表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

ひめろじ 第3話

「おはよぅ、ひめちゃんっ」

「むにゃ……おはよぅ」


「……やっぱりまだ眠い? 昨夜はちょっとやりすぎちゃった……よね?

 ……ごめんね。次からは気をつけるからっ」


「ぅん…………えっ? やりすぎ……ちゃった?」

 ……何を?

 舞桜ちゃんの言っている意味がわからなくて、昨夜の記憶を辿っていく。

 ――まず、お風呂に連れていかれて。

 励まされて、やらなきゃいけないことが決まって…………

 そこからの記憶が薄……あれ? ない?

 ただ、柔らかくて気持ちよかった感覚だけを、何となく身体が覚えている。

 ……一緒に寝ただけ、でしょ?


 いまのわたしは制服を着て、朝食の席についていたけど、

 ……今朝の記憶もない。

「はい、どうぞ」

 にこにこと幸せそうな笑顔をした舞桜ちゃんが、ミルクの入ったグラスを手渡してくれる。

「ありがと。あの――」

 と、尋ね終わる前に、くすりと笑う舞桜ちゃん。


「ひめちゃんが着替えさせてって言ったからだよ? もうっ。甘えちゃってっ」


 ……そうだっけ?

 記憶にない。寝ぼけていたのかもしれない。

 首をかしげながらも、渡されたミルクを飲む。

 ――甘くて、おいしい。

 でも、普段飲んでいるものとは少し違う気がする。

 すぐに飲みほしてしまったわたしを見ると、

「ミルクのおかわり、いる?」

「うん、お願い」

「はぁい。ちょっと待ってね、いま入れるからっ」

 グラスを受け取った舞桜ちゃんは、

 可愛らしいエプロンをずらして、白い素肌を見せる。


 ?????


 舞桜ちゃんは、エプロンのほかに何も身につけていなかった。

 すごく大きくて柔らかい丘が、すごく大きく柔らかく揺れながら顔を出し、


「んっ。」


 舞桜ちゃんがそれを握ると、その桃色の綺麗な頂上から、

「まっ! 舞桜ちゃん! 何して――」

「あ、そうだよね。もうひめちゃん起きたんだから、直接のほうがいいよねっ?」

 戸惑うわたしにそのまま近づいてきて、頭を抱きかかえられてしまう。

 そして唇に柔らかい感触が――



「――っ!!」

「わっ! びっくりしたぁ。おはよぅ、ひめちゃん」

「おは……よう?」

 舞桜ちゃんを見る。

 エプロンの下は制服だった。

 小さく安堵の息が漏れる。

「はい、どうぞ」

 手渡されたグラス。

「これって……」

 どうかしたの? と、不思議そうな舞桜ちゃん。

「ううん、何でもない」

 変な夢だった。まさかわたしがあんな夢を見るなんて。

「……あの、舞桜ちゃん。昨日ベッドで――」

「――ひゃぇっ!?」

 舞桜ちゃんが可愛い悲鳴を上げて、その体がびくんと跳ね、凍る。

 料理の載ったお皿を落としそうになって、慌ててフォロー。

 舞桜ちゃんは頬を朱に染め、恥ずかしそうに顔を背けた。


「もうっ! もうっもうっ! ひめちゃんのえっちっ!」


 その舞桜ちゃんの表情を見て、わたしの中の記憶が繋がっていく。

 …………うん。ベッドに入ってからのこと、少しずつ思い出してきた。

 思い出してきた……んだけど……これはこれでダメなやつ! 封印指定!


 舞桜ちゃんの裸なんて小さい時から何度も見てきてるし、わたしも見られてるし、今さら……なんて、いまのわたしには到底思えなかった。


 昨夜あれからあったこと……

 そしてさっきの夢。

 わたし、舞桜ちゃんを……


 いや!? いやいや! 待って! 違うから! ね!


 舞桜ちゃんとは本当の姉妹みたいな関係で、これからもずっとそういう関係が続くはずで…………だった。

 でも、舞桜ちゃんのママたちは双子で姉妹で、だけど結婚して二人でそういうことをして舞桜ちゃんが生まれたわけだから。


 ああ、もう! これもダメ! 考えない! 封印指定!

 あの時はわたしも心が弱ってたのっ!

 …………そういうことにする。


 そう! そっちも重要な話!

 昨夜のわたしは、

 回復魔術を使えなくなった、という事実にショックを受けて落ち込んでいた。

 効果を反転できたのなら、きっと元の状態に戻すことだって可能なはず。

 ……それはわかっていたけど、わかっていても気持ちは深く、

 泥沼に深く深く沈んだままだった。

 そんなとき、舞桜ちゃんが無理やりにでも励ましてくれた。

 わたしを引き上げてくれた。

 ただただ、飾りのないありのままの言葉で。

 わたしよりもわたしのことを信じてくれていた。

 ……舞桜ちゃん。


「――ひめちゃん?」

 わたしが思考の海を長くさまよっている間に……

 もう朝ごはんも学校に行く準備も済んで、いつのまにか玄関の前に立っていた。


「あのね、ひめちゃん……いってきますのちゅー、しよ?」


 小さい頃――本当にまだ幼かった頃。

 ママたちと、舞桜ちゃんと、毎朝一緒にやっていた、いってきますの挨拶。

 あの頃は挨拶だったもの。

「えっと……それは、」

 舞桜ちゃんはわたしの答えを待たず、

 目を閉じ、少しかがんで、わたしの前に自分の唇を差し出す。

 わたし……は、


「おはようございます! 篠宮さん! 神木さん!」


 タイミングを計ったように玄関扉が開き、

「――きゃっ! 失礼しましたっ! ごゆっくり!」

 再び閉じられる扉…………が、すぐにまた開かれた。

「……なんて」

 八重ちゃんがゆらり、と、家に入ってくる。

 瞳の光を失くした目で、わたしたちを見て、


「……昨夜はお楽しみでしたね」


「「っ――!」」

「篠宮さん。私との関係は遊びだったんですね……。素肌で触れ合って、寄り添い合った仲なのに……」

 それを聞いて、

 言葉はないけど、物悲しそうな顔でわたしに視線を向ける舞桜ちゃん。

「――舞桜ちゃんっ! それは違くてっ!」

 別に何もやましいことなんてしていないのに、おろおろとしてしまう。

「八重ちゃんもっ!」

 その様子を確認すると、

 ――途端。

 八重ちゃんは口元に手を当てて、うふふ、と笑った。


「さてと、茶番はこれくらいにして……」


 そう言うと、いつになく真剣な表情に。

「昨日、篠宮さんに変化があったことで、わたしたちの置かれている状況も大きく変わりました」

 家の前には、黒塗りの長い車が停まっていた。

「学校までお送りします。お話したいことがありますので、どうぞお乗りください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ