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H.L.C.E ーヘルスー  作者: 三墨スミス
第一章
2/11

1-1

元々書き上がっている部分を、小分けにして載せていきます。

ご期待下さい!

 高校生活二年目にして、部活動というものに入っていない俺は、ある種の被害者である。というのも、例の二人、特に女の方が大きく起因している。

 入学当初、俺は何らかの部活動に入るつもりでいた。特に何かやりたかったわけではないが、目新しい部活動が少なくなく、勧誘も積極的に行われていた。昔から仲の良かったあの二人が同じ進学先になっているのは知っていたが、その入学初日、驚くべきか里宮は、一年生にして探偵部という部活の創設を図っていた。一方の有賀は、料理研究会に惹かれていたらしいが、入学式終了と共に俺と有賀を呼び出した里宮は、双方に部活動への創設協力と、無断に他の部活動への入部を禁じられることとなった。

 実に横暴である。

 だが結果的にはその努力もむなしく、部活動の創設は断念する方向となった。かくして、未所属三人組が出来上がり、一年時はクラスもバラバラになった俺たちは、昼の間に集まって飯を囲う流れができた。


 こうして現在。幸か不幸か、二年にして学科別三クラスで、全員同じクラスとなってしまった。一年時に仲の良かった人は、これもまたバラバラになってしまい、必然的に他の人との会話交流などは里宮と有賀との会話で阻まれ、仕舞には、担任の要らないアイディアによって、俺を挟んで三人横に並ぶ席が配置される始末となった。

 そうして今も、表情から眠気を漂わせている彼らに挟まれているのである。

 その上、今日は何を企んでいるのか、席に着いてから一向に口を開こうとしないので、この鬱屈な空気を換気するために、仕方なくこちらから問いかけてみる。

「──昨日、夜更かしでもしたのか?」

 心配するでもなく、冷やかしでもなく、天井を見ながら、風にさらわれそうな程さらっと吐いた俺の言葉に、里宮は待ってましたと言わんばかりに、伊達メガネのブリッジをクイッと持ち上げると、先ほどまでの眠そうな表情はどこへやら、呆れかえった表情で話し始めた。

「朝方までネットを虱潰しに漁ってたのよ。昨日の聞き込み調査中、私はちょっと気になった噂話が何個かあってね……。まず一つ、もみもみは最近ヘルスを頻繁に気にするような仕草をしてたこと。二つ目、もみもみのヘルスに見慣れないアプリケーションが表示されていたのを目撃した人がいること。三つ目に、ヘルスの正式連携外アプリ、いわゆる裏アプリがあるという噂があるということ。それらを裏付ける証拠が欲しくてね」

 この間、ちらっと有賀の方を見ると、自分も話したいというような雰囲気を漂わせていたが、哀れ有賀。そんなことはお構いなしに、里宮は続けた。

「そしたら、ヒットするのは噂の域を出ないものばっかり。ヘルスの寿命を操作されてしまうだとか、ウイルスが入ってしまっただとか、インストールしてはいけないアプリがあるだとか? ヘルスの個人情報は国が管理してるようなものだし、ヘルスの定期検査も国が指定した医療機関じゃないと出来ないし、アプリに至っても、厳しい審査があるみたいだし? そんなのが現実にあるなら、もはやオカルトね」

 里宮はため息を一つ、机の上で伸びをしながら清掃の行き届いた白地の床に落とすと、里宮に言動を抑制されていた有賀が、ここぞとばかりに話し始めた。

「俺もそんな感じだったよ……。アプリなんて沢山あるから見慣れないものがあっても気にしないけどさ、急にヘルスを気にしだすなんて、何かあると思うんだけど。涙の真相は、門山先生に直接聞くしかなさそうだなー……」

 それだけ言うと、有賀も残念そうな表情で、腕を組みながら天を仰ぎ始めた。

 それから二人は、始業の鐘が両者の鼓膜を打ち付けるまでそのままの姿勢を崩さず、さも不満げな表情を満面に湛えた彼らに挟まれる形で、一日のスタートを切ることとなった。


 ――だが、そんな二人の顔の歪みが変化するのに、時間を要することはなかった。

 決して晴れた表情になったわけではなく、朝礼の担任の一言で、歪みは驚きの表情へと変貌を遂げたのである。もしかすると、俺も驚きの表情をしていたかもしれない。

 担任は「門山先生が体調不良で学校に暫く来れなくなってしまった」と、言い放ったのである。

 これには彼らや俺だけではなく、周囲のクラスメイトも驚きの色を示していた。

 もはや、怪奇現象。

 小学生の子供の頃のように活気盛んな行動力と、純粋な好奇心、何事にも前向きで良くも悪くもプラス思考の彼女が、体調不良だけで休むことは考えられない。

 俺も里宮も有賀も、きっとこう思っていただろう。


『明日、出勤してきたときに聞こう』と。


 学校の備品ですら愛でて、本人曰く、「ここは私にとっての天国」とまで表現した場所に来ないはずはないと、高をくくっていた。

 そんな矢先の一言に、隣で変顔を披露していた二人は、驚きの表情で固まるという、これもまた変な顔を披露するに至りしめた。

 教室中に蔓延したびっくり細菌は駆除されることのないまま朝礼が終わり、二人の度々変化する表情を横目に昼はあっという間に訪れ、感染したままに、またいつもの場所で恒例の談義タイムは始まった。

「まさか、もみもみが学校に来ないなんてことが起こるなんてね……」

 俺もまさか来ないとは思ってなかったよ。

「今日聞けばいいと思っていたのが、甘かったのかなー」

「まあ、私もそう思ってたから、予想外の事態ってだけよ」

「さて、どうすっかなー。情報なし、当人なし、状況的には詰みって感じ?」

「そんなことないわ。もみもみのお見舞いってテイで、家を聞きだすのもありだし、噂でまだ調査できてないこともあるしね」

 俺は普段休まないような人が、休んでる理由を聞くなんてマネしたくないぞ。

「私だってそんなことしたくないわよ……。でも、私の探偵と女の勘が嫌な予感がするって警告してるのよ」

 探偵と女の勘が、ねぇ……。

 俺には嫌な予感がしている人の目はそんなにキラキラしていないと思うぞ。

「まだ調査できてない噂って何かあったっけ?」

「あれよ、裏アプリのダウンロードは招待状がきた人のみに、って奴」

「あー、確かヘルスゲーム? だっけか」

 ヘルスゲームか、いかにもな名前だな。

「校内で招待状を受け取った人がいないか、調査できてないからね。必要があれば、校外も視野に入れるべきね」


 ……? まさかね。

 さすがに都合が良すぎる気はするものの、恐る恐るHLCEの受信履歴を開く。

 受信履歴の一番上のタイトルに〈HLCE-GAME〉の文字。

 紛れもない、それである。

 今朝見た時は、アプリケーションの宣伝か何かかと思って、スルーしていたのだが。

 ああは言ったが、里宮の勘の的中率はかなりのものがある。

 どうやら神様は俺たちに要らない気をまわしてくれたようだ。


「アオ、さっきからヘルス見て、どうしたの?」

 ずっとHLCEを見ながら、地震で小刻みに揺れている石像のような挙動をしていたであろう俺は、おもむろにHLCEの受信履歴を二人に晒しあげると、それを見た彼らは一瞬動きが固まったかと思うと、同じくプルプルと震え出した。

「ま、まさかこんな身近から証拠が湧き出てくるなんてね……。アオは油田か何かなの?」

 喜色満面で喜ばしいことだが、俺は毒物を掘り当てた感じしかしない。

「いやいや、ソウは石油だな!」

 喜色満面で喜ばしいことだが、さっきからその例えは全然嬉しくないぞ。


 そして里宮は矢庭に立ち上がると、次なる計画を得意満面に、高らかと宣言した。

「明日、アオの家に集合!」


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