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死神少女  作者: 平乃ひら
Neun
154/163

154.ハンス8

 振り下ろされた剣の切っ先はアウグストの足を浅く切り裂くだけで地面に刺さっていた。


「はぁっ……!」


 それは一体誰の声だっただろう。

 ハンスは強烈に痛む拳を突き出したまま、セーラを睨んでいた。


「無茶をしますね」


 そんな彼にセーラはまるで出来の悪い教え子を諭すみたいに苦笑しつつもそう評価を下した。


「だけど、俺の目の前で人は死ななかった。……喩えこんな野郎でも俺は誰も死なせたくないんだ」

「人を救う、ですか。その気持ちはわからなくもありません。ですが」

「救えないっていいたいんだろ! ああ、俺はまだ誰一人救っていない……救えないんだ。人ってのはきっと誰かと救えるようにできちゃいないんだ!」


 各国を旅してきた経験もそうだが、この街でも一体誰を救ってきたというのだろうか。何度か誰かを助けたかもしれないが、それは救うという意味にとっていいのか。


「……ハンス・ハルトヴィッツ」


 地面からアウグストは目を向けてくる。


「君は誰かを救うようには出来ていない。そう調整もしていない。成功へ導く才こそあれ、それは他者を救う力とはなり得ない」

「人を機械か何かだとでも言うのかよ!」


 アウグストの胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。


「全部あんたがやったことだろう! あんたが! テースをあんな目に遭わせたんだろうが! 行政官府の地下のことだって知った、テースから直接色々聞いた! その上であんたは!」

「実の娘を好きこのんで実験に使う親がいるかッ!」


 余りの怒声にハンスの言葉が止まる。アウグストは突然の大声に喉をおかしくしたか、何度か咳き込んだ。


「私だって騙された側の人間だ。実験の首謀者という罪は私にあるが、裏で操っていたのは私ではない」

「……じゃあ誰だっていうんだ」

「簡単だ。この国そのものだよ。国の主導で実験は動いていた。――今、街で起こっている悲劇を起こしているのもまた国の方針だ」

「まさか、そんな……」


 ハンスは斜め後ろにいるセーラへを振り返る。

 セーラはゆっくりと頷いた。彼女は知っていたのだ、今何が起きていて、一体誰がここまでの事態を引き起こしたのかを。

 だからこそ止める手段が無いとわかっていた。

 国が、政府が、このケープ市を消滅させようとしているということだ。


「霧の発生は国ではないが、以前より機会があればこのケープ市を消す準備をしていたのだろう。あらゆるパターンを想定していたに違いない……そうなればもう止まらない。全ては手遅れだ」

「……みんな死ぬっていうのか?」

「逃げられると思うか。いや、逃げるチャンスはあったのだ。だが、誰も彼もそのチャンスを掴まず命を失っている。もう手遅れだ。どこにも逃げ場はない。このケープ市は住民同士の殺し合いによって消滅する」

「勝手に決めんなよ……手があるだろ、何か手が!」

「何がある? 考えてみるがいい」

「……ある人が、この霧に毒を混ぜている奴がいる、と吹聴してる奴の話をしていた。そいつを捕まえれば」

「既に人殺しにまで発展した事態が、そんな奴の一人を捕まえたところで止まればいいがな……」

「やらなければわからないだろう!」


 アウグストはもう何もかも諦めている様子で、それが納得できずに叫ぶものの暖簾に腕押しだった。


「じゃあ俺達は死ぬのを待つしかないっていうのかよ。そんなことできるわけないだろ! 俺だって死にたくないし、なにより死なせたくないんだ!」

「言葉だけなら」


 ――何とでも言える、そう続いたのだろう。だがアウグストは敢えてその先を飲み込んだまま続けず、ハンスから目を逸らした。


「なら、私が先に貴方を殺します。どうせ放っておいてもあの子が貴方の魂を狩るというのなら、その前に」


 はっとして振り返りハンスは両手を広げてセーラの前に立ち塞がる


「待ってくれよ、セーラ様!」

「そうだね、待つのは君の方だ。――ハンス」


 強烈な殺意がハンスの胸を貫く。――死んだ、と勘違いしてしまいそうな威圧感に一筋の汗が頬を伝うのを感じ取って、ハンスは目を大きく開き、声の主を確認する。

 セーラと同じ形の大剣、しかしそれはセーラのと違い刃が付いている正真正銘の殺人武器を引き摺りながら入ってくる一人の男が居た。


「……ホマーシュ・ロックランド……!」


 こんな時に最悪だ、と毒づかずにはいられなかった。考え得る限り最悪の人間がこの場に現れたのだ。むしろ彼があの追撃の中を切り抜けてこの場に平然としていることが俄に信じがたい。


「さて、こうなった以上僕はどこから動けばいいかな」


 どうやって動く、のではなく、やることは既に決まっているといった物言いだ。


「ああ、それと国が画策しているといった推理、アインズも同じことを言って部屋を飛び出していきましたよ。くく、ははは、こうなった以上僕でも止められる気がしないんですがね」

「……ホマーシュ、何しに来たんだ?」

「なにしに?」


 小馬鹿にするかのごとく、一度だけ「くっ」と声を押し殺したように笑った彼は汚れ歪んだ双眸をハンスに向ける。


「僕の目的を忘れましたか? 死神が、ズィベンが、テースが何を言おうと――僕のやることは変わらない。この場にいる全員を、僕をコケにした連中を、全て殺す」


 その顔と同じくホマーシュの心はもうどうしようもない程に歪んでいた。ケープ市に来た時からこれだけ歪んでいたのか、あるいは別のキッカケがあってここまで毀れてしまったのか。


「……セーラ様、一つお願いがあります」


 ホマーシュからは逃げられない。それだけは確かだと悟ったハンスは一つの提案をセーラに投げる。


「テースからあいつを守ってください」

「私も彼を殺そうとしているのですが」

「守るのはアウグストじゃない」

「じゃあ、何を?」


 ハンスは一度だけ息を吸って、答える。


「テースの父親を守ってください」

「……」


 ホマーシュから目が離せないハンスは気付かなかったものの、セーラは驚きを隠せないでいた。


「……そう、そういう考え方もあったのですね。私はあの子に父親殺しだけはさせたくなくて、先に彼を殺そうとしましたが……そうですね、そちらの案のほうが――」

「セーラ様?」

「そちらの案のほうが、ずっと……そう、人間らしい」


 それを聞けただけで、ハンスは彼女に任せてももう大丈夫だと確信する。

 かつての死神ならともかく今のテースは自分自身に大きく揺れている。完璧ではない彼女ならば『死』を望んでしまったアウグストを守りきれるかもしれない。その証拠として現にアウグストはまだこうして生きているではないか、と僅かな可能性でもハンスは見いだしている。

 当然そんな可能性こそ存在していない事実を否定出来ないが、それでも試してみる価値はあると本気で思い込む。――彼女が現れた時に手を差し伸べる役は自分だと決心しつつも、今はまだその時ではない。

 そう、目の前にホマーシュがいる。

 血こそ繋がっていないものの、あの施設で育った二番目の兄だ。狂ってしまったのなら自分が止める以外、誰がその役目を負えるというのだろう。テースを助ける前に自分達の兄であるホマーシュを止めるべきだ。


「ホマーシュは俺が抑えます。セーラ様はアウグストを連れてここから逃げてください」

「彼を一人で抑えるというのですか?」

「やれるだけやってみます」

「私も協力したほうがいいでしょう」

「――いえ、ここは俺一人でやらせてください。お願いします。それにここにいたら必ずテースが来ます。今はまだ、早い」


 そう、こんな血生臭い兄弟喧嘩をテースに見せることは許されない。もう死神に間接的な死を見せたくない。だから奴を止めなければならない。


「……。わかりました」


 それを察してか、あるいはハンスの決意は止められないと知ってか、セーラは頭を一度下げてから了解する。


「いいですか、決して死んではなりません」

「はい、約束します。俺は約束破らないことをモットーとしてるんで、安心してください」


 その言葉を聞いてセーラは微笑み、そして振り返ることなくアウグストを立たせて扉へと向かう。それを見たホマーシュが逃がさないとばかりに剣を振るおうとするも、その直後にハンスが動く素振りをして牽制した。

 ホマーシュの動きが止まり、意識がハンスへと向けられる。その隙にセーラは彼の横を通り抜ける。しまったとあからさまに顔を歪めたホマーシュだったものの、既に遅く、彼女達を追おうと振り返れば対峙しているハンスがその隙を狙ってくるだろう。二人をこの場に留めておく手段は彼の手に無かった。


「お前の相手は俺だろ? 七年ぶりの兄弟喧嘩でよそ見されるのは寂しいってーの」


 挑発するように笑いながら掛かってこいとばかりに手首を動かす。


「ハンス・ハルトヴィッツ。どこまでも僕の邪魔をする。いい加減君の鬱陶しさには我慢の限界が来ていたんだ」

「ああ、奇遇だな。俺もだよ。おにーさん?」


 意識して脱力する。力んでいて勝てる相手ではないし、力を込めて真正面からぶつかるだけ無駄だ。あの剣と本人の尋常ならざる握力と膂力はハンスを遙かに上回っているのなら、相応のやり方で相手をすべきだ。


(相手を無力化する)


 ハンスが数年間もかけて父親から体得してきた技術がそれだ。凡そ如何なる武器を持とうとも相手を制す技術。こちらから仕掛ける技ではなく、相手を倒す、ましてや殺す等という技術でもない。

 無力化。完璧に相手を制する力こそ、ハンスが今持ち得る最大の武器だ。

 奴の振るう大剣は大雑把な攻撃になるとはいえ、その重量から来る破壊力が最大の利点となっている。あの剣を如何に恐れず、だが立ち回りは小心者となりながら隙を狙うしか無い。

 真正面から向き合うのは危険だが、ホマーシュの剣は真正面からその破壊力を活かした攻撃を得意とする一方、腕力を最大限に利用したトリッキーな剣筋も扱う。もちろん剣の巨大さの枷は付くものの脅威であることは確かだが、下手な正攻法よりもそちらの動きの方がハンスにとっては読み辛く、故に恐ろしい。結局は正面から対峙するしかなかった。


(どう来る? 上段、突き、横凪、斜め……)


 相手の目を中心に全体を視界に捉えるよう意識する。

 剣の先が動いた、と気付いた時には突きが繰り出されていた。余りの速度に一撃目にして死を意識したが、斜め前に身体を傾かせて切っ先を躱す。左手で剣の腹を強く押して右手でホマーシュの胸部を狙うものの、それよりも早く相手の左手が拳の前に立ち塞がった。


(あの手に握られたら――手が潰される!)


 ホマーシュの握力ならそれも容易いだろう。拳を下げたところで相手の剣が動くのを視界の端に捉える。斜め下から斜め上へと疾る身体を下げて躱し、ついでにホマーシュの足を踏み抜こうとするが、一歩早く相手の方が下がっていた。しかしチャンスとばかりにハンスは距離を詰めるべく爪先に力を込めて爆発するように前へ踏み込む。

 ホマーシュの襟首を掴んでは無理矢理引っ張り、足払いをしてその身体を回転させる。受け身がとれるかはこの際考えず、とにかく地面へと叩き付けることを優先し、実行する!

 為す術もなくホマーシュの身体は地面へ強かに打ち据えられる――そういう結果が見えた時、眼前が灯りを落とした夜のように暗く変化し、気付いた時はホマーシュから三歩ほど離れていた。


(何が……?)


 今起こったことを思い出そうとすると、途端に激痛が側頭部を駆け抜ける。それだけで意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって耐え、立ち上がろうとしているホマーシュを見据えた。そっと頭に触れた指先が赤い。剣でどうにかできる間合いでもなかったということは、つまり投げ飛ばされながらも拳で一撃を与えてきたのだ。


(化け物かよ、マジで……!)


 相手が常人ならこれだけ堅い床に叩き付けるのを躊躇し手加減するところを、ホマーシュ相手にだけはまったく容赦しなかった。そして反撃すらさせないタイミングと速度で技を決めたつもりなのに、奴の反応速度はハンスの培ってきた経験と予想を上回った。


「まさか僕がすぐに殺せないなんて思わなかったよ」

「褒め言葉は要らないさ」


 この数手で相手と自分の実力差がある程度把握出来た。それは向こうも同じだろう。そうなればホマーシュの動きは認識のズレを修正し、より最適化されたものとなるはずだ。


(せめて道具が無いと……)


 徒手空拳で戦い続けるにはさすがに限度がある。むしろ実力そのものは相手のほうが上回っているのだ。だからこそ先程の投げで倒せれば良かったのだが、そううまくいくものではない。


「ふっ!」


 実力差はあれどホマーシュにとってハンスの動きは未知のモノである以上、一撃目から全力で攻撃をしてくるのは当然ともいえた。横に振るわれる剣を下がって躱すものの、振り切った瞬間に両手へと持ち替え、強く踏み込んで突きを繰り出してくる。


(マジかよッ……!)


 若干のタイムラグによって致命傷こそ避けたものの、右腕を腕を浅く斬られ、痛みに顔を歪める。怪我の深さを確認する暇も無くホマーシュは剣から左手を離し、そくざに殴りかかってくるのを右手で受け止める。

 受け止めたはずの右手が弾かれる。

 左足を後ろへとずらして身体を斜めにしつつ頭を後ろへと下げて拳の直撃を避ける。相手の拳が振り抜いたところを左拳で反撃しようとするものの、ホマーシュはまたもハンスの予想を超えた速度で拳を自分のところに引っ込め、もう一度殴ってくる。


(くそ!)


 どうしようもない実力差はところどころでハンスの読みを上回る。両腕を交差させて喰らえば意識が吹き飛ぶだろうその一撃を受け止めた。メシリ、と腕が折れたのではないかと嫌でも錯覚させる痛みと音がハンスを戦慄させる。

 殴られた勢いで数歩下がり距離を取る。


「まだ……仕留められない。殺せない」


 物騒なことを吐く男にハンスはうっすらと笑う。


「そんなもんだろ。世の中そうそううまくいかないさ」

「ああ、そう……そうでしたね。だから君はアンジェラを死なせてしまった」


 その名前はさすがに聞き流せなかった。


「今更アンジェラは誰が殺したかの押し問答でもするのか? いいか、そんなのは今更だ」

「ああ、少なくとも僕ではないからね。だが、君には責任の一端がある」

「死神を止められなかったから、とでも言いたそうだが、それをいうなら彼女を追い込んだお前にだって責任はあるだろ」


 自制しろ、と自分を諫める。相手のペースに巻き込まれるな。

 しかしアンジェラの名前が出たことによって緊張を維持していたハンスの冷静さが一部決壊していた。


「お前が彼女を追い込まなければ死ななかった、違うのか? いいや、違うとは言わせない。それは事実だ」

「あるいは自殺への示唆をしたかもしれませんが、しかし結果として見るならば見殺しにしたのは君だ。目の前で殺される者を止められなかったのを無力の一言で解決してしまうほど、自分に納得していると?」


 している筈が無い。

 今でもあの時に戻れればと何度思うことか。あるいはそうなる前に一度でもちゃんとアンジェラと向かい合っていれば良かったと激しく後悔したことか。

 アンジェラを追い込んだ理由の一端に自分がいることなど判りきっている。


「納得などしていない! だから悩む、苦しむ。人が死ぬ程度で歩みを止める。所詮それが君達の限界だ。一人死んだところでどうして苦しまなければならないのです。人間なぞいつか死ぬ。なにより人が望んだ神は死を象徴している!」


 人は死を望んでいる。

 テースが死神として降臨した瞬間、それは確固たる証拠となり、揺るがぬ事実と成った。


「そうかもしてない……」


 事実は事実としてあり、決して覆せない。認める以外に無い。


「だけど、それでもアンタがアンジェラを死なす理由にはならない……!」


 自分を好いてくれた少女の顔を看取ったからこそ、彼女が抱えていた心の一端を垣間見ることができた。その心は絶望と悲しみに彩られ、とても聖女と呼べたものではない。


「けど、けどさ」


 それでも、彼女は最期の最期で、


「アンジェラは、俺達に、ありがとうと言ったんだ」


 それが全てだ。

 友達で居てくれてありがとう。

 助けてくれようとしてくれてありがとう。

 最期に顔を見せてくれてありがとう。

 二人に、ありがとう。

 自身の魂を狩った者に感謝を告げる彼女の精神は、まさしく聖女そのものではなかったか。


「ホマーシュ、あんたが幾ら穢そうとしたところでアンジェラは清らかなままだったんだ。あんたじゃアンジェラの足下にも及ばなかったんだよ!」

「……何を言っているんだ。彼女を絶望させ死を望ませたのは僕だ。自分の手で殺したわけじゃないものの、絶望させ、死神を寄越させ、そして殺したのは!」

「全て彼女の意志だ!」


 叫ぶ。

 ホマーシュを制すような声は聖堂内を強く叩き、場はハンスが支配する。


「これ以上アンジェラを愚弄するな。お前がやってることは負け犬の遠吠えだ。お前は彼女を理解しているようで理解せず、そして彼女の心に踏み込めなかったんだ」

「……黙れ、ハンス・ハルトヴィッツ」

「いいや黙らない。わかってきたんだよ。アンタはアンジェラを殺せなかったんだ。殺そうと思えばいつでも殺せたのにそうしなかった。多分心の中では色々と理由をつけてたんだろうが、そんなものは全て言い訳だ」

「黙れ、殺すぞ」

「だから殺せなかったといってるんだ。いい加減認めろよ、アンタはアンジェラのことを考えたことがあるのか!」

「考える必要など無かった! 所詮は殺す対象だ、心理状態を読むことはあっても本人のことなど考える意味はない!」

「目を逸らしてたんだろうが! そうやって!」

「黙れ――黙れハンス!」


 上段大振りに剣が襲ってくる。

 今までの計算尽くされた一撃に比べてなんと大雑把か。感情が昂ぶっていた状態のハンスでも余裕をもって見極められる。半歩身体をずらしてそれを躱し、剣を握っている腕を親指で刺す。


「がっ、あっ……!」


 手から離れる剣の腹を踵で蹴り飛ばし、相手が苦痛で一瞬の遅れを取り戻す前に襟首を掴む。


「俺が勝ったら、アンジェラのことを少し考えてみろよ」


 身体を深く沈め右肘を相手の右脇腹の奥へと潜り込ませる。

 またも初めて目の当たりにする技を前にしてホマーシュは先程と同様にハンスの側頭部を殴ろうとするも、それよりも早くホマーシュは気持ち悪い浮遊感に襲われた。

 その浮遊感も一瞬だ。

 背中を強烈な痛みが走り抜け、肺から空気が吐き出される。酸素を求めようともうまく筋肉が動かず苦しみに悶えてしまう。


「――ひゅ、はぁッ……!」


 息が吸えた瞬間に咳き込む。


「俺の、勝ちだ」


 ハンスはそう告げ、ホマーシュを見下ろした。


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