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H.L.C.E ーヘルスー  作者: 三墨スミス
第二章
6/11

2-2

常に100%の文章を練る集中力と閃きが欲しいです。切実に。


 ――一時間後、東方イルカ連合本部大会場。

 領土合併の調印式が終わり、イルカ連合本部に隣接している大会場で、領土戦後の定例行事だという、交流会が行われることとなった。

 領土戦の勝者と敗者がお互いの組織のことを理解するために開かれる行事らしいが、ぱっと見バイキング形式のお食事会。ゲームの中とはいえ、五感が働くこのシステムのお陰で、現実さながらの食事ができ、満腹感も再現されてるとか。どこまでリアル重視なゲームなんだ。

 これで一番喜んでいるのは、有賀だろうか。

 満腹感があるため、出された全ての料理を食べることはできなさそうだが、料理そのものが好きな有賀にとっては、見ているだけでも満腹になりそう、だとか。

「お兄さんたちも、遠慮せず食べていってね!」

 とのミミカの去り際のお言葉通り、有賀は単身で料理を物色しに行ったきり、帰ってこないわけだが。

「これからどうするんだ?」

 残された俺と里宮は、大量に披露されている料理に手をつけるでもなく、知り合いが皆無に等しい大会場でただ突っ立っていた。

「そうね、まずはこのゲームで死んだ人がどれだけいるのか、調査しなくちゃ」

「ということは、聞き込みか?」

「それが手っ取り早いでしょうね」

「なら、このゲームに長いこといる奴を当たった方がいいか」

「そうね。とは言っても、私たちの顔見知りって時点で、まずはリリシャかミミカに聞いてみるのが得策なのだけど」

「そういえば、ミミカが死んだ奴がいるのを聞いたことがあるって言ってたな。確か、西方の奴だっけか」

「そこは早くても明日ね。瞬間転送っていうのが使えない今は、情報集めに専念しましょう」

「……明日も俺の家に来るんだな」

「当り前でしょ」

 そうか、当り前なんだな。

 流石にここまで来たら、付き合ってやるのに吝かではないが……。

「そんじゃ、リリシャかミミカを探すか」

「そうね」

 という訳で、明日の調査が確定となり、内心予想していたことが的中しただけのことと、休みのない週末を迎える自分を慰めつつ、騒々しい会場内を探すことにした。

 この人の量と会場の広さでは、多少手間取るんじゃないかと予想していたが、案外お目当ての一人は簡単に見つかった。

 何せ、会場の端っこにポツンと一人でいるもんだから、金髪が目立って仕方がない。

 近づくと、先ほどから見せていた笑顔はどこへやら、浮かない表情でうつむいていた。

「お前、なんでこんなところにいるんだ?」

 俺の声に気付いたミミカは、苦し紛れの笑顔を俺に向けると、

「あはは、見られちゃった……」

 元気のない声でそう呟いた。

 リリシャを探しに行った手前、こんなところにいるということは、この会場にはいなかったのか、それとも。

「リリシャはどうしたんだ? 見つからなかったのか?」

 すると、ミミカは首を横に振った。

「ううん、いたけど、緊急の用事が出来たって言って、どこかにいっちゃった」

「ついていかなかったのか?」

「ついていきたかったけど、ついてこなくていい、って言われちゃったんだ。あんな焦ってるリリシャ見るの、はじめてかも……」

 取り巻きの中でも特に親しげな様子を見せていたミミカでさえ、関わらせない用事があったのだろうか。それとも、そもそもリリシャとミミカの親密性を、俺が心得違いしているのか。

 それ以前に、ミミカもロイヤルコートの一部に過ぎないということなのだろうか。

 それは時期にわかるだろう。そんなことより、ミミカの中でリリシャの存在が活力源であるのは、間違いない。でなけりゃ、こんな気弱なミミカは見られないだろうからな。

「お兄さんも、お姉ちゃんも、私を見つけた時に気付いてるかもしれないけど」

「あなた、孤立してるみたいね」

 小胆なミミカの声を遮るように、被せるように里宮が口を挟んだ。

 つくづく容赦ねーな、お前。

「見たところ、リリシャに親しげにしているあなたに嫉妬、もしくは媚を売っているあなたを憎ましく思っているってあたりかしら」

「……ははは、やっぱりお姉ちゃん鋭いね。何も言い返せないや」

 ズカズカと人の心に踏み込んでいくのも、里宮らしいといえばそうだが、気ままな性格が孤独を生んでいるという意味でこいつに寄り添えるのは、里宮が最適かもしれない。

「あなたはこの状況に満足しているの?」

「私は、リリシャさえいればいいから」

 里宮もこんな性格だから、昔から似たようなことがあった。

 小学生の頃から自己主張の激しい奴で、興味を持ったことには周りを巻き込んでまで追求しようとするため、それに疲れた奴は自然と里宮と距離をとっていた。

「本当に、リリシャさえいればいいの?」

「リリシャは、私のたった一人の友達だから」

 当時、俺はそんな無邪気に目を輝かせていた里宮に興味を持って、何を考えていたのか、話しかけてしまった。そこからだろうか、俺も変人扱いされ始めたのは。

「あなたにとって友達でも、リリシャから見れば、友達じゃないのかもしれないのよ? それでもいいのね?」

「……それでもいい」

 そこに当時から一緒にいた有賀を生贄に、三人で遊ぶようになり、そこから里宮が他の人と遊ぶことはなくなった。今となっては、これが最良の判断だったかどうかはわからないが、ここでミミカに里宮が脅しをかけているのは、言うまでもなく俺のせいだろうな。

「まったくバカバカしいわね、心配して損しちゃったわ。既に結論は出てるんじゃない」

「そう……だよね。うん、ありがとう、お姉ちゃん」

「……本題入っていいか」

「そうね」

 再び訪れた話しかけづらい雰囲気と、再び戻ってきた金髪少女の赤らんだ笑顔を見て安堵した自分の出した声は、想定したより小さいものだった。

「えと、私に会いに来た理由っていうのは、その本題のこと?」

「ええ、このゲームを長くやってる人を知らないか聞きに来たのよ」

「そか、調査で必要なんだね! でも、私は見ての通りだから、やっぱりそれを聞くならリリシャの方がいいかなー。リリシャは私よりも長いし、何より人脈があるから!」

「リリシャがどこに行ったかは知らないのか?」

「ううん、それも教えてくれなかった」

「そうか……ということは、待つしかなさそうだな」

 流石に場所は伝えてあるだろうと思ったが、よもや場所さえ伝えていないとは思わなかった。

 場所を聞いてすぐ動けるほど、このゲームに詳しいわけでもないのだが、移動できる距離なら行ってみるのも一手かと考えていたが、そうはいかなかったようだ。

「普段はこういうことないのよね?」


 里宮がミミカにそう聞いた時だった──。

 会場にある照明という照明が、たった一つを除いて全て落とされた。

 何かの催しものか、発表でもあるのかと思ったが、会場内はそんな歓迎する反応ではなかった。ブレーカーが落ちたのか、停電でも起きたのかと思ったが、ここはゲームの中。そんなシステムがあるのかさえ、俺には見当がつかなかったが、闇に包まれた会場の中で、唯一生きていたステージ正面を照らすライトの先には、静かに白幕が降ろされていた。

 そんなざわめく会場内の雰囲気をことごとく牛耳ったのは、会場内に設置された大きめのスピーカーから発せられた、調子の軽い男の子のような声だった。


『はいはーい、みなさーん! 領土戦お疲れ様です! そんなみなさんに、ぜひ見ていただきたいものがあります! では、ごゆっくりご覧くださーい!』


 その声が聞こえなくなると、ステージ上に降ろされた白幕に一つの映像が映し出された。そこには主観の撮影者と、対には髪の長い一人の女性の後ろ姿があった。

 一人は〈リリシャ〉という名前、一人は〈紅葉〉という名前がチャット欄には表示されていた。

 そして映されてからややあって、静寂につつまれた会場内に音声がこだまし始めた。


『何で、何で雨ちゃんを助けてあげなかったんですか!』

『彼女がそうなるのを選んだんだ』

『じゃあ何で涙を流していたんですか!』

『私たちに会えなくなるからだ』

『じゃあ何であんな嬉しそうな顔をしていたんですか!』

『彼女がそうなることを選んだからだ』

『リリシャさんなら助けてあげら……もしかして、もしかしてリリシャさんは自分のポイントが減るのを恐れて助けてあげなかったんですか』

『……そうかもしれないね』

『……そうですか』


 束の間の会場ジャックはそこで終了した。

 静止していた会場の空気は、映像の進行と共に、以前のそれをたちまち凌駕していた。

 俺も里宮もミミカも、恐らく有賀も驚いていただろう。

 更に的確な表現をするなら、ミミカは明らかに動揺していた。そして里宮は、驚くというよりは神妙な面持ちをしていた。

 およそ一分にも満たないその映像は、彼らにとってそれだけの衝撃があった。

「ミミカ、このゲームは名前の多重登録は可能なのか?」

 多重登録が可能ならば、同一人物でない可能性がある。

 だが、この質問に対しミミカは首を横に振った。

 詰まる所、あれは本人で間違いない。ということだ。


『みなさん、楽しんでいただけましたかー!? 楽しんでいただけたならよかったです! では、みなさん最高の組合ライフを!』


 依然割れるような騒ぎ声の中、再びあの調子の軽い声が会場に轟くと、会場の照明は何事もなかったかのように元通り点灯した。


第二章は2-5辺りまで続く計算なので、是非お楽しみに!

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