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第八話 『終わりなき連鎖』 4. パワーバランス



 休日に光輔と夕季は海岸へやって来ていた。当然制服ではなく、二人ともハーフパンツにシャツを合わせたラフな格好だった。

 その姿を確認し、出迎えるメック隊員達。

 南沢が先陣を切った。

「何だ、夕季、用があったんじゃなかったのか?」

「……う、ん」

 続けて駒田が参戦。

「おまえが来ないって言うから、みんな淋しがってたんだぞ」

「髪縛ってないと別人みたいだな。女子大生みたいだ」

「俺はポニーテールの方が好きだけどな。できたら、前髪まっすぐ揃えたやつがいいんだが」

「おお、オッサンだな、コマ。ポニーテールとか直球で言っちゃうあたり」

「うるさい」夕季をちらと見やる。「やめちまったのか?」

「……その日の気分で」

「気分かよ。そんなメンドいのか?」

 楽しげに笑う駒田をとまどうように眺め、夕季がもごもごとつないでいく。

「……前髪がうまく作れないと、やめちゃう時もあるし」

「なんだよ、おまえも結構乙女なんだな」

「……」

「まっすぐ揃えておけばいいだろ。昔の娘みたいに」

「……ん」

「だってさ」光輔も参入する。

 光輔だけをしっかりと睨みつけた。

「うるさい」

「……う〜ん」


「おまえ、やらかしたらしいな?」

 デッキチェアーを大きくしならせ、缶ビールをグビグビやりながら鳳が桔平を横目でうかがう。

「別に、たいしたことはしてねえ」

 隣で缶ビールをグビグビやりながら桔平が答えた。

「たいしたことねえわけねえだろ」グイッと飲み干す。「実際に戦闘服、送りつけたそうじゃねえか。着るかどうかもわからねえのに。オドシにしちゃ、コストかかりすぎなんじゃねえのか?」

「あんたらのお古を適当にバラまいただけだ。どうせ着るわけねえって、最初からわかってたしな」

「強烈な警告状みたいなもんだな。ハッタリだとわかっていても、無視できねえ。おまえ、あの大城って野郎、完全にヘコませたんだってな」

「ああ、あのキャンキャン大声出す、切れたナイフか」グイッと飲み干す。「あいつが泣きそうな顔して嘆願書集めてるビデオあるぜ」

「おまえも悪趣味だな」

「なんだよ。観たくねえのか?」

「観てえに決まってんだろ!」躍り上がるように、桔平に次のビールを手渡す鳳。「でも、おまえな、そんな無茶して大丈夫なのか。ちびっと、やりすぎなんじゃねえのか」

「知ったこっちゃねえって。あの女の考えてることはわからんからな。また、いつ二等兵になったって不思議じゃない。だったら、できるうちに好き勝手やったるだけよ。どうせいつかはクビになる。暴れるだけ暴れて、はい、さよおなら、だ」ふいに申し訳なさそうな顔になった。「一週間の特別休暇じゃ少なかったか?」

「上出来だ」にやりと笑う。「鼻毛出てるぞ、おまえ!」

「あんたもな!」

「そうか、まさかおまえみたいにボーボーじゃないだろうな!」

「いや、ボーボーだ、見てらんねえぞ!」

「そうか、安心したぜ、ガッハッハ!」

「あんでもねーよ! ギャッハッハ!」

 カンパーイ!

 ビールが半分以上飛び散った。

「だがな。それまで一切口出しをしなかった博士が、突然こんな強硬手段に出るとは意外だったな」

「ああ。政府とのつながりをスッパリ断ち切るつもりだろうな。どえれえもん、つきつけてよ」

「今度は俺達がメガルを守る番だな」グイと豪快に飲み干す鳳。「それにしても、進藤が司令官とは。何考えてやがる、あの博士は」

「さあな」

「あんな小娘に務まるのか?」

「務まるさ」桔平もグイと飲み干した。「あいつはただの操り人形だ」

「まあ、おまえが敵を作るのは今に始まったことじゃないが、たいがいにしとけよ。改めて俺が言うようなことでもないかもしれんが」

「命狙われちまうってか? そいつはねえだろ。どこの企業も組織も、メガルに手を出すのはタブーだ。そんなヤバイ橋、奴ら渡らねえよ」

「今まではな」

「んあ?」

「おまえがパワーバランスを崩しちまった」

「……」

「おまえが蒔いた火種は、あっという間に世界中に広がる。導火線でできた蜘蛛の巣の真中に、火の点いたマッチ棒を落としちまったようなもんだ。途中でうまく消えてくれりゃいいが、クビぐらいですみゃ御の字だろうな。覚悟しておけよ」

「ふん。これ以上、何を覚悟しろって?」

「事情が違ってきている。守らなきゃならないものが増えすぎた。俺にも、おまえにも」

「何も変わってねえよ」陽射しの眩しさに目を細め、缶をかざした。「必要なものも、守らなきゃならないものも……」


 鳳が立ち上がり、トイレへと向かう。

 暑苦しさにネクタイを剥ぎ取り、桔平はクーラーボックスの中から缶チューハイを取り出した。午後からまた持ち場へ戻らなければならなかったが、おかまいなしである。

 ふと、後方からちらちらと視線をよこす夕季の存在に気がついた。

「なんだ?」

「……」

 何かを言いたそうな顔だった。

「俺に何か言いたいんじゃないのか?」

「……」紙コップ越しに桔平を眺め、少し不機嫌そうに夕季はそれを口にした。「あたしのこと、クソ生意気だって言った」

 ドキッとする桔平。さあっ、と酔いが覚めていくのがわかった。

「……言って、ねえよおぅ」

「言った」

「……。おまえ寝た振りしてやがったな」

「……」

「それでずっと根に持ってやがったのか」

「……別に。ただ、大人なのに、もう少し考えてものが言えないのかな、って思っただけ」

「そういうところがクソ生意気だってんだ。意外とネチっこい野郎だな」

「……」夕季が口をへの字に曲げる。すねたようにそっぽを向いた。「もういい」

「わかった、わかった、もう言わねえ。言わねえからそういうのは勘弁してくれ。俺の繊細な神経がもたねえ」

「……」ちら、と様子をうかがう。「ケーキ」

「?」

「おごってくれるって、言ってた気がする……」

「わかった、おごってやる。ゲロ吐くまで食わせてやる。だからもう、ネチネチ責めるのはやめてくれ」

「……」

 夕季が顔をそむける。

 それを見て桔平がふっと笑った。

 以前の夕季なら、そういったことを決して口にはしなかった。心に余裕ができたからだと思った。

「ならおまえ、光輔の話も全部聞いてたのか?」

 背中を向けたまま夕季が頷く。

「ひかるさんが事故死したのは知ってたけど、本当のことは何も教えてもらえなかった。お姉ちゃんもあたしには言わないようにしてたみたいだから」

「おまえを心配させたくなかったんだろうな」

「……。光輔には借りがある。今度はこっちが力になる番だ」

「そういうの、あいつはどうでもいいみたいだぞ」

 ゆっくり振り返る夕季。桔平の顔に注目した。

「知り合いが困ってたから助けた。それだけだ。それを借りだの何だの妙に重くしちまうと、あいつ淋しがるぞ」

「……」

「本当にあいつに義理を感じてるのなら普通にしてろ。その方が喜ぶだろ。ま、おまえの普通ってのが、一般的にかなり普通じゃねえのがイテえとこだが」

「自分だって普通じゃないくせに」

「何!」

 光輔のいる場所に目をやる夕季。メック隊員達とすっかりうちとけている様子で、一緒にバーベキューの用意をしていた。

「あの野郎、すっかりなじんじまいやがったな」

「……。昔からそうだった。光輔の周りにはいつも人がいる。いつも人が集まる……」

「おまえもだろ」

 夕季が不思議そうに桔平を見つめる。

 桔平は楽しそうに笑っていた。

「おーい、夕季、肉が焼けたぞ!」

 南沢の声に振り返る夕季。

 駒田が続いた。

「一番いいとこの肉だ。おまえに最初に食わせてやる」

 困惑したように桔平を見続ける夕季。

「ま、おっさん限定じゃありがたみもねえか」

 しようがない、と言わんばかりに桔平が立ち上がった。

「おーい! おまえら! 残念だが夕季は上等な肉がチョー嫌いだそうだから、代わりに俺が食べちまってやるぞ!」

「黙れ! あんたに食わせる肉はない!」駒田がばっさりと切り捨てた。

「何!」

 南沢が追い討ちをかける。

「残念ながらあんたはもう俺達の隊長じゃない。今までみたいに無理やり上等な一番肉を食う権利はない!」

「ぬね!」

「おまけにあんたのせいで失業しかけた。こっちは所帯持ちだってのに、ギャンブルの巻き添えはまっぴらだ!」

「のおー! おまえら! 休暇ガッツリ取り消されてえのか!」

「早く来い、夕季。肉が固くなっちまうぞ」

 桔平の声を無視して、夕季に手招きする駒田。

「ギチギチに固くなったら柊さんに食わせてやってもいいが、正直不本意だ」

「何だと! てめー! 俺はやる時はやる男だぞ! やればできる子だぞ!」

「チョーうまそー!」駒田のテンションがひとりでに上がる。「おい、エリンギ入れてもいいのか? 確か、ピーマン嫌いだったな。よし、柊さんのはピーマン、オンリーな!」

「ナスくらい入れてやれよ」

「あと焦げた玉ねぎとラードと……」

「てめーら……」

 やれやれという顔で桔平が振り向いた。

「だってよ」

 桔平に背中を押されるようにうながされ、何度も振り返りながら夕季が近寄って行く。

 缶ビールを片手に鳳が迎え入れた。

「おうおう、食え食え。食ってもっとうちの娘のようにぶくぶく太れ。そんな体じゃ、くるもんもこね……」

「言うな! それ以上! 訴えられるぞ!」

 自主規制をかける駒田もものともせず、鳳が暴れ続ける。

「バカヤロウ! そんなもんが怖くてメックの隊長が務まる、かっ……」夕季に睨まれていることに気がついた。その迫力に退く鳳。込み上げる想いが体の自由を奪った。「うぷっ、おええっ!」

「思わず目をそむけてしまいたくなるような酔っ払いだな……」

 南沢が心から残念そうに呟いた。





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