第十話 『決戦!』 OP
見覚えのある背中を光輔は追いかけていた。
振り返るその顔に目が釘づけになる。
陵太郎だった。
「りょうちゃん!」
呼びかける光輔に、陵太郎は笑うこともなく再び背を向けて歩き始める。
「りょうちゃん、待ってよ。……!」
陵太郎の隣にもう一人見知った顔、光輔の姉ひかるの顔が見えた。
ひかるもまた無表情のまま、光輔に背中を向け立ち去ろうとした。
「待ってよ、姉さん!」
光輔が二人を追って走り出す。だがその背中は近づくどころか、ますます遠ざかるばかりだった。
「待ってよ。俺も連れてってよ。姉さん、りょうちゃん!」
手を伸ばしても届かない。
二人の姿は闇の彼方に消えかけていた。
「待ってよ、りょうちゃん! 姉さん!…… !」
何かに阻まれ足もとを見やる。
光輔の足首を白く細い手がつかんでいた。
「はなせ!」
恐怖にかられ、その手を蹴りつける光輔。
「はなせ! はなせ! 俺はあの人達と行かなきゃいけないんだ! はなせよ!」
肉が裂け、骨が砕ける。しかしどれだけ血まみれになっても、それが光輔を解放することはなかった。
まるで地の底へと引きずり落とさんとせんばかりに。
「う、あああっ!」青ざめた表情で地を這うように身をよじる。
その時、光が光輔を照らした。
顔を上げ、降りそそぐ光の眩しさに光輔が目を細めた。
「ぐはっ!」
むせかえる勢いで弾かれるように光輔は目を覚ました。
息苦しく荒い呼吸がいつまでも収まらない。しばらく呼吸困難が続き、苦しさから涙が止まらなかった。
やがてぼやける視界の先に見知った顔を認める。
夕季だった。
「夕季……」
身を乗り出し心配そうに光輔を覗き込む夕季の表情は、迷子になった子供のようだった。
「なんで……」
光輔の声を聞いた途端、夕季はほっとしたように表情を緩めてみせた。すぐに顔をゆがめ涙を滲ませる。口の周りが赤く染まっていた。
海竜王のコクピットから落とされる薄明かりの下、脱力したようにペタンと座り込み、夕季が顔を伏せる。
暗くて光輔からははっきりと確認できなかったが、唇を噛みしめ、むせび泣いているようにも見えた。
訳もわからずに、震える夕季の姿を眺める光輔。口もとの血をぬぐい、ようやく自分の置かれた状況を理解した。
「そうか……。……俺、死んで……」
うつろなまなざしで静かに穏やかに広がる薄暗い空を仰ぎ見る。
果てもなく澄み渡る藍色のキャンバスに一閃の星屑が流れ落ちていった。