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第八話 『終わりなき連鎖』 12. 陸竜王



 陸の王者が真なる姿を白日のもとに晒し、大地に降臨する。

 完成された格闘家の肉体を連想させる体躯は、赤味を帯びた土の色と深い緑色で塗り分けられ、海、空竜王と比してより人間的であり、より戦闘的に映った。

 そびえるように突き立つ触覚は一角獣を連想させ、他の二竜王同様に鋭い顎のラインと切れ上がった両眼、下腕には隆起部を持つ。

 雄々しく胸を張り、猛々しく伸び上がる。赤色の眼を激しく輝かせ、全身に及ぶ無数の小さな窪みから息吹を放出した。

 大気をゆさぶるほどの咆哮をともない、大地を蹴って全長六メートルの巨人が跳び上がる。滞空中に前方回転し、憤怒もろとも硬質の踵を、己の何倍もの敵目がけて叩き降ろした。

 巨大なハンマーを打ち下ろしたような衝撃が地面へと突き抜ける。

 比較すら馬鹿らしくなるほど質量差のある相手の攻撃を受け、アスモデウスが木片のごとく吹き飛んでいった。

 後方に降り立ち、それをしごく当然だと言わんばかりに陸竜王は次なるかまえに移行した。

 倒れたアスモデウスに馬乗りになり、陸竜王がナックルガードに包まれた拳を振り上げる。メリケンサック状に大きく膨らんだ光の輪が、拳の周囲で振動し続けていた。何度も打ち下ろされるそれは、しだいにアスモデウスの固い皮膚に穴を穿っていった。

 ケエエエエー!

 悲鳴を撒き散らし、アスモデウスが陸竜王を弾き飛ばす。が、立ち上がるや、再び陸竜王の猛攻に晒されることとなった。

 その攻撃に間合いは存在しない。ひたすら前進し、懐へ入り込み、真正面から拳を繰り出すのみ。

 竜の首を抱え、捻る動作で引きちぎる。

 ゴキッ、と岩を砕くような音が数キロメートル先まで響き渡った。

「すごい……」海竜王のコクピット内で言葉を失う光輔。陸竜王の蛮勇に釘づけだった。「……あれが陸竜王」

 それは桔平も同じだった。

「あのバケモノをザコ扱いかよ……」ごくりと生唾を飲み込む。

 空中で後方回転し、アスモデウスに正面を向けて陸竜王が降り立った。

 対象を捕捉すると同時に両眼が輝きを増す。

 バツ、バツと内部から湧き起こるハレーション。みなぎるエネルギーを全身からほとばしらせ、赤黒いボディカラーが燃え上がる真紅に染まる。すると頭部の一本角が中心から割れて広がりVの字を形作り、艶やかな紅の色があらわになった。

 全身をぬらりと輝かせ、無数の窪みから圧縮空気を噴出させる。それに呼応して足裏から突出した八対のベアリングローラーを滑らせ、弾丸のようにダッシュした。

 個々の姿勢制御により、瓦礫の凹凸すらものともせずに、荒れた大地も氷上のごとく駆け抜ける赤き疾風。繰り出された槍を、叩きつける炎をかいくぐり、魔神の懐を事もなげに抜けて行く。

 同じ時を共有する両者の速さは明らかに異なって見えた。その動きは誰の目からもはっきりと大別される。

 狩る者と狩られる者として。

 急激なターンとローラーの逆回転でブレーキをかけ、予測攻撃すらあっさりとかわす。両足を大地にえぐり込ませると、厚さ二十センチメートルのアスファルトが小山のようにめくれ上がった。

 振り返るや否や、左の拳を突き出し、ナックルガード状の鋼板を射出する陸竜王。高速で撃ち出されたそれはアスモデウスの盾をも砕き割り、深々と右肩へ食い込み結合した。高熱を発する最厚部十センチメートルの熱塊は、触れるものに爆発をもたらし、いかなる鉱物とも結着することが可能だった。ナックルガードと竜王をつなぐワイヤーは下腕隆起部に収納されており、肉眼では確認できぬほど極細だが、数万トンの荷重にも耐えうる強度を誇る。

 ローラーを高速回転させ、一気に間合いを詰めるべく陸竜王が加速していく。ワイヤーを巻き戻す勢いでさらに加速し、空高く跳び上がると、大きく振りかぶった右の拳でアスモデウスの額を撃ち抜いた。

 一拍おき、衝撃が周辺の空気をビリビリと震わせる。

 それからガラスの器を叩きつけたかのようにアスモデウスの仮面が弾け、飛散した。

 それ以上はなかった。

 両腕をだらりと下げ、もはや木偶と化した巨体は、ゆるやかに背中から倒れ込むのみだった。

 地響きとともに沈んだ巨躯は、またたく間に無数のひび割れに覆われていく。それが粉々に砕け散るや、先を争うように大地に還り始めたのだ。勇者の蛮勇を目の当たりにし、我先と逃げ出す雑兵のごとく。

 残ったのは、胸を張り大空に臨む、陸の王者の雄姿だった。

 間近で見上げる木場が思わず呟く。

「あれが……、最強の竜王……」

 その表情を畏敬の念で染め上げながら。





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