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第一章完結!
第二章も、連日更新予定です。ご期待下さい!
「お姉ちゃんたちは新しい招待者かなー? ようこそ、ヘルスゲームの世界へ!」
少女は好意的な笑顔で歓迎の言葉を掛けてきていたが、その意思など一切気に留めず、里宮は間髪置かずに声色を変え、般若のような表情で問い詰めた。
「あなた、いつからいたの? どこまで聞いてたの?」
確かに気にはなるが、黒髪美少女の顔を威圧的な形相に塗り替え、少女を脅していく姿。
さすが里宮である。しかし、流石に可哀そうだ。
「んーと、調査とか詳しい人がほしいとかー?」
だが、そんな般若のような面に臆することなく、少女は相も変わらず笑顔のまま飄々と答えた。
この少女、こんな可愛い顔をして相当肝が据わっていやがる。
少なくともこのゲームは性別と年齢を選べなかった――HLCEの性別と年齢設定が適用されているのだろう――ことを考えると、里宮と似通った何かがあるのだろうか。俺は悪寒がしてならないね。
「単刀直入に聞くわ、あなたは敵かしら?」
尚も幼い少女を恫喝する姿に、有賀は少し引き気味で気まずそうな顔をしている。止めに入ろうにも入れないSMオーラがそうしているのだろう。
よくわかるよ。入れねえ。いや、入るべきでないと直感が知らせてきている。
「敵だったら、出てこないと思うんだけどなー?」
「そう、じゃあなぜ隠れていたの?」
「だってー、こんなタイミングでどうどうと中央広場に瞬間転送するなんて、新手の違反者かと思っちゃったんだもーん」
「じゃあ、あなたは敵ではないということでいいのね?」
「モチロン! 私のことはミミカって呼んでね! よろしくねー!」
一連の流れをずっと笑顔で貫き通したミミカの豪胆さか、味方をつけたかった里宮の願望か、はたまた両者の何かが合致したのか。
それは兎も角として、情報源が味方になって、険悪な雰囲気がなくなるなら願ったりだ。
こちとら、里宮のおかげで軽い口封じを食らってたんだからな。
「それでー、調査ってことは、何かを調べにきたんだよね? もしかして、探偵さんだったりして!」
本物の少女のような、屈託のない笑顔で繰り出されるこの質問。
この言葉に敏感に反応したのは、やはり里宮である。
「そうよ。このゲームについて知りたいことがあって来たの」
そして、凛とした表情でどうどうと嘘をついてのける。
さすが里宮である。しかし、これが里宮だ。
「やっぱりそうなんだー! でも、瞬間転送を使っちゃたなら、今日はこのエリアで調査するしかなさそうだねー。リセットは明日だしー」
「ねえ、そういえば違反者だとか瞬間転送だとかって、どういうことなの? できることなら説明してもらえる?」
「うん! えっとねー、誰が使ったのかは見てなかったけど、さっき二人だけ瞬間転送でここに来たよね。でも、それって一週間に一回しか使えないコマンドなんだよー。まさか使った人が説明もほとんどないはずの初心者だとは思わなかったけどねー。それで今、領土戦っていう国取り合戦みたいなものが始まってるんだけど、そのせいで人がほとんどいなくなっちゃったこんな時に、こんな場所で使われたから、協定違反のプレイヤーでも来たんじゃないかって、勘違いしちゃった。ごめんねー」
「なるほどね。今の口ぶりからすると、自分たちの領土に別の人間が入ってくるのは好ましくない事情があるのね」
「そうなの! このゲームでは組合っていうグループが領土戦とかで勝った地域を治めていったりするんだけどね、今、東西南北に一つずつ四大勢力って言われてるグループがあって、そのうちの一つの西方で反乱が起きてるんだってー」
「協定ってのも、その組合同士が結んだものって感じかしら」
「そうそう! 最近その協定を破ってくる組合が一部で増え始めて、私みたいな警備がつけ始められたりしてるんだー」
先ほどの威圧的な形相はどこへやら、俺には心なしか里宮がニヤついている気がするのだが、まあ、前者と比べれば無害だから良しとしよう。
依然、俺と有賀がまた違う意味で喋れない雰囲気なのは、察するまでもないが。
「それで、その組合には入った方がいいのかしら」
「ふふっ、お姉ちゃんたちが調査をする上で、この東方最大の領土を誇るイルカ連合に瞬間転送してきたのは、本当にラッキーだったね! 何てたって、四大勢力でいっちばん優しくて、親切で、人望が高いリリシャが治めてる場所だから! きっと、うちの組合の人たちなら手助けしてくれるんじゃないかなー! もし仮に組合に入らなくても、この場所で未所属を狙う人はいないと思うけど、他の地方に踏み込んじゃったり、万が一があると危険だから、やっぱり入っておくのがオススメだよ!」
「さっきから領土戦やら未所属を狙うとか言ってるが、このゲームはどんな戦い方をするんだ?」
何気なく感じた俺の疑問がつい口に出てしまった。
探偵気分でいる里宮に睨まれるんじゃないかと思ったが、思いのほか頭にない質問だったようで、「そういえば、そうね」との反応。
どうやら戦いなどする気は毛頭なかったようだ。
その探偵脳には恐れ入る。
そして初めて俺の方を向いたミミカは、これもまた晴れやかな表情で話を続けていく。
「基本的にこのゲームは、ヘルスポイントっていうポイントを賭けて戦うんだけど、戦いの方法はいっぱい種類があるんだよー! 例えばね、武器を持って殺しあうゲームから、単純なものでいえば、じゃんけんとかも! 人によってはお料理で戦ったりもしてたかな? 戦いそのものにルールはあるけど、そこにお互いが新しいルールを一つずつ追加して戦うのが、このゲームのやり方かなー!」
この少女、可愛い顔をして殺しあうだか何だか、たまに少女とは思えないような発言が飛び出す度に、里宮と同類のような匂いが増していくのがなんとも複雑。
ともかく、ヘルスポイントを賭けることに間違いはなかったみたいだが。
「じゃあ、俺らはまだ戦ってないのに、俺とさと……エスエムでポイントが違うのはどういうことだ?」
と、里宮がフレンドになった時に気付いた疑問を、黒髪美少女を一瞥しつつ続けて質問してみる。
里宮のキャラクターが黒髪美少女という違和感がなければ、本名が出てからここがゲームの中だと気付いただろうな。まったくやり辛い。
「そのヘルスポイントっていうのは、ヘルスの寿命が時間単位でポイントとして換算されたものだから、違うのは当然だよー」
「詰まる所、命がけのゲームって訳か」
「確かにそうかもねー。でも、ポイントが少なくなってきた人には、国の認可を受けてる薬とかの購入を勧められるし、そもそも賭けられるポイントの上限は決まってるし、少ない人は多い人に対して、戦うメリットが設定されてたりするから、一回や二回やったところで死ぬような怖いゲームじゃないんだよー」
少ないとはいえ、余命を賭けてる時点で、このゲームがヤバいものだというのは十分にわかるが……。しかし、ゲーム内のポイントを消失したところで、人体的被害がないなら大丈夫のような気も。
「あっ、お兄さん。もしかして、ゲームの中でポイントを失っても大丈夫なんじゃないかって思ってるでしょー!」
ハハハ、図星だよ。チクショウ。
ゲームの中だというのに、この洞察力である。
「残念だけど、本当にこのゲームで死者が出ちゃってるんだー。又聞きだから正確なことはわからないけど、少し前に西方の組合の幹部の一人が、北方との争いの中で大博打を打ち続けて、その結果ポイントをなくしちゃって、翌日にニュースで失踪しているのがわかったって。お兄さんたちがどんな調査をしに来たのかはわからないけど、ここで調査をするならゲームをするのはやっぱり避けられないと思うんだー。だからね、そんな争いに巻き込まれたくないなら、引き返すのは今しかないよ?」
その問いに答えたのは、やはり俺ではない。
毅然とした態度で、そして少し憤った様子で、目を輝かせながら、里宮が。
推理通りの死亡説の可能性が見えたことで自信を得たのか、これまで探偵ごっこをしてきて、未解決のまま退いたことがあった過去は敢えて伏せて。
凛然と。
澄ましたように。
堂々と言い放った。
「私が退くなんて、ゼッッッタイ、ありえないわ!」
「……さすが探偵さんだね。私ちょっとびっくりしちゃった」
俺も堂々と嘘を吐いてのける里宮にびっくりだ。
「いいよ、じゃあお姉ちゃんたち、私についてきて。とびっきりのもの、見せてあげる!」
もうすっかり探偵だと信じてしまっただろうミミカは、腕輪で何か通信したあと、その金色の髪をなびかせてこちらに背を向けると、広場の遠景に見えていた大きな闘技場のような建物に向かって歩き出した。
また里宮も、柳が風になびくように髪を躍らせると、それに先導されるように同じく歩き出した。
その残念美少女たちの出来た後ろ姿を見て、瑕のない宝石はないという訴えにしみじみ感じつつ、俺もとぼとぼと諦念を噛み締めながら歩みを進めた。
どうやらこのゲームには現実さながらスタミナの概念があるらしく、数十分歩くと疲れが襲ってきた。このスタミナは全キャラクター統一で同じ値だということなのだが、やっとのことでたどり着いた、やたらに大きい建物のそばまで来ても金髪と黒髪の表情にその様子を窺うことはできなかった。どうなってやがる。
そして建物とは対照的に小さな扉の前で振り返ったミミカは、俺らの顔を確認するように視線を泳がせると、真剣な面持ちで口を開いた。
「もう一度言うけど、ほんとうにいいんだよね?」
「この私に二言はないわ」
里宮の発言に俺と有賀も肯定の意思を示すと、ミミカは元通りの笑顔で扉に手をかけ、「ようこそ、ヘルスゲームの世界へー!」という言葉と共にその扉は開け放たれた。




