分かれた大陸、砕けた王冠 3 「魔法の言葉」
「久しぶりのお客さんだ」
サーナダに対して友好的にふるまうそれは
彼が生きてきた中で、今まで一度も見た事が無い生き物。
徐々に体の自由が利くようになったサーナダは
一刻も早く、その場から逃れようとする。
ところが、いくら足搔いてもそれは叶わない。
諦めて死を覚悟する。
そんな彼の様子が可笑しかったのか、声を出して笑う生き物が
ようやくもぞもぞと動き出すと、その姿はやがて人型になった。
見慣れた人間の姿になったからと言って、元は化け物。
その化け物が再び口を開いた。
「ここを訪れた人間の中でもひときわ大きな力を持つ者よ
お前のいる世界を、あるべき姿に戻すため、その力を活かせ。
そうすれば、お前にもその恩恵が与えられるだろう」
意味の分からない話。
自分はただ、畑が無事ならそれで良い。
そんなサーナダの意志とは関係なく、脳裏に刻まれる言葉。
頭の中でその言葉を反芻していると、いつの間にか化け物は消えていた。
いや、いつもの見慣れた風景が目に飛び込んでくる。
「おおぁう!」
当然現れたサーナダに驚いて声を上げたのは、同じ村の住人のものだ。
「さ・さーなだ?」
二年前の嵐の夜に、行方知れずになったサーナダが
突如現れ、しかもずぶ濡れの状態。
そんな彼に起こった不可思議な状況に、彼を神聖視し
神と崇める人々が集い始める。
それが大陸を、そして王冠を分断するきっかけとなっていった。