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第十話 『決戦!』 3. 睨み合い



 メック・トルーパーの待機所兼事務所で、桔平と木場は難しそうな顔をつき合わせ腕組みをしていた。

「そうか、彼がそんなことを言ったか……」

 木場の声に頷く桔平。

「彼には他のメンバーのような積み重ねがない。覚悟はしているつもりだったのだろうが、本能で恐怖を感じ取ってしまったのだろうな」

「まあな。相手が悪すぎた。タイミングもな。調子がいい時はコクピットの中にちょっとしたシールドみたいなのもできるって話だが、かなりいろいろとケズられてたみたいだからな。夕季に言われるまで俺もそんなこと気にもとめなかった。我ながらやっちまったと思う。鼻毛大臣に借りた裏ビデオ観てる時にいきなりお袋が帰ってきたのを思い出すぜ。ちくしょうっ、思い切りひっぱたきやがって、クソババアめ!」

「……」木場が不快そうな顔を向ける。「絶対大丈夫だって言ったよな、おまえ。俺はそれを信じて……」

「仕方ねえだろ、美容院の予約の日にち見間違えたってんだからよ」

「自分のミスを棚に上げるな。おまえはいい。あの状況じゃ、どう考えても先輩の俺の責任だろうが。おかげで俺の信用までガタ落ちだ」

「ちいせえこと言ってんなって。世の中にゃ絶対なんてねえんだ」淋しそうに目を伏せる。「十が七に見えただけだ……」

「……。気づけなかった俺達の責任だろうな」

「そりゃ無理ってもんだ」

「!」

「俺もおまえも集中してたからな。完全無防備状態だったしよ」

「……。いや、光輔の話だ……」

「なんだ、まぎらわしい。まあ、だな。夕季が言うように、ろくに訓練もなしにここまでやってこれたのが奇跡みたいなもんだったのかもしれねえ」

「そうだな」

「無理もねえか。考えてみりゃあいつらもまだ十六かそこらのガキんちょだ。遊びたい盛りだろ。それをあんなモンに乗せられて、大人でも尻込みしちまうようなバケモンと戦わされるんだ。腰が引けて当然ってとこか。あいつらがすごすぎて、俺達はそれを忘れちまってたんだな」

「いつの間にか彼らの力をあてにしすぎていたのは否定できん。本当に腹を決めなければならないのは我々の方なのにな。彼らにこれ以上を求めるのは酷というものだ」

「だな……」ふうと息を吐き出す。「あいつを守ってくれって陵太郎に頼まれてたのに、気がつきゃ守られてたのはこっちの方だ。勢いとはいえ、あんなこと俺が言えた義理じゃなかったんだよな。またなんか持って謝りにでも行ってくっかな」

「くれぐれも慎重にな」

「わかってら」物憂げに窓の外へ目をやる。強烈に射し込む陽射しと耳障りな蝉の鳴き声が苛立ちを募らせた。「このまま……」

「?」

 木場の方を見ようともせず、桔平が気弱な声を吐き出した。

「このまま動かないでいてくれるんなら、こっちもへたに触んねえ方がいいかもしれねえな」

「アスモデウスのことか?」

「おお。モノとしての次元が違いすぎる。人間が考えつく理論じゃ、あいつを分解する法則にはたどりつけねえかもしれねえ。たとえ核でもな。天変地異が妖怪のせいだっつって、空に向かって豆鉄砲撃つようなもんだろ。それに、あいつは何もせずに、ただそこにいただけだからな。先につっついたのは俺達の方だ」

「……おまえらしくないもの言いだな」

「俺もそう思う。だがな、そんな気にもなってくる。結局いろんなテリトリーに土足で踏み込んで荒らしてきたのは、いつも俺達人間の方だ。いつだってそうだ。そうして俺達は大地や空の怒りを買ってきた。この星の怒りを買ってきた。全部自分達が蒔いた種だ」

「……」

「奴らはこの星そのものだ。この星の怒りだ。海や地面に核をぶっぱなしても、地球が真っ二つに割れることはない。針の先にも満たない小さな穴があくだけだ。だがその小さな穴をいくつかあけるだけで、俺達は簡単に自滅する。殺虫剤まかれた害虫みたいにな。もし奴らを認めることで自分達の大事なモンが守れるのなら、それでいいとさえ思えるようになってきやがった。そううまくはいかねえだろうけどな……」

「おい」

「んあ?」木場に呼びかけられ、腑抜けた顔を向ける。

「心にもないことを言うな」

「……。わかってんよ、バーカ」

 再び顔をそむけた桔平を木場は心配そうに見守っていた。

「だがな、桔平」

「おう?」

「実際問題、どうするつもりだ。彼の代わりはいるのか。交替のオビディエンサーは」

「んな話、これっぽちも出てきやしねえ」

「何をしている。もともと陵太郎の時も第二候補者まで話がいっていたはずだろう」

「あさみにその気がねえんだから、しゃああんめえが。礼也の時もそうだったが」

「そうか……」

「あさみの持ってたリスト盗み見しといたから、とりあえず候補者には連絡をとってみる。メガ・テクノロジーで技術者やってる奴らしいが、アメリカ在住だからな、うまく折り合いがつけばいいが」

「わかった。頼んだぞ、桔平」

「おうよ」

 木場も深く息を吐き出す。

「あまり考えたくはないが、不測の事態に備えてもっと多くのオビィを育成しておく必要があるな」

「育成っつったって、シミュレーションでどうにかなるモンでもねえしな。いつそうなったっておかしかねえのによ。礼也はともかく、夕季だってそうだ。もともとしの坊を見返してやろうと意地張って頑張ってたようなもんだからな。誤解が解けた今、いつおめかしや男に目覚めて、やだも〜、こんなのやってらんな〜い、とか言い出だしても全然おかしくねえ」

「……。おかしいだろ、それは。彼女がそんなことを言うはずがない」

 木場が真顔で受け答える。

 それが桔平のカンにさわったようだった。

「やだも〜、ゴリラえもん、冗談すら通じず〜、いたい〜」

 裏声で揶揄するように言う桔平に戸惑いの表情を向ける木場。

「おい、桔平」

「やだぼ〜、ごわい〜、やべてよ〜。痛ゴリラ、最低!」

「……」

「やだも〜、史上最低〜!」

「史上……」

「やだも〜、ゴリラえもん加齢臭出まくり〜、鳳さんと同じにおい〜、くっさ〜、オホッ、ゴホ……」

 むせるまでそれを続ける桔平に、木場が怒りと感情をあらわにした。

「なんだと!……」野太い声を真っ直ぐに押し出す。「やだもー! この野郎、こ、この糖尿予備軍!」

「はあんっ!」

 眉間に皺を寄せ、二人が睨み合った。

「! ……。やだもー! このゴリ公、センスなっすぃんぐか!」

「! ……。やだもー! この野郎、ぶっとばされたいのか!」

「やだもー! このゴリゴリ君、パソコンの中がエグい写真でパンパンなくせしやがって!」

「やだもー! この野郎、それはおまえが勝手に入れたやつだぞ!」

「やだもー! このゴリリン、だったら消せばいいじゃないの!」

「やだもー! この野郎、それは、ええと……」

「やだもー! このエロガッパ、しの坊にバラしてやる」

「それだけは勘弁してくれ!」

「やだもー! 勘弁しな〜い」

「……。やだもー! それじゃ俺もメックの奴らにこないだの焼肉屋でのこと全部バラしてやる。便所でチャック全開のまま酔いつぶれてたこととか」

「それだけは勘弁してくれ!」

「やだもー! おまえしだいだ。俺の車の中でゲロ吐きやがって!」

「やだもー! マジか! ちくしょう、仕方ねえ」

「やだもー! 取引成立だな」

「やだもー! んじゃ金貸してくれ」

「やだもー! 断る。何が、んじゃだ」

「やだもー! 今月マジでヤベえんだっての!」

「やだもー! 自業自得だ!」

「やだもー! ケチ!」

「やだもー! 知るか!」

「やだもー! えーとな、えーと……」

「やだもー! あのな……」

 次弾に窮し、膠着状態のままただ睨み合う桔平と木場。

 ガタン、という物音に慌てて振り返った。

 花瓶を抱えた忍が戦慄するように立ちすくんでいた。退いた拍子に机にぶつかる。

「ぶおっ! おまえいつからいた!」

「おい、忍! これは……」

「あ、あの……」困惑したように二人を見比べる忍。おろおろと泣きそうな顔を伏せた。「すみませんっ!」

「何がだ!」ドンと花瓶を置き逃げるように去って行く忍に木場が手を伸ばした。「何がすみませんなんだっ!」

 届かないその手のひらが、虚しく空だけをつかむ。

「……桔平」

「やだぼ〜……」


 メガル基地内の竜王格納庫では礼也と夕季が睨み合っていた。

「そんな勝手を許したのか!」

 興奮し息を荒げる礼也。

「そんなことで奴を倒せると思ってんのか! 甘っちょろいにもほどがあるって!」キッと口もとを結び、背中を向ける。「光輔のところに行ってくる」

 後ろから夕季が呼び止めた。

「行ってどうする気」

「説得する。承知しなかったら、首に鎖つけてでも引っ張り出してやるって」

「そんなことして何になるの! 光輔はもう乗らないって決めたのに。無理やり連れてきたって、いい結果が出るわけない」

「だから、そんな悠長なことを言っている場合じゃねえって言ってんだ! 俺らがやらなきゃこの世界はなくなるかもしんねえんだぞ。一人でも協力が必要な時に、そんなわがまま許されるかって!」

「あたし達がその分頑張ればいい」

「わかんねえのか! おまえもあの化け物を目の前で見てきたんだろが。奴の恐ろしさをガッツリ味わったはずだ! おまえ一人が頑張ったって、知れてんだよ!」

 悔しそうに唇を噛みしめる夕季。ギッと礼也を睨みつけた。

「だからって、光輔をまた巻き込もうっていうのなら許さない」

「どう許さない」ぐいっと夕季に顔を近づける礼也。「俺を叩きのめすのか。そんなことができるのか、おまえに。今度は本当に容赦しねえぞ」

 獣の呼吸をあらわにし、なおかつ冷たく押し込んでくる礼也の迫力に夕季が顎を引く。口を真一文字に結び、まなざしにそれまで以上の力を込めた。

「……。おまえにだってわかってんだろ。俺達だけじゃどうにもならないって」恫喝をやめ、諭すような口調に変わる礼也。「このままじゃ駄目なんだ。俺達は負ける。これじゃ陵太郎さんのかたきだってとれっこねえ……」

「いい加減にすれば!」

 ふいに感情をあらわにした夕季に、礼也がゆっくりと顔を向ける。

「かたき、かたきって、そればっかり。自分のことばかり。そんなにかたき討ちがしたいのなら、一人で行けばいい」

 激高し肩を怒らせながら夕季が去って行く。

 その姿を礼也は表情もなく見つめていた。

「お、夕季はいないのか?」

 桔平の声に礼也が振り返る。

 桔平の横には雅の姿があった。

「今、国防省から通達があった。俺達はもう手を出すなってよ」

「……」

「夕季にもいてほしかったんだがな。まあいい」桔平が重そうな口をこじ開ける。「おまえだけでも見ておいてもらいたいものがある……」





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