表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/104

第八話 『終わりなき連鎖』 5. バーベキュー大会

 


 酔っ払い達の宴は絶頂状態だった。

 桔平の退席後も、光輔と夕季を肴にお下劣な座談会が続いていた。

「おまえらつき合っちゃえばいいじゃないか」

 ビールを飲みながら何の気なしに南沢が口走る。

 すると目を倍以上に見開く光輔の隣で、夕季が顔を赤らめた。

「おうおう、いっそ結婚しちまえって」コンロで串ものをかえしながら駒田が楽しそうに笑った。

 顔を引きつらせながら、光輔が夕季のご機嫌をうかがい見る。

「ははっ、あんなこと言ってる……」

 見たこともないような凄まじい形相で、夕季が光輔を睨みつけていた。

「……頼むから俺のこと睨まないでくれる」

「睨んでない……」

「バカヤロウ!」

 突然の怒号にびくっと体をすくませる光輔。

 夕季の右隣で鳳がべろんべろんに酔っ払っていた。夕季の肩をぐいと抱き寄せる。

「こいつは俺の娘みたいなもんだ。こんなどこの馬の骨とも知れないような、へなちょんぱにやれるか!」

「へなちょんぱって、何」

 知るか、という顔で夕季が光輔を睨みつけた。

「でもさ、鳳さん。こいつらの子供なら、すげえのが産まれると思うぜ」

「そうそう。素手でインプをしばき倒せるような」

 駒田と南沢をくわっと睨みつける鳳。

「バカヤロウ!」

 さらに強く夕季を抱き寄せた。

 夕季の口がへの字に曲がる。

「俺はな、こいつがかわいくてかわいくて仕方がないんだ。娘の生まれ変わりだとさえ思っているのだぞ!」おろんおろんと涙を流す。「それはもう、食べてしまいたいくらいだ! 小遣いもやるぞ。いくらだ、いくら欲しい、おまえ」

「いらない……」

「二万円くらいでいいのか? だいたい相場はどれくらいだ? いくら渡せば納得して帰ってくれるんだ! 後でもめるのは勘弁してくれ」

「エンコーじゃないか」あきれ顔の南沢。「自分の娘、殺しちゃったし」

「泣いちまったよ。おっさん、へべれけだな」軽蔑顔の駒田。「くれるってんだから、とりあえずもらっとけよ、夕季」

「……いらない」

「おい、駒田、二万円貸してくれ」

「嫌だ!」

「たしかに鳳さんの娘さんよりは夕季の方が美人だよな」南沢が笑いながら言う。「かなりね」

 鳳の腕の中で夕季が赤くなった。

「たわけが! どうみてもいい勝負だろうが! 甲乙つけがたいところだ」

「どこに基準をおきゃ、そんな強気になれるんだ……」

 駒田が言葉を失う。

 鳳が豪快に笑った。

「同率首位だ! 両校優勝だ!」

「わけわかんねえ!」

 南沢がフォローに入る。

「鳳さんの娘も、女子プロだったら、普通かちょっと下くらいかもしれないけどな」

「何の女子プロだ!」

「全部言わせる気なのか? いいのか?」

 ぺっと唾を吐き捨てる鳳。不機嫌そうな顔になった。

「もういい! おまえらにはもう、娘にも夕季にも近寄らせん!」

「あんたの娘は別にいいけどな」

 駒田を睨みつけ、鳳が夕季にぐっと顔を近づけた。

「夕季、こいつらにはもう近づくな。バカが伝染る! 腐る! 心配するな、俺がおまえにふさわしい結婚相手を探してやる」

 駒田があきれたように言った。

「どうでもいいけど、あんた、さっきから夕季にすごい顔で睨まれてるぞ」

「おおうっ!」

「睨んで、ない……」


 夕刻、夕季と光輔は忍が入院している病室に足を踏み入れた。

 その顔を確認し、忍が読んでいた週刊誌を放り出す。

「光ちゃんじゃない。久しぶりだね」

 満面の笑みで出迎える忍に、くすぐったそうな顔を向ける光輔。

「ははっ、元気そうだね、しぃちゃん。夕季に頼んで連れて来てもらったんだ。本当はもっと早く来たかったんだけど、ごめん」

「何言ってるの。頭下げるのはこっちの方だよ。本当にありがとうね」

「いや、俺、そんな……」

 忍の目尻が下がる。心から嬉しそうに笑った。

「なんか、カッコよくなったね、光ちゃん」

「どうだろ。背はしぃちゃんより高くなっただろうけど」

「ほんと? あたし七十くらいあるかも」

「ええ! マジ。……びみょー」

「はは」表情を正し、夕季へと顔を向ける。「夕季、光ちゃんにちゃんと謝った?」

「謝ったよ」

「ありがとうは」

「……言った、と思う」

「あんたねえ」

 バツが悪そうにうつむいた夕季を気遣って光輔が言う。

「いいって、しぃちゃん。何か、こいつにそういうことされると、かえって気持ち悪くて」

「ほら、睨まないの」

「……睨んで、ない……」

「あ、はは……。ねえ、どれくらいかかるの?」

「ん? 来週の検査次第ってところかな。結構早く出れそう」

「そう。よかったね」

「ありがと。あ、光ちゃん、おなかすいてない?」

「ん、まあ」

「よかったら、冷蔵庫の中の物、食べちゃって。あたしも夕季もそんなに食べられないから。ほっとくと桔平さんが全部食べちゃうだろうしね」

「あたしの時もそうだった」口をへの字に曲げ、夕季が振り返る。「いつも両手いっぱいいろいろ買ってくるけど、結局ほとんど一人で食べちゃって。一人でくだらないこと、ずっとしゃべってるし、看護士さんとかにもエッチなことばかり言ってたし。来るたびに冷蔵庫の中、必ずチェックしてたし。何しに来てたんだろう、あの人」

「あの人らしいけどね」

「はは。らしい気がする、俺も」

「迷惑だよ」

「そう言いなさんなって」

「だって」

「来てくれるだけありがたいよ。気にかけてくれてるんだから」

「そう、だけど……。光輔、バナナ」

「あ、サンキュ」

 突き出すように差し向けられたバナナを受け取るや、光輔がもふもふと食べ始める。

 それを見て、忍が懐かしそうに顔をほころばせた。

「光ちゃんって、昔っからバナナ好きだよね」

「ん? んん、んん」

「泣いてる時だって、バナナあげると泣きやんだもんね。猿の子みたい」

「猿の子って……。いや、それは泣き終わってから、もらってただけみたいな……」

「だっけ?」

「ん、んん」

「お姉ちゃん、りんごの皮むこうか?」

「あ、お願い」

「あ、夕季、そこのメロンも」

「……」果物ナイフを片手に夕季が光輔をじろりと見やる。「皮むくの?」

「いや、切ってくれると、光輔、誠にありがたいかな、と」

「……。とっておこうと思ってたのに……」

「……。マジですか……」

「オレンジで我慢すれば」

「う〜ん……」

「あっははは」二人のやりとりを眺め、忍がおもしろそうに笑った。「いいよ、切っちゃえ、切っちゃえ。せっかく来てくれたんだもの。ね、光ちゃん」

「かたじけない」

「もったいない」

「マジで……」

「あっははは」

 目尻の涙をこすり取りながら、忍が夕季へ向き直った。

「あ、そうだ、夕季。エスの人達、感謝してたよ。ありがとうって伝えてくれってさ」

 皿やフォークを取り出し、夕季が何気なく顔を向ける。

「そんなのいいのに。頼まれたわけでもないし」

「だから余計にね。あんたがお目玉もらったこと、すごく気にしてたよ。また改めてお礼がしたいって」

「普通にしててくれれば」桔平の言葉を思い出し、手を止める。「……いいのに」

「いいじゃない。悪いことじゃないんだしさ。まあ、ぶきっちょだから仕方ないか」

「ぶきっちょって関係あんの?」

「さあ」

 楽しそうに笑い合う光輔と忍。

 照れたように背を向け、夕季も安堵の表情を浮かべた。

「こうやって見ると結構お似合いだね。つき合っちゃえば?」

「ちょっと、しぃちゃん!」

 何気ない忍の一言に凍りつく光輔。おそるおそる振り返ると、夕季が光輔を睨みつけていた。

「だからあ」

 にたにたとおもしろそうに眺め続ける忍に目をやり、夕季が口をへの字に曲げる。

「まんざらでもなかったりして」

「……。お姉ちゃんと木場さんもいい感じだよ」

「な! ちょっ! おまっ、ばっ、ちょっ、ちょ!……」

「理想的な上司と部下って感じがする」

「……。……ま、あね」

「あっははは!」

 夕季が光輔を睨みつけた。

「だからあ……」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ