魔王が死んだ日
俺の名前はグラウス・ローレンベルク。現魔王だ。
そして転生者でもある。
・・・ちょっと待って。逃げないで。
って通報しないで!!?それも黄色い救急車呼ぼうとしてない!!?止めて!!!まだ俺は正常だ!!!
・・・ふう。まあ、そんなこと言われたら通報したくなるのは分かるけどさ。
まあ、いい。気を取り直して、俺は魔王だ。そして転生者だ。いつも俺は脇役・・・友達の恋路を手伝ったりしていた。なんか良く分からん死に方をして神様に転生させられた哀れな転生者・・・かな。
自分で自分を哀れって言うのはおかしいと思うけど死んだ理由が酷いんだよねぇ。妹の彼氏のそのヤンデレに何故か殺されると言う理不尽な死に方をしたんだ。
俺…関係無くね?そりゃ、妹の彼氏は俺の親友で、俺と遊んでる内に出会ってたよ?そして親友が俺の妹と付き合い始めたって聞いて先にリア充になりやがってとか思ってたよ?あいつと妹が付き合う原因が俺って言うことは分かってるよ?だけど酷くね?
まあいいや。それよりも神様の方が酷いんだよ。
転生したのは良いのだが、神に「お前は死する運命だ」とか「伝説を作り出す為に転生させる」とか言われたんだ。頭湧いてるよ。基本好き勝手していいらしいけど、最後は勇者に殺されるんだってさ。特典ももちろんあるよ。攻撃力、防御力、魔法全てが最高クラスになるらしい。チートだと思うだろ?残念。この特典は最高〝クラス〟であって最強では無いんだ。つまり才能がある奴が死ぬほど努力すれば簡単に超えられるレベル。
つまり、どうあがいても理不尽の塊の勇者には勝てないという事だ。
酷いよな。人の努力を軽々と超えていかれるのも辛い。
・・・どうでも良いことだな。そう言えば、何故人間と魔族が敵対しているかと言うと魔物にある。
知っての通り魔物は生物全てに敵対する生物だ。ドラゴンやユニコーンとは違う。生物ではない生物。倒したとしても魔石だけが残る謎の敵。そう言われている。これを人間は全て魔族の作り出した生物兵器と主張しているらしい。勘違いも甚だしい。俺等魔族は何もしてはいない。そして魔物も作り出してもいない。そもそもこの世界の魔物は知能もつ生物全ての汚れた心、つまり憎悪などが集まって出来た化け物であって我々魔族の敵でもある。
それなのに全ては俺たち魔族が悪いと思い込み、魔王討伐隊を編成した。その中に勇者が居るらしい。
良いだろう。やってやろうじゃないか!!!前世だって散々脇役をやってきたんだ。踏み台にだってなってやる!!!と意気込んで今滅多に使わない玉座に座っている。だって玉座で踏ん反り返る位なら自室で書物の検査やってた方がマシだもん。柄じゃねぇし。
何故玉座に座ってるかと言うと、どうやら今日勇者がここに来るらしい。
まあ、仕方ない。配下には事前に帰って貰ってるからな。強制送還だが。泣きながら嫌だとか一緒に戦いますとか言っていたが、俺の道連れなんて死に方なんてしてほしくないからな。
自己犠牲?結構だ。俺一人の命で全員が助かるなら良いんだよ。
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「ようこそ、我が城へ。歓迎しよう。」
俺は勇者に話かける。それに対して勇者は反応なし。
勇者の装備は純白の鎧に金の模様の施された鎧。そして報告書にもあった聖剣グラムを持つ。確かグラムとは怒りを意味するのだったか…聖剣なのに怒りとはこれ如何に…
「さて、勇者よ。聞こう。貴様は私に何を望む?富か?名声か?それとも世界か?」
「…」
はて、無視か…まあいい。
「言葉は不要か。ならば剣を抜くがいい。それが貴様がここに来た理由であり、目的でもあるのだろう?」
その言葉を聞き、勇者は聖剣を抜く。そして俺は次元から愛刀・叢雲を取り出す。この刀は俺が自分で打った刀。よく切れ、刃毀れを起こさないように打った、聖剣の様に魔法の力等ない刀。だが、俺にとってはこれが聖剣であり魔剣でもある。
魔法を叢雲に乗せ、八相の構えを取る。
「その意気や良し。我が武、その身を持って得と味わって行くが良い!!!」
俺の言葉が発破となり、戦いの火蓋が切って落とされた。
勇者は聖剣で魔王に斬り付ける。だが、俺は自身の魔力を剣として具現化し、その斬撃を弾き返した。
そして一瞬。ほんの瞬きの瞬間に十の斬撃が飛び交った。白い剣閃が飛び交い、火花を散らす。
お互いに一歩も譲らない戦いが続いた。均衡が保たれていたが、その均衡は唐突に崩れ去った。
何故なら俺が跪いたからだ。
「魔力の吸収…戦闘をしながら魔法を無詠唱で発動し、維持していたと言うのか…」
俺の体が言う事を聞かなくなった。恐らく妨害系の魔法も展開していたのだろう。
「ふっ…ははっ。分が悪い…」
防御系のスキルはほぼ全て取ってある、がそれも魔力が無ければ意味がない。スキルは魔力で維持されている。子供の頃から鍛えていたから大魔法を連発したとしても魔力切れ等起こさないほどだ。それをすべて吸い出すとは恐ろしいものだ。
「素晴らしいな。ああ、見事だ。俺を欺き、貪欲に勝利を望む。それでこそ戦士であり、勇者だ。」
ああ、負けるのか。悔しいなぁ。
「なあ勇者よ。貴様は我に…いや、もう隠す必要はないな。死ぬんだからな…」
もう、諦めよう。もう終わったんだから。
「お前は俺に何を求めた?いや、世界に何を求めた?」
「…」
「…何も言ってはくれねぇか…まあ、良いさ。どうせ死にかけの俺の言葉なんてなんも意味はない。」
魔王の目から涙が零れた。
「酷いなぁ。神様も世界も、俺を道具としか思っていない。いつも脇役ばっかで疲れた。そして最後は他人の踏み台となって死ぬ。理不尽だ。俺はあいつ等との生を望んだのに、それすら許されないのか…」
俺の口からポロポロと愚痴が零れ落ちる。
「…もう疲れたなぁ…勇者…俺を殺すといい。もう、俺の役目は終わったんだ。好きにしなさい…」
俺の言葉に従う様に、俺に近付き剣を振り上げる勇者。
そしてその剣は振り下ろされた。その剣は早かったが、俺にはその剣がゆっくりに見えた。
今までの日々が走馬灯の様に思い出された。父母と暮らした日々、友達とバカをやった日々、友達の恋路が成功した時の喜び、そして転生した後、皆の努力に報いようと頑張った日々、部下が結婚した時にやったパーティー、そして民の笑顔等々、色々な思い出が出ては消えた。
「ああ…死にたくないなぁ…」
最後の最後で本心が現れた。だが、その本心は、淡く消え去った。
俺の意識は一瞬で刈り取られた…
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天幕付きのベッドの上で目が覚める。
なぜか生きてる俺。
「知らない天井だ…」
つい零れる名台詞。
「てかマジでここどこ!!?」
部屋を良く見渡す。可愛らしいベッドに化粧台、そしてぬいぐるみ。はい、どう考えても俺の部屋じゃありません。いやマジでここ何処?
「情報を探さなくちゃな…」
誰も居ない部屋で一人呟く。ベッドから降りようと足を下す。その際首元から『ジャラリ』と鉄がぶつかり合う音が響いた。
恐る恐る見てみるとそこには犬に首輪をするように黒いレザーの首輪が…
「は?」
首輪に触れる。幻覚ではなくちゃんとした質量を感じる。ずっと付けていたからなのかほんのりと温かい。
「ふん!!!」
引きちぎろうと力を入れる…が、ダメ。千切れるどころか軋みもしない。
「えぇ…」
困惑。ひたすら困惑。なんで?こんな首輪程度、引きちぎるのは簡単なはず…
一生懸命思考を巡らせていたら部屋の扉が開いた。
「…」
「…あの、助けてくれませんかね?」
扉から出てきたのは恐らく17歳程度の少女。いや、まあ、この世界だと女性は14で成人だから一応大人の女性になるけど…
「えっと、あの~…」
その少女は何も喋らない。あの勇者に少し似ているなと考えていたらその少女は手に持っていた手桶(水入り)と手拭を投げ捨て、こちらへ小走りで走ってくる。
「へ?」
突然の奇行に唖然とする俺。そんなのもお構いなくこちらへ来る少女。そして俺に抱き着く少女。
「え…」
「…」
「ちょ、ま、えっ」
少女は俺に抱き着いたまま動かない。
その少女を引き剥がそうとしたら耳元で「逃がさない」と言われた。
どないせぇっちゅうねん…
続かないと言ったな。あれは嘘だ。(土下座)