同棲 2
『なぜ駄目なんでしょうか』
それは当然聞いてくる質問だった。
そもそも彼女もそんなに無理は言わない。
ちゃんと相手のことも考えて言えるタチなのである。
ぶっちゃけ、同棲したらすごく暮らしは楽になることは間違いない。
なら何故私はダメと言ったのか。
『やっぱり一人の時間が大切?』
- いや、別にそれは特には。
私は出張族です。なので、一ヶ月に数回はホテルに泊まることがあります。
一人の時間など、たくさんそこであるのです。だから別にそれが欲しいってわけじゃないです。
『じゃぁ、なんで?』
- 理由は幾つかあります。
『ほう。聞こうじゃありませんか。』
- まず一つ目に、家が汚いです。
『まぁ、それは、予想してた。』
- 大丈夫。その最悪の想像以上の自信があります。
『え?それはどういう?足の踏み場がないってこと?』
- はい。足の踏み場がないというか。踏んでいいものを踏みながら部屋に入るのがデフォルトです。
- ベッド以外にスペースはありません。あぁ、洗濯物はちゃんとしてるしシャワーも浴びてます。でも、床はよくわからない紙とか本とかビニール袋とかで床は見えません。まぁ流石に食料品は転がっていませんが。
『‥。(絶句)』
- シンクに関しては、私は目をそらし続けています。
- 料理したのがいつだったか記憶にありません。
- ただ、最後に土鍋で米を炊いて、その後半分残したことは覚えています。
『え、‥。もしかして虫とかが?』
- 三ヶ月前には見ましたね。
『ヒィィ‥。』
- 今はもういません。匂いもしませんね。
『(絶句)』
- ただ、なぜか黒いGは出てこないんですよね。
『いや、それはただ単にものが置いてあって隠れてるだけなんじゃ‥。』
- そして。
『まだあるの!?』
- 寝る布団がありません。
『そりゃ、その感じだったら布団敷けないもんね。あ、でもベッドはあるんでしょ?』
- あるよ?
『じゃぁ一緒に寝ればきっとあったかいよ!』
- 君は理解をしていない。
『へ?』
- 僕は布団がないと言ったんだ。
『え、それはどういう? 』
- 内にある寝具は、[マットレス付きベッド] [コタツ用の薄い敷布団] [シーツ] [夏用寝袋] [タオルケット]のみです。
『え?今、2月だよ?夜それねれなくない?暖房めっちゃつけてるの?』
- 付けないよ。電気代跳ね上がるじゃない。
- だからまず厚着します。
『はい?』
- 寝るときには外に出る時の倍くらいの厚着をします。
『‥。』
- だいたい下は、タイツonジャージonジーパン。上はタートルネックシャツonワイシャツonセーターonジャージonダウンジャケット。あぁ足元は長い靴下三枚重ねです。
- それが終わったらベッドにもう着ない古いジャケットをひきます。冷気はマットレスを貫通しますからね。
- タオルケットを体に巻きつけ、寝袋に入ります。
- そして寝袋の上から厚めのジャンパーをかけます。足元までしっかりかけておかないと風邪をひきます。だいたい三枚くらい必要ですかね。
『いつの時代の人ですか‥。』
- さらに。
『まだ!?』
- カーテンはありません。
『はい?』
- うちに、カーテンは一部しかありません。
『‥。』
あなたが付き合って欲しいと言った男はこういう男です。
さぁ、今ならまだ間に合う。別れると言っても甘んじて受けよう。
ここまで行くとそういう気分だった。いや、振られても疑問すら持たない状態です。俺がこんなのが彼氏だったら嫌だもん。
『あ、』
- あ?
『アスレチックみたいだね!』
絶句。
そうくるかと。思いました。
『そうなると片付けに数日かかるかなー。』
『んー、布団は買おう!私が出す!』
『あ、ご飯は土鍋だっけ?めんどくさいから炊飯器も買う!』
『ゴミ袋買わなきゃなー。いつ燃えるゴミの日?』
『それに合わせて行けば、まぁなんとかなるよね!』
なんだかどんどん話が進んでいきます。
スゲェなこの子。なんつうか、スゲェな。
そう思いました。
- と、
『と?』
- とりあえず。
『とりあえず?』
- ‥一週間ください‥。
その日から私一人の掃除が始まり、ひとまず人が入れる状態になるまで3日。ゴミ袋は70Lの袋、15袋になりました。
ベッドの横にカセットコンロ、フライパン、電気ケトル、電子レンジ、紙皿、紙コップ、割り箸、調味料幾つか、アルミホイルがある状態で半年くらい生活していました。
洗い物がないとものすごく楽なんです。
あと、寒すぎると布団から出ずに過ごしたくなるんです。
主食はチンして食べれるご飯。主菜はソーセージと目玉焼き。フライパンにアルミホイルを敷けば、アルミホイルを捨てればフライパンを洗わなくても大丈夫。あとは、時々なんか野菜入りのカップスープを飲めばいいや。
そう思っていた頃が、私にもありました。