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アルラウネの悩み #1

 今日は、三人一緒に電車で登校した。

 八重ちゃんは電車に乗るが初めてだったらしい。さすがお姫さま(?)


 わたしたちは校舎の階段で舞桜まおちゃんと別れ、二年の教室に向かう。

「では――」

 教室の近くまで来たとき、

「姫ちゃん。ここからの私たちには二つの選択肢があります。

 一つめは、一緒に教室に入るという選択。

 姫ちゃんはお姫さまなんですよね? 昨日転校してきたばかりの新参の私と、仲良く二人で登校してきたら、無用に嫉妬されてしまいませんか?

 ですので二つめは、少し時間を空けてバラバラに教室に入る、です。

 どちらにしますか?」

「なにそれ? そんな選択肢いらないけど?」

 わたしは八重ちゃんの手を取って、そのまま教室に入っていった。


「おはようございますっ」

 見た人が思わず笑顔になってしまうような――そんなとっても愛らしい微笑みをたたえて、教室のクラスメイト(お姉ちゃん)たちへ朝の挨拶をする。

 彼女たちは口々にあいさつを返してくれた。

 でも、わたしと八重ちゃんを見て、しん、と教室が静まり返る。

 何か訊かれる前に、

「登校中に八重さんと偶然お会いして。昨日はぜんぜん機会がなかったので、来る途中に色々とお話していたんです。八重さんは、とっても素敵な方でした。それに気も合っちゃって――もうわたしたち、こんなに仲良くなったんですよ」

 そう言って、つないだ手をみんなに見せる。


 わたしのお姉ちゃんに、わたしの言葉を疑う人なんかいない。

 それに、嫉妬されたりなんかもしない。

 ――八重ちゃんはわたしに見合うだけのスペックをもっているのだから。

 後は、いまのわたしたちの状況を見た彼女たち次第。


 わたしに対して愛が強いクラスメイト(お姉ちゃん)たちは、八重ちゃんよりもさらに気に入られようと尽くしてくれると思う。

 ある意味嫉妬に近いかもしれないけど、ネガティブな感じにはならないはず。


 わたしを愛でているクラスメイト(お姉ちゃん)たちは、八重ちゃんといることで、一緒に愛でてくれるようになると思う。

 八重ちゃんは綺麗系でも可愛い系でもあるし。


 わたしの意図を察したのか、八重ちゃんもわたしに合わせて、言葉で仕草で仲のよさそうな雰囲気を醸し出してくれた。


 ――というわけで、昨日の敵は今日の友になったのでした。めでたしめでたし。




 二時限目までは、教室で座学の授業を受けて。

 三時限目の授業は、魔術を使った対天使用の戦闘基礎練習だった。

 そのためにわたしたちが向かっているのは、校内にある巨大な植物園。

 教室移動の際、偶然、八重ちゃんと二人きりになった。


「姫ちゃんは、私よりもお姫さまですね」

 その言葉に応えて、わたしはふざけてカーテシーをしてみせる。

「それはどうもお姫さま。光栄ですわ」

 たぶん皮肉の意味が強いんだろうけど、純粋に褒め言葉として受け取っておくことにする。

「私は今後も姫ちゃんに協力しますので、代わりと言ってはなんですが、姫ちゃんも私に協力してくれませんか?」

「――昨日の話? ……それは脅しなの?」

「いえ、ただのお願いです。私も学校生活は楽しく送りたいですし、それに私が少しくらい態度を変えても、姫ちゃんなら簡単になんとかしちゃいますよね?」

 ……なんとかはできる。でも、簡単じゃない。

 それぐらい、八重ちゃんの存在は、大きい。

「ちょっとだけ考えておいてあげなくもないかも」

 とりあえず、言葉を濁しておいた。



 植物園に入ると、大きな花の中から人の形をした植物が姿を現した。

 アルラウネ――知性をもった植物で、ほかの植物たちにとって、お姫さまのような存在。

 植物といっても、アルラウネの人の形をした部分は、緑色の肌をしていたりはしない。わたしたちのような肌の色。

「あら? また違うヒトを連れていらっしゃるの? 淫乱姫おひめさま

「……アルルー? あなたにそんなこと言う資格、ないでしょー?」


 アルラウネたちは、魔術によって生まれてきたものではなくて。

 もうずっと昔から世界に存在していて、人と対等に共存してきた。

 お互いに食料の提供をすることで、いまも友好的な関係を続けている。

 アルラウネからは、植物の果実や肉、卵などが提供される。

 わたしたちひとは、代わりにあるものを提供する。


 あるものとは、人の『ある体液』とか、人との『ある行為』とか。

 ……いまの時間だと、これ以上はっきりは言えない。


「それに――ほかの人がいる前でそう呼ぶのはやめてって言ってるのに……それとも、たちばな先生に言いつけてほしいの?」

「――ひっ、卑怯ですわよ!?」


 橘先生というのは、この植物園を管理している先生。

 植物の世話だけでなく、ここにいるアルラウネたちに食料提供もしている。

 さっきは対等と言ったけど、橘先生とここにいるアルラウネたちは少し力関係が違う。

 ――彼女にとって、アルルたちは娘みたいなものだから。

 つまり、アルルを生かすも殺すも彼女次第。

 といっても、本当に殺したりすることはない。そうではなくて。


 わたしは優秀な生徒なので、先生たちにも気に入られている。

 もちろん橘先生にもそれなりに。


「『ごめんなさい』は?」


「仕方ありませんわね――わたくしが悪かったですわ」

「アルルさんはまた、橘先生に『お預け』してもらいたいんですねー。わかりました。わたしからよく頼んでおいてあげます」

 わたしは、にこにことした優しそうな笑顔で、アルルを見る。

「くっ――!」

 とても悔しそうな顔をして。

 アルルはわたしに頭を下げた。

「……申し訳ありませんでしたわ、姫乃様。二度とそのように呼びませんので、どうか私をお許しください……」

 頭を下げることで、わたしの眼下に収まったアルル。

「――いいでしょう。許しますっ」

 一連のアルルとのやりとりを見ていた八重ちゃんが、

「お二人とも仲がよいのですね」

「貴女、目や耳がついていらっしゃらないの――!?」

 アルルは茎を動かして、植物園の奥の方へ逃げるように去っていこうとする。

 花びらを掴んで、わたしは彼女を引き止めた。


「アルルさん。一緒に行きましょう?」


「ひっ!」

 びくっ、と怯えるアルル。

「わたしたちを運んでいってくれますか?」

「わっ! わかりましたわっ! わかりましたから、その手を離してくださいませ!」

 応えて手を離すと、つるを伸ばしてわたしと八重ちゃんを掴み、花の上に乗せてくれた。


 わたしたちを乗せたアルルは、樹木の生い茂る植物園の中を、するすると素早く進んでいく。

「アルルさんは、とても親切な方なのですね」

 微笑みながら、そう言う八重ちゃん。

「……なんだか、姫乃が二人になったように思えますわ」

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