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ひめののーと 1P

姫乃ひめのさん。そろそろ起きませんか」

 抱き枕の声で、わたしは目を覚ました。

 開いた目の先には肌色の塊がある。

 裸眼で、しかも寝ぼけ眼だったから、一瞬それが何かわからなかった。


 ……肌色の? 長い黒髪?


 そもそも抱き枕は喋らない。

 それはきっと女の子で、しかも肌色の多さから、たぶん裸だった。下着もつけていない。

 わたしはそのを抱きしめながら寝ていたのかも。


 その状況に目をつぶり、文字通りもう一度目を閉じたわたしは、とりあえず抱いているものを…………揉むことにした。どうせ夢だし。揉み得。

 でも。

 手に返ってくる確かな柔らかい感触と。

 わたしの腕の中から聞こえてきた少し艶っぽい声で、やっぱりそれが現実なんだと気づく。

 わたしはその事実に青ざめ、声も出せず。

 急いで飛び起き、シーツを持って壁際に後退あとずさった。


「あなた誰っ!? なんでわたしと一緒に寝てたのっ!?」


「おはようございます。姫乃さんも急がないと遅刻しちゃいますよ?」

 目覚めの挨拶はされたけど、質問の答えはなかった。

 その女の子は起き上がって、わたしの目を気にせずそのまま着替え始める。


 ――なんとか心を落ち着けて、いまの状況を整理してみる。

 昨日寝た時は、あたりまえだけどこんななんていなかった。

 だけど、朝起きたら裸のこの娘がわたしと一緒に寝ていて……。


 あらためて状況を再確認して、青から赤に変わるわたし。

 ……わたしはこの娘と一晩過ごしたの?

 顔が熱い。体が熱い。

 そんなわたしをよそに、女の子は手早く着替えを済ませ、

「では、また後でー」

 悠々と。わたしの部屋から出ていった。




「――というようなことがあったんです」

 朝礼前の教室。

 上目遣いで怯えたように今朝の出来事を話すと、わたしを取り囲むクラスメイトたちが、優しい言葉とともに、頭を撫でたり抱きしめたりして慰めてくれた。

 もちろんあののどこか(たぶん倫理上あまりよくないところ)を触ってしまったことは秘密にする。


 周りにいるクラスメイトたちより、わたし――篠宮姫乃しのみやひめのは、少し小さくて幼い、と思う。

 別にわたしの発育が悪いわけではなくて……むしろ胸はそれなりにあるし。

 髪型のせい……は少しあるかもしれないけど、色んな理由があって気に入ってるので変えたくない。

 後ろめに髪を結っている黒髪ツーサイドアップ。髪の長さは大体膝くらいまである。

 でもわたしはそれほど背が高くないし、それにとても可愛いので、その長さでも特に違和感はなかった。

 家にいるときは眼鏡をしてるけど、学校ではコンタクト。眼鏡を好きな人もいるけど、コンタクトのほうが受けがいいから。


 誰に向けてなのかわからない、自己紹介のようなものをしてしまったついでに、ほかの説明もしておく。


 この世界には『魔術』がある。

 そして倒すべき敵、『天使』がいる。

 天使を倒すために――というよりも、どちらかというと自衛のために、わたしたちは学校で『魔術』の修得と実践を義務づけられている。

 魔術というのは魔法円を描いて怪しい儀式を行ったりする、昔のそういうもののこと……じゃない。

 最近開発された、れっきとした新しい技術のこと。

 たぶん魔術を使ってるその見た目的には、超能力とかのほうが近いかもしれないけど。

 超能力と違って、魔術の使用には生まれもった才能とかそういうのは別に必要ない。

 誰にでも使える、奇跡を起こせる術――それが『魔術』。

 だけど、魔術への適性の差はある。

 それは努力でかなり埋められるものだけど、もちろん初めから高いほうが色々と有利。


 以上、説明終わり。


 わたしは白魔術への適性が高かった。

 白魔術は回復魔術。

 それを使える白魔術士は、唯一治療者ヒーラーという役割ロールを務めることができるので、とても貴重な存在……にもかかわらず、白魔術適性の高い人は少ない。

 白魔術はほかの魔術と違って、ある程度以上の適性がないと、努力しても何とかはならない。

 つまりわたしは、それだけでも特別な女の子だった。

 そういう事情に加えて学業もそれなりにできるわたしは、二つ飛び級をして去年から名門校の高等部に通っている。いまの学年は二年生。


 わたしのいるクラスは特別クラスで、天使と戦う仕事――『魔女ウィッチ』を目指す娘たちが集められている。


 実戦経験を積むためには、『魔女』が対天使戦でそうしているように、PTパーティを組む必要がある。

 治療者ヒーラーはPTに絶対必要な存在だけど、数が全然足りていない。このクラスにも、わたしともう一人いるだけ。

 だから――


 可愛くて! 愛嬌のある! 優秀な! 治療者ヒーラー! のわたしは、クラスメイトのお姉ちゃんたちみんなに愛される妹のような……ううん、お姫さまのような立場にいる。

 いつも構ってもらえるし、戦いのときは守ってもらえるし、なかなか居心地は悪くない。


「――それでひめちゃん。通報はしたの?」

 クラスメイト(お姉ちゃん)から、当然の質問をされる。

 わたしは首を横に振った。

「ううん。きっと彼女にもなにか事情があったと思うんです。わたしが黙っていることで、彼女が救われるなら――」

 聖女のようなわたしを褒め称える声が、周りから聞こえてくる。

 けど。

 それと同時に今朝のに対して軽く怒りをあらわにするクラスメイト(お姉ちゃん)もいた。

 わたしとしてはどちらの反応でも嬉しい。

 ……わたしの代わりに怒ってくれるなら、わたしが怒る手間が省けるし。


 通報しなかった本当の理由は、わたしも偶然だったけど(あくまで偶然!)体を触っちゃったし、それをあの娘に喋られると、こっちも何か罪に問われそうな気がしたから。

 できるだけ面倒なことには、かかわりたくない。

 それにわたしとしては、それほどの被害でもなかったから。

 あの娘はなぜか裸だったけど、わたしは寝る前のネグリジェのまま特に乱れてなかったし、純潔は守られていると思う……たぶん。


 でも実は、それすらも建前で。

 朝の準備に忙しくて、通報する時間がなかっただけだったりもする。

 今日は幼馴染に起こしてもらえなかっ……ううん。ある意味、起こしてはもらえたけど。

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