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死神少女  作者: 平乃ひら
Neun
141/163

141.テース3

「だが……」


 ――だが、これは追い込まれたという理由にはならない。血塗れの大剣を引き抜くと、その男の身体から鮮血が溢れ出す。今更幾ら血によって濡れようと気にしなくなるほどこの夜の間に殺したが、それでもわざわざ血を浴びる理由もなくホマーシュは死者から離れる。自らが手に掛けた屍に対して情などはなにもなく、残酷にも汚物と同じ程度の感情しか彼は抱けない。


「だが、これからが始まりだ」


 死神の正体を視た。

 銃弾が飛び交う中、それでも決して当たらない奇跡の渦の中で二人の少年少女が互いに向かい合っていたのを視たのだ。

 あの瞬間、世界が確かに止まった。――少女が手を伸ばした先で鎌が握られ、白き装束は黒の喪服へと変貌し、世界中の魂という魂が死という恐怖に脅えたのではないかとすら錯覚する恐怖に身を強張らせながらも、ホマーシュの目だけはあの少女が死神へと変貌したのを知ったのだ。

 あの少女こそが、あの姿こそが自分達を――


「この僕を利用して生み出した神様というわけですか」


 才能のある子供を国や立場関係なく集めて特殊な教育を施すことにより、極端な方向による天才を人工的に生み出す実験というのだけはホマーシュも掴んでいた。目的としては超人を生み出すことによる国の利益への貢献といったところだろう。その実験の主体はケープ市などという小さな範囲に収まらず、もっと巨大な組織絡みだった筈だ。


「最終的に生き残ったのが、僕達七人だった」


 その七人もとある時を境に四人へと減ってしまったのだが。


「……そうなると、あの死神は……やはりあの、最年少の子だったわけですか。くくっ、あれが完成系……? あんなおぞましき存在を造り出す為だけに、僕は散々利用されたわけですね」


 非人道的な実験の数々は子供達を芯から蝕み、そうしてホマーシュの心を歪ませるに至る。計算高く何事もそつなくこなすホマーシュが感情を顕わにする時は、必ず復讐という二文字が付きまとった。その復讐は誰の為でもなく、自分の為だとはっきり自覚している。故に決してぶれることはない。


「そう、そうだ。思い出した。名前はテース。彼女の名前はテースだ。ああ、そうだった。ビャルネ、ダルラ、ドラホスラフ、ハンス、カミーユ……ああ、思い出せるさ。君達の名前をな。哀れで愚かな君達。利用されてもなお子犬のように黙ったままだった君達を軽蔑する」


 この建物の中に生き残っている人間は一人としていない。およそ人間らしき生き物は敵対者であろうがそうでなかろうが全て殺した。殺し尽くすことによって目撃者を絶つという目的もあったが、それ以上にホマーシュの身体が止まってくれなかったのだ。


「さぁ『右腕』――僕にこんな刺客を送ったんだ。当然どうなるか解っているだろう。あの実験の協力者だとしても、折角最後までは生かしてやろうと慈悲の心で恩赦を与えてやろうと思ったのに、手遅れだ。ああ、今から殺しに行くよ」


 その『右腕』と組んだ理由の一つとしてはアデナウアー家を絶望に叩き込む為だった。まずはあの家を潰すことが最初の目標であるからこそ、ホマーシュは試行錯誤した結果、最高に持ち上げてどん底にまで落とすという方法を取ったのだ。その為にはケープ市でも一躍有名人であり神教官府が設立した学校へと通うアンジェラを聖女に祭り上げるのは彼にとってなかなかに愉快なイベントだったといえるだろう。何でも願いを叶える聖女という触れ込みだったが、実を言えば裏で『右腕』が暗躍していたに過ぎなかった。可能な範囲において動き、実際に人々が願う幾つかを叶えるだけで勝手に聖女へと祭り上げられた。アンジェラは散々に悩み、そしてその悩みを聞いて傍らに控えて絶大な信頼を得たところで――まったくもって容赦なく裏切る。それこそ友人家族を殺し、その生首を差し出すことによってだ。

 あの時のアンジェラの顔は、おそらく一生忘れないことだろう。あれこそホマーシュの望んでいたことだったからだ。


「……しかし、もう『右腕』はいらない。片腕だけの貴様になど、もう利用価値もない」


 元々『右腕』もターゲットだ。殺すことに躊躇はない。

 そして全ての復讐を果たしたその後のことなど何も考えないことにしていた。


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