第九話 『絶叫』 OP
太陽を背に陸竜王が跳び上がった。
その豪快な浴びせ蹴りはアスモデウスの狂猛な槍すら弾き飛ばす。
くるりと着地し拳を突き出すと、ナックル・ダスターと呼ばれる超振動ダガーの中から鋼板がエネルギーの塊となって襲いかかり、ワイヤーに導かれて一直線に手もとへと戻ってくる。インパクトの瞬間に熱量を最大まで高め、触れるものに爆発をもたらす、有効射程約一キロメートルの大型キャノン砲。その破壊力は複合装甲の重戦車を易々と粉砕し、新鋭戦艦の横腹に大穴を穿つ。仮にその一撃に耐えられたとしても、衝撃と飛散した内壁によって内部は致命的な損壊をまぬがれないだろう。実質三十センチの弾頭部を持つ徹甲弾でありヒート弾でもあるそれは、質量、熱量、射出力に換算すれば、同口径の弾頭を持つ滑腔砲よりはるかに上だった。
仮面を陥没させ退くアスモデウス。
続けざまに放たれた無数の鉄拳を受け、人外の魔物は断末魔の悲鳴をあげる間もなく、大地に身を沈めた。
「ええ、承知しています」
司令官専用の事務室の中で神妙な様子の進藤あさみが頷く。
「決してあれの封印は解きません」
冷たく、そして妖しく光るまなざし。
「たとえ最終局面になったとしても……」
そこに浮き上がるものは悲しみの色合いを含んだ決意だった。
海竜王が超高密度クローを射出する。伸縮性のチェーンを従えた、最大五百メートルの射程を誇る細く鋭利な一本爪は、現存するどの物質よりも比重が大きく硬い。鉱石状の外殻に突き刺さるや、先端が複数の鉤状に展開し、アンカーボルトとなって深く食い込んだ。
大地を踏みしめ、牽引力により硬質化したチェーンで強大な対象を引き倒そうとする海竜王。
「夕季!」
抵抗するアスモデウスの死角から、白銀の翼を広げた空竜王が飛びかかっていった。
あらゆるものを切り裂く両刃の剣が、照り返しを受けて七色に光り輝く。
頭上高く舞い上がり、組み合わせた二枚の剣を平行にそろえたまま打ち下ろした。
「てぇぇぇーい!」
表情のない悪魔の仮面が三つに裂けて弾け飛んだ。
メガル地下格納庫の最深部に雅の姿があった。
薄明かりの下、ただ眼前の巨大な物体を見上げる。
「樹神雅」
名を呼ばれ、振り返る雅。
そこには張りつめた表情で凪野守人が立ちつくしていた。
「君の力が必要になった」
その瞳に悲しみのような決意を刻みつけ、雅が小さく頷いた。