリリシャの切実な願いに、反旗を翻す者が現れなかった。

 そのままリリシャは暫くその状態を保ち続け、一向に反応を見せない会場へ顔をただすと、「皆、ありがとう」とだけ呟き、再び俺たちの元へ駆け下りた。

「組合に入ったばかりで本当に申し訳ないのだが、出来れば君たちに手伝ってほしいことがあるんだ。この通り」

 そう言うと、次は俺たちに向かって再び腰を折った。

「いいよな?」

「二度目はないわよ」

「すまない、助かるよ。ミミカも一緒に私についてきてくれ」

 局地的な嵐が過ぎ去り、すっかり存在を忘れ去られた有賀も、俺たちが出て行くのに気付いて後ろからついてきていた。

 追いついた有賀をちらっと見てみると、凄く満ち足りた顔をしていた。一連の出来事を差し置けるぐらい美味しかったのだろうか。

 俺も何か食えばよかったか? といっても、食う暇さえなかったんだが。

 そんな呑気な事が脳裏を去来している内に、案外すぐにお目当ての場所に到着したらしく、そこに佇んでいたのは比較的小さな可愛らしい家だった。

「小さい家ですまない。遠慮せずあがってくれ」

「ここがリリシャの家なの?」

「そう、私の家だよ。組合の活動をしている時以外の休憩程度しか使わないから、趣味のものもあまり置いてないけど、気が散るなら片付けようか?」

「大丈夫よ。それより、あなた外見とは違ってクマのぬいぐるみとかネコの置物とか、可愛い趣味してるのね」

「確かに意外だなー」

 俺ももう少し華々しい部屋を想像したな。

「よく言われるよ。昔は私もこんな外見じゃなかったからね」

「あのスクリーンに映っていたあなたは長髪だったかしら」

「そう、昔は長髪だったんだ。それも後々話そう。まあ、みんな適当なところに座ってくれ。何も出せなくてすまない」

「ところで、交流会はあのままで大丈夫なの? あれで騒動が収まるとも思えないけど」

「それなら心配いらないよ。あの交流会には昔からいる幹部たちがいるからね」

 そして各々が座るのを確認すると、「どれから話そうか」と少し唸ったあと、ミミカの方を見据えた。

「まず、ミミカに謝らなくてはいけないことがあるんだ」

「謝るって、何?」

「私が、ミミカに死んだ人がいるのか聞かれたことがあったよね」

「うん、西方の話だよね?」

「そう、でもその話が起きたのは、実は西方なんかじゃなくて……本当は東方なんだ」

「……じゃあ、あの映像って」

「ああ、そういうことだよ」

「じゃ、じゃあ、死んだ幹部って……東方の人ってこと?」

 力なく、しかし深くリリシャは頷いた。

 ミミカが孤立している状況で、死亡者の話の出所がリリシャからのものだとは薄々気づいてはいたが、今いる地方に、こんなにも身近に証人がいるとは思いもしなかった。

「……すまない、私を一心に慕ってくれているミミカに、事実を伝えるのが只々怖かった。だから嘘をついてしまったんだ……。許してくれとは言わない」

 そんなリリシャの言葉に、ミミカはたちまちのうちに頬を紅潮させると、

「リリシャは絶対人殺しなんてしないって、私知ってるもん! だから……だから、もうそんな顔しないで! 私はいつもみたいなかっこいいリリシャが好きなの!」

 涙をまぶた一杯に溜めながらそう言い放った。

 ミミカに初めて会った時の『ずっと笑顔でいる少女』という印象は、いつの間にかもろくも崩れ去っていた。

 今彼女は、自身がそう在りたいがために、自身のこのゲームでの存在理由を正している。

「かっこいいか……そうだね。私がこんなでは、皆を不安にさせてしまうのは分かっていたはずだったんだけど……。ありがとう、ミミカ。もう心配はかけないよ」

「それに、そんな謝罪をするためだけに私たちまでこの家に招いたんじゃないでしょう?」

 彼女たちの状況を、俺よりも早く察していただろう里宮は、これもまた見事に真っ黒な微笑みを満面にリリシャを諭していた。そしてミミカも、里宮とは対照的な微笑みを涙の下に浮かべていた。

「ああ、すまない……話を進めよう」

 そして、脱線してしまった話の車輪は再び軌条に乗った。


予定通り、第二章は2-5まで続きます。

次回もお楽しみに!

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