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サイキック  作者: 仔虎
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第一話 連続爆発事件

サイキック



第一話 


―池袋 池袋駅東口前の信号



 今日も相変わらず池袋は人が多く往来しガヤガヤと賑わっている。

少し肌寒いが春の日差しがこの地を温かく照らし、心なしか体がポカポカしてきた気がするような今日この頃。




「いやぁ、いい買い物したぜっ!前々から欲しかったアニメグッズもGETできたし…ぬふふっ」


「気持ち悪いぞ…大体お前必死に買い物についてこいっていうから来てみたらお前の用事ってアニメイトかよ…」



そんな温かい日差しが差し込む池袋の街を二人の男性が歩いていた。

一人は矢代 春斗。

赤いストールを首に巻き、アニメイトの袋一杯に入っているアニメグッズを大事そうに抱えニヤニヤと笑っている。

もう一人は霧島 水喪。

ベージュのだぼっとしたカーディガンを身にまとい、呆れたように春斗を見て軽くため息をついている。

二人は帰ろうと駅へと歩みを進めていた。すると袋の中のグッズを見ながらニヤニヤしていた春斗は唐突にパッと顔を上げ水喪のほうに顔を向けた。その様子に水喪は今度はなんだと言いたげに眉を顰めつつ赤信号のため歩みを止める。



「なぁなぁ水喪、知ってるか?」


「なにを?」


「最近東京で勃発してる騒動のこと。ほら、この前秋葉原で起こった爆発事件」


「あー……わかんないな」


「おまっ…本当にTV見ないよな…まぁいいや、それでさ。秋葉原の歩行者天国の時間帯にさ。駅前の広場があるだろ?あそこでいきなり大爆発がおこったんだと!その爆発が起こった中心から出てきたのが二人の男でなっ。不思議だよなぁ…爆発した中心から無傷の2人の男だぜ?んで、そこにいた通行人が何か叫んだ瞬間にまたドォオオンって大爆発!そしたらその中心からでてきた一人の男がー…」



事件の続きを熱く語っている春斗を尻目に水喪は信号が青になったのを確認し、話に夢中になっている春斗を無視して歩きだした。

話に夢中になっていた春斗が、先を行く水喪に気が付くと慌てたように、待ってよ!っと言いながら話すのを中断して水喪を追いかけた。



「ッ…置いてくなよなー!ったく…」


「話に夢中になってるからだろ?俺は早く帰りたい…」


「お前さぁ…、俺がいなかったら引き込もりになってそうだよな」


「許されるなら引きこもりになりたいっ」


「ははっ」



二人は信号を渡り池袋駅構内に入った。

外もそうだが駅も人が物凄く溢れている。待ち合わせをしてる人、友人と買い物に来てる人、サラリーマン、家族連れ。

とくに東口から入ってすぐの階段下にある池フクロウ前に人々は密集していた。

日差しのおかげで外も温かいが、ここは人口が密集しているためか人々の熱気で温かいというよりも暑いと言えるだろう。

水喪はそんな人々を見て溜息をついた。

今日は平日だというのにも関わらずココ、池袋には昼夜どの時間帯も人々が溢れかえり活気よく活動している。

人々のガヤガヤとした騒がしい声が雑音に聞こえる。先を急ぐように足を進める人はぶつかっても特に気にすることもなく謝罪を入れることなく横を通りぬけ、バカみたいな学生たちは周りの迷惑を気にするとこもなく通路を塞ぐ。

そんな忙しない現状にココ、池袋ならず東京都内全体が自分の時間の流れを早めているのではないかと錯覚すらしそうになる。

実際そんなことはないのだが・・・・・・

静かでゆったりとした空間が好きな水喪には東京というこの土地があまり好きではなかった。

何故自分は田舎に生まれなかったのだろうと悔やんだこともあった。

思考を巡らせながら水喪はだるそうに行き交う人を避けながら親友の春斗と帰路につくため、前へ前へと歩みを進めた。






「あいかわらず駅構内も人多いよなー…あ、そうそう。さっきいってた事件あるじゃん?」


「あぁ」


「秋葉原の他にも原宿とか五反田とか、東京の至るところで爆発事件が相次いでんだけどさ…

 一つだけどの事件にも共通してることがあるんだよ」


「そーかそーか、ソーナンダァ」


「ちゃんと聞けよなっ!…んで共通してることなんだけど……全部事件の発生現場が駅前か駅構内なんだよ」


「ふーん、そりゃ電車乗ってるやつらは事件のせいで電車が止まってさぞ迷惑してるだろうな」


「そうだねー…じゃなくって!もしかしたらさっ、今この瞬間とか爆発起きちゃったりしちゃって♪」


いたずらに笑う春斗に水喪は呆れたと言わんばかりに顔をしかめ手であしらう様に否定した。


「んなことそう簡単にあるわけねぇだろ。大体そんなことが起こったら俺が家に帰れないじゃないか」


「そこかよっ……でも可能性としてはありうるじゃん?しかも俺こういうこといってちょっとフラグ建っちゃったりして、もしその建てたフラグが今…この瞬間、回収されたら!!俺…一級フラグ建築士になれ…!?」


力強く握り拳を作りその手を高く掲げ興奮したように春斗が話ていたその時、突如、水喪と春斗の目の前で爆発が起きた。

いきなりの出来事に二人は目を丸くさせ、足を止めた。

今まさに春斗が一つの可能性として言っていたことが目の前で起きたのだ。

水喪は頭の情報処理が追いつかず、爆発で駅構内で立ち込める煙を見ていた。



「み、水喪…もしかして…」


「…」


「まさにフラグ回収…?どうしよっ、俺…一級フラグ建築士になれたよ!!!」


「そこじゃねぇだろバカヤロー!大体一回言ったことが本当になったぐらいで一級フラグ建築士になれるわけねーだろ!」


「えぇ〜!ってそれどころじゃないか…とりあえず避難」


「おんや〜?生きてる人間‐出来損ない‐がいるね…もしかして君たちは僕が探しているPSYかな?」


爆発で煙が立ち込める通路の奥から、人影がこちらに近づいてくるのが見える。

水喪と春斗はそちらに視線を向け、身を強張らせ息を飲んだ。










「君たちはPSY?それともただの人間‐出来損ない‐?」








*





煙から姿を現したのは…愉快そうな笑みを口に浮かべながら首を傾げながらこちらに近づいてくるゴーグルをつけた赤髪の男。

その男から発せられている殺気を肌にヒシヒシと感じ水喪は本能のままに一歩、後退った。



多分、こいつが春斗の言っていた東京で起こっている爆発事件の犯人だろう。



嫌にリアルに冷汗が頬を伝うのがわかる。

水喪の中の何かがこいつは危険だ、逃げろ!とガンガンと頭の中で警報が鳴っている。だが自分の足は目の前の相手の殺気で

動かない。否、動かせないのだ。少しでも動いたら殺される…そんな気がした。

チラリと春斗を横目で見る。春斗の顔色が悪いのが見て伺える。




「(足は竦んで動かせない、春斗も動かせそうもない…このままじゃ…っ!)」



水喪の気持ちが焦る。

逃げるに逃げられない状況だ、出来れば目の前にいるこの赤髪の男を刺激したくはない。



「人が聞いているのに答えないなんて失礼だとは思わないのかい?…まぁいいや。君たちがPSYかそうじゃないかなんて…戦えばわかるよねェ?」


口元の笑みが一層深まった瞬間、突然、目の前がカッと眩しく光り、激しい熱風が二人を襲った。

勢いよく熱風に飛ばされ壁に叩きつけられた。背中に激しい痛みが走り、息が詰まる感覚と痛みで顔を歪める。

いきなり隣にいたはずの水喪が激しい熱風を感じた瞬間にぶっ飛び、ハッと我に返った春斗が叫ぶように水喪の名前を呼んだ。が、背中の痛みでそれどころじゃない水喪にはその声は届かなかった。



「水喪っ!!!」


「なァーんだ…PSYじゃない感じ?はぁ、…この調子じゃぁそのうちボスに怒られちゃうなぁ」


「ぐっ…」


「んー…どうしよっかなァ?逃がすのはまずいしなァ、だからといって俺の探してるPSYでもなさそうだし。顔見られちゃったし、始末するしかないかな」



赤髪の男はそう告げると、いつの間に手にしたのやら右手にライターを持っていた。

そのライターを着火させると小さくゆらゆらと揺らめいている炎が、段々ライターでは絶対にできないだろう大きさの炎まで成長し赤髪の男の周りを渦巻くように轟々と燃え盛る。炎に囲まれているにも関わらずにまるで暑さを感じていないのか赤髪の男は飄々とした趣きで壁に凭れ掛かっている水喪とそのそばにいる春斗に狙いを定めたような獣の目を向けていた。その炎の様子に春斗の中で一つの言葉が浮かび上がる。



「お前…発火能力者かよっ。PSYってそういうことかよ…っ」


「そうだよー。…あれ?能力者のことって確か、世間一般的?に公開されてないはずだよねェ?まさかPSYじゃないと思ってたけど…君もPSYだったり、しちゃうのかなっ!!!!」



春斗の様子に違和感を感じた赤髪の男だがその違和感を確かめるため先制攻撃をしかける。

赤髪の男の周りで渦巻いていた炎が春斗のほうへと襲い掛かかるように向かっていく。

やばいと感じた春斗は一歩足を引くと背後に吹き飛ばされ壁に凭れ掛かっている水喪に触れ、炎が襲い掛かってくるギリギリのところで一瞬にしてその場から姿を消した。

轟々と燃え盛る炎を自分の周りへとまた渦巻くように元の位置に戻すとさっきまで春斗や水喪がいた場所には壁や床が焼け焦げているだけで二人の姿は見えなかった。その様子をみて赤髪の男の中で春斗へ感じていた違和感が確信へと変わる。



「ふーん、なるほどねっ。やっぱ俺の中の違和感は当たってたわけだ。二人が跡形もなくいなくなってるってことは空間移動のPSYって感じかなァ…もしそうだとしたら能力levelにもよるけど遠くに行っちゃってる場合もあるし…」



さて、どうしようかとその場で悩み始めた赤髪の男を50m先の柱の陰から様子をうかがっている人影があった。

先ほど一瞬にしてその場から消えた春斗と水喪だった。

背中を庇うように水喪は態勢を変え、赤髪の男に気づかれないよう息を顰めて柱の陰から視線を向ける。

春斗とはいうと軽く息を切らしており、赤髪の男の様子は水喪に任せ自身は息を整えドクドクと激しく脈打つ心臓を鎮めることに専念していた。なかなか動かない赤髪の男から、いったん目を離し水喪は春斗へと視線を移す。



「おい…大丈夫かよ?」


「だ、だいじょうぶ…」


「…なんだかよくわかんないが、俺たちどうやってあそこからここまで移動した?春斗に触れられた瞬間、一瞬で移動したような気がするんだが…あの赤い奴が言っているPSY?ってやつに関係してるのか?」


「……いつか、話さなきゃいけないとは思ってたんだけどな。ははっ、まさかこんな形で言わなきゃいけないことになるとは…」


「春斗?なんのこと…」



春斗の様子に水喪は眉を顰め詳しく聞き出そうとしたその時、パキッと近くでガラスを踏む音が聞こえ自分たちに覆いかぶさるように落とされる影に、まさかと後ろを振り向くと…そこには怪しく目を光らせる赤髪の男が水喪たちを見下ろしていた。



「やっぱりねー。近くにいると思ってたんダァー!」


「な…んで…」


「なんでって?そりャ、ちょっと考えればわかるよ。能力を使うときはその能力者の精神状態で能力の範囲を広げることができたり縮めたりすることができるし、また、能力の精度も関わってくる。そこで、俺が現れてからの君の精神状態を思い返すと最悪っぽかったわけで~♪そんな時に使う能力の精度もたかが知れてるわけだし?そんな精神状態で能力を使ったんだから気力体力共に減っちゃってェー回復するまで君、能力使えないんじゃナァーイ?」


「…っ」


「な、なんだかよくわかんないけど…あんたの目的はなんなんだ!?」


「俺の目的?そうだなー…言ってもいいのカナ?うーん…まぁ、イッカ!俺はね、PSYを探してるんだよ。俺らの組織に入ってもらって~戦力になってもらう」



この男からこの短時間で何回も聞いた単語がまた出てくる。



「PSYってなんだ?」


「えー?PSY知らないの?はぁ~…これだから人間‐出来損ない‐は…いいよ、教えてあげる。PSYとは超能力者のことを現した名称…いや、呼び方はいろいろあるらしいんだけどネェ。そんなとこかな」


「PSY…サイ…超能力…サイキックのことか」


水喪はそういうと先ほど逃げる時に他の人が落としていっただろう水のペットボトルを見つけ気づかれないように背後に隠した。


「そうなんじゃない?ま、俺にはどうでもいいことだけど。それよりもういいよね?君はPSYじゃなさそうだし、ここでさようなら。そしてそこで弱ってる君は晴れて俺たちの組織入り~!と、いうわけで、バイバーイ?」


「…絶対やだね!!」


そういうと先ほど背後に隠したペットボトルの水を赤髪の男に向かって放つと不思議な現象が起きた。

水喪の放った水は空中で水の量が急激に増し、男が炎の渦にしたように水の渦になったソレは男へと襲い掛かる。


「なんだ!?」


「まさか、お前もっっ!!!」


それに驚いた赤髪の男が瞬時に手元のライターを付けると先ほどのように水の渦よりも倍大きな炎の渦となり水の渦を打消し水喪に襲い掛かってきた。

背中をやられており思うように体を動かせない水喪はここで万事休すかと思ったその瞬間、突風が水喪と襲い掛かってくる炎の間に吹き付けた。

駅構内で突風なんて可笑しいと不思議に感じたがそれに構わず吹き付ける強い突風に思わず目をぎゅっと閉じ、突風が収まると水喪はゆっくりと目を開けた。

目を開けると水喪の視界にはサラサラとしたハニーブラウンの髪の毛が揺らめいていた。







*



「あんたね、最近東京都内で騒ぎになってる爆破事件の犯人は」


「あちゃー、やっぱ出てきたか。国家の番犬」


「やめてくれるかしら?私そういわれるの嫌いなの。それにちゃんとした組織名があるんだから呼ぶならそっちにしてくれないかしら?」



不愉快だと言わんばかりに女は長い髪を払うと女の周囲からどこからともなく風が吹き、その風は無数の小さな竜巻となって赤髪の男を襲った。

赤髪の男はその竜巻を身軽に避けると女と距離を取った。


「おおっと、これは失礼しましたね。国家超能力者対策機関‐A.P.M.S-様?」


「こちとらあんたが頻繁に事件起こすせいで忙しいのよ!まぁいいわ…やっと犯人にありつけたんだもの。逃がさないわよ」


「怖い怖い。美人の怒った顔はやはり迫力があるネェ~」


女が手を前に突き出すと風が巻き起こり赤髪の男に襲い掛かる。

赤髪の男は避けるも風の向きが変わり男の避けたほうへと吹き付ける。さすがに避けきれないのかその強い風は男に当り男は柱に叩きつけられると共に無数の切り傷を負った。

女はというとウェイターのようにお盆を持つような手にするとそこに円盤型の視覚で認識できるほどの風の渦を作り出した。

ギュルギュルとすごい音を立てるソレを柱に叩きつけられた赤髪の男に向けて投げるとそれに気づいた男は肩を庇いつつ横に倒れこむように避けると投げられたソレは柱へ直撃し柱は真っ二つにへし折れた。

水喪は呆然と唐突に目の前で繰り広げられている超常現象を眺めていたが柱が折れたところでハッと我に返ると春斗の元へと駆け寄った。



「春斗、動けるか?」


「あ、あぁ、だいぶマシになった。てか水喪、お前も平気かよ?」


「いや、ぶっちゃけ痛いが今はそうもいってられないからな」


「そりゃそうだな…」


フラフラと立ち上がる春斗の様子に本当に大丈夫なのかと心配になったがとりあえず安全な場所に避難するのが先だと春斗の腕に身体を差し込み春斗の身体を支えつつその場から立ち去ろうと一歩前に出た。

が、そこから逃げ出すことはかなわなかった。火の玉が勢いよく水喪たちの目の前に放たれ歩みを進めることは叶わなかった。



「おいおい、どこいくんだよ」


「っ」


「水喪…」


「お前たちは逃がさないぞ?せっかく見つけたPSYなんだからな」


「…この二人、一般人じゃないの?」


女はいぶかしげにチラリと水喪たちに視線を投げるがすぐに目の前にいる赤髪の男に視線を戻した。

身体に無数の切り傷を負った赤髪の男は女に視線を向けながらも水喪たちを牽制している。

ゴクリと唾を飲み込む。



「まぁいいわ。それよりあなたにはお縄についてもらうわよ。そこの二人に関してはあとで聞きたいことがあるから」


そういうと女の周りに纏わりついていた風が徐々に先ほどのものよりくらべものにならないくらい荒々しく吹き荒れ始める。

それに呼応するように赤髪の男の炎も勢いを増す。

その様子をみると焦ったように春斗は水喪に声をかけた。水喪はいきなりどうしたんだとさきほどとは様子の違う二人から視線を離し春斗へと向けるとバンッ!!となにかが激しくぶつかり合う音がした。

やばい…!水喪は次にくる衝撃に目をつぶった。が、いつまでも自分にその衝撃は襲ってこない。不思議に思い恐る恐る目を開けると水喪たちは何かの膜で覆われていた。



「な、なんだこれ?水…?」


「…」


自分たちを覆う膜に触れると冷たい水の感触がする。

先ほどから起っている超常現象に戸惑いを隠せない水喪の傍で春斗はじっと水喪を見ていた。



「いやぁ、お姉さん強いですねェ」


「あんたもね。敵じゃなければ訓練の相手くらいにはなってほしい人材だわ」


「訓練の相手ってなんか微妙な位置だなァ」


「そ、うかしら!」


「っ…ははっ、そろそろ余裕なくなってきたカモー。今回は諦めようかなァ」



炎と風の激しいぶつかり合いを切り上げ赤髪の男は女から距離を取るように後ろへ下がるとライターをしまい何か球体の物を取り出した。

女は逃がさないとばかりに風の刃を赤髪の男に向けるがその刃が届くよりも先に男はその球体の物に火をつけ煙を駅構内にまき散らし煙が駅構内いっぱいになる前に水の膜に包まれた水喪と春斗を見て軽く手を振った。



「           」


「え、なんて…?」


赤髪の男は何か水喪たちに向けて何か言っていたが、なんせ距離が離れているせいで聞き取ることはできなかった。

聞き返そうとした時にはすでに駅構内に煙が充満して男の姿が煙に紛れてしまった、しばらくして女が咳こみながら待ちなさい!という声と共に風で煙を吹き飛ばしたがすでにそこにはあの赤髪の男の姿はなかった。









*



「くっそ…してやられたわ!スモークボムももってたなんて…」


綺麗に整った顔を不機嫌そうに歪め鬱陶しそうに乱れた髪を後ろに払う。

女は大きく息をすうと今やもう姿を消してしまった敵のいた方向に大きくストレスを吹き飛ばすかのように叫ぶ。ひとしきり叫ぶと満足したのか、くるっと水喪たちのほうに方向転換し、キッと眉を上げ怖い顔でツカツカとヒールの音を立てて早歩きで迫ってきた。

その形相に思わず春斗はひっ!と声を上げてしまう。水喪も女のその形相に身を強張らせてしまう。

先ほどの赤髪の男から感じた恐怖とは全く違う感じだが、何故だろう…この身の竦むような感覚はと水喪と春斗は声に出さずとも心の中でそう思った。

女は水の膜につつまれている水喪たちの前までくると仁王立ちし二人を見下ろす。



「あんたたちPSY使えるのね?」


「え、あ、いや、…その、使えないです…」


「嘘つくんじゃないわよっ!じゃぁその水の膜は何かしら?!嘘つくなら、あんたたち逮捕するわよ!?」


「た、逮捕!?」



春斗は驚きの声を上げた。



「そうよ。私は伊藤 朱莉。国家超能力者対策機関‐A.P.M.S-、警察と同じ立場の人間よ」



女、朱莉はそう名乗ると懐から警察手帳のようなものを見せた。ようなものというのは形状などは通常の警察手帳と酷似しているのだがマークが違うのだ。

警察のマークのようなものにワシが大きく正面に羽ばたいているような絵、そこにA.P.M.Sとロゴが貼られている。

中には本人だと確認できる免許書のようなものが入っていた。



「大体あんたたちねぇ、PSY使えないって全然説得力ないのよ!その水の膜はいったいなんだって話になるじゃない!!」


「そ、そんなこと言われても…いきなり目を開けたら水の膜が貼られていたわけで、なんでこうなったのか俺には…」


「自覚なしで能力が使えるっていうの?っていうか早くのこの水の膜どうにかしなさいよっ!!」


「えぇ!?」


「早くどうにかしなさい?さもないと…」


「さ、さもないと・・・?」


おびえたような様子で春斗は朱莉に尋ねる。

すると朱莉は真顔で答えた。



「強行突破するわよ」



風がまたどっからともなく吹き付ける。水喪たちは先ほどの戦闘を思い出した。


「「(あんなのくらったら一溜まりもないに決まってるっ!)」」


サーっと顔から血の気が失せていくのがわかる。だが水の膜をどうにかしろといわれても二人ともどうすることもできないのだ。

ギュルギュルと風の音がやばくなってきたところで水喪たちは自分の終わりを悟った。その時。



「こんのアホ娘!!被害者に何しようとしてんだこの駄アホッ!!!」


「いったーい!!!!!!何すんのよこのロン毛!」


突如朱莉の背後に現れた金髪の男が分厚そうなファイルで朱莉の頭を勢いよく殴った。

いきなりの出来事に水喪と春斗は呆然とする。ギャーッギャーと喚く朱莉に溜息をつくと金髪の男は朱莉を無視して水喪たちの前に目線を合わせるようにしゃがみこむ。



「よう、兄ちゃん達わりぃな。怖い思いしただろ?もっと早く助けてやりたかったんだけど空間移動できる奴が今出払っててなぁ」


「く、空間移動…?」


「水喪、空間移動っていうのは俺が水喪に触れたときにしたやつだよ」


「あの一瞬で移動するやつか?」


「…こりゃ驚いた。お前さん空間移動のPSY保持者か」


「…まぁ。PSYの意味はしらないですけど」



気まずそうにあははと頬を軽くかきながら笑う。



「そうだ…お前なんで俺にあんな能力があること黙ってたんだ?」


「いや、ほら。あれじゃん?」


「どれだよ…」


呆れたように水喪は春斗が言う。



「だってさぁ…確かに能力持ちっていうのはカッコイイけどさぁ…空間移動なんてアニメでいうサブキャラが使うような能力だぞ!?どうせ持つんだったらさっきのヤツの炎とかお姉さんみたいな風とかの能力がいいじゃん!!!」


「理由がしょうもないな」


「まぁまぁ、とりあえずこの水の膜を解く方法だな。そっちの兄ちゃんが空間移動だってことは、この水の膜を張っているのはそっちの怪我してるほうの兄ちゃんだな」


「え、これ俺のせいなのか?」



驚いたと目を見張る水喪。

気づいてなかったのかと金髪の男も目を見張ったがすぐに元の表情に戻り説明してやる。



「いいか?まずこの水に意識を集中させるんだ。その後、頭でイメージするんだ」


「イメージ?」


「そうだ。水の膜が水たまりに代わるイメージだ」


「膜を…水たまりに」



目を閉じてイメージする。目を開けたままだと視界から入ってくる情報が思い浮かべようとするイメージの妨げになる、そう思い目を閉じ視界から入る情報を遮断した。

頭に水の膜を思い浮かべる。その膜の頂点から綺麗にパシャッっと音を立てて激しく床に水が飛び散る様を思い浮かべると耳からパシャッっと頭の中で思う浮かべたような音が入った。それと同時に冷てぇ!と慌てる声も入ってくる。パッと目を開けると金髪の男の人の服が若干汚れていた。



「…?お兄さん、服濡れてますよ?」


「お前さん、どういうイメージしたんだよ。おかげで濡れちまったろ!」


「ぷぷぷっ、馬鹿俊二ざまぁないわね!」


口元をおさえてくすくすとおかしそうに笑う朱莉に対して俊二と呼ばれた金髪の男は先ほど朱莉を叩いたファイルをいまだに笑っている朱莉に投げつけた。

そのファイルが頭にクリーンヒットするとかなり痛いのか頭を抱えてうずくまった。それを見届けると満足げに頷きまた水喪たちのほうに視線を戻しコホンと軽く咳払いをすると話を切り出した。


「とりあえず水の膜は消えたし本題に入らせてもらうな」


「本題?」


「君たちにはPSYのことや事件の事情徴収もかねてとりあえずうちにきてもらうね」


「ですよねー…」


「家にかえりたいのに…」


「君の背中の手当もしなきゃだしな。そのままだと化膿して後々大変になるぞー?」


「痛いけど平気なんで…帰らせてください」


「痛いっていってんじゃん!?めんどくさがんなよなぁ、ったく……ところでお兄さん、ちなみに断った場合は…?」


「ん?……公務執行妨害で君たちを逮捕しなきゃいけない。かなー☆」


「逮捕!?お、おい水喪、めんどくさがってる場合じゃないぞ!これ行かなきゃヤバいやつだからっ!?」


「はぁ…わかったわかった。いくから隣で騒がないでくれ…」


背中の怪我のせいなのか若干熱が出てきている水喪の横で声を大にしてめんどくさがっている水喪に声をかける春斗。

その声がガンガンと頭に響くので両手で耳を塞いで止めてくれと訴えた。それに気づいた春斗はしゅんと肩を落として小さくごめんと言うとそれを見ていた俊二が笑った。


「そっちの兄ちゃんは傷のせいでちょっと熱が出てるっぽいな。とりあえずうちについたら医務室に連れてってやんないといけないみたいだ。あっちに車を用意してあるからそこまで頑張って歩けるか?」


「平気です」


「そっちの兄ちゃんの怪我は?」


「俺は大丈夫ですよー!」


「そうかそうか。じゃぁさっそく行くか!っと、自己紹介がまだだったな」


春斗が水喪に肩を貸し立ち上がらせるとふと自己紹介してなかったなと思い出した俊二はニッと笑うと名前を名乗った。


「俺は国家超能力者対策機関‐A.P.M.S-刑事課、遊撃隊隊長の斎藤 俊二だ」


「霧島 水喪…高2です」


「同じく高2の矢代 春斗です」



そして三人は車のある方向へと歩きだした。

水喪は熱で浮かされている頭の中でPSYという今日何回も聞いた単語が離れない。出来れば今は何も考えたくはないのに…。

水喪は春斗に聞こえないくらいの溜息を静かにつくと車の中へと乗り込み目的地に着くまでの間、寝ていろと言われ大人しく眠ることにした。

意識が落ちる前に春斗が何か真剣に俊二に言っている様子が見えたが眠気とだるさがピークに達した水喪の意識はそこで途切れた。





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