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ご注文は魔女ですか? 2人

 わたしたちの乗った車は、見慣れた我が家に無事到着した。

 どこか変な場所へ連れて行かれなくてよかった。


 わたしの家は、それなりに大きい一軒家。

 玄関を開けた時に『ただいま』とは言うけど、返事はない。

 だって、親はどちらもいないから……ちょっと言葉が足りなかった。仕事で世界中を飛び回ってて、いまこの家にはいないだけ。

 舞桜まおちゃんのママたちと四人でPTパーティを組んで、『魔女ウィッチ』として世界中の人たちを天使から守っている。自慢のママたち。

 幼い頃からそうだったので、家に一人でいることには慣れてしまった。

 ……嘘。舞桜ちゃんがいつもいてくれたので、二人でいることに慣れてしまった、のほうが正しい。


 手早く着替えを済ませて、また玄関先まで戻ってくる。

「お待たせしました。じゃあ、舞桜ちゃんを運んでください」

篠宮しのみやさん、あの――」

 なんでしょう? と、わたしは小首をかしげる。

「眼鏡姿も可愛いですねっ」

 知ってる。

「――ありがとうございます」


 舞桜ちゃんの家は、わたしの家のお隣だった。

 勝手知ったる幼馴染の家。合鍵も当然持っている。

 白羽しらはねさんに舞桜ちゃんの部屋まで彼女を運んでもらい、ベッドに寝かせる。


 ちなみに。

 わたしの部屋と舞桜ちゃんの部屋は向かい合っているので、カーテンを閉めなければ大窓からお互いの部屋の中が見える。

「これは――?」

 バルコニーを指さして、白羽さんが尋ねてきた。

「えっと、それは――」

 バルコニーの柵を越えて、お互いの部屋を行き来することもできる。

 だけど。

 それを危ないと思ったママたちが、バルコニーを増築して、柵のある渡り橋が架けられた。


「夜這い用ですか?」


「違っ!? 違います!!」

 最近の舞桜ちゃんはちょっと怪しい所がなくもな……とりあえずすぐに否定して、話題を切りかえる。

「――そんなことより! 夕ごはん作りますから、食べていってくださいね! さっき助けてもらった借りは、それでなしにさせてもらいますから!」

「借りなんてそんな……わたしは『魔女ウィッチ』ですから、天使から人を守るのは当然です。でもご飯は頂きますね」


 借りを返すため――のような感じで、ごはんを作ると言ったけど。

 貸し借りの話なんて本当はどうでもよくって。

 夕ごはんは、何か適当に買ってきてもよかった。

 でも。

 わたしのために、あれだけ舞桜ちゃんががんばってくれたし。

 今日くらいは、わたしが作ってあげてもいいかもしれない、と思ったから。


 私も何か手伝います、と言った白羽さんと一緒に、舞桜ちゃん家のキッチンへ向かった。

 キッチンには着いたものの、何を作るかまったく考えていなかった。

 いつも舞桜ちゃんが作ってくれるので、そもそもわたしに作れる料理なんて……。

 一人悩んでいると、それに気づいたのか、白羽さんから提案があった。

「冷蔵庫に牛肉とか卵とか、ほかの材料も入れておきましたので、それですき焼きにしませんか? それくらいなら姫乃さんにもできると思います」

 わたしの料理の腕を知ってか知らずか。ばかにされているようで少し言い方が気になったけど、それよりも……。

 冷蔵庫を開く。

 たしかに牛肉と卵、すき焼きに必要そうなほかの食材も色々と入っていた……いつの間に。

「どこで手に入れたんですか? こんなめずらしい食材」


 魔術の研究が進んだことで、わたしたちの食料事情はほんの少し変わった……らしい。

 現実には存在していない、なんだかよくわからない生物――『動物』。

 その生物の肉とか卵とか、そういうものを魔術で創れるようになったから。

 あ、卵といっても孵化させられるわけじゃなくて、本当にただの食材なんだけど。


 とにかく。そういう魔術はかなり例外的なもので、使える人はまだまだ少なくて、あまり食べられる機会がなかった。

 意図せずママたちが『魔女』としてめちゃくちゃ稼いでくれているおかげで、お金に苦労はしてないけど、そういう食材はそもそも市販されていない。

 お金を積んでも、めったに手に入れられるものじゃなかった。


「――ふっふっふー。秘密です!」

 得意顔でそう言って、すき焼きの準備を始める白羽さん。

 ……なんでエプロンとか調理器具のある場所知ってるの? わたしもどこにあるか知らないのに。

 さておき、わたしも手伝うことにした……あれ? わたしが手伝う側?

 すき焼きの作り方は、植物の肉や卵を使ったものと変わらないはずだから、わたしにもできる……はず。



 ……結局、ほとんど白羽さんが作ってくれた。

 でもわたしもがんばったと思う。

 いつもより、犠牲になった卵の数が少なかったし。


 白羽さんの予想通り。

 夕ごはんのすき焼きが完成する頃には、舞桜ちゃんも無事に目を覚ましていた。

 舞桜ちゃんを加えて、三人で鍋を囲む。

 そういえば、さっきの白魔術の謎をまだ訊けていなかった。

 車の中ではなぜか白羽さんもすぐに寝てしまったし、料理の準備中は必死でそれどころじゃなかったし。

 とは言え、小難しい話は後にして、いまはご飯に集中したい。

 めったに食べられない牛肉は、やっぱりちょっとだけ楽しみだった。



 食事中に舞桜ちゃんから、天使との戦闘の結末を訊かれた。

 白羽さんは、自分が通報で駆けつけた『魔女』たち・・の一人で、なんとか天使を倒しきることができた、と本当のような嘘の話をしていた。

 ……もしかしたらあの白魔術のことは、舞桜ちゃんには知られたくないのかも。


 もちろんそれ以外にも、たわいもない色んな話(気のせいか舞桜ちゃんも白羽さんもわたしの話ばかりしてた気がする)をして、それなりに楽しい食事を終えた。

 『牛』がどんなものなのかはよく知らないけど、その肉はそこそこおいしかった。また食べてあげてもいい。



 食事を終えた白羽さんは、舞桜ちゃんにばれないよう、わたしにこっそり耳打ちをして、あっさりと帰っていった。

 そのあとはいつも通り。

 舞桜ちゃんに勉強を教えたり、テレビ番組を見ながら喋ったりして時間を過ごしたあと、バルコニーの橋を渡って自分の部屋に帰った。


 白羽さんの耳打ちの内容は、『またあとで会いましょう』、だった。

 『あと』とは言われたものの、連絡先も知らないし、いつ来るのかわからない。

 とりあえず、さきにお風呂に入ることにする。

 ほんの数年前までは、舞桜ちゃんの家で一緒に入ってたけど、最近は自分の家で一人。

 ちょっと寂しい。でも、お互いのためだからしかたない。



 お風呂の中で、自分の胸とにらめっこするわたし。

 順調に成長してはいる……と思う。きっと。

 そもそも白羽さんも舞桜ちゃんも年上だし、わたしの中の比較対象がおかしいのでは?

 別にいまでも小さくはないし。

 むしろわたしの背の高さから考えると、見た目的にはちょうどいいか、少し大きいくらい?

 わたしの胸が膨らみ始めてきた時は、舞桜ちゃんのほうが全然で、でもいつの間にか大きな差をつけられていた。


 ふーっ、と息を吐いてお湯の中に溶ける。

 だいじょうぶ。ママたちは二人とも大きいし、まだまだこれから――


「ひっめっのっさーんっ!」


 わたしの健気なポジティブ思考の息の根を止めるように。

 その大きな二つの丘を揺らしながらガラス戸を勢いよく開けて、白羽さんが突然浴室に入ってきた。無駄に元気な声が、お風呂の中に響く。

「白羽さん。別に一緒に入るのはいいんですけど、もう少し慎みをもってください。わたしが裸眼じゃなかったら、全部はっきり見えちゃってますよ?」

 わたしの言葉に、小首をかしげる白羽さん。


 白羽さんは上から下まで包み隠さず、生まれたままの姿だった。

 わたしも年頃の女の子だし、もう少し気を使ってほしい。普通の女の子相手だったら、押し倒されても文句は言えないと思う。

 白羽さんの裸を見て、動揺はしないけど少し赤くなってしまい、それとなく顔を逸らす。


「慎み、ですか? んー……難しいですね。だって、私に慎まないといけない部分なんてありませんから! わたしは見られても平気です!」

 と、白羽さんは恥ずかしげもなく、文字通り胸を張って言う。そしてまた強調される……くっ。


 かけ湯をしてから、白羽さんが同じ湯船に入ってくる。

「失礼します」

 こういう所は、ちゃんと礼儀正しい。この人は、よくわからない。

「姫乃さんの家のお風呂って、それなりに大きいんですね。もっと小さなお風呂で、肌触れ合いながら入りたかったのにー」

 たしかに二人くらいなら、足を伸ばしても余裕で入れる広さではある。それなりの大きさ。

 あまり大きすぎても色々面倒だし、これくらいでちょうどいい。

「それで。来てくれたってことは、浜辺での質問に答えてくれるんですよね?」

 白羽さんは、気持ちよさそうに湯船に溶けている。

「はいー。でもそれはベッドの上でゆっくりしましょー」

 ……この人、泊まるつもりなの?

「それよりも、『姫ちゃん』って呼んでもいいですか?」

「可愛ければ、なんでもいいですよ」

「じゃあ、そうしますね姫ちゃーん…………あ、実は私も姫ちゃんと同い年なんですー。だから、敬語とかなくてもいいですしー、私も名前で呼んでくだいねー」


 ――衝撃が走る。


「――聞いてない、そんなのっ!」

 じゃあその体形は何っ!

「言ってませんでしたからー」

 と言って、すっ、と自然に近づいてくる八重やえちゃん。

 わたしと八重ちゃんの胸が直に触れ合う。

 唖然としていると、八重ちゃんはさらに胸同士を弾ませて、

「ふむふむ。これはDくらいでしょうか」

「――!?」

 正解を言い当てられ――たことよりも、その行為のせいで、わたしは真っ赤になってしまう。

「わたしっ! もう上がるからっ!」

 すぐに立ち上がるわたし。

 八重ちゃんの目の前に自分の裸をさらすことよりも、わたしはその状況から逃れることを選んだ。

 本当にこのは――!



 ――でも。

 八重ちゃんを追い出したりはしなかった。

 なのでこのあと、わたしは八重ちゃんと一緒に寝ることになる。

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