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白殻のパンドラ #.01

 意識が戻った時にはもう学校に到着してて、いつの間にか二人は、わたしに寄り添う形で眠っていた。二人ともはにかんだ幸せそうな表情をしてて、何があったのか訊くに訊けない感じで。

 結局、まだ世界の終焉について詳しい話は聞けてなかったけど、それに関わって、話だけじゃない何かもあるらしくて、放課後まで先送りになった。

 なのでひとまず、パーティメンバー集めを協力することに。


守護者シールダーは神木さんが確保できたので、次は治療者ヒーラーですね。

 目星はつけてあります。パーティの目標人数は――五人です、私を入れて」


 ん? と、首を傾げる舞桜ちゃん。まだ色々と話してないから当然か。

 守護者一人、治療者三人ってどんなパーティなの、って感じだし。

 八重ちゃんに色々と盛られてしまわないよう、後でわたしから話そう。

「すでに連絡はしてあります。待ち合わせの場所へ向かいましょう」


 ――ということで、教室へ行く前に寄り道。学校の屋上へ。


 舞桜ちゃんと八重ちゃんは、物陰に隠れて覗き見。

 八重ちゃん曰く、この人には、わたし一人で頼んだほうがいいそうで。

 確かにこの学校の生徒なら、わたしがお願いすれば、大抵のことは聞いてくれるかもしれない。

 ちなみに、誰を呼んだかは聞かされてなかった。でも、わたしがよく知ってる人、らしい。

 と言っても治療者は、名門校のこの学校にも、全学年合わせて両手があれば数えられそうなくらいの人数しかいないから、全員顔見知り以上ではあるんだけど。


 まもなく、屋上の扉が開く音が聞こえて。

 待ち合わせの場所に現れたのは――月森さんだった。

 ……結構、意外な人選。

 月森さんの能力が低い、というわけではないけれど、月森さん以上の人もいるし、それにこういうことを快く引き受けてくれそうな人もほかにいる。


「……篠宮さん? どうして貴女がここに。魔女機関の方は?」

 どうやって呼び出しのかと思ったけど、魔女機関経由だったみたい。

「朝礼前にすみません。わたしが魔女機関の代理人なんです」

 月森さんに少しだけ驚きが見えて、でもすぐにクールな表情に戻る。

「……そうなのですか。それで魔女機関から私に、何のお話なのでしょうか?」

 これは強制的なものではないのですが、と前置きをしてから、

「わたしとパーティを組んでもらいたいんです! 実は――」


「お断りします。治療者ヒーラーは貴女一人で十分なのではないですか?」


 一瞬、ぐっ、と言葉に詰まってしまう。

 まさか詳細を話す前に、断られるとは思わなかった。

「多人数で編成をされるのだとしても、私より優秀な方がたくさんいらっしゃいますし、そういう方たちに依頼されたほうがよいと思います」

 月森さんは、わたしから目を逸らし、

「……白羽さんとか」

 呟くような声だったので、最後のは聞こえなかった。

「――何でもありません。

 強制でないというのなら、返答はしましたので私はこれで――」

 早々に話を切り上げようとした月森さんの腕を取る。

 決して押しつけにはならないように、ただ、お願いする。

「もう少しだけ、わたしの話を聞いてくれませんか?」

「…………き、聞くだけなら」

 心の中で、安堵の息を吐く。

 そして、中断された内容を再開する。

 ――わたしは伝えられる範囲で、わたしなりに月森さんへ事情を説明した。

「やっぱりこんな危ないこと、嫌……ですよね」

 表情の曇ったわたしを見て、


「――っ! そんなことはどうでもいいのです! あ、いえ――」


 気まずそうに顔を背ける月森さん。

「そうです。そんな危険なこと。まして、詳細を教えていただけないのなら、なおさら安易な承諾などできません。

 とにかく! 私の答えは変わりません。ほかの方を当たってください」

 それだけ言い残して、足早に去ってしまった。


 待ってください、とは言わなかった。言えなかった。

 わたしが本気でパーティへの参加をお願いすれば、もしかしたら聞き入れてもらえたのかもしれない。

 でも月森さんに断りたいという意思があった以上、それはわたしのわがままで、彼女の判断を捻じ曲げたことになってしまう。

 舞桜ちゃん以外の人に、そんなことできないし、したくない。


 月森さんの退場を見て、二人が物陰から出てくる。

「八重ちゃんごめん。ふられちゃった」

 ……あ。

 わたしの人生で、初めて女の子にふられちゃったのか。

 色々と事情があった上でのことだけど、

 悲しいのか悔しいのか寂しいのか、はっきりと言葉にはできないよくわからない感情が、じわじわと心に押し寄せてくる。

「いえ、これで問題ありません」

「……そうなの? ……あの、えっと、舞桜ちゃん?」

 舞桜ちゃんが無言で腕を広げて、わたしを迎え入れる体勢をとっていた。

 ……慰めてくれるの?

 胸の中に入ると、無言で頭を撫でられる。

「ひとまず治療者枠は保留にして、次に行きましょう。次は放課後です」



 教室に着くと、成瀬さんがクラスメイトに囲まれていた。

 わたしたちも成瀬さんの方へ手を引かれ、一緒に取り囲まれる。


 八重ちゃんは、あの現場にいた目撃者――月森さん成瀬さんと口裏を合わせて、天罰術後も成瀬さんとわたしの活躍で切り抜けたことにしたらしい。

 わたしが倒れてしまった要因として、わたしが治療者の中で一番活躍した、という風に理由づけたみたい。

 当然かもしれないけど反転魔術の話は伏せられていて、目撃者の二人には、まだ口外できない新しい魔術を使っていた、と説明してあると『伝心チャット』越しに教えられた。

 二人は、わたしと八重ちゃんが普通の回復魔術を使えないことを知らないだろうし、確かに筋は通る話。


 クラスメイト(お姉ちゃん)たちから貰う、心配と、感謝と、称賛と、そして、憧憬の言葉。

 ……最後のは、いらない。

 皆の先頭に立って、彼女たちを導く勇敢なお姫さま。

 ……になりたいわけじゃないから。

 わたしの活躍なんてどうでもいい。

 皆に守られる、非力でか弱いお姫さまでいい。『が』いい。

 わたしからは、成瀬さんに助けられたことを強調しておこう。



 天使の件で倒れてしまったこともあり、しばらく魔術の使用は控える、という名目で、わたしの実技授業は免除されるみたいだった。

 まだわたしは表向き、お姫さまでいられる。

 ――仮初めのお姫さま。零時が来ないことを祈る、ただの可愛い灰かぶり。



 放課後、今度は校舎裏で待ち合わせ。場所がちょっと作為的な気がする。

 わたしと八重ちゃんの二人でそこに向かう。

 舞桜ちゃんは、所属している料理部の先輩へ、しばらく休むという話をしにいっている。

 どちらにしても、今回は二人のほうが都合がいいらしい。


 わたしたちが着くと、そこにはもう待ち人がいた。

 まだ約束よりも早い時間。待っていてくれた彼女は、成瀬さんだった。


「あっ! えっ? 白羽さんと……篠宮さん?」


 この人選は順当だと思った。

 成瀬さんは、校内でもトップクラスの破壊者ランサー。プールの時のように臨機応変な対応もできる。彼女がパーティに参加してくれるなら、とても心強い。


 わたしたちが説明を終えると、成瀬さんは、おずおずと切り出した。

「一つ、お願いを聞いてもらえるのなら……」

 わたしへの視線を感じて、答える。

「――わかりました。わたしにできることならなんでも」

 命の危険がある依頼。見合った報酬はあってもいいと思う。

 成瀬さんのお願いだから、というのもあった。

 真面目な委員長の彼女なら、無茶なお願いをすることもないと思うし。


「あっ! あのっ! ひめちゃん! 私と性交セックスしてくださいっ!」


「……えっ?」

 訪れる静寂。何を言われ――

「えっ??」

 意味を理解しようとして、頭にイメージ映像が流れそうになり、顔が赤くなる。

 ここまで自分の欲望に正直な人は初めてで、わたしはしどろもどろになって、助けを求めるように八重ちゃんを見た。


「はい、交渉成立ですね! ね、姫ちゃん?」


「えっ――えーーーー!?」

 いや! 『なんでも』とは言っちゃったけど!

「ごごごごめんなさいっ! つい本音が漏れちゃいました! そこまでの高望みは!」

 一呼吸おいてすぐに落ち着いた成瀬さん。わたしはまだ落ち着けない。

「……改めて。篠宮さん、私とデートしてもらえませんか?」

「あぅ、えっと、その、それくらいなら――」

 ぱぁっ、と成瀬さんの顔がほころぶ。

 ここまで嬉しそうな表情をする彼女を、いままで見たことがなかった。

 成瀬さんも、わたしに落とされていない(のお姉ちゃんじゃない)人だと思ってたのに……、


「もし、いい雰囲気になったらその時は……私とお泊まりしてくださいね!」


 それはいきなりで、完全に不意打ちだった。

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