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ひめろじ 第2話

 それが、ひめちゃんにとっていいことなのか、悪いことなのか。



「あのね、ひめちゃん……わたしももう成長したんだよっ?」


 ひめちゃんをぐるっと一回転させて、わたしはひめちゃんの前で立ち上がりました。


「見て。体だってもう、ひめちゃんよりも大人なの」


 まだ誰にも見せたことのない体。

 高校生になってから、もっと大人っぽくなったわたしの体。

 これくらい近くなら、ひめちゃんでもはっきり見えるはずです。


「それに、心だって……どっちでもひめちゃんのこと受け止められるからっ。ここにいるのは、泣きむしだった『まお』じゃないからっ……だからわたしのことも頼ってほしいのっ」


 わたしの意を決した行動と告白に、でもひめちゃんは特に驚くことも照れることもなく、ただ小さく首を振って、

「わたし、いつも舞桜ちゃんに頼ってる。家のことは全部やってもらってるし、頼りすぎなくらい」

「――そうだけど! そうじゃなくて……。だって、起きてからのひめちゃんずっとおかしいもん」

「わたしは、わたし。いつもの可愛いひめちゃんです。おかしくなんて――」

「……ううん、わかるよぅ。生まれたときからひめちゃんのこと見てたんだよ? 見た目に変わらなくても、ひめちゃんが悲しいとか辛いって思ってたら、わたしにはわかるの!」


 ひめちゃんは昔からしっかりしてて、しっかりしすぎてて。

 そんなひめちゃんにわたしをまかせて、ママたちがいなくなって――


 まだ小学生だったわたしたち。

 何かあるたびにすぐ泣いて甘えちゃうわたしの面倒を見てくれて。

 ずっと甘えさせてくれて。

 でもひめちゃん自身は誰にも甘えられなくて。

 ……そのせいか、ひめちゃんは自分の周りに人を集めるようになっていって。


 わたしがこんなことをしなくても、ひめちゃんはまた自分の力だけでなんとかしてしまうのかもしれません。

 けど、今日のひめちゃんは、いつも以上におかしかったんです。倒れてしまったあとだったこともあって、放っておくなんてできなくて……それに、

「昨日も今日も、わたしはひめちゃんを守れなかったよね。いままでのわたしじゃ、ひめちゃんにまかせっきりのわたしのままじゃダメなんだって、そう思ったから」

 わたしは、湯船に浸かったままのひめちゃんをじっと見つめます。


「……ひめちゃんが話したくないなら、ただのうさばらしでも八つ当たりでもいいよ。わたしの体、使って、すっきりしてっ?」


 じと目で見つめ返され、

「……ばか」

 勢いよく立ち上がったひめちゃんは、そのままわたしに――

 ハグを。 ハグを? ハグを! 

「つい最近まで、泣いた舞桜ちゃんをこうやって慰めてたような気がするのに……。いつの間にか大きくなったね、お姉ちゃん」

 リンゴのように赤くなっているわたしの顔のすぐ横に、ひめちゃんの小さな顔。

 だからその表情はわたしにはわかりません。

 とても落ち着いた声で、笑うように嘲るように何でもないことのように、

「今日わたしが倒れたのは、天使のせいだけど天使のせいじゃなくて。わたしの使った回復魔術ヒール、失敗したその魔術のせいなの。……わたし、もうお姫様ヒーラーできなくなっちゃった」

 ほんの少しだけ、ためらうような間があって、

「……治せるかどうかもわからないらしくって。だから、ちょっと落ちこんでただけ」

 声音はいつもどおりだったけど、肩に水滴を感じた気がして。


 ――腑に落ちました。

 ひめちゃん自身は気づいていないこと。

 ひめちゃんが、いつも強く、自分に自信をもっていられるのは。

 菫さんたちから受け継いだ白魔術適性――愛莉さんたちに褒められた治療者ヒーラーとしての才能があってこそなんです。

 ……というのは、わたしの勝手な考えなんですが。

 でも全部が全部、間違ってるわけでもないと思います。


 ヒールで倒れちゃったというのは、よくわからなかったけど、

「だいじょうぶだよぉ。きっと治せるよっ――ううん、絶対っ! だって、ひめちゃんは世界一のヒーラーなんだからっ!」

 わたしが得意げにそう言うと、ひめちゃんは黙り込んでしまいました。

「ひめ……ちゃん?」

 わたしをハグしてるひめちゃんの腕が、ちょっとだけ強くなって、

「――ふふっ。たしかにそうかも。自分のことも治せないと、治療者ヒーラーは名乗れない、か。……うん。わたし、がんばらなきゃ」

 えいっ、という声とともに、

「わぷっ!」

 ひめちゃんに引っ張られて、わたしたちは湯船にどぶんと浸かりました。

 わたしから腕を離して、でもすぐ目の前にいるひめちゃんが、


「あの……。あのね…………お姉ちゃん? 今日、一緒に寝ても、いい?」


 指をつつき合わせて、伏し目がち、上目遣いで。

「ひひひひひめちゃん!」

 仕草の可愛さとか表情とか――!

 ベッドと言わずに、いまここで――!

「うんっ! いいよっ! 優しくするからっ! 優しくしてねっ!」


 ――ママ、わたしは今日ひめちゃんと一緒に大人の階段を上ります!


 興奮しているわたし……を不思議そうに見るひめちゃん。

 ――沈黙。静寂。そのあと、

 途端にひめちゃんが、わたしよりも真っ赤になっていって。


「ちがっ! ただ一緒に寝るだけだから! 何もしないからっ!」

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